「今だからこその楽しさを!」原田諒×紅ゆずる “なんでもあり”な『エニシング・ゴーズ』
ステージ
インタビュー
原田諒×紅ゆずる 撮影:川野結李歌
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すべて見るブロードウェイ・ミュージカル『エニシング・ゴーズ』が東京・明治座にて8月に上演される。数々のミュージカルや映画作品で名曲を残した巨匠コール・ポーター最大のヒット作と呼ばれ、楽しく陽気なストーリーをジャズのメロディーとダンスで魅せるこのミュージカル・コメディは、1934 年にブロードウェイで初演され、1988 年に第 42 回トニー賞で 3 部門を獲得、更に 2011 年の第 65回トニー賞において再び 3 冠に輝いた傑作。日本では1989年に初演され再演を重ねてきたが、今回は 8 年ぶりの上演となり、演出・キャストを一新。演出は宝塚歌劇団の原田諒、ニューヨークで一番のナイトクラブの大スターリノ・スウィーニー役は元宝塚歌劇団星組トップスターの紅ゆずるが務める。作品について、原田諒と紅ゆずるに話を聞いた。
「生きてこれを観ることができて良かった」と思ってもらえるように
――『エニシング・ゴーズ』は8年ぶりの上演で演出、キャストを一新ということですが、おふたりは今、どんなふうに作品に臨もうと思われていますか?
紅ゆずる(以下、紅) 日本版ではこれまでにも大地真央さんと瀬奈じゅんさんが主役のリノ・スウィーニー役を務めて来られましたが、今回はイチから新しくこの作品をつくるためにも、あえて過去のバージョンは見ずに取り組もうと思っています。それを強みにして、自分が考える私なりのリノをつくっていくつもりです。
――そのうえで、どうつくっていきたいと思われますか?
紅 タイトル通り“なんでもあり”だと思っています(笑)。でも、今この時代に喜劇をやる意味は大きいと思います。劇場にわざわざ足をお運びいただくので、笑って「楽しかったね!」と言っていただける作品にすることは第一の目標です。
――原田さんは初めてこの作品を演出することをどのようにお考えですか?
原田諒(以下、原田) 『エニシング・ゴーズ』は、ずっとやりたかった作品なんです。ですからオファーを頂いた時は驚いたのと同時にとても嬉しかったですね。ニューヨークからロンドンに行く豪華客船に個性豊かな人物たちが乗り合わせて、そこで起きる出来事が描かれた、ミュージカル・ショーのような面白さがありますし、コール・ポーターが音楽を手がけたミュージカルの中でもとびきりの名曲揃い。
この作品が(ブロードウェイで)初演された1934年は、1929年の大恐慌による不景気からアメリカが再び立ち上がってきた、パワーのみなぎった時期ですから、街にも楽曲にも作品にも溢れんばかりのエネルギーがありますよね。そういう作品を、今のこの時代に上演するのはとても意義あることだと思います。ましてや紅さんは宝塚歌劇団時代(’19年10月に退団)から屈指のコメディエンヌと言われた人ですから、このお話をいただいた時、直感的に「ピッタリだな」と思いました。
――どんな風につくっていこうと思われていますか?
原田 今はコロナ禍で世界中が沈んでいる状況ですから、そんな暗い空気を打破するような楽しくて、明るくて、綺麗な舞台をつくりたいです。オーバーかもしれませんが、「生きてこれを観ることができて良かった」と思っていただけるようなものにしたい。翻訳は(日本初演版の)青井陽治先生のものをもとにしていますが、今回版に合わせてほぼ新たに仕立て直しました。
――どう仕立て直されたのですか?
