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シティ・ガールズ、バッド・バービー、ノーネーム……注目の新鋭女性ラッパー5選

音楽

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リアルサウンド

 2018年、2月にカーディ・Bのデビューアルバム『Invasion of Privacy』、そして8月にはニッキー・ミナージュが約4年ぶりのオリジナルアルバム『Queen』がリリースとなり、双方ともに大きな話題を呼びました。特にカーディのアルバムはビルボードやストリーミングサービス双方にてナンバー1の座を奪取し、複数のチャートで首位を獲得した初の女性ラッパーとなり、文字どおりカーディ旋風を巻き起こしたのです。その一方、両者の不仲度も増すばかりで、業界内ではすっかりカーディVSニッキーの対立構図が決定的なものとなりました。こうしたゴタゴタもあれど、この両者に牽引されるように、ヒップホップシーンではこれまで以上に女性ラッパーたちの活躍が目立っています。

 今年、個人的にカーディ並にMVPとして活躍したな~、と実感しているのがフロリダ州マイアミ出身のヤング・マイアミとJTの二人で構成されるラップデュオ、シティ・ガールズ。ちなみにフロリダではここ数年にかけて、コダック・ブラック、XXXテンタシオン、リル・パンプ、スモークパープなどといった、いわゆるサウンドクラウドラッパーと呼ばれる、エモーショナルなテイストを孕んだ若手ラッパーたちが続々と登場し、今、最も注目を集めているエリアの一つ(コダック・ブラックはちょっと違う系統だけど)でもあります。彼らの前には、トリック・ダディやトリーナというローカルスターMCらもおり、あのリック・ロスやピットブルもマイアミ出身。シティ・ガールズはまさにトリーナ直系といった威勢のいい女子二人組で、マイアミのフィメールMC、カイアの爆発的ヒット曲「My Neck, My Back」を大胆にサンプリングした「Fu*k Dat Ni**a」や、ジュヴィナイルの代表曲「Back That Azz Up」のフックをほぼそのまま使った「Run The Bands Up」と言った楽曲で注目を集め、今年5月には初めてのミックステープ『Period』をリリースしました。

 また、彼女たちはミーゴスやリル・ヨッティを抱えるアトランタの大人気レーベル、<Quality Control>が契約した初めての女性ラッパーでもあり、それもまた、彼女たちが注目を集めている理由の一つです。しかしながら、彼女らの名をマイアミ、いや、アトランタ、いやいや、世界中に知らしめたのは、ドレイク「In My Feelings」の存在です。2018年6月にリリースされたドレイクの二枚組アルバム『SCORPION』に収録された「In My Feelings」は、ダンスを組み合わせた「#InMyFeelingChallange」という口コミ企画の広がりもあり、ビルボードチャートでも10週連続一位、ストリーミングの再生回数も1週間で1.1億回を超すほどの大ヒット曲となりました。

Drake – In My Feelings

 このヒットシングルにフィーチャーされている女性ラッパーこそが、このシティ・ガールズなのです。本曲はドレイクが曲中で「キキ、僕のことを愛してる?」と女性名を入れてラップする歌詞も話題になったのですが、ちゃんと曲中には「リーシャ(ヤング・マイアミの本名はカリーシャ)」、「JT」とシティ・ガールズ二人の名前も登場します。この曲をレコーディングした時、二人は曲のタイトルも知らないままレコーディングしたそうで、『SCORPION』がリリースされてから初めて完成した楽曲を聴いたそう。しかしながら、これ以上ないほどのビッグチャンスに恵まれたシティ・ガールズ、片割れのJTは予てから起訴されていたカード詐欺の容疑で収監されてしまいます。しかも、監獄にその身を収めたのは『SCORPION』が発売されたわずか1日後。なんというタイミング……。現在、JTは服役中で出所は2020年3月の予定ですが、早期出所の可能性も囁かれています。罪は償ってもらわねばなりませんが、早く二人揃った姿を見たいなと心待ちにしている次第です。

 そして、そんな二人の姿を追ったドキュメンタリー作品が公開となりました。彼女たちの生い立ち(二人は幼馴染同士)やマイアミのフッドの様子、どのようにリリックを書いているか? といった様子から、JTが収監されるまさにその瞬間までを追ったショートドキュメンタリーに仕上がっています。「In My Feelings」を聴いて大喜びする姿や、ヤング・マイアミと息子とのショットなど、ファンならぐっとくる瞬間が満載です。英語がわからなくとも、彼女たちがどんな環境で生活しているのか、ありありと感じることが出来るので是非観てみてください。

City Girls Documentary: Point Blank Period (Quality Control x Mass Appeal)

 続いては、こちらもシティ・ガールズに負けないくらい……というか、それを上回るほどの威勢の良さで知られるバッド・バービーを。彼女のことはちょうど1年前に本コーナーで紹介したことがあるのですが、まさかちゃんとラッパーとして活動を続けているとは露ほどにも思っていませんでした。13歳の時、母親に連れられて出演したテレビのお悩み相談コーナーで人気に火が着き、徐々にラッパーとして活動をスタートしたバッド・バービー。彼女もまた、フロリダ出身の女の子です。最初はただのお遊びかと思った彼女のラップですが、だんだんその“マジ度”が上がってきて、2018年9月にはデビューミックステープ『15』をリリースするまでに。

