札幌発3ピースバンド、ズーカラデルのエネルギーに満ちた新曲を語る
音楽
インタビュー
ズーカラデル Photo:吉田圭子
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すべて見るFMラジオ局J-WAVE(81.3FM)の新番組『PIA SONAR MUSIC FRIDAY』(毎週金曜22:30〜23:00)。
この番組は、月曜〜木曜22:00〜24:00にオンエア中の『SONAR MUSIC』と連動したミュージックプログラム。“今、聴くべき音楽”にフォーカスして、最新の楽曲や注目のライブイベントなど、番組独自の視点で最新の音楽情報を紹介。
今回登場するのは、7月14日にデジタルシングル「未来」をリリースした、札幌発の3ピース、ズーカラデル。
パワフルで思わず一緒に歌いたくなるような日々のアンセムがあり、不器用な主人公にクスッとしたり、またその姿に逆に励まされたり、思ってもみなかった自分の感情と出会ったりする。自分や身近な誰かが思い浮かんだり、心を打ち明ける友人のような親しみを持つロック。ズーカラデルは、いつだって人生の傍で歩調を合わせてくれる音楽を紡いでくれる。ニューシングル「未来」は、さらにぐいっと手を掴んで引っ張り上げてるエネルギーに満ちている。心地よく弾むビートにノイジーなギターとベースが乗り、今回はそこに晴れやかな鼓動を映したようなピアノがきらめく。高揚感に溢れ、背中を押す軽やかな風をまとった「未来」は、今このときのわたしたちの行進曲となりそうだ。この新曲に込めた思いを3人に語ってもらった。
──最新シングル「未来」は、弾むビートやピアノの高揚感がポジティブな歌詞をさらに引き立てるような曲で、ズーカラデルのなかでもより一歩前に踏み出したなと感じる曲ですね。この曲はどのような感じでスタートしていったんですか。
吉田:最初にサビに出てくる《ここからは僕らのもの》というフレーズがメロディと一緒に浮かんできたんです。これを言いたいと思って。それが昨年の末頃のことだったんですけど、早くこの曲をリリースしなきゃいけないなという気持ちが芽生えてきましたね。今の日本のなかでちゃんと響いてくれるような曲なんじゃないかって思って。
──その《ここからは僕らのもの》という言葉は、吉田さん自身そのときどんな感触を抱きましたか。
吉田:それがなんだかわからなかったんです(笑)。その言葉とメロディがパッと思い浮かんだときに、“これだ!”という感覚はあったんです。そこから曲を書き進めていく上で、これってどういうことなんだろうと自分の内側を掘り下げながら、少しずつ形作っていくんですけど。なんかずっとわからなくて。これは絶対合ってるんだけど、どうやって説明すればいいのか全然わからないなという状態がずっと続いていたんです。最終的には曲のなかでもそれをあまり説明せずに、最初に感じたパワーみたいなものをそのままの形で増幅しようと今の形になったので。いまだに自分でもわかっていない部分がありますね。
──メンバーのみなさんは最初にこの曲のデモを聴いて、どんなふうにしていきたいかというのはありましたか。
山岸:今回は完成版のデモがあったというよりは、3人で作っていった感じだったんです。そのあとに、山本健太さんにピアノを弾いてもらって仕上がったんですけど。そこで僕ら3人で作り上げたところから、さらにもう一歩大きくなったという気がしていて。デモを聴いたときに、こういう曲になりそうだなという想像から、一歩前にバンドのサウンドが進めたんじゃないかなという印象がありましたね。
──いつも3人でセッションをしながら作ることが多いんですか。
鷲見:最近はとくに、スタジオに篭れる時間がたくさんあるので。吉田が弾き語りで1コーラス分作ったものをスタジオに入る数日前に送ってくるので、あらかじめ聴いた上でその場で合わせてみようということが多かったりしますね。
──この「未来」という曲は形が見えるのが早かった?
