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映画館みんなで参加できる『映画 おかあさんといっしょ』に込められた真摯なメッセージとは? プロデューサーが語る

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『映画 おかあさんといっしょ ヘンテコ世界からの脱出!』

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子どもたちに大人気の『映画 おかあさんといっしょ ヘンテコ世界からの脱出!』が9月10日(金)から公開になる。本作は、お兄さん、お姉さんと共に冒険を楽しめるだけでなく、応援して、体操して、一緒に遊べる“参加型”映画になっているが、その奥底には作り手の真摯な姿勢や試行錯誤、現代の観客に向けたメッセージがつまっている。子どもたちと一緒に楽しめて、さらに深く考えることもできる映画はどのようにして生まれたのか? 本作のプロデューサーを務めた古屋光昭氏に話を聞いた。

古屋氏はNHK入局以来、幼児番組を中心に担当し、『おかあさんといっしょ』だけでなく『ピタゴラスイッチ』や『みんなのうた』など数多くの番組に関わってきた。『おかあさんといっしょ』はすでに半世紀以上の歴史を誇っているのだが映画版が登場したのは2018年で、本作が3作目になる。

「『おかあさんといっしょ』はNHKの番組の中でも最も多方面に展開している番組ではないかと思います。通常の番組だけでなく、CDやDVD、グッズ、リアルなコンサートやイベントもあります。リアルなコンサートやイベントですと、その場所に行かないと参加できないので会場まで遠くて足を運べない方もいると思うのですが、映画館ですと比較的ちかくにあるのではないか? それが映画のはじまりでした。

最初の映画は僕たちも手探りだった部分があったのですが、2作目からは作り方を根本から変えて、“映画館で参加型の映画をやるならば、何ができるの?”ということから考えていきました。さらに映画ではあるんですけど、スクリーンから観客に語りかけるスタイルを全面に取り入れました」

古屋氏が語る通り、『映画 おかあさんといっしょ』ではお兄さん、お姉さんたちがスクリーンから客席の子どもたちに呼びかけ、手を振り、観客もそれに応じたり、参加することで映画が進んでいく。

「テレビもそのスタイルでやっていて、“みんな元気?”って語りかけるんですね。通常の映画ではありえないのかもしれないですけど、子どもたちを惹きつけるには自分たちがこれまでやってきたことをやった方がいいよね、という話になり、現在では“どうすれば映画館で観客に参加してもらえるか?”を考えるところから発想しています」

『映画 おかあさんといっしょ』の上映館に足を運ぶとわかるが、子どもたちはスクリーンからの呼びかけに手を振り、一緒にゲームに参加し、そこで起こる出来事がまるで目の前で起こったかのように反応する。もしかしたら、映画というのものが初めて人前で上映された時、観客もこうして反応したのかもしれない。そう、本シリーズには映画の原初的な喜びがあるのだ。

「それは意図的にやっていることです。僕は映画は“見せ物”だと思っていて、その原点に戻ろうとしている部分があります。現在では『ドラマ的な劇映画が映画だ』ってことに慣れきっていますけど、昔はスクリーンに走ってくる機関車が映ると観客はみんなビックリして逃げたわけで(笑)、スクリーンに向かって声をあげたり、話しかけたりしていたと思うんです。

それにふと『大人も映画館で“参加型”ってやってるな』とも思ったんですね。応援上映があったり、一緒に歌う上映があったり、少し前になりますけど『ロッキー・ホラー・ショー』みたいに観客が一緒に盛り上がったり。そう考えると、映画館で参加型をやってはいけない理由はない。だからスクリーンの側から語りかけて、一緒に参加してもらうスタイルの中で、映画の原初的なものに戻っていくことを意識してやっています」

同時にそれは作り手たちが“子どもたちは呼びかけるときっと応じてくれる”と信じている、ということでもある。

「正直に言えば、最初の映画で子どもたちを入れた試写会をやるまでは少し怖かったです(笑)。本当にみんな応えてくれるだろうか?と少し不安ではありましたけど、子どもたちが反応してくれているのを一度目にしてからは、子どもたちはこちらからの呼びかけに反応してくれるという信頼のもとにつくるようになりました。

テレビ番組の収録は、放送されているのとほぼ同じような時間の流れの中でやっているんですけど、収録が終わった時に、ある子どもが『次の番組が始まらないね』って言ったんですよ(笑)。つまり、子どもの認識では実際の収録とテレビで映っているものの区別はあまり厳密ではなくて、『おかあさんといっしょ』で最後に風船が落ちて番組が終わったら、次は別の番組が始まると思っている子どももいるわけです。だから、子どもたちにはリアルに今行われている呼びかけと、映像で収録した呼びかけの区別はあまりないし、こちらが変な理屈を考える必要はないんだと思うようになりました」

