高橋悠也×崎山つばさ、『TXT vol.2「ID」』は演者も観客も自分と向き合うことになる舞台
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インタビュー
高橋悠也(左)と崎山つばさ(右)
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すべて見る6月17日から7月4日にかけて東京・よみうり大手町ホール、大阪・サンケイホールブリーゼで順次上演される舞台『TXT vol.2「ID」』。『仮面ライダーエグゼイド』や『仮面ライダーゼロワン』でメインライターを務めた高橋悠也と東映によるシアタープロジェクト『TXT(テキスト)』は、高橋が作演出を担当し、2019年6月に上演された第1弾『SLANG』では全キャストが異なる2役を演じる、現実と虚構が交錯する物語で大きな反響を呼んだ。
そこから2年を経て、ついに上演する第2弾『ID』。崎山つばさ、松田凌、井上小百合、萩谷慧悟(7ORDER)、小野塚勇人、砂川脩弥、鈴木蘭々といった個性的な面々が一堂に会し、“ID(アイディー)”をテーマにそれぞれ「開発する者(委員会)」と「開発される者(アバター)」を演じ分ける。
開幕を前に、作・演出の高橋と主演を務める崎山の対談が実現。取材は顔合わせ及び本読みを行なった後に実施したものだが、ふたりはこの作品とどのように向き合っていくのか、その熱意をテキストから感じてもらいたい。
――『TXT』第1弾となる『SLANG』上演から2年が経過しようとしています。高橋さんは前回の手応えを経て、今回の『ID』はどのような姿勢で臨もうと考えましたか?
高橋悠也(以下、高橋) 『SLANG』はちょっと実験的な内容ということもあり、始める前から9割の人は訳が分からないかもしれないけど、残りの1割にすごく刺さる作品になればいいなという、わりと強気な姿勢で作っていた経緯があって、その狙いにはハマったのかなという気がしています。
エンタテインメントというのは分かりやすく、観る人全員が楽しめるものを作るのが大前提ではあるんですけど、観る人によって解釈の異なるものや何度も観ないと分からない作品があってもいいんじゃないかと思い、今回の『ID』も前作同様にちょっと挑戦的な、実験的な作品を作ろうと思って臨んでいます。
――最近映像もあらためて拝見しましたが、当時以上に今という時代にフィットしている内容だと思いました。
高橋 当時からYouTubeが流行り出していましたし、それをちょっと形を変えて、夢の中で夢を提供するエンタテインメントみたいなものを描いていましたが、昨今はSNSの流行によって言葉で人を傷つけたり誹謗中傷みたいなことが横行していますし、そういう意味でもこれからの時代において考えるきっかけになればいいなとは思っていました。
――崎山さんは『SLANG』をはじめ、高橋さんが手がけた作品はご覧になったことは?
崎山つばさ(以下、崎山) もちろん作品は存じていますが、『SLANG』はまだ観ていないので、今日DVDを借りていこうと思います(笑)。
高橋 いやいや(笑)。
――では、おふたりが初めてお会いしたのはいつでしたか?
崎山 『ID』のビジュアル撮影のときですね。
――お会いする前、お互いどういう印象を持っていましたか?
高橋 僕は仮面ライダー絡みで東映さんとお仕事する機会が多かったものですから、東映本社に行くことが多くて。そうすると、いろいろな作品のポスターが貼られていて、そこで彼の名前を見かけることがあったんです。今をときめくスターだな、いつか一緒にお仕事ができたら楽しいだろうなという印象は、そのときからありました。
崎山 僕はビジュアル撮影のときに、すごく寡黙な方かなという印象を持っていました。でも、実際に会話してみるとすごくお話好きな方なのかなと感じる瞬間もあって。今日もいろいろ話させていただく中で、すべて受け止めてくれるような方という印象をすごく感じたので、早く稽古したいなという気持ちが強くなりました。
出演者全員がひとり2役を演じる理由とは
――前作の『SLANG』や今回の『ID』は、出演者の皆さんが必ず2役演じるという特殊なスタイルの作品です。こういう形を通じて、高橋さんは何を表現したい、伝えたいと考えていますか?
