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復帰作は最強タッグで、ブランニューオペレッタ『Cape jasmine』根本宗子×チャラン・ポ・ランタン小春インタビュー

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左から小春(チャラン・ポ・ランタン)、根本宗子  撮影:石阪大輔

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東京・本多劇場から無観客オンライン生配信された『もっとも大いなる愛へ』を最後に、1年ほど演劇活動を休止していた根本宗子が帰って来る──。復帰作となるブランニューオペレッタ『Cape jasmine(ケープ・ジャスミン)』では作・演出・企画を務め、自らもキャスティングした。「ミュージカルとライブの間を目指す」という根本を支えるのは、音楽を手がけるチャラン・ポ・ランタンの小春。今回で7本目のタッグとなる二人の構想に耳を傾けた。

「この演出家×音楽家タッグは絶対」の相棒として出会った小春ちゃん

──お二人が初めてタッグを組んだのは、月刊「根本宗子」の本公演『愛犬ポリーの死、そして家族の話』(2018年)でしたよね。

根本 そうですね、『愛犬ポリー』に始まって、『クラッシャー女中』『墓場、女子高生』『超、Maria』の音楽を担当していただいて、劇場作品は今回で5作目になりますかね。

小春 オンライン配信した、超、リモートねもしゅー『あの子と旅行行きたくない。』とSNSミュージカル『20歳の花』も含めると……これで7作目か。BOX出せるじゃない!

──もはや“盟友”ともいえるお二人ですが、どんなきっかけで仲を深めていかれたのでしょうか?

根本 幼少期の時に好きだった音楽がまったく同じだったんです。シルク・ドゥ・ソレイユ『アレグリア』で印象的だった「ジュー・ダンファン」って楽曲なんですけど。あれはミラクルだったよね!

小春 LINE通話の呼び出し音を「ジュー・ダンファン」にしていたんですよ。それに根本さんがめざとく反応して。私にとっては、アコーディオンとの出会いになった一曲です。

根本 あれ聴いて、私は学校の音楽室にあるアコーディオンを一度だけ触って満足してしまったんですけどね。同じ音楽に影響を受けて小春ちゃんは奏者にまでなったのに……こうも違うのか、と(苦笑)

小春 いやいやいやいや!

根本 はじめは、小春ちゃんがうちの芝居を観に来てくれて。そのあと、お茶しに行った時に「根本さんの芝居はセリフがいっぱいあるから、曲を入れたらもっといろんなことができるよ」「私、つくろっか?」って言ってくれたんです。

小春 だいぶオブラートに包んでくれてますけど、要約すると「小春がつくった方がもっといい作品になるよ」みたいなことを言った気がする。

根本 それでCDをたくさんくれたんだよ!

小春 「なんか音楽入れた方がいいと思う」「私がやる」って。根本さんにしてみれば「あんた何様?」みたいなプロモーションの仕方だったよね(苦笑)

根本 「次回作はどこの誰が音楽やるの?」「じゃあその次は?」「いつ打ち合わせる?」ってね。

──売り込みの圧が強い(笑)

根本 そこから何年か頼んでないから、たぶん怯えてたんじゃないかと思う(苦笑)

小春 (爆笑)

──怯えから一転して『愛犬ポリー』でご一緒したのは?

根本 もともと私、チャラン・ポ・ランタンの音楽のファンだったんですよね。それにオリジナルの楽曲を舞台につくっていただけるって、演出家にとってむちゃくちゃ貴重な機会ですし。

──いざ小春さんと共同作業してみて、いかがでした?

根本 演劇に音楽をつけるのって、なかなか難しい特殊な作業だと思うんですね。でも小春ちゃんは台本の理解が的確というか、演劇偏差値がめちゃくちゃ高い気がします。自分の作品と合っている、ってことなのかもしれないですけど……とにかくイメージが共有しやすかった。

小春 それは嬉しいな。

根本 憧れている先輩の演出家にも「この人にはこの人」っていう音楽家が皆さんいらっしゃって。いろんな方とコラボレーションするけど、やっぱり「この演出家×音楽家タッグは絶対だよね」ってお二人がいて、例えば松尾スズキさんと伊藤ヨタロウさん、みたいな。で、私もいつかそんな音楽家と知り合えたら……と思っている中で出会ったのが、小春ちゃんでした。いま隣にいるから恥ずかしいですけど。

小春 ありがたいけどさ、そう言われたのに突然そのポジションを別の人にチェンジしないでよ?

根本 絶対にないと思うよ。だって7本もやってんだから!(笑)

登場人物のミニマムな感情を、音楽に助けてもらって大劇場でも

──先ほど根本さんから「演劇偏差値が高い」とコメントがありましたが、小春さんは舞台をよくご覧になるんですか?

小春 胸を張って「観てます」と言えるほどではないですが、ミュージカルとか歌唱の入っている演劇作品は好きでよく劇場へ足を運んでいますね。演劇偏差値は正直、自覚ないかも……拝見した作品に対して「あの曲違うアレンジだったらもっとよかったんじゃないか」と感じることはありますけど。

小春(チャラン・ポ・ランタン)

──根本さんの作品をご覧になった時にも、同じようにインスピレーションを掻き立てられた?