今年はコロナ渦で劇場で声が出せないため、制作陣は安心して楽しめるように“声を出さず”に“自分の席で”映画に参加できる作品を作り上げた。さらに古屋氏は「最初に企画を立てた時から“コロナのことは避けて通らない”と決めていた」と振り返る。その結果、本作ではいつも仲良しなお兄さんとお姉さんが、ちょっとした勘違いからケンカしてしまい、さらにバラバラになって、いろいろなヘンテコ世界に飛ばされてしまう物語が描かれる。いつも一緒のお兄さん、お姉さんはそれぞれが少しヘンテコな世界にたったひとりで立ち向かうのだ。

現実とは少し違うヘンテコな世界、一緒にいることができずにバラバラに引き離されてしまった状況……それは現実の世界を反映しているのかもしれない。

「僕は30年ぐらい番組に関わっているのですが、最初は幼児番組は現実とはちょっと違う世界にあるものだと思っていたんですよ。どちらかとファンタジーのような世界で、そういうものが幼児番組だと思っていました。その考えが変わったのは、東日本大震災です。震災であのような状況になった時に、『番組が現実に対して何も手を打たないのは違うのではないか?』と思うようになって、被災地に行って応援するロケをしたりしました。あと、この10年で子育てが非常に大変なものになってきていて、番組をリアルな“子育ての伴走者”だと捉えてくださる方の声が多く届くようになったんです。そうなると、これまでよりも少し具体的に現実の問題にタッチしてもいいのではないかと思うようになってきました。

だから、今回の映画でいうと最初に企画を立てた時から“コロナのことは避けて通らない”と決めていました。公開時期を考えると、コロナがまだ続いているか、ある程度おさまったぐらいの状況だろうと。その時にコロナとはまったく関係のないバラ色の世界を描くのか?と考えたら、それは違うと思ったんです。だから"コロナ禍をどう描くのか?”がこの映画のテーマのひとつで、そこで出てきたのが“ヘンテコ世界”です。ある種、コロナ禍の象徴だと捉えられるのかもしれない。3年前の状況と比べたら、いまは少し変な世界なんですよね。だから、“ヘンテコ世界”で起こる変な体験だったり、ヘンテコなものをどのように解決していくのか? それを描くことで、今の世の中に対するメッセージだったり、励ましであったり、共感が生まれるのではないかと思ったのです」

もちろん、本作は楽しい場面がたくさんあり、メッセージがお説教のように描かれたり、シリアスな展開として描かれることはない。しかし、劇中で歌のお姉さんは“色がなくなってしまったヘンテコな世界”に迷い込んでしまい、自分はなぜ歌っているのか、自分はみんなの役に立っているのか迷ってしまう。ここにも子どもたちや時代と真摯に向き合おうとする制作陣の想いが感じられる。

「誰かがアイデンティティを喪失する展開は、企画の初期の段階から考えていましたし、コロナ禍で起こった一番のヘンテコポイントだろうと思っていました。コロナ禍の状況で自信を喪失したり、自分の居場所を失ってしまったり、迷ったりすることは現実にもあると思うんですね。たとえば孤立してしまった親御さんが“子育ての意味って何?”とか“私は社会の役に立っているの?”と思うことがあるかもしれない。そんな状況を登場人物の迷いから感じてもらえるんじゃないかと思いました。そして、迷った時に支えになるのは、相手からの温かい気持ちだったり、自分で自分の存在価値を見つめ直すことなのかもしれない……そんなことを感じてくださる方がいれば嬉しいです」 

スクリーンの中のドラマにワクワクし、一緒にゲームに参加し、記念撮影もできる“参加型”映画でありながら、大人がじっくり観ると現代の観客に向けたメッセージや想いが感じられる本作。子どもたちに付き添って出かけた大人たちは予想外の感動や体験に出会えるはずだ。

「とは言え、この映画は“道徳の教科書”ではないので、いかに説教くさくなく物語の中に取り込むことができるのか、みんなでアイデアを出し合って、試行錯誤しました。いろいろとかたちを変えていって、最終的にこの映画になったということですね」

『映画 おかあさんといっしょ ヘンテコ世界からの脱出!』
9月10日(金)公開

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