 タイトルが示す通り、バッド・バービーはなんとまだ15歳! 『15』には前述したシティ・ガールズの他に、若手フィメールMCのエイジャン・ドールも参加しており、女の子ならではの元気の良さを見せつけています。しかも、それだけではなりません。さらには、タイ・ダラー・サインやYG、リル・ヨッティにリル・ベイビーといったヒップホップ界を賑わせるホットなMCたちが勢ぞろいしており、予想以上に彼女のラップキャリアは盛り上がっているようです。しかも、つい最近では『15』の収録曲である「Gucci Flip Flops」ではスヌープ・ドッグ、そしてフロリダのシーンを支える筋金入りのコワモテ系ラッパーのプライズが参加しており、バッド・バービーの愛されっぷりに驚くばかり。最初は私も懐疑的に彼女のMVなどを見ていましたが、このままどこまで突き進むのか、今では応援したい気持ちでいっぱいです。

BHAD BHABIE feat. Lil Yachty – “Gucci Flip Flops” (Official Audio)

 そして、常にスキーマスクをかぶったミステリアスなラッパーが、レイケリー47なるアーティスト。ブルックリン育ちということ以外は主に謎に包まれたまま活動を続けているラッパーです。彼女の曲は、どれもドラムマシーンとベースの音がヘビーに響いているものが多く、そう言ったところからも彼女のブレないヒップホップ的アティチュードを感じさせられます。そして、レイケリー47の楽曲と好相性を見せているのが、イッサ・レイという注目の女性クリエイター。イッサが手がけた人気ドラマ『インセキュア』の劇中でレイケリー47の楽曲が使用され、彼女の人気がさらに高まりました。そんな彼女の最新楽曲は、『インセキュア』のシーズン3とタッグを組んだもの。ドラマのサウンドトラックの一曲として発表され、10月5日にMVが公開されたばかり。彼女のトレードマークと言えるバンダナをリメイクしたマスク、そして超ロングのネイルなど、節々にレイケリーならではのクールさが宿っています。ちなみに筆者が日本のフィメールMC、エル・テレサから聞いた小ネタですが、アメリカの若い女性ラッパーたちは、パフォーマンスの際に自身を目立たせるため、長いネイルを保っていることが多いそうです。これは、男性ラッパーたちが胸元や指、腕もとにジャラジャラとジュエリーを付けているのと同じでは、とも指摘していました。底知れぬ魅力を放つレイケリーの活動からは、今後も目が離せません。

Leikeli47 – Girl Blunt (Official Video)

 ガラッと雰囲気を変えて紹介したいのが、シカゴのポエトリーラッパー、ノーネームの最新作『Room 25』です。2016年に発表したEP『Telefone』が大きな反響を呼んだノーネーム。2017年秋には初来日公演も行われ、チケットは即ソールドアウト。私もライブを拝見しましたが、まるでひまわりのようなスマイルを浮かべながら楽しそうに歌う彼女の姿を見て、ますますファンになったほどです。2年ぶりの新作『Room 25』は、前作同様、彼女の持ち味であるポエトリー風のラップスタイルはそのままに、アブストラクトな魅力を持つサウンドがとにかく素晴らしい出来。エクスペリメンタルなジャズの要素や、かつてネオソウルと呼ばれたサウンドを呼び起こすような雰囲気は、ノーネームの真骨頂と言えそうです。「Window」や「Don’t Forget About Me」などで聴くことができるストリングスのアレンジの美しさは見事で、彼女のラップと相まって涙が出そうなほどですし、万華鏡を覗いているかのような不思議な感覚に陥る「Regal」もしびれます。『Telefone』の発売後、ノーネームは地元シカゴからロサンジェルスへと住まいを移したそうで(『Room 25』の収録曲「No name」の中では” LAのイングルウッドに引っ越したけど、家賃がトラウマ級“とも打ち明けています)、そうした生活環境の変化も、本作には多分に影響しているのでしょう。そして、前作同様に、ユニークなフレーズを用いながらアメリカの現代社会をシニカルに、そして鋭く表現しているのも、彼女の魅力の一つ。タイトルからして刺激的な「Blaxploitation」では“ヒラリー・クリントンみたいにシステム(体制)に仮面をかぶせたのは誰かしら”と表現したり、「Prayer Song」では”LAは明るい街だけど、未だにダークだわ”というラインに憂いを閉じ込めています。一聴すると、そのサウンドの豊かさや美しさのみに耳が奪われてしまいがちですが、二度目は是非、リリックとともに彼女の作品を味わってほしいなと思います。きっと、一度聴いただけでは気が付かなかった作品の重みや奥行きを感じるはずです。

 ノーネームに負けないクリエイティビティを発揮している若手女性アーティストが、フィラデルフィア出身のティエラ・ワック。今年の5月にコンセプトアルバムとなる『Whack World』をリリースしました。この作品、1曲が1分の長さしかなく、全尺15分の内容になっています。そして、それぞれの楽曲にはコンセプトの異なるMVがあり、すべてをつなぎ合わせた映像作品が、同名の『Whack World』というタイトルでYouTubeにて公開されています。豊かなアイデアを元に作り込まれた映像は、1分という長さからも究極のインスタ映えMVとも捉えることができそう。彼女のインスピレーションの源は普段の生活からオーストラリアの子供番組にまで及ぶようで、音楽のジャンルもヒップホップを主軸としながらも、ポップスやカントリーの要素も盛り込むほどの幅の広さ。『Whack World』はあのアンダーソン・パークもお気に入りの作品にあげており、今後、さらなる活躍が期待できそうです。

Tierra Whack – Whack World

■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
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