高橋 必ずしも2役じゃなくちゃいけないということでもないんですけど、この『TXT』という企画自体が、東映で脚本業として仮面ライダーをやらせてもらっている僕が演出もやるというひとり2役の意味合いがある中で、じゃあ役者にも2役強いて、お互い苦労しようみたいなものがあったり(笑)。
それとはまた別に、少数精鋭でコッテリ濃密にモノ作りをしたいなという思いもあったので、お客さんに「この人たちはいろんな演技ができる人たちなんですよ」ということを見せていける場になればいいなと思っているんです。それがオリジナル作品ならではの醍醐味かなと。
――崎山さんは生徒会長という冷徹な面を持つキャラクターと、“喜び”の感情をインストールされたアバターという2役を演じますが、ある種真逆の2役をひとつの舞台の中で演じた経験は?
崎山 タイムリープして違う世界にいるという、同じ人物だけど性格が少し異なる2役は演じたことがあるんですけど、まったく別の人物で、かつ対極にあるキャラクターを演じるのは初めてで。しかも原作ものではないオリジナル脚本なので、僕にとってはいろいろ探り続ける大切な時間になると思うし、役者としても絶対に必要な時間だろうなと思うので、この役を任せてもらえるのはすごくありがたいですね。
高橋 役者さんって本来、舞台上の芝居で相手とぶつかり合うことがひとつの醍醐味だと思うんですけど、今回はひとりの人間の感情を分裂させて演じ合うという、ある種共同作業。お互いのテリトリーに入りすぎないように演じ分け合うということもあって、劇中のアバターの感情実験というものを超越して、役者の実験としても楽しめるんじゃないかと思います。もちろん、決して楽な道のりではないので、皆さんと相談し合いながら進めていきたいです。
崎山 実際に物語が進んでいくと、その役としての答えが分かってくるわけじゃないですか。役者自身も稽古で同じシーンを繰り返すことで変わるものもあるだろうし、本番を重ねていくごとに変わっていくところもあると思うんです。なので、あまり決め込まずに、最初のうちはちょっと自由な発想でいこうかなというのはありますね。
――『SLANG』も『ID』も、テーマとして扱っているのは目に見える物質ではなく、言葉やアイデンティティという実態を持たないもの。演じる皆さんにとって難しさを伴うテーマじゃないかなと思うんですが。
崎山 やあ、難しいです(笑)。脚本を読むと謎解きみたいな感覚にもなりますけど、逆に今まで感じたことのない衝動というか、新しい感情が生まれている感覚もあって。最初の時点で感情がテーマになっていることを強く感じましたし、そこからいろんな稽古をしていくうちに、最初に本読みをしたときとはまたイメージが変わるだろうし、そういうことに敏感に反応しながらやりたいなという気持ちが強いですね。その日その日で感情が常に違うだろうし、家に持って帰るときの感情も全部違うんじゃないかなって。
今まで過ごしてきた中でここまで感情にフォーカスすることはなかったけど、「自分ってこういうことで喜ぶんだ」とか「こういうことでちょっと嫌悪するんだ」とか、そういうことにも目を向ける初めての機会という気がしますね。
――より自分と向き合う期間でもあると。
崎山 そうですね。お客さんに届けるために、まず自分が噛み砕いてそれを伝えていかなければならないし、それを初めてお客さんが観たときに全員に伝わるとは……伝わってほしいけど、でもさっきも高橋さんがおっしゃったように1割に伝わればいいなという気持ちもすごくあるし。
たぶん、お客さんの中には非常に舞台に飢えている方も多いと思うので、逆にこれくらい難しい方が持ち帰って自分で解釈する時間が楽しくなるんだろうなって気持ちもあるので、自分がこの脚本を初めて読んだときと感じたような感情を一緒に楽しんでもらいたいです。
高橋 こういう時代だからこそ、希望があるものやハッピーなもので救われたいと思う方もいるでしょうけど、一方で作劇だからこそ現実より酷いものや落ち込むもの、絶望を感じるものを味わったゆえに、「今はそんなに悪くないな」と思えることもあったりしますし。とにかく現実離れしたものをみんなに感じてほしいので、ぶつけていきたいなと思いますね。
マイペースな人たちが揃ったカンパニー
――これから本格的な稽古に入るわけですが、今日の本読みの時点で他の共演者さんを含む今回のカンパニーの雰囲気を、おふたりはどう感じていますか?
