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桐谷健太「観る人の心を揺さぶる何かがある」『醉いどれ天使』開幕

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『酔いどれ天使』より、主人公・松永を演じる桐谷健太 撮影:田中亜紀

『醉いどれ天使』が、9月5日に東京・明治座で開幕した。初日公演の様子をレポートする。

戦後の闇市を舞台に、混沌とした時代を生き抜こうともがく人々の姿を鮮やかに活写した映画『醉いどれ天使』。名匠・黒澤明と主演・三船敏郎コンビの初タッグ作(1948年)は、公開されてから約半年後に原作とほぼ同じキャスト・スタッフによって舞台化された。2021年版となる今回は、三船が演じた主人公・松永に桐谷健太がキャスティング。高橋克典、佐々木希、田畑智子、篠田麻里子、高嶋政宏らも名を連ねるほか、脚本を蓬莱竜太、演出を三池崇史が手がける。

劇中では、闇市を支配するヤクザ・松永と、酒好きで毒舌の町医者・真田(高橋)を中心とする壮絶な人間ドラマが展開。松永が激しく咳き込む様子を見た真田は、肺病を疑って治療を勧める。言うことを聞かずに診療所を飛び出した松永の病状は次第に悪化し、情婦のダンサー・奈々江(篠田)は彼のもとを離れていく。同郷の幼なじみ・ぎん(佐々木)や診療所で働く美代(田畑)が松永の身を案じる中で、兄貴分の岡田(高嶋)が出所。松永の采配によって落ち着きを見せていた闇市のパワーバランスに変化が訪れて──。

血気盛んでありながらも戦争から帰還し「故郷やお国のためになれなかった」後ろめたさを抱える松永のやり場のないエネルギーや屈託を、桐谷は全身全霊で体現する。病人の落ちくぼんだ目元を覗かせつつ、持ち前の男くさいギラギラした眼力は健在だ。開幕にあたって「明日も見えない中、必死で今を生きる人たちの姿は、きっと観る人の心を揺さぶる何かがあると信じています」とコメントを寄せる通り、松永の激しい生き様を熱量あふれる演技で形にした。

対する高橋は、人情派の貧乏医師として桐谷に応戦。病に倒れる松永を放っておけず、岡田に捨てられ診療所に担ぎ込まれた美代を住み込みで働かせるなど、包容力あるキャラクター設定にふさわしい大らかな人物造形で作品世界に貢献した。初日を前に「今また別の形で生きるのが困難なある種絶望と圧力の下、三池崇史監督の元、明日への希望を振り絞り、在る命の価値を感じ、演じられたらと思います」と意気込む。

佐々木は華やかなルックスを封じ、粗末な着物姿で足を引きずりながら働くぎん像を健気に立ち上げる。すべてを失った松永に優しく寄り添う姿には母性があふれ、ハードボイルドな劇世界における一服の清涼剤に感じられた。一方、コケティッシュな魅力で松永から岡田に“乗り換える”奈々江役の篠田は、そのドライで非情な一面を低い声音で表現する。鮮やかなダンスナンバーで舞い踊るシーンも。

DVやモラルハラスメントに遭いながらも、岡田への未練を拭えずにいる美代。演じる田畑はモノローグでその想いを繊細に表現するほか、断ち切る瞬間にほとばしる激情で客席を圧倒する。印象的だったのは、松永の前に立ちはだかる岡田の“ヒール”ぶり。ギターをつまびいただけで美代を震え上がらせるほどの存在感を、高嶋はどっしりと重厚に造形した。

堀尾幸男が手がける美術にも注目したい。傾斜のある大きな回転盆の上に、闇市を形成したバラックを思わせる白黒調のセットが並ぶ。シーン展開に合わせて盆が回ると、真田の診療所・ぎんの働く居酒屋・奈々江が踊るダンスホールなどが次々に立ち現れる趣向だ。パンフレットで堀尾が「人々の生活やエネルギーが潜んでいるようにしたい」と語っていた通り、戦後を懸命に生き抜いた人々の息吹を感じて欲しい。

上演時間は約3時間強(休憩含む2幕)。9月20日(月・祝)まで行われる東京公演のあと、10月1日(金)~11日(月)に大阪・新歌舞伎座と巡演する。チケット販売中。

取材・文:岡山朋代 撮影:田中亜紀

※高嶋政宏の「高」の正式表記は“はしごだか”。

『酔いどれ天使』チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2174143

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