私は小林私を観た――今までのライブ感を疑いたくなるユニークな体験

ソールドアウトとなったリキッドルーム弾き語りワンマンライブ。当然ながらコロナ対策でオーディエンスはディスタンス確保＆発声禁止。なんだかそのシンとした感じが、ライブ会場にいるんだけど生配信の始まりを待っているような不思議な気分になって、ものすごく今っぽいなと思った。

ふらりとステージに現れた小林私のまるで自宅の部屋にいるような感じ、そしてそのまま、うまいこと途中まで言おうとするMCでほっこりしたのが良かった。たっぷり時間のあるワンマンライブに来たんだなと思えたからだ。

１曲目は『後付』。インタビューで小林が語っていて印象的だったのは、「たくさんある表現のなかで、今は音楽が自分にとって一番やりやすい形なのかも」という発言。そして音楽の演奏形態として弾き語りというスタイルが、最も淀みなく何かを伝えることができる形なのかもしれない。歌と声と演奏と、すべてがナチュラルな状態で放たれるパフォーマンスを見ながらそう思った。

「ライブが終わった後、誰かと一緒にメシを食わないでください。コロナよりも僕が腹立つんで」

「後ろの席、誰も見えてないぞー！　前の席、誰も見えてないぞー！　これをアリーナでやってみたい。あれって絶対見えてないよね？」

正直すぎるMCを挟みつつ、『飛日』『香日』『恵日』と“日”という言葉がタイトルにつく曲を固めて披露した。もちろん曲のタイプも歌詞の内容も全然異なるのだが、その根底には小林のこんな認識が横たわっている。

「今日考えてることを明日も考えてるかわからない」

若さゆえのニヒリズムという雰囲気を漂わせる一方で、ポジティブにも響く。明日どうなるかわからないじゃんという連続と不連続の間で揺れ続ける面白さこそが真実なのだと。〈時速30kmで　走って　走って〉（『飛日』）

自動車としては鈍速なスピードで、わりと周りの景色なんかもしっかり目視しながら明日へ進んでいく――小林のそうした物事の捉え方が妙にしっくりくるのは、やっぱりコロナ禍という特殊な日々を生きているからだろうか。

ライブで間違えずにやれたのは2回だけという『泪』は、本日も三度ほど中断し歌詞やコードを確認。さらにはまあまあ長めのMCを入れたりするなど全く予測がつかない展開に。

こんなライブは初めてだ。結局『泪』を最後までやり切ったのかどうか、筆者は覚えていない。でも『泪』という曲のことは、この日の脱線した形のまましばらく忘れないだろう。それこそがライブだと言ってしまいたいくらい面白かった。

この流れで、「何かあったら何とかしてくれる曲」というすこぶる便利なポジションを占める『サラダとタコメーター』『花も咲かない束の間に』『悲しみのレモンサワー』を披露した。そしてこの日にギリ間に合った新曲、最後は『生活』でライブを終えた。みんなでひとつにもなれなかったし、何かを出し切りもしなかった。でも、確かに観て、聴いた。その実感だけが生々しく残った。

そう言えば、このライブのタイトルは『一つの例を挙げるなら貝の剥き身の展示かな』だった。すべて観終わった後に、じわじわとこのタイトルが迫ってきた。

Text●谷岡正浩　Photo●かわどう(Tabata Daiki)

■セットリスト／8月18日（水）LIQUIDROOM
1.後付
2.HEALTHY
3.リプレス
4.スープが冷めても
5.飛日
6.香日
7.恵日
8.Two man cell.
9.泪
10.サラダとタコメーター
11.花も咲かない束の間に
12.悲しみのレモンサワー
13.光を投げれば
14.新曲
15.生活

＜ライブ情報＞
小林私ワンマンライブ『一つの例を挙げるなら貝の剥き身の展示かな』
【大阪公演】
日時：2021年9月12日(日)  開場16:00 / 開演17:00
会場：梅田クラブクアトロ
主催：キョードーグループ
https://kyodo-osaka.co.jp/search/detail/3271

<リリース情報>
アコースティックアルバム『包装』
3080円（税込)
規格品番：ERRC-0003／レーベル：easy revenge records
全国タワーレコードにて発売中

＜関連リンク＞
YouTube：https://www.youtube.com/channel/UCFDWRdFhAFyFOlmWMWYy2qQ
Twitter：https://twitter.com/koba_watashi?lang=ja
Instagram：https://www.instagram.com/iambeautifulface/?hl=ja

プロフィール
1998年1月18日東京都あきる野市生まれ。YouTubeを主戦場にマルチな才能を見せる新進気鋭のシンガーソングライター。多摩美術大学在学中より音楽活動をスタートさせ今年3月に油画専攻を卒業。登録者数12万人を超えるYouTubeチャンネルでは強烈なキャラクターでリリシズム溢れるオリジナル曲やカバー曲を配信し人気を博している。6月30日に最新EP「後付」がリリースされた。