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おんがく と おわらい 第1回 漫才の誕生、コミックバンド、テレビバラエティ……音楽とお笑いの蜜月

音楽

ニュース

ナタリー

クレイジーキャッツ(写真提供:渡辺プロダクション)

「M-1グランプリ」「R-1グランプリ」「キングオブコント」など賞レースも盛んになり、テレビのネタ番組もどんどん増え、何度目かの黄金期に突入しているお笑いカルチャー。お笑い好きを公言するミュージシャンやアイドルも数多く、最近ではお笑い番組で芸人とコントでコラボする場面もしばしば見られるようになった。また歌ネタやリズムネタなど音楽的な要素の強い芸人や、ライブで登場する際の選曲にこだわる芸人も多い。このような音楽とお笑いの関係は今に始まったことではなく、はるか昔から脈々と続いているものだ。本連載では音楽とお笑い両方をさらに楽しみ尽くすために、さまざまな観点からこの昵懇を検証していきたい。

初回はまず概要を把握していただくために、音楽とお笑いの関係性を歴史的な流れを踏まえつつ俯瞰的に見ていきたい。スネークマンショーとYellow Magic Orchestraの関係などに関しては、すでに多くの記事や書籍が発表されているので、なるべく今まであまり語られてこなかったテーマに絞った。

文 / 張江浩司

漫才の起源はダンスミュージック!?

現在のお笑いにおいて、メインストリームに位置しているのは漫才だろう。その起源は「萬歳」と呼ばれる古典芸能にある。

萬歳は「太夫」が節を付けながら語り、「才蔵」が鼓で調子を取りながら合いの手を入れていく。2つの役割の掛け合いで進行していく点は現在の漫才と共通しているが、今の感覚からするとお笑いよりも音楽の要素が強いように思える。

「大衆芸能資料集成 第七巻」(小島貞二編)によると、正月などのお祝い芸だった萬歳を舞台で披露するようになったのは明治30年代(1900年頃)、玉子屋円辰(たまごやえんたつ)という大阪の音頭取りからだという。音頭取りとは、その名の通り音頭の節を歌う人のことで、明治期には寄席に「江州音頭」や「河内音頭」を聴きに行くのが流行していたらしい。現代では「音頭を聴きに行く」ということ自体が想像しにくいが、当時音頭は最先端のダンスミュージックのようなものだったのだろう。今でいうと、クラブに行くような感覚なのではないだろうか。

玉子屋円辰は「音頭だけだと客が退屈する」と考え、萬歳をアレンジして音頭の合間に取り入れた。するとたちまち大評判になり、このスタイルは関西に広まっていった。DJを盛り上げるための合いの手が、徐々にラップの技法として確立していった変遷にも似ている。漫才の成立に音楽は分かち難く関係していたのだ。

その後、昭和に入ると横山エンタツ・花菱アチャコのコンビによる音楽的な要素を排した「しゃべくり漫才」が大人気になったことで、私たちのよく知る現代的な漫才の形が定着した。それまでのスタイルの漫才は「音曲漫才」や「歌謡漫才」と命名され、漫才のサブジャンルになってしまう。それでも浪曲からの影響を取り込んだりしながら、「♪金もいらなきゃ女もいらぬ、あたしゃも少し背が欲しい」で有名な玉川カルテットや、姉妹トリオのかしまし娘など、無数の人気芸人が生まれた。

言うまでもなく、現在でも音楽の要素を含むネタ、いわゆる「歌ネタ / 音ネタ」を持つ芸人は多く、どぶろっくは歌ネタで2019年の「キングオブコント」を制しているし、マキタスポーツの歌ネタはJ-POP批評としても機能する着眼点を持つ。サンプラーなどの機材を駆使し、EDM的な音を取り入れているきつねや、ほぼ2人でギターセッションしているだけのネタで昨年の「M-1」準々決勝まで進んだシマッシュレコードなど、新世代も続々登場している。

コミックバンドの歴史と未来

音楽とお笑いの関係を考えるときに、避けては通れないのがコミックバンドだ。

進駐軍キャンプで演奏するジャズドラマーだったフランキー堺が自身のバンド、フランキー堺とシティ・スリッカーズを結成したのが1954年。アメリカのコミックバンド、Spike Jones & His City Slickersから多大な影響を受けたこのバンドには、のちにクレイジーキャッツを結成する植木等や谷啓、桜井センリが参加しており、ここが日本のコミックバンドの源泉の1つと考えて間違いないだろう。

ジャズのクレイジーキャッツに対して、ロックンロールやロカビリーをベースにしたのがザ・ドリフターズ。彼らがThe Beatlesの来日公演で前座を務めたことは有名だが、その映像を観ると「Long Tall Sally」を演奏しながら、加藤茶が叩くドラムのキメに合わせて全員でずっこける、というネタを仕込んでいることがわかる。

この頃のバンドマンはアーティストというよりもエンタテイナーとしての側面が強く、特にテレビや映画で活躍するバンドマンは“観客を笑わせてなんぼ”だった。漫才の成り立ちと同じように、音楽とお笑いが不可分だったのだ。