高橋 『SLANG』との比較でもあるんですけど、今回は非常にマイペースな人たちが揃っているという印象があります。
崎山 確かにそうですね(笑)。
高橋 みんないい人ですし。もちろん『SLANG』のときもみんないい人でしたけど、もっとギラギラしていた印象があったんです。今回もやる気に満ちている方々だと思うんですけど、そのやる気を内に秘めているタイプの人たちが揃っているみたいなので、稽古が始まってどう化けるのか楽しみですね。
崎山 確かに。松田凌くんと初めて会ったときに、すごくパッションという言葉が合う人だなと思いましたし、松田くん含めそういう高橋さんの言う“内に秘めた情熱”タイプの方が多いような。稽古場で学んだことを自分で一度持ち帰って、自分なりに解釈してそれを稽古場で出していくみたいな。自分がそういうタイプなんですけど、同じようなタイプの人が多いのかなとちょっと思いました。あと、僕は皆さん初めましてなので、それもそれでまた新鮮ですし。
――ここからどんどん距離を縮めて関係を築き上げていくことで、千秋楽にはどんな舞台が展開されているのか。予想がまったくつかないですよね。
崎山 千秋楽が本当にゴールなのかというところもありますし。まだ続きかもしれませんし、ちょっとどうなるか読めませんよね(笑)。
高橋 役者の皆さんの力でもっと良くなっていって、当初のものから全然別モノになってくかもしれませんし。台本の意図していない感情が本番で溢れてしまう回があってもいい作品だと思うので、そういうことも含めて面白いんじゃないかと思います。
――そういう思いもしない感情を生み出しそうな物語ですものね。高橋さんが崎山さんに、主演として期待していることはありますか?
高橋 こうやってお会いするとすごく穏やかで優しくて、懐の広い自由な人で、アバターの役はわりと素に近い感じなのかなと。生徒会長の方はやりようによってはいくらでも化けられるし、逆に言うと今こうやって見える彼の雰囲気にないものをほじくり出さないといけない役だと思っているので、とことん壊れてほしいなと(笑)。
崎山 あはははは。いやあ、壊れたいです!(笑)
高橋 本人も「あまり怒ることがない」と言っていたんですけど、稽古中に1回ぐらいマジギレすることがあってもいいのかなと(笑)。それがいい意味で、お互いの信頼関係と作品に対する熱量に転化していくようなことがあれば、さらに楽しめるんじゃないかと思います。
崎山 本当にありがたいです。役者にとっては自分にないものや新しく手に入れる武器って、その場に行かないともらえないし、もらえるかどうかも分からないけど、だからこそやってみる価値が必ずあると思っていて。そういう意味では自分自身で実験しているような感覚でもあるので、その実験が無事成功したらいいな(笑)。
主演・崎山つばさの理想の座長像は?
――と同時に、このカンパニーの中で崎山さん自身がこういう役回りをしたい、こういう存在でありたいと今イメージしていることはありますか?
崎山 僕、あんまり人を引っ張っていくタイプじゃないんですよ(笑)。このカンパニーはみんな同世代ではあるんですけど、その中でも僕はわりと上の方なので甘えられないし、しっかりしないといけないなと。
高橋 芝居で引っ張っていくタイプ?
