高畑充希&大久保佳代子、初共演の『浜の朝日の嘘つきどもと』で見せた絶妙な距離感
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高畑充希&大久保佳代子 撮影:川野結李歌
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すべて見る『百万円と苦虫女』や『ロマンスドール』など、多くの話題作を手がけるタナダユキ監督による映画『浜の朝日の嘘つきどもと』。福島県・南相馬を舞台に、主人公の茂木莉子(本名:浜野あさひ)が恩師である田中茉莉子との約束を果たすべく、実在する映画館“朝日座”再建のために奮闘する姿を描いた本作で、あさひを演じる高畑充希と茉莉子先生を演じる大久保佳代子は初の共演となった。 撮影から1年近く経っていたものの、取材時のふたりはあさひと茉莉子先生そのもの。押しつけがましい親しさではなく、適度な距離を保ちつつ、あたたかみを含んだ親しさが心地良い。そんなふたりに互いの印象をはじめ、映画館での思い出についてなど、たっぷりと語ってもらった。
“ベストオブ大久保佳代子”が詰まった茉莉子先生というキャラクター
──あさひと茉莉子先生の関係性をはじめ、あたたかい視点で人とのつながりが描かれていた本作。おふたりともタナダユキ監督とのお仕事は初めてとのことですが、現場で感じた監督の印象は?
高畑 俳優陣を安心させてくださる方なので、私たちもゆったりと、自由に演じることができました。私はこれまで女性の監督とのお仕事ってほとんどなかったので、「女性が監督ってこんな感じなんだ」と思いましたし……タナダさんがとても美人なので、毎日撮影現場を仕切っている姿を見るのが眼福というか(笑)。
大久保 (頷きながら)たしかに。
高畑 「可愛いな」と思いながら見ていました(笑)。一方で、監督業に関してはとてもカッコイイんですよね。「一応これも撮っておこう」っていうのが全然なくて、判断がとにかく早い。もう「先輩、ついて行きます!」って感じでした。
大久保 本当に決断が早かったですね。自転車に乗った茉莉子先生が振り返って笑顔を見せるシーンは何回も撮った記憶がありますが……監督が特にこだわっていたシーンだったんでしょうね。それ以外はテンポよく撮ってくださいました。「今の良かったです」って言ってもらえると「嬉しい! 監督に良いと思ってもらえるように、次も頑張ろう」と自然と思えるような、モチベーションを上げてくださる監督でした。
──高畑さんが演じるあさひを、大久保さんはどのように感じましたか?
大久保 茉莉子先生はダメな男の面倒も見ちゃうような人なので、最初はたぶん、行き場所がなくなって自分のもとを訪ねてきた昔の教え子(=あさひ)のことを「この子、なんだか危うげで放っておけないな」と思ったんでしょうね。そうして一緒の時間を過ごすうちに、“教え子と先生”だけじゃなく、友達でもあり、一緒にいてほしい大切な存在になっていったんだなあと……演じながら思っていました。
──あさひを演じる高畑さんについては、どう感じましたか?
大久保 初対面で最初に撮ったのが(本編映像として公開もされた)ドライブのシーンだったので、最初は「うわ、高畑充希が後部座席に座ってる!」と思いましたが……(笑)。
高畑 ははは! そうだったんだ(笑)。
大久保 何度もそのシーンを撮っているうちに、「あ、この子はあさひちゃんだ」と思えるような瞬間がありました。その後、他のシーンも一緒に撮っていく中で、充希さんの佇まいが……役者さんではなくて、心が不安定に揺れているあさひちゃんそのものだったんですよね。だからこそ、私も茉莉子先生として気持ちを自然と乗せることができた感じがします。
──大久保さんが演じる茉莉子先生を、高畑さんはどのように感じましたか?
高畑 あさひと茉莉子先生の関係性で面白いなと思うのが、居候していた茉莉子先生の家から出た後、あさひは茉莉子先生とほとんど会っていなかったと思うんです。それから何年も経って、先生の病気を知って戻ってきましたが……空白の時間があっても、その空白を感じない空気なんですよね。そういう距離感ってすごく心地良くて。私も仲の良い親友とはそんな距離感だなと思うと、最初に出会ったときは教師でしかなかった茉莉子先生が、どんどん親友みたいな距離感になっていったんだろうなと想像できました。あさひの人生において、とても大事な部分を占める人だったんだろうなと思います。
──そういった茉莉子先生を演じる大久保さんについて、感じることはありましたか?
