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「これはもはやコンサートではない」『ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート』観劇レポート

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『ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート』より 撮影:渡部孝弘

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7月12日より、東急シアターオーブにて『ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート』が上演中だ。出演はブロードウェイと韓国で活躍するマイケル・K・リー、そしてブロードウェイやウエストエンドでも屈指の人気を誇る世界的スター、ラミン・カリムルーら。シアターオーブではこれまでも海外のアーティストとともに創りあげるコンサートシリーズを積極的に制作してきたが、今回も世界の第一線で活躍する大スターたちと、日本を代表するミュージカルスターの共演で贈るゴージャスなドリームステージになっている。……と紹介するのは簡単だが、このコロナ禍において、海外キャストを招聘しての上演は多くのハードルがあったことは想像に難くない。その困難を乗り越えての、待望の開幕だ。静かな客席からも無言の熱気が吹き出しているような、一種独特の高揚感がある。

作品は『オペラ座の怪人』『キャッツ』などで知られる天才作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーと、『アラジン』『美女と野獣』などの作詞家ティム・ライスが、まだ20代前半で生み出した、彼らにとっての出世作。キリストが十字架に掛けられるまでの7日間をロックサウンドと疾走感あるストーリーで描き出す本作はミュージカルシーンに衝撃を与え、1971年の初演から半世紀たつ今もなお、世界中で上演され続けている不朽の名作だ。

舞台上には、鉄骨で立体的に組まれた無骨な、しかし照明で鮮やかに表情を変えていくセット。工事現場の足組のようにも、ジャングルジムのようにも見えるその上に点在するバンドがおなじみのオーバーチュアを奏でる。その音楽が最高潮に盛り上がるフレーズで、まばゆい照明の中、メインキャストが勢ぞろいするカタルシス。鳥肌が立つ感覚。ここから、ロイド=ウェバーの名曲たちが、世界レベルの実力派キャストによって怒涛のように歌われていく。

ジーザス役:マイケル・K・リー 撮影:渡部孝弘
ジーザス役:マイケル・K・リー 撮影:渡部孝弘

ジーザス役は、韓国系アメリカ人としてブロードウェイ、また近年では韓国でも活躍するマイケル・K・リー。レザーのパンツ、白いTシャツにストールを巻いただけのシンプルな衣裳ながら、知性と品の良さを感じさせるジーザスだ。透徹な歌声は鋭くも哀切。自身の思いとは裏腹に暴走していく信者たちの中で苦悩する“人間”ジーザスの姿……しかしながらやはりほかの人とは違い“神の子”であるカリスマ性もある両面が、その歌声、立ち姿から自然と伝わる。

イスカリオテのユダ役:ラミン・カリムルー 撮影:渡部孝弘

一方、ユダ役は2019年のシアターオーブ版初演でも同役を演じたラミン・カリムルーが続投。ロンドンの『オペラ座の怪人』25周年記念公演で主役ファントムを演じるなど、名実ともに世界トップクラスの人気スターが、ジーザスを愛しながらも裏切る難役を今回も深みのある歌声と熱いパッションで魅せた。ラミンとマイケルの相性も良く、お互いぶつけ合う感情のボールがどんどん膨らんでいき、物語が進むにつれ熱が高まっていくのがわかる。

マグダラのマリア役:セリンダ・シューンマッカー 撮影:渡部孝弘

ほか、ウエストエンドの『レ・ミゼラブル』ファンテーヌ役などで知られるセリンダ・シューンマッカーがマグダラのマリア役、ブロードウェイの『アラジン』でタイトルロールを務めるテリー・リアンがペテロ役、アンナス役はブロードウェイでも同役を務めたアーロン・ウォルポールと、世界のミュージカルファンが羨む贅沢なキャストが、さすがの実力で魅了していく。中でもロベール・マリアン(モントリオール、パリ、ウエストエンド、ブロードウェイの4都市で『レ・ミゼラブル』ジャン・バルジャンを演じる名優である)は、ジーザスに罪がないと思いつつも群衆の声に押され彼の磔刑を宣告するピラト役。怒りにも似た悔恨と無力感を全身から漂わせる、圧巻の演技と歌唱だった。客席に座っているだけで、ワールドクラスの歌唱力、表現力に殴り倒されそうだ。