崎山 いやいや(笑)。そうだったらいいですけど、まずは平和をお届けできればいいなと思います。
――崎山さんは理想の座長像ってあるんですか?
崎山 今まで関わってきた作品の座長を見て、みんなカッコいいなとは思うけど、「自分はこうありたい」とか「こういう座長でいたい」というのはあまりないかもしれないです。そのときそのときで変わってくるし、空気によって変えたいなという気持ちもあるし。でも、座組の芯でいたいな、折れない存在でいたいなという気持ちはありますね。
――最後に、おふたりが役者や作演出家として、それぞれ掲げるアイデンティティについて聞かせてください。
崎山 もちろん自分が自分であるということは大切だと思うんですけど、僕は人との関わり合いでアイデンティティが生まれることもあると思うし、逆にそこでしか分からないこともあるから、「自分はこうありたい」という気持ちもありつつ「こういう自分にさせてもらっている」という感覚もあるのかなと。
やっぱりひとりじゃ生きていけないので、しっかりと自分というものを持ちつつも、でも誰かに支えられているという気持ちも常に持つことが大切なのかな。人によってアイデンティティが作られるということもあるんじゃないかなと思います。
高橋 こういう物語を作る作業って、物語を通じて自分の中の哲学とか美学とか考え方みたいなものを提示することをやりがちなんですけど、最近僕の中で心掛けていることは、答えを作中で明言しないこと。もちろん、テーマを基に作劇はしていくんですけど、観た人が答えを探すようにしていきたいんです。
それは僕が作家のアイデンティティやエゴを、作品を通して表現することが一番嫌いというのもあって(笑)。だからアイデンティティというものは、僕の中であってないようなもの。それは常に不確かで曖昧で答えのないもので、毎回探りながら演じることのできる作品を作り続けていくことに尽きるのかなと。
アイデンティティがひとつ決まってしまうと、それ以上作る必要がなくなってしまうんじゃないかという怖さもあるので、ないに等しいですし、そうでありたいなと思っています。
――この作品を観終えた後、お客さんもそこと向き合うきっかけになりそうですよね。
崎山 自分のアイデンティティを考えるようなきっかけって、まずないですものね。だから、深く考えてもらえたらいいなという気持ちが強くあります。
高橋 あとは社会の情勢だとか、コロナのこともそうですけど、あまり周りに流されずに自分の生き方を見つける機会になるといいですよね。
崎山 それに尽きると思います。劇場でもライブ配信で画面越しでも何か感じてもらえることがあるはずです。僕らの実験をぜひ観てください。
取材・文:西廣智一 撮影:源賀津己
『TXT vol.2「ID」』
作・演出:高橋悠也
出演:崎山つばさ、松田凌、井上小百合、萩谷慧悟(7ORDER)、小野塚勇人、砂川脩弥、鈴木蘭々ほか
【東京公演】
2021年6月17日(木)~6月27日(日)
会場:よみうり大手町ホール
【大阪公演】
2021年7月2日(金)~7月4日(日)
会場:サンケイホールブリーゼ
【ライブ配信公演】
ライブ配信:
6月17日(木)14:30~ / 崎山つばさインタビュー付
6月17日(木)19:00~ / 松田凌インタビュー付
6月22 日(火)14:30~ / 井上小百合インタビュー付
6月22 日(火)19:00~ / 萩谷慧悟(7ORDER)インタビュー付
※アーカイヴ視聴は、17日公演は6月19日(木)23:59まで、22日公演は6月24日(木)23:59まで
販売期間:2021年6月10日(木)12:00~6月19日(土)21:00
配信プラットフォーム:PIA LIVE STREAM
https://w.pia.jp/t/txt-id-pls/
配信サービス詳細:https://t.pia.jp/pia/events/pialivestream/
【お問合せ:https://t.pia.jp/pia/events/pialivestream/】
視聴チケット料金:4400 円(税込) ※ライブ配信映像特典付
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