鷲見:「未来」はアレンジを進めていく上で壁にぶつかったり、どの道に進んだらいいかわからないということがあまりなかった曲でしたね。メンバーの頭に浮かんだイメージはそう遠くないものだったので、ある程度までは進められたんです。バンドとしてはわりと得意なところというか、自分たちでもズーカラデルらしさは結構感じるよねと思っていたんですけど。そこからもう一歩踏み出してみて、新しいことに挑戦してみようということで鍵盤を入れていただいて。想像以上にかっこいいものを作れたんじゃないかなという気がします。
──この鍵盤がバンドサウンドに馴染んだ、一体化した鍵盤になっていますよね。
吉田:めちゃくちゃいいですね。最初にスタジオでピアノが入ったらいいんじゃないかみたいな話をしたときには、サビでピアノが爆発してたらいいんじゃない? くらいな感じで。爆発とかキラキラしたやつみたいな話ばっかりしていたんです(笑)。それをピアノのレコーディングのときに好き勝手に言ってましたね、めちゃくちゃ楽しかった。
──これまではあまり他の楽器を入れるということはあえてしなかったんですか。
鷲見:バンドの初期の頃から音源には必要な音を入れていこう、というスタンスではあったので管楽器を入れたりもしていたんです。ただ、今回の曲はピアノがあってこそ成立する曲、くらいまでいっているので。メンバーがひとり増えるくらいの役割を担っていただくのは初めてかもしれないですね。
“僕ら”という単語を、すごく自然に使えた
──そうだったんですね。改めて内容についてお伺いしていきます。昨年9月に3rdミニ・アルバム『がらんどう』が出てから今回の「未来」に至るなかでは、コロナ禍の状況など社会的にも大きく動いた時期でもありましたが、そこで芽生える思いや心境で反映されたものはありますか。
吉田:曲を作るにあたっては、いち市民というか、単純に社会、世界がどういう状態にあるかということに常にさらされ続けている人間が曲を書くことになるので。やっぱりそれは反映される部分なのかなとは思っていて。そのなかでもとくにこの「未来」という曲に関しては、今だからこそこの曲をリリースしたいなという気持ちにもなったし。そういった面が強く出た曲かなと思っていますね。
──吉田さんの書く曲の登場人物は、前に進んでいくその一歩がなかなか踏み出せないもどかしさだったり、またそういう人を温かく見守るような目線があります。今回の「未来」では、その一歩を踏み出す軽やかさがあって、新鮮さを感じました。何か突破したなという感じというか。例えば《もう誰にもわからない世界を歩いてゆく》というフレーズだけ取り出すと、そこには未知の怖さもありそうですが、この曲で歌われる“誰にもわからない世界”はワクワクする感じがあるなって感じていて。
吉田:たしかに、まったく手も足も出ないぞっていう状態、ゼロだったものが一瞬0.1とかに変わる瞬間みたいなものが好きなんです。そういう部分を今までたくさん曲にしてきたなというのは自覚としてあって。この曲に関して、おっしゃっていただいた感じがわかるなと思ったのが、“僕ら”という単語をすごく自然に使えたなという気持ちがありました。今まで、僕らっていう言葉を歌詞の中に使うときは、カッコ付きというか、一応僕らとは言っているけど、でもみんなそれぞれバラバラなのがいいよねっていう前提があっての僕らっていう気持ちで書いていたんですけど。今回は結構、言葉どおりの連帯とかじゃないですけど、みんなバラバラだけど、でも同じところってやっぱりあったよねっていうことを、気づきとともに歌詞に書けた気がしています。
──その自然さがあるから、背中を押してもらえるような曲になっているのかなと思います。例えば、不器用でこれまで自分からなかなか踏み出せないとか、臆病さを持っていた人たちも、今のコロナの状況って、世の中が一回リセットされた感があって。みんなスタートライン一緒じゃない? だから大丈夫だよっていう、そういう感じにも受け取れるのがいいなって思うんです。吉田さん自身は「未来」というのは、何か輝かしいものとしてみていた感触ですか。
吉田:未来がとても輝いているとか、とても美しいに決まっているという感覚は正直ないんです。でもだからといって、我々ひとりひとりが生きる未来が真っ暗なのかと言われると、全然そうではないという気がしていて。どちらでもあるというか。そもそも、未来とか過去とかって、わざわざレッテルを貼らなくてもいいものというか……いいことも悪いこともあって、それがただただ回っているよねっていう感じなんです。