高畑 最初から、茉莉子先生と大久保さんの持つ魅力がとても近いところにある感じがしていて……配役を聞いたときも「ピッタリだろうな」と思っていました。
大久保 あ~、嬉しい。
高畑 普段から俳優業をたくさんされているわけではないので、俳優とは違ったベクトルで“役を演じる”ことに向き合っていらっしゃったんじゃないかなと思います。俳優はいろんな役を演じますから、“役に寄っていく・役に歩み寄る”こともあるかと思うんですが、今回は役を大久保さんにぎゅっと寄せて、茉莉子先生をより鮮やかにしていらしたような印象だったので……“ベストオブ大久保さん”だと私は思っています(笑)。
大久保 ふふ(笑)。大久保のベストが出たみたいです。
高畑 そうですね(笑)。大久保さんの可愛さが、茉莉子先生というフィルターを通して爆発していると思います。
──大久保さんご自身としては、役を引き寄せたのか、役に寄っていったのか、自覚はありますか?
大久保 ん~……どうでしょう? セリフを覚えて、そこに感情をなんとか乗っけるだけで精一杯な日々でしたから、正直なところ、引き寄せるとか歩み寄るとかって意識する余裕はなくて。でも、充希さんがそう感じてくださったのはきっと、本当に良い役をいただいて、良い環境と、充希さんのような良い相手役がいたからなんじゃないかなと思います。でも、自分としては……いまだに自分の芝居を観て「スカしてないか?」って思っちゃうんですよね(笑)。
高畑 スカしてないですよ!(笑)
大久保 もっと分かりやすく芝居すればいいのに、なんかツンとしちゃって、「スカしてんな、コイツ」と思ったりもするんですが(笑)、とにかく「みなさんに迷惑をかけないように」といっぱいいっぱいだったので、そうやって言っていただけるのはひとえに周りのみなさんのおかげだと思います。
「今作るべき映画」にこれからも出会っていきたい
──あさひが高校時代に茉莉子先生と会って人生が大きく動いていったように、10代の頃に大きな影響を受けた出会いはありますか?
高畑 私は15歳から21歳まで、毎年ミュージカル『ピーターパン』に主演して……そのときは必死でやっていましたが、あらためて振り返ると、いろんなものを得た大きな出会いだったと思います。かなりハードな現場でしたが、学ぶことも多く、いろんな大人にも出会えて、舞台やエンタメって楽しいなとも思えました。今も自分の基盤には『ピーターパン』がずっとあって、「あの時代があったから、今があるんだな」と実感します。
大久保 私はやっぱり、相方の光浦(靖子)さんとの出会いかなあ。同じ地域に生まれ、小学校から高校まで同じ学校に通って、光浦さんに誘われてお笑いサークルに入り、今の事務所のオーディションを受けに行き……気づいたら私はこうなっていて、光浦さんはカナダにいるという(笑)。
高畑 え!? 今カナダにいるんですか!?
大久保 うん。カナダに語学留学してるの。
高畑 羨ましい~!
大久保 羨ましいよねえ(笑)。だから、光浦さんともし同じ時期に同じ地域に生まれていなかったら、こんなことには……「こんなことには」って言っちゃうとアレですけど(笑)。
高畑 ははは! マイナスみたいですよね(笑)。
大久保 ふふ(笑)。この世界に入るときも、どちらかというと「光浦さんに誘われたから」みたいな感じだったので、やっぱり私の人生の中で一番大きな出会いだったと思います。
──作中に出てくる朝日座は、今も地元の方たちに大切にされているとのこと。おふたりは、映画館の原風景として思い浮かべるものはありますか?
大久保 私は渥美半島(愛知県)のちっちゃい街で生まれ育っているので、近くに映画館がなかったんです。だから、映画を観るとなったら必ず親がひとりついて、友達4、5人で隣の豊橋市にある映画館まで観に行ってたんですね。映画を観た後に甘味処であんみつを食べて……私たちにとって、映画を観に行くことって本当に“一大イベント”だったんです。だから、いまだにちょっと映画館って特別な感じがするんですよね。
──どんな作品を観ていたのでしょうか?