70年代に入ると、グッチ裕三とモト冬樹のビジーフォーがロックや歌謡曲に加えてファンクやソウルを演奏し、ダディ竹千代&東京おとぼけCatsはハードロック的な速弾きやスラップベースを披露している(大根をベースでおろして客席に投げ込んでめっちゃくちゃにしたりもしている)。新しい音楽ジャンルがお茶の間に浸透すると、それに伴って新しいコミックバンドも生まれてきた。

80年代以降、米米CLUB、スチャダラパー、電気グルーヴなど、コミックバンドとカテゴライズすることはできないが、お笑いのエンタテインメント性をエッセンスに持つバンドやユニットが次々と登場した。パンクロックをベースに、笑点にもフジロックにも出演したグループ魂、80年代以降の広範囲なカルチャーをミックスし“ヤンキー”でコーティングした氣志團、ヴィジュアル系にエアバンドという手法を導入したゴールデンボンバーもこの系譜だろう。

現在ではほかにも、マキシマム ザ ホルモンやヤバイTシャツ屋さんは変則的なラウドロックに、四星球は青春パンク以降の邦ロックに、それぞれ笑いの要素を注入し独自の音楽スタイルを確立している。またテクノ、K-POP、ヴィジュアル系などを脈絡なく取り入れ(曲によってジャンルが違うが不思議な統一感はある)、金属バットやDr.ハインリッヒの漫才を彷彿とさせる歌詞とミュージックビデオでリスナーを困惑させるティンカーベル初野など、コミックバンドのネクストステージと呼べるような新世代も登場している。

「音楽×お笑い」はテレビバラエティの王道

テレビの世界で音楽とお笑いはどのように扱われてきたのだろうか。

現在、バラエティというと「芸人が司会のお笑い色が強い番組」といったイメージになるが、構成作家の高平哲郎によると本来的には「司会者かホストが進行する音楽とスケッチなどのさまざまな出し物を並べたエンタテインメント」のことを指すという。

日本のテレビ黎明期で特に有名なバラエティは、ともに1961年放送開始の「夢であいましょう」(NHK)と「シャボン玉ホリデー」(日本テレビ)。前者は若き日の黒柳徹子や坂本九が出演し、毎週生放送で歌やコントが演じられた。黒柳の半生をドラマ化した「トットてれび」(2016年、NHK。黒柳を演じたのは満島ひかり)を観ると、この頃のテレビバラエティのドタバタぶりがよくわかる。「シャボン玉ホリデー」にはクレイジーキャッツと、デビュー間もない2人組アイドル、ザ・ピーナッツがレギュラーで出演し、10年以上続く人気バラエティとなった。

「シャボン玉ホリデー」の流れを汲む正統派バラエティとして1981年に始まったのが「今夜は最高!」(日本テレビ)。ジャズマニアであるタモリをホストに据え、毎回バンドの生演奏やコントが繰り広げられた。初回のゲストは桑田佳祐で、桑田に向かってタモリが「勝手にシンドバッド」の替え歌「勝手にダイドコロ」を熱唱した。後年には美空ひばりもゲスト出演しコントを演じていたのだから、今では信じられない番組だ。ちなみに、翌年放送が開始した「笑っていいとも!」でタモリが「ウキウキWATCHING」を歌いながら登場するのも、往年のバラエティを意識してのことだという。

こういったミュージシャン、芸人が入り乱れてコントや音楽に興じるスタイルのバラエティは、芸人主導のバラエティのワンコーナーという形で生き残る。1988年に始まった、ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、清水ミチコ、野沢直子出演のコント番組「夢で逢えたら」(フジテレビ)には「バッハスタジオII」というコーナーがあり、ゲストのバンドの曲をダウンタウンたちが実際にコピーして演奏を披露していた。ユニコーンやLINDBERG、ヤプーズ、COBRAなどが出演し、バンドメンバーに教えられながら余計なボケをせず真剣に演奏する芸人たちの眼差しは、現在のジェニーハイにも通じるものを感じる。

90年代以降は数々のテレビ番組から芸人の音楽ユニットが企画され、CDデビューしていった。「ウッチャンナンチャンのウリナリ!!」(日本テレビ)からはポケットビスケッツとブラックビスケッツ、「とんねるずのみなさんのおかげでした」(フジテレビ)からは野猿など、こういったテレビと音楽の密接な関係が音楽バブルを下支えしたとも言えるのではないだろうか。

現在のテレビでは、「ゴッドタン」(テレビ東京)の人気コーナー「マジ歌選手権」が音楽とお笑いをミックスしたものの1つだろう。「芸人が真剣に音楽に取り組む」という設定は「バッハスタジオII」以降の芸人バラエティの系譜に位置するし、作曲でWiennersの玉屋2060%やEnjoy Music Clubなどがクレジットされることも音楽リスナーとしては楽しい。実際に観客の前でマジ歌を披露するイベントの規模が年々拡大されているのも、近年の音楽業界のライブ市場拡大ともリンクしている。

