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井上祐貴・木下彩音が“青春ミステリー”に挑戦「どんなにつらいことも乗り越えれば見える景色がある」

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井上祐貴、木下彩音 撮影/友野雄

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何が幸せなのか? 何が正しいのか? そんな指針が見えにくい2021年を切り開くかのような、新しい“青春ミステリー映画”が誕生した。

本作が監督デビューとなる杉岡知哉が描いたのは、キラキラした高校生活ではなく、青春時代の忌まわしい思い出から、過去にとらわれている若者たちの姿だ。

何者かが書いた相関図によって、誹謗中傷の的となり日常が暗転した主人公、暁人役の井上祐貴、相関図事件に関わりのあるヒロイン、絵里子役の木下彩音に話を聞いた。
高校卒業から7年後、25歳になったふたりが再会し、再び動き出した過去の事件の真実とは-。

暁人の絵里子への強い思いから始まったいじめ、一歩踏み出す勇気

――高校生活を描いた作品ですが、タイトルのように「ビター」なテーマの映画ですよね。暁人と絵里子を演じてみていかがでしたか?

井上 暁人については、「強いな」と感じました。なかなかの覚悟がないと、自分が思いを寄せている絵里子をかばって、いじめの標的になるなんてできないですよね。そこまで考えずにやったことだったとは思うんですけど、自分が身代わりになる選択をするなんて、強い思いがないとできないでしょうし、その思いがあったからこそ、7年後の同窓会で、過去の事件の発端になった“相関図”に向き合えたんだろうなと思います。

僕自身も演じていて、暁人に背中を押してもらえた気がします。観てくださった方々が、ちょっと一歩踏み出してみようとか、言えずにいたことを言ってみようとか、そういう刺激をあげられるような作品になったのかなと思います。

――暁人は身代わりになる選択をして、それは覚悟していたことだったはずなのに、実際に標的になってみたらやっぱり辛い、というシーンがありましたけど、とても人間っぽいなと思いました。

井上 そうなんですよね。すごくあれは暁人っぽいというか、守りたいという思いが勝って、行動してしまったんだろうなあと。あのセリフを言っているシーンは暁人の弱さが出るシーンで、考えさせられました。

木下 オーディションが終わってから撮影が入るまで短い期間しかなくて、撮影じたいも8日間という短い時間で撮ったのですが、準備期間があまりない中、初めてのヒロイン役だったのですごく最初は不安でした。でも始まってしまったら、キャストが同世代の方が多かったのもあって、いろいろコミュニケーションをとれて、すごく楽しかったです。映画の内容は重たいんですけど、休憩時間はみんなで楽しく過ごしていました。撮影中のシリアスさとカットがかかったあとの和気あいあいとして現場のギャップが楽しくて、すごく勉強させていただきました。

――お互いの演技についてはどう思われましたか?

井上 木下さんとふたりのシーンでは、そんなに演技についてのディスカッションができたわけではなかったので、不安もあったんですけど、撮影が始まったら、台本の文字だけでは想像ができない空気感みたいものがお芝居をすることによって生まれて、すごく木下さんには助けていただいたなと思います。

木下 監督と3人で事前に話すことはありましたけど、基本的には2人で何かを相談することはなくて。でも最後の橋でのシーンだけは、撮る前にふたりで読み合わせしました。井上さんの演技の印象は暁人も優しくて不器用なところがありますけど、井上さんご自身もすごく気づかいのできる優しい方でした。暁人のイメージにぴったりで、カットがかかっているときもかかっていないときも、大きなギャップがなくて、安心して演技ができました。

――杉岡監督は今回が長編映画として初監督ということですが、処女作だからこその演出だなと感じた部分はありましたか?

木下 処女作だからということではないのですが、最初に役者の私たちが思っていることも聞いてくださって、そのあと、監督が思ったことを付け足して色をつけていくという撮り方だったので、私たちも自分がやりたいと思って考えてきた演技をぶつけられて、ありがたい経験になりました。

嫌なこともいつかは終わる ポジティブさが大事

――この作品は「忌まわしい過去に今も引きずられてしまっている」、それを乗り越えるというテーマがひとつあったと思いますが、おふたりはそういった「忘れたい過去」「嫌な過去」はありますか?

井上 そこまで大した過去ではないんですが(笑) 僕、中学校まで給食で、高校からお弁当だったんです。それで母が毎朝作ってくれていたんですけど、どうしてもお腹いっぱいでとか、好きなおかずじゃないからとかで残してしまうことがあって。でも大学から…

木下 可愛い~!

井上 そんな笑います? 大学から一人暮らしを始めて自炊してみて、朝の忙しい時間にお弁当を作ってくれた母の大変さを思い知って。貴重な時間を割いて作ってくれていたお弁当を残していた自分が許せなくて。もし過去に戻れるなら、絶対全部食べます! この記事を母が読んでくれたらいいな(笑)

木下 過去というより、今変えたいことなんですけど、私、基本的にマイナスに物事を考えてしまうところがあって、失敗したときとかにも「ちょっと無理だと思ってたし」って考えてしまって、失敗を引きずってしまうんです。もっとポジティブに物事をとらえられるようになりたいです。

――暁人は25歳になって、自分のことを「冴えない」と感じていますけど、20代の社会に出て数年たったころってそういう感情を持ちがちなのかなと思います。おふたりがこの映画に出演されて、感じたことから、そういった若者へアドバイスがほしいです。

