BUMP OF CHICKENが描く“ドラマチックな旅” 『億男』主題歌のサウンドと歌詞から考える
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10月19日、映画『億男』が公開された。3千万円の借金を背負い家族を失うも、宝くじ当選により突然大金を手にした主人公・一男(佐藤健)が、当選金額3億円と共に姿を消した億万長者の親友・九十九(高橋一生)の行方を求めて、様々な“億男”たちと出会う模様を描く本作。いまを生きる私たちにとって、永遠のテーマとも言える、“お金の正体とは何か、幸せとはどこか”を問う作品となっている。
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すべてを失った一男が、お金・友情・家族を取り戻すために冒険に出るのだが、その道中で度々、印象的な言葉を投げかけられていた。「お金に心を奪われてはいけない」「人間に値段ってあるんですね」「お金があなたを変えてしまった」「お金の正体に近づくほど、大切なものを失っていく」……。なかでも心に刺さったのが、「あなたの家族の値段はいくらですか?」「3千万円で家族を失って、3億円で家族を取り戻せる」という言葉だ。この言葉には、ハッとさせられた。そもそも一男は兄が3千万円の借金を残して失踪したことが原因で、妻子を失ったと思い込んでいたし、観客である私たちのほとんどもまたそれを信じて疑わなかったことだろう。だが、目に見えるお金だけが真実ではない。幸せの本質は違った。そこで改めて、本作のテーマである“お金の正体とは何か、幸せとはどこか”を見つめ直すことになる。私たち観客もまた一男の過去といまを通して、お金の正体を見つける旅に出ているのだ。
劇中には、国内だけではなくモロッコでのシーンも登場。神秘的なマラケシュや壮大なサハラ砂漠の景色をじっくりと堪能することができる。そんな一男と私たちの旅をより一層彩り、爽やかな余韻をもたらしてくるのが、BUMP OF CHICKEN(以下、BUMP)が歌う主題歌「話がしたいよ」。同楽曲は、藤原基央(Vo/Gt)が『億男』のために書き下ろしたバラード。ピアノに重ねた藤原の独唱から始まり、アコギやコーラスが積まれ、バンドサウンドへと展開。そして大サビからの多重コーラスが印象的な間奏を経て、また藤原の声が際立つ音数の少ないアレンジへと流れていく。物語の結末に溶け合うように、藤原の声が優しく鼓膜を揺らし、私たち観客の身体にゆっくりと染み渡る。なんて柔らかくて温かい曲なのだろう。一男と九十九、そして私たちをそっと包み込んで、光ある未来へと送り出してくれるような。そんなBUMPの主題歌を聴きながら、エンドロールで余韻に浸り、自分なりの“お金と幸せ”の答えを探す旅を終える。
BUMPは、たった1曲、約4分20秒の中で、ドラマチックな起承転結を描いている。それは、サウンドだけでなく歌詞の面もまた然りだ。
<持て余した手を 自分ごとポケットに隠した/バスが来るまでの間の おまけみたいな時間><ガムと二人になろう 君の苦手だった味>から始まり、<ガムを紙にペってして バスが止まりドアが開く>で終わる。ここからはあくまで筆者の勝手な推測だが、このバスを待っている間に刺激された、聴覚<街が立てる生活の音に>、味覚<君の苦手だった味>、視覚<往復する信号機>、触覚<肌を撫でた今の風が>、嗅覚<夏の終わる匂い>という五感と共に、ふと君を思い出す。君との思い出を辿るけれど、忘れてしまったことも多くて、すべての記憶が蘇ることはない。だから、君と話がしたい。でも、君を思い出したことで、自分の中で改めて気づいたことがあり、ポケットに隠していた自分をガムと一緒に紙に吐き出した。そしてバスのドアと共に、さっきまで自分が向かおうとしていた場所とは違った世界がひらく。といったドラマが描かれているように感じた。このバスを待っている時間だけで、素朴だがドラマチックな物語が展開され、見事に起承転結しているのだ。
『億男』で、一男と九十九が、1と99で2人あわせて100パーセントのように、自分一人では気づけなかった何かを、君という存在があったからこそ見つけることができる。私たちが気づいていない“お金と幸せ”の正体もまた、映画『億男』とBUMP OF CHICKENが誘う旅を通して見つけることができるかもしれない。(文=戸塚安友奈)