山崎育三郎の明るさが岡田将生の背中を押す 『昭和元禄落語心中』で描かれた落語界の光と影
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「この人の見つめる先はいつも明るい」
弟子を取らないことで有名だった八代目 有楽亭八雲(岡田将生)だったが、刑務所帰りで「弟子にしてくれ」と飛び込んできた与太郎(竜星涼)を家へと招き入れた。それは与太郎の姿に、かつての兄弟弟子・助六(山崎育三郎)の影が見えたからだ。
10月19日に放送されたNHKドラマ10『昭和元禄落語心中』の第2話では、八雲と助六との出会いが描かれた。生まれも性格も何から何まで正反対の助六との出会いは、八雲の噺家としての生き方を決定づけるものになった。
時代は八雲の幼少期にまで遡る。日本にも戦争の波が押し寄せており、噺家は肩身の狭い思いをし続けていた。
ドラマでは原作と比べ、時代背景が丁寧に描かれている印象を受けた。「品川心中」「明烏」をはじめとする廓話の自粛、思想落語を検閲するための臨監席の設置、名作古典落語53作を禁演落語に設定し、浅草寿町の本法寺に「はなし塚」を建立し供養するなど、多くの史実が今回の放送で描かれた。国策として、落語や漫才といった芸事は低調卑属とされており、落語界は衰退の一途を辿っていたという事実を描くことで、ストーリーにより深みが出てくる。
同時に初太郎(助六の前座名)の底抜けの明るさも強調されてくる。菊比古(八雲の前座名)は、「こんなご時世だからこそ、絶対に落語を残しておかなきゃならねえぞ」と常に前を向いていた初太郎に何度も励まされていた。菊比古が噺家としての道を決めたのも他でもない初太郎の一言だった。
菊比古は清廉な立ち振る舞いから、悪くいえば男らしくない容姿だった。また、表情が表に出るような性格でもなく、師匠からも「おめえの落語は辛気臭い」言われていた。そんな時、菊比古は初太郎から廓話や艶笑話といった色っぽい話を勧められる。このひと言があったからこそ、のちに唯一無二と言われる八代目 八雲の伝統芸が生まれた。
戦争が終わり満州慰問へと行っていた初太郎も帰国。2人は二ツ目へと昇進し、貧乏ながらも2人暮らしを始めることとなる。戦争を乗り越え、寄席にも多くの人が訪れるようになった。初太郎の言葉通り、落語界は再び軌道に乗り始めたのだ。劣等感に襲われることもあった菊比古だが、常に明るく前を向く初太郎のおかげで、厳しい時代でも落語の世界に身を置き続けられたのだろう。
時代背景を丁寧に描くことで、菊比古の心情に視聴者もより一層、感情移入することができる。NHKの十八番とも言えるこの演出には、流石という他ない。もちろんそれは岡田扮する菊比古、山崎扮する初太郎の説得力のある落語シーンがあってのもの。戦争が終わり、娯楽文化が盛り上がりを見せる昭和中期から後期をどう描くのかに注目することで、本作の見え方も変わってくるかもしれない。
(馬場翔大)