同じく、テレビ東京で2011年から放送されているコント番組「ウレロ」シリーズには、多数のミュージシャンがゲスト出演しており、劇中のアイドルグループ「未確認少女隊UFI」をももいろクローバーZが演じ、オリジナル曲「We are UFI!!!」を前山田健一が書き下ろした。テーマソングを演奏する在日ファンクの面々も複数回ゲスト出演しており、2019年に放送された最新シリーズ「ウレロ☆未開拓少女」の最終回にはCreepy Nutsがゲスト出演。コントを演じつつラップも披露した。まさに芸人、ミュージシャン、役者が入り乱れてのコントであり、音楽もあり、しかも最終回は生放送でもあったので、本来の意味でのバラエティの王道かつ最先端を行く内容であった。

センスが冴える幕間の選曲

お笑いの公演でも、音楽はその世界観を表現するための重要なファクターだ。ミュージシャンとタッグを組んで単独公演の音楽を用意する芸人も多い。バナナマンとSAKEROCK、バカリズムとRAM RIDERの組み合わせは有名だろう。シティボーイズは石野卓球や小西康陽を起用し、エレキコミックと片桐仁のユニット「エレ片」もホフディランや中村一義に公演のテーマ曲の制作を依頼している。

オリジナル曲でなくとも、開演前や幕間にどんな曲をかけるかでその芸人のセンスが垣間見えるのは面白い。ニューヨークもそういった選曲に気を使っていて、とあるインタビューで嶋佐和也は「ネタより選曲を褒められるほうがうれしいかもしれない」と語っていた。空気階段は出囃子に暗黒大陸じゃがたらの「タンゴ」を使っており、毒を含んだ曲調は彼らのコントの雰囲気にピッタリだ。ヒコロヒーは単独公演の際に毎回韓国のHYUKOHの音源を使用し、ラジオに出演する際も頻繁に選曲している 。

こういった音楽の使い方は、80年代に劇作家・宮沢章夫を中心にシティボーイズ、竹中直人、いとうせいこうらが参加していたラジカル・ガジベリビンバ・システムが発端の1つだろう。60年代から続くアングラ小劇場的な演劇、テレビなどでマスに消費されるようなお笑い、そのどちらの価値観からも離れるために、当時最先端だったレゲエやヒップホップをコントの合間に流し、いとうがラップを披露するなど、さまざまなカルチャーを融合させた。バナナマンの公演に深く関わる構成作家のオークラは、ラジカルのスタイリッシュな舞台からの影響を公言している。大北栄人が主宰するコントユニット・明日のアーには石川浩司やトリプルファイヤーのメンバーなどが参加し、バンド・左右が生演奏するなど、ラジカルから連なる系譜の最新形を提示している。

そもそも芸人は大いに歌う

ネタや番組の企画に関係なく、芸人が音楽をリリースする機会は多々ある。古くは落語家・三遊亭圓丈がニック・ロウの「Cruel To Be Kind」を日本語でカバー、「恋のホワン・ホワン」として発表するというなんとも謎なレコードもあるし、明石家さんま、ビートたけし、とんねるずも笑い一切なしの本気の曲をリリースしている。2000年代以前は音源リリースが芸人としての人気のバロメーターの1つでもあり、売れた芸人はほとんど何かしらのレコード、CDを発表したといっても過言ではない。

近年だと藤井隆が発表する諸作品が、芸人音楽の筆頭ではないだろうか。本人も名作をリリースしながら、自身のレーベル・SLENDERIE RECORDでほかの芸人が歌う曲もプロデュースしている。昨年発売されたコンピレーション「SLENDERIE ideal」には椿鬼奴、レイザーラモンRG、川島明(麒麟)、後藤輝基(フットボールアワー)らが参加しており、どの曲でも個性的な歌声を聴くことができる。アレンジャーとしてスカートの澤部渡やONIGAWARAの斉藤伸也が起用されており、藤井のプロデュースも冴え渡る名盤だ(参照:「SLENDERIE ideal」特集 藤井隆インタビュー)。今年に入って霜降り明星の粗品がレーベル・soshinaを設立し、3月31日に竹達彩奈、石若駿、Reiを迎えた「乱数調整のリバースシンデレラ feat. 彩宮すう(CV: 竹達彩奈)」を配信リリース(参照:粗品「乱数調整のリバースシンデレラ」特集 粗品×syudou対談)。また、ニッポンの社長、滝音、ロングコートダディ、ねこ屋敷などのメンバーで結成されたバンド、ジュースごくごく倶楽部も配信で楽曲をリリースしている。

次回からはそれぞれのテーマをよく知る芸人やミュージシャンに話を聞き、現在進行形で影響を与え合う音楽とお笑いについて、さらに深掘りしていく。

※記事初出時、本文に誤りがありました。お詫びして訂正します。

参考資料

  • 「大衆芸能資料集成 第七巻」小島貞二編 / 三一書房
  • 「今夜は最高な日々」高平哲郎 / 新潮社
  • 「ニッポン大音頭時代」大石始 / 河出書房新社
  • 「ニッポン戦後サブカルチャー史」NHK / 2014年9月12日放送回
  • 「レイコーラジオ年末しばきあいSP」 RCCラジオ