シモン役:柿澤勇人 撮影:渡部孝弘

だが、対する国内勢も負けていない。自身のデビュー作が『ジーザス~』だったというシモン役の柿澤勇人は、最近の彼の活躍をみるといささか役が小さすぎる気もするが、ジーザスを熱狂的に崇める十二使徒のひとりを熱く演じ、ソロナンバーでもパワフルなシャウトで存在感をアピール。ユダヤ教の大祭司カヤパの宮原浩暢は迫力ある低音で、ジーザスを追い詰めていく立場の人間を見事に演じた。そしてヘロデ王役の藤岡正明がその美声と軽快なパフォーマンスで場をさらう爽快さ! もともとヘロデは本作のトリックスター的存在だが、錚々たる来日勢がさんざん熱いパフォーマンスを魅せたあと、1曲で確実に印象を残した藤岡の頼もしさに、日本ミュージカル界も凄いぞと嬉しくなった。

今、生のライブエンタテインメントの素晴らしさを感じとるのにこれほどぴったりの作品はない

『~in コンサート』と言っても、もともと全編音楽で綴られている作品であるので、カットされている部分はなく、『ジーザス・クライスト=スーパースター』の冒頭からラストシーンまで全て上演される。しかもキャストはきちんと役を生き、これはもうしっかりミュージカルを見たのと同じ満足度。もちろんどこを切り取っても圧倒される歌唱力の持ち主ばかりなので、アンドリュー・ロイド=ウェバーの天才的音楽の素晴らしさを存分に味わえるのは間違いないが、だがあえて「これはもはやコンサートではない」と言いたい。演出はマーク・スチュアート。振付家としても活躍する彼の演出は、ステージ全体で“物語のうねり”を感じさせるもので、単なる音楽の良さ以上の物語性を伝えてくれる。そしてその“うねり”を生み出しているアンサンブルキャストの歌唱、ダンスも見ごたえがあった。

振り返れば2019年10月のシアターオーブ版初演の際は、わずか4日間の公演期間のうち1日が、首都圏の鉄道会社が計画運休を決めるほどの大型台風直撃にぶつかり公演中止に。『ジーザス~』とは直接の関係はないが、ラミン・カリムルー出演の今年5月のコンサートは、すでにキャストが来日し準備を進めていたにもかかわらず、直前に3度目の緊急事態宣言が発令されたため全公演中止になった。今回も都内は4度目の緊急事態宣言がまさに本作の初日である7月12日から発令された。綱渡りのような状況だったに違いない。それでもこれだけの豪華キャストが世界から集い、開幕した。困難の中、力強く花開いたこの『ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート』――今、生のライブエンタテインメントの素晴らしさを感じとるのにこれほどぴったりの作品はないだろうし、後々まで語り継がれるステージになることも、間違いない。

『ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート』出演メンバー 最前列左から藤岡正明、柿澤勇人、ラミン・カリムルー、マイケル・K・リー、セリンダ・シューンマッカー、宮原浩暢(LE VELVETS)、階段手前からテリー・リアン、ロベール・マリアン、アーロン・ウォルポール 撮影:渡部孝弘

公演は7月27日(火)まで東急シアターオーブにて上演。7月31日(土)から8月1日(日)には大阪・フェスティバルホールでも上演される。

取材・文:平野祥恵 撮影:渡部孝弘

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『ジーザス・クライスト=スーパースタ― in コンサート』
【東京公演】
2021年7月15日(木)~7月27日(火)
会場:東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ11F)
【大阪公演】
2021年7月31日(土)~8月1日(日)
会場:フェスティバルホール

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2170460

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