大久保 『生徒諸君!』や『ビー・バップ・ハイスクール』を観ていましたね。強烈に覚えているのが、伊丹十三監督の『お葬式』。これはね、とんでもない濡れ場があって(笑)。
高畑 気まずいですね(笑)。
大久保 大スクリーンであんな濡れ場を子供が見るのはダメだろうって(笑)。でも、私の中でその思い出がすごく残っていて……いい感じのエロスをいただきました(笑)。
高畑 私は隣町の商店街に映画館があったので、たまに行ってましたね。『名探偵コナン』とか『デスノート』を観た覚えがあります。
大久保 子供らしい(笑)。
高畑 エロスはいただかなかったですねえ、さすがに(笑)。そもそも、映画よりも舞台をよく観に行く家庭だったので、映画館って特別な存在だったような気がします。だから今、小学生のときに行っていた映画館で自分が出演している映画が上映されるようになったのは感慨深いですよね。
──最近では、どんなときに「映画館で映画を観たいな」と思うことが多いですか?
大久保 周りが話題にしたときについていけるように、「面白い」と評判のものや、話題作はできる範囲で観ておこうと思っています。あとは、時間が空いて「やることがひとつもないな」と思ったとき。「当たりだったらいいな」ぐらいの気持ちで観に行きます。先日も午前中に仕事が終わって「このまま帰るのはちょっと寂しいな」と思って、『孤狼の血 LEVEL2』を観ました。これがまた、かなりエグい映画で(笑)。
高畑 観たいなあ~! (鈴木)亮平さんが怖いんですよね?
大久保 (大きな声で)怖い! 「この人マジか!?」って感じでしたが、それはそれで刺激をいただきました(笑)。
高畑 私は気持ちに余裕があるときに観に行くかなあ? あと、ちょっとナルシスティックな気持ちのとき(笑)。映画はひとりで観に行くタイプなんですが、他のことを何も考えられないくらい映画の世界にどっぷり浸かって、歩いて帰るのがすごく好きなんです。「今日は自分の感性に触れることをしたな~」って。そう思いたい日に観に行きます(笑)。
大久保 分かる!
高畑 分かります? 「映画を観た私って……」みたいな(笑)、ナルシストっぽい感じ。
大久保 文化的な価値をいただいて、自分がちょっとレベルアップしたような感じね。
高畑 そう! 心に余裕があって、カルチャー感が芽生える日に観ます(笑)。
──あらためて、本作を通して得たものとは何だったでしょうか?
高畑 これまでは勘というか、自分のセンサーに従って「面白そう!」と思った作品に参加することが多かったんですが……今回ももちろん「面白そう」と思いましたが、それと同時に「コロナ禍の今だからこそ、作るべき映画なんだろうな」と強く思ったんです。そういった感覚で作品に参加したことがなかったので、新しい視点を持てたような気がします。自分が「やりたい」と思うことだけじゃなく、「観てくださった方たちが、どう受け取ってくれるだろう?」という気持ちが加わって、目線が広がったような感じがしていて。今後も「今作ることに意味があるんだよね」っていう映画に参加できたらいいなと思いました。
大久保 今回は私史上、最も大きな比重で参加させてもらった映画でした。これまでは数シーンのみ出演することが多かったので、現場にそこまで長くいた感じではなかったんですが、今回は最初から最後までストーリーに関わる役として、かなりの時間を現場で過ごして……当たり前のことですが、監督や充希さんをはじめ、プロの方たちが一生懸命真面目に取り組んでいらっしゃるんだなと知れたのは大きかったと思います。
撮るのに時間がかかって大変ですが、すごく面白いし、そうやって作られている映画をより多くの人たちに観ていただけたらいいなと思いますね。そして、これを機に年に一度くらいは、茉莉子先生みたいな良い感じの役ができたら最高だなって……企んでいます。あわよくば(笑)。
高畑 ははは! あわよくば(笑)。
取材・文:とみたまい 撮影:川野結李歌
『浜の朝日の嘘つきどもと』
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(C)2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会
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