小春 すごく失礼だし、おこがましい話ですが……「違うよな」「もっといい流れあっただろ」みたいな感じで観ちゃったんですよね。あ〜ダメだね、よくいるダメ出しするファンみたい!(頭を抱える)

根本 あはは(爆笑)! それってさ、「音楽にした方がいいのに」ってことだよね?「このシーンは曲にした方がより観客に伝わるのに、なんでセリフでやってんの?」とか「音楽つけるにしても、これよりもっといいのがあったんじゃない?」とかポジティブな提案でしょ?

小春 それ!

根本 ミュージカルの場合、海外で生まれたものを日本に持ってきた作品が圧倒的に多いもんね。歌詞も英語を日本語にしているから音符と言葉数が合わないし……とか、いわゆるグランドミュージカルに対して感じる歯がゆさが私の中にもあって。小春ちゃんに話してみたら、「ん?」って違和感を覚える部分が似ていたんです。それもあって今回の企画を一緒にやってみたくて。

──だから、舞台設定が上演するはずだった新作ミュージカルの製作発表記者会見なんですね。

根本 公演PRとして記者会見の壇上でキャストがハンドマイクで歌唱するじゃないですか。あの時間をお芝居にしちゃえばいいじゃん、と考えました。演出家不在で公演中止になっても、メディアが集まっている以上は製作発表しなければいけない。取り残されたキャストは自分たちが出演するはずだったミュージカルナンバーを歌うんですが、楽曲の内容と会見の状況がだんだんシンクロしていくような構造がつくれたらおもしろいのかな、と。

──序盤の台本を拝読したところ、会見に登壇する女優6人のキャラクターがのっけから強烈でほくそ笑んでしまいました。

小春 根本さんの作品に登場するキャラって身近に感じますよね。「学生の頃クラスにこんな奴いたわ」みたいな既視感あるあるにあふれていて、お客さんも劇中の誰かに自分を重ねやすいんじゃないでしょうか。それが今回も炸裂してるよね。女子の世界によくある、みんな仲いいわけじゃない微妙な距離感や関係性を描いている。

根本 仲良くもなけりゃ「初めまして」の人とたった1ヵ月でひとつの作品を完成させる演劇って、よく考えたらけっこう特殊なことしてるよな……と休んでいる1年で感じまして。数十人も集まれば、ウマの合わない人が隣にいるなんて当たり前じゃないですか。でもみんな大人だから一緒にやっていきますけど……我は強いですよね、こんな仕事を選んでいるわけだから。その様子を悪い感じに書くんじゃなくて、キツめなくらいデフォルメしてコント化したって感じです。

小春 舞台の現場は1ヵ月で終わるからいいけど、会社だったら合わない上司や同僚と数年間働かなきゃいけないとかザラなんでしょ? だから観客は自分と重なると思うよ、この作品で描かれることに。

──そのいわば“コント”に込めた根本さんの想いって?

根本宗子

根本 今は何よりも新型コロナがいちばん大変だから、それに満たないとされてしまう「今日キツかったわ」みたいな想いってあんまり表に出せません。でもそれって当事者にしてみれば、コロナがあろうとなかろうと変わらずしんどいはず。っていう、すごくミニマムな登場人物の感情を私はずっと書いてきたよな……とお休みしている期間に改めて感じました。そういうことを劇場が大きくなっても書き続けたいと思った時に、お芝居だけじゃどうしても伝わらないんですよね。でも小春ちゃんが隣にいて、曲をつけてくれることによって大きく届けることができる。小春ちゃんの音楽に助けてもらいながら伝えていきたいです。

小春ちゃんと私が合わさると「オペレッタ」

──小春さんの音楽を「ミュージカルと言ってしまうとしっくり来ない」「でも“オペレッタ”なら」とおっしゃっていましたよね。ファーストサマーウイカさんの『ANN0(オールナイトニッポンゼロ)』に、根本さんがゲスト出演した回で。

根本 小春ちゃんの音楽が、というより「小春ちゃんと私が合わさるとオペレッタ」って感じなんですよね。“ミュージカル”といわれたら帝国劇場で上演されているような2幕ものを連想しますけど、私たちが今回やるのはそういう類の作品ではないし。他には“音楽劇”って言い方も考えられるけど、言葉としてあんまり好きじゃなくて。

小春 じゃあ、なんでオペレッタだったの?

根本 私はどちらかというと喜劇を書く作家で、小春ちゃんが普段つくる音楽も物語性に富んだものが多い。その二人が一緒にやるなら「喜歌劇」って意味の“オペレッタ”かな、と。日本人はオペレッタにそれほど馴染みがないだろうから「先んじて言っとけ」みたいなところもあります(笑)

──本作の稽古期間は2週間ほど、ですよね。限られた時間での試みとして「ユニゾン曲は少なめ」「一人1曲ずつメインで歌うソロナンバーがある」とお聞きしています。どのように楽曲制作されているのでしょうか?