原田 この作品は、ちょうどオペラ・オペレッタからミュージカルに移行する時期、ミュージカルの黎明期の作品なんですね。ナンバーが続く現代のミュージカルとは違い、芝居の部分は芝居としてきちんとあるし、ナンバーはナンバーとして存在するという構成で、やりようによってはオールドファッションな作品に見えてしまいかねない。ですから今回は2021年版として一新し、ポップに華やかに、ショーアップしてお届けしたいと思っています。紅さんは宝塚時代からショースターとしての評判も高かったので、このリノという役が、女優になった彼女の魅力を120%発揮させることのできる“当たり役”になればと思っています。
“原点”をずっと持ち続けているリノの姿は紅ゆずると重なる
――紅さんはリノという役をどのように思われてますか?
紅 このお話をいただいた時に主催者の方から「天真爛漫、何をしでかすやらわからないような感じがピッタリなんです。そのままやってほしい!」と、言われました。自分ではそんなめちゃくちゃな人ではないと思っていますけど(笑)、大胆なところは共通すると思いますし、自分に流れている血を生かしていきたいです。そして稽古場で皆さんとのセッションを重ねて、役をカタチにしていきたいですね。
原田 リノはナイトクラブのスターで華やかさも必要ですし、若い娘にはない人生経験を重ねた手練手管も必要な役です。宝塚で共に同じ時代を過ごしてきて、僕が紅さんに感じるのは、とても明るくて楽しい人なのだけど、すごく繊細で涙もろいところがある人情家だということ。リノもただ派手なスターではなく、お節介で人の痛みがわかる女性ですから、そういうところは紅さんとリノはとても似ていると感じます。そんなふたりの感受性はリンクすると思うので、「そのままやればいい」と言われたのはそういうところではないか思いますし、そんな魅力を思う存分発揮して、大暴れしてもらえたらと思っています。
――原田さんは、紅さんが星組トップ時代に『ベルリン、わが愛』で作・演出としてタッグを組まれましたが、その時とはまた違ったイメージの役柄ですね。
原田 『ベルリン、わが愛』の時は、彼女の宝塚男役としての二枚目像をすごく出したいと思っていました。先ほども申しましたが、紅ゆずるという人はコメディエンヌな部分が評価されがちですが、その中にはいろんな思い……情熱、人情、知性、さまざまなものが詰まっている。だからこの人の言葉はとても瑞々しいし、面白いんですね。今回はそんな彼女の個性をリノに重ね合わせて、リノ・スウィーニーが紅ゆずるなのか、紅ゆずるがリノ・スウィーニーなのか、役と演者が不即不離の関係になるところまで持っていければと思っています。
――再び一緒に作品をつくることはどのように思われていますか?
原田 すごく嬉しかったです。ピッタリな配役ですしね。約2年前に宝塚を卒業して、男役だった彼女が女優になって、今日もお会いして「こんなに綺麗な人だったのか」と改めて思いました。きっとこの2年で紅さんの中で変化した部分も大いにあるんだと思います。
紅 私と原田先生は地元がとても近いんですよ。
原田 そこ話すの!?(笑)
紅 しかも宝塚に入ったのも一年違い。
原田 年齢は僕の方が一つ上なんですけど、宝塚では僕が一年下級生なんです。一緒に地元に帰った時、ご飯食べたの覚えてる?