──フラットな目線なんですね。
吉田:そうですね。未来は待っていてくれるので、何かあるっていう気持ちは持っています。
──改めて、この曲はそういった歌詞の内容が上がってからみんなでアレンジしていったんですか。
鷲見:基本的にズーカラデル は曲ができ上がった後に最後に歌詞がくるんです。ただ、デモの段階で1行だけ歌詞があるとか、これは絶対に言うというものがあって。デモ時点である言葉からなんとなく、こういうことを言うんだったら、こういう曲調にした方がいいねとかを3人でやっていくんです。暗い歌詞に暗い曲調にしたくないねとか、そういったことを重ねていって演奏自体を作っていって。それを経て、吉田も最初に思い描いていた歌詞がまた変わってくることもきっとあると思うので。今回の「未来」はサビが3回出てくるんですけど、途中の時点では2番のサビまでしかなかったんです。その後、吉田が歌詞を書いていく上で、これはもう一回最後にサビが必要なんだよねって言う話を受けて、じゃあもう一回アレンジし直そうって変わっていきましたね。
──最後にもう一回たたみかけようと。
吉田:個人的に、2番のサビの歌詞がすごくよく書けたなって思っていて。ただ結構ダウナーな内容になっているので、これで終わらせてしまうと「未来」という曲の性質が変わってしまうかもしれないっていうのがありました。だから、2番のサビが終わったところでギターソロが炸裂して、ピアノも合わさって4人のアンサンブルで爆裂して、最後にもう一回サビで爆裂するっていうのが必要だなと思った次第です。
──最後のサビ、《もうひとつも渡さない くらいに思っている》という、この“くらいに思っている”というのがまたいいですね。
吉田:エゴサーチをしていたときにもその、“くらいに思っている”というところに引っ掛かりを感じてくれている方がいて。意外だったんですよね。自分では“もうひとつも渡さないくらいに思っている”ってひとかたまりで書いていたので。そうか、ここに何かあるんだなって。分析はしてないんですけど。
──《もうひとつも渡さない》で終わっていたらすごく強い曲だなって思うんです。ただそのあとの、《くらいに思っている》という言葉があることで、よりフレンドリーになるというか、そうだよねっていう共感ができる気がしています。
吉田:確かにそうかもしれないですね。“もうひとつも渡さない!”って言って曲を終えるやつ、なかなか友だちになりづらそうです(笑)。
鷲見:はははは(笑)。
今回のツアーは5人体制でのステージ。その方が絶対楽しいじゃんっていう気持ちです
──歌詞のなかに自分が投影されている濃度というのは、濃いものですか。
吉田:間違いなく僕がわからないことは書けないので、100パーセントと言えば100パーセントだとは思うし。ただ、曲の主人公が自分かと言われると、別にそういうわけでもなく、100パーセントでもあり0パーセントでもあるんですけど。そういう感じで歌詞と付き合っています。
──主人公は自分ではないけれど、どういうタイプが多いと思いますか。
吉田:まあでも、めちゃくちゃイヤなやつは歌詞になってないなと思いますね。ちょっと世の中でよしとされてないもの、だらしなさとか、めんどくさい人みたいな言い方をされる人もいると思うんですけど、そういう人や物事に対しても、でもイヤなところだけじゃないよねって思えるような部分は、曲にしたいなと思うので。書いた歌詞の中に出てくる主人公たちは、基本的に大悪人はいないんじゃないかなと思ってます。
鷲見:何かしらの壁にぶち当たっていたり、生きていく上で思い通りになってない部分がある人たちだなとは思いますね。だからこそ嘘がないというか。吉田の書く歌詞に出てくる人には、どこか心当たりがあって。それが自分だったり、現実世界にいそうだよなと思うと、こういうやつイヤだなっていう瞬間はあるんですけど、ただそういう人にも何か事情があるんだろうなと、曲を通して感じられる気がしています。
──どこか愛すべき人物になっていますね。そういうことでは「未来」という曲の登場人物は、変化が見えますね。
吉田:確かにこの「未来」の人は、今まで自分が多く描いていた歌詞の中に出てくる人たちが引っかかっていたような問題から、一歩抜けた部分も持っているかもしれないっていうのは思いました。ただ、そういう人ではあっても、結局また次なる問題にきっとぶち当たっているなっていう感じもあるし、どこまでいってもそういうのは続いていくのかなっていうのも、今お話ししていて思いましたね。