根本 いつも細かい打ち合わせはしないんですよ。台本の中に「音楽メモ」を書き入れる程度で。(小春に)そのあと、ちょっと喋ってるか。

小春 そうだね、だいだいあのメモをもとにつくってる。でも今日、数曲提出する予定が……ゼロだわ。

根本 いや違うの、小春ちゃんがゼロの時って私のメモがわかりづらいんだよ。もう少し一人ひとりのキャラが粒立っている方が描きやすいのかな、とか。小春ちゃん、いつも曲書くのめちゃめちゃ早いもん。

小春 今回はやばい!

根本 あとさ、台本ベースに楽曲を完成させるのって実は今回が初めてじゃん? これまで稽古の様子を実際に見ながら曲つくってもらってたから。

小春 前は「今週のテストです」ばりに、稽古場へ行くたびにつくってたよね。「お、新しいシーンできたなら書くぞ!」って腕まくりして。

根本 稽古場の隅でアコーディオン弾いて「できた!」ってね。

──でも今回は稽古を見ておらず、ヒントが台本とメモのみだからイメージが湧きづらい?

小春 正直なところ、歌い手のキャストさんにお会いすればつくれるんですけどね。地声をお聞きして「あ、この方なら低い音も行けそうだな」みたいな感じで。でも根本さんと妹(本作に出演するチャラン・ポ・ランタンもも)以外、テレビでお顔を見たことがある程度だからなぁ。

──歌唱シーンのあるキャストにはアイドルの横山由依さん(AKB48)、中山莉子さん(私立恵比寿中学)に、芸人の江上敬子さん(ニッチェ)、ラッパーのあっこゴリラさんとバラエティ豊かな顔ぶれが揃いました。

小春 お会いしたことのない方の歌唱力は未知数なんですよね。YouTubeで配信されていた「歌ってみた」動画を覗かせてもらった方もいるけど、基本「まだわからん」と思いながらつくっているので探り探りです。

根本 あとさ、『Cape jasmine』じゃなくて「登場人物が本来出演するはずだったミュージカル」に曲をつけるって複雑さもあるよね。何ページか渡したあと、小春ちゃんに会ったら「やるはずだったミュージカルのプロットもらわなきゃつくれないわ」って言われて、そりゃそうだと思ったもん(笑)

「あの歌もう聴けないんだ」と後悔させるくらい、耳と心に残るメロディを

──根本作品の音楽を手がける時は、小春さんが歌詞を書いているそうですね。

小春 作家が歌詞を書くとね……伝えたい重要テーマをどうしてもいっぱい入れちゃうから。

根本 そうそう、言いすぎるのよ。

小春 フォークソングみたくなっちゃうんだよね。私がこれまで観てきたわずかな作品内での比較で恐縮なんだけど、根本さんってセリフの詰め込み方がハンパないし、かなり言葉数を多く使って表現する作家さんだと思うんですよ。そういう作品の中で用いられる音楽の歌詞は、逆に少ない方が効果的なんじゃないかな。

根本 一般的なミュージカルってセリフは少ない一方で、曲が始まったら「めちゃくちゃ状況説明するじゃん」みたいなナンバーありますよね。そういう楽曲とも一線を画したい。

小春 歌詞の少ないミュージカルナンバーってあんまり見当たらないよね。だからお芝居でストーリーはきっちり進めておきながら、歌は観客によって聞こえ方が異なるくらい余白があった方がおもしろいんじゃないかと思っているんです。

──では、今回は何を心がけながら楽曲をつくっていこうと考えていらっしゃいますか?

 

小春 舞台の細かい部分を忘れてしまっても、歌だけ覚えてくれていたら作品全体を思い出してもらえるくらい耳に残るメロディにしたいですね。これまた個人的なエピソードで恐縮なんですが、小学生の時に観たミュージカルの歌が忘れられなくて。作品名、何だっけなぁ。

根本 『森は生きている』でしょ?

小春 それ! タイトルすら思い出せないのに、歌は大人になった今でもめちゃめちゃ覚えていて。

根本 生まれて初めて観たミュージカルが『森は生きている』だったのも、小春ちゃんとの共通項だわ。

小春 子どもの頃、一度しか観ていない舞台の歌を大人になっても覚えているってけっこう衝撃ですよ。でもそういうのいいな、って。キャストの細かい演技なんて正直忘れちゃってるけど、メロディを思い浮かべたらまた『森は生きている』を観たくなるの。だから今回も、耳と心に残る楽曲にできたらいいですね。再演が決まっていない分、一度ご覧になった方に「あの歌もう聞けないんだな」って後悔させるくらい。

取材・文:岡山朋代 撮影:石阪大輔



ブランニューオペレッタ『Cape jasmine』
2021年10月6日(水)〜10月7日(木)
会場:日本青年館ホール

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2178021

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