紅 覚えてるよ。
原田 その時に忘れもしない、「私がトップになったら泣くやろ?」「泣くなあ」っていう会話をしたんですよ。当時、彼女は成績的には優等生ではなかったんですね。その頃からとても個性的な男役ではあったんですけど。それもあって、「泣くなあ」は「それはないやろ」という気持ちで言ってました。でもトップになったんですよね。だから本当に泣いた。
紅 (笑)
原田 そんな下級生の頃でも、一番後ろの列の端にいても目立つ存在でした。そんなポジションから努力を重ねて、他の人は経験しなかった悔しさやいろいろな思い、広い視野を持ってトップになっていく様を見てきているので、僕は彼女は人情味のある演技にこそ真価があると思うんですね。リノという役も紅さんと同じで、ただただ明るいだけでなく、上っ面ではない情にほだされたり、ホロっとさせられたりしますから。ですから今回は一曲、これまでの日本版ではやってこなかった楽曲をカーテンコールでやろうと思っているんです。
『Take Me Back to Manhattan』という曲で、ロンドンに到着したリノが、ロンドンも素晴らしいところだけれど、やっぱりあのゴチャゴチャしたニューヨーク、つまりは彼女の原点に帰りたいと歌う曲です。いわゆる“原点”をずっと持ち続けているリノの姿は、紅さんと重なります。そういった原風景を失わない限り、リノも紅ゆずるも魅力的であり続けるし、味わいのあるスターであると思います。
カンパニーそのものが記憶に残る作品になれば
――共演者の皆さんもそれぞれ個性的で魅力的ですね。
紅 豪華ですよね。ホープ役の愛加あゆちゃんは同じ星組だった夢咲ねねの妹さんなので、勝手な親近感があります。ねねからも「よろしくお願いします」みたいなLINEが届いて「こちらこそです」と返しました(笑)。そして……一路真輝さん! 私、宝塚歌劇団を初めてテレビで観たのが一路さんなんですよ。だからとっても感動なんです!
原田 ははは!
紅 まさか一路真輝さんと共演させていただくことがあるなんて考えないじゃないですか。退団されるときは世界の終わりみたいな悲しみだったし。一路真輝さんのビデオを何回も何回も巻き戻して観ていたら、ビデオが壊れましたからね。そのくらい大好きな方で。稽古場で震え上がるかもしれません。
原田 (笑)。今までお会いしたことないの?
紅 ないよ! だから実際にお会いしたら衝撃を受けると思う。
――最後にお客様にメッセージをお願いします。
原田 大変な状況が続く中で、演劇をやるということはどういうことなのかを考える毎日です。我々の仕事は時に不要不急と言われがちですが、こんな時だからこそ必要な仕事であらねばと思います。決して明るいとは言えない今の時代の中で、観にいらしてくださったお客様が「ああ、来てよかった。楽しめてよかった」と思ってくださるものをお見せしたいと思っています。紅さんをはじめ本当に魅力的なキャストが揃いましたので、ぜひ楽しみにお越しいただけたらと思います。
紅 原田先生もおっしゃいましたが、「来てよかった」と思っていただけるものにしたいです。そして、劇場にいる時間だけではなくて、家に帰っても、次の日も、その次の日も「よかったな~。楽しかったな~」と思っていただけたら最高です。そしてこのカンパニーそのものが私自身も「一生忘れられないメンバーだ」というような作品になればいいなと思っています。心からお待ちしております!
取材・文:中川實穗 撮影:川野結李歌
衣装:MSGM/アオイ
公演情報
ブロードウェイ・ミュージカル『エニシング・ゴーズ』
作詞・作曲:コール・ポーター
オリジナル脚本:P.G.ウドハウス&ガイ・ボルトン&ハワード・リンゼイ&ラッセル・クラウス
新脚本:ティモシー・クラウス&ジョン・ワイドマン
翻訳・訳詞:青井陽治
演出・潤色:原田諒
出演:
紅ゆずる
大野拓朗 / 廣瀬友祐 / 愛加あゆ
一路真輝
平野綾 / 市川猿弥
陣内孝則
他
【東京公演】
2021年8月1日(日)~2021年8月29日(日)
会場:明治座
※新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、8月1日(日)~9日(月・祝)全ステージと11日(水)・17日(火)・19日(木)18:00開演、14日(土)・21日(土)17:00開演公演中止(7/30追記)
【愛知公演】
2021年9月4日(土)~2021年9月12日(日)
会場:御園座
【大阪公演】
2021年9月17日(金)~2021年9月26日(日)
会場:新歌舞伎座
【福岡公演】
2021年9月30日(木)~2021年10月5日(火)
会場:博多座
チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2170935
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