木下 私自身思うことなんですけど、さっきもお話したように、物事はポジティブにとらえたほうが人生は楽しくなるなって思います。嫌だなって思っていたこともいつか終わるんだから、嫌だなと思っていた時間がもったいないなって、終わってから思うんです。悩んでいた時間を楽しい方向に考えていたらよかったのにって。

20代になってから、時間が経つのがすごく早く感じて、それは先輩たちから聞いていたんですけど、実際になってみたら本当に早かったので、今の一瞬一瞬をもっと大切にしたいなって思います。20代の読者の方々にも嫌なことがあってもいつかは終わるからと思って、楽しい日々を送ってもらえたらいいなって思います。自分に言い聞かせているみたいになっちゃいましたけど(笑)

井上 僕も、自分自身に対して思うことなんですけど、生きていたらつまずくことだってあるし、大きな壁にぶちあたることもあるんですけど、例えばそれが仕事だったとしたら、仕事以外にも没頭できるものを見つけるとか、これをしている瞬間は忘れていられるというものを見つけることが大事なのかなと思います。それは最近すごく感じていて、今まではオンオフの切り替えをあまりしないタイプだったんですけど、どんどん考えることが多くなってきて、ずっとこのまま24時間考えてしまうと良くないなと。

よりいいアイデアはオフの時間を作ることによって浮かぶのかなと思うので、切り替えが上手になりたいと思っています。一日のうちわずかでも自分が没頭して楽しめる時間を作ることで、毎日が「冴えない」とは思わなくなるんじゃないかなと思います。

ふたりが感じる「大人になった良さ」

――同世代がたくさん集まっていた現場は、得るものが多かったのでは?

木下 みんなで一緒のシーンはあまりなかったんですけど、4人グループでわいわいしているシーンを撮ったときは楽しかったです。高校生がする会話、「帰ったら何する?」とか「どこ寄ってく?」とか「何か飲んで帰ろうよ」とか。高校生ってこういう会話してたなーって懐かしく感じました。

――おふたりの高校生活はどんな感じだったんですか?

木下 私はワイワイ系の女子8人グル-プにいたんですけど。

井上 8人がワイワイしたらすごそうですね!

木下 体育祭でみんなでメガフォンを作って目立ってみたり、給食も8人で机を並べて食べてて。男子たちからは「どうせうわべだけの友情でしょ。卒業したらつきあいなくなるよ」とか言われてたんですけど(笑)いまだにみんなとは仲いいんですよ。東京に来るときに連絡くれたりとかしますし、学生時代は楽しかったです。

私も絵里子と似ていて、人にあまり相談をするタイプではないんですけど、相談はしなくてもみんなで一緒にいるだけでリフレッシュできたことで支えてもらったなあって思います。いい高校生活でした。

井上 僕もいい高校生活でした(笑) 家に帰ったらゲームしよう、とかそういうたわいもないことが懐かしいですよね。1週間後の放課後にあそこに行く、とか予定を決めて、それを楽しみに頑張るとか、高校生ならではでしたね。ちょっとしたことが楽しい、青春だなって記憶に残ってます。文化祭も当日より前夜祭のほうが楽しかったなーとか。
高校生活は自分なりに全力で楽しんだから、やり直したいというのないですけど、戻れたら楽しいんだろうなあとは思います。

――では逆に大人になった良さって何だと思いますか?

木下 自分の行動に責任が持てるようになったことかなあ。高校時代は夜遅くなってもしゃべりたい、遊びたい、というのがあって、親に怒られたりして、そのときは「嫌だな」って思ってましたけど、今となっては「守ってもらっていたんだな」って思いますし、ひとり暮らしして自立した今は今で、自分で自分のことができる良さは感じます。親からしたら「まだまだ子どもだよ」って思ってると思いますけど、それでも自分で自分が進む道を選択していかないといけないから、それができていることや、挑戦したことが形になったときは嬉しいですし、ダメだったときも自分と向き合う時間を作れるようになりました。もっと大人になっていくこれからが楽しみです。

井上 ついこの前まで「大人になりたくない」「歳を取りたくない」て思っていたんですけど、お仕事させていただくようになってからは、作品を通して観て下さった方が「明日も頑張ろう」と思ってもらえるような仕事をしたいなと思うようになりました。あの人も頑張ってるから頑張ろうと思ってもらえる人になりたいです。そう思えているうちは全力で頑張りたいので、大人として自分に責任を持っていたいです。
せっかく作品を作る一員にしてもらえたんだから、いいものを作りたいって思いますし、それを観た誰かの背中を押せるなら、そんな素敵なことはないなと思います。

――では最後にこの作品を通して伝えたいことを、おふたりから改めて教えてください。

木下 悩んでいる方の一歩踏み出す力にこの作品がなれたらいいなと思います。絵里子もトラブルを抱えても前に進んでいて、仕事をしっかりして自立しているし、自分の進みたい道にしっかり進めていて。つらい過去も最後は乗り越えて笑顔でいます。つらいこともそれを乗り切ったら、見えるものがあるので、大丈夫だよと伝えたいです。この作品の登場人物より上の世代の方にもぜひ、自分たちの高校時代はこうだったなと、この作品を通して見つめ返す時間になってもらえたらいいなと思います。

井上 たくさんの幅広い世代の方に共感していただけると思います。この作品で描かれているように、誰かの一言が誰かの人生を変えてしまうこともあるので、自分も一歩踏み出して、伝えたいことを伝えてみようと思っていただけたらとても嬉しいです。

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映画『Bittersand』は6月25日(金)より順次全国公開。

撮影/友野雄、取材・文/藤坂美樹

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