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女性キャストのみで魅せる『ジュリアス・シーザー』森新太郎×吉田羊インタビュー

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吉田羊・森新太郎  撮影:川野結李歌

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ウィリアム・シェイクスピアの政治闘争劇を、女性キャストのみで立ち上げることが話題を集めているパルコ・プロデュース2021『ジュリアス・シーザー』。高潔な魂を持つブルータスが、友人であり古代ローマの礎を築いた英雄シーザーを殺害するまでの苦悩や葛藤、そして事後の悲劇が描かれる。本作の演出を務める森新太郎と主人公ブルータスを演じる吉田羊に、稽古前の心境を尋ねた。

思いの丈を叫び尽くす、吉田羊の新境地を見せたい

──吉田さんは初めてシェイクスピア作品に出演されますね。

吉田 実はシェイクスピア自体に苦手意識があって敬遠してきたものですから、一生縁がないと思っていたんです。でも来年芸歴25周年を迎える節目のタイミングで、あちらの方からやって来てくださったということは……「原点に帰りなさい」という演劇の神様からのメッセージかな、と思って挑戦することにしました。

──なぜシェイクスピアを敬遠されてきたのでしょうか?

吉田 これまで観客の立場で拝見してきましたが、シェイクスピア作品には俳優の鍛錬と演出家の想像力が求められると感じておりまして。役者の場合、レトリックの多い長ゼリフを朗々と発したり肉体的にも精神的にも大変そうですよね。自分にできるだろうか……と不安を覚える一方で、俳優なら一度は挑戦すべきハードルとも考えていて。シェイクスピアは、作品に選ばれて初めてトライできる感覚がずっとありました。今回のブルータス役を機に、自分を更新していきたいですね。

──森さんが、主人公ブルータスに吉田さんを指名した理由は?

森新太郎

 羊さんのお顔がパッとひらめいたんです。これまで仕事でご一緒したことはありませんが、出演作を拝見すると、羊さんは考えていることを表に出さない人物の芝居が非常にうまい。同時に、こうした抑えた芝居が効くのは心の中にものすごく「激しいもの」を秘めているからなんだろうな、とも感じまして。これほど熱いものをお持ちの方にはシェイクスピアに出てもらわないといけない。むしろご経験がないことの方が不思議でして。

吉田 ふふふ(笑)。シェイクスピアの登場人物って、心の中をすべて口に出してしまう激しさがありますよね。たとえばブルータスなら「愛する仲間(シーザー)を正義のために殺さねばならぬのだ!」と決意するまで、ありとあらゆる比喩や修飾語を駆使して葛藤や苦悩を語るわけで。

 そうなんですよ! 思いの丈をこれほど叫び尽くす吉田羊は見たことがない、とお客さんに新境地をお見せして驚いてもらう方がおもしろいんじゃないかな。羊さんを別のフィールドへ引っ張り出したい。そう思ってオファーさせてもらいました。さらにこれだけ叫んでも本音がわからないブルータスの底知れなさも感じさせてくれそうだな、って。

衣裳から垣間見える、オールフィメールのおもしろさ

──男性の登場人物が多い『ジュリアス・シーザー』を、女性だけで上演しようと考えた企画意図を教えてください。

 シェイクスピア作品は「虚構性」が立った方がおもしろいと感じていまして。もともとは野外のグローブ座で上演されていて、明るい光の中で夜を表現しなければいけなかったわけですし、女性役も少年俳優が演じていました。「これはフィクションです」と現実との線引きが明確にされているからこそ、観客は想像力をフル稼働させて、自分の中で物語を構築していくおもしろさがあった。いわば、日常の約束ごとや規範から解き放たれて自由になれる時間だったんじゃないかな。そういった意味で、男性の登場人物が多くを占める『ジュリアス・シーザー』の虚構性は、女性キャストだけの上演形式でいちばん発揮できるのでは……と仮定して、オールフィメールを提案させてもらいました。

吉田 女性キャストだけで上演する試みにも惹かれました。一方で、大変な挑戦だと思うんです。史実も含めて有名な作品ですし、お客さんの固定観念を取り払うのは容易ではありません。でも本作は森さんが元の戯曲から取捨選択して、男女それぞれの役割を固定するようなセリフがほとんどカットされているんです。これによって性別という概念がなりを潜めて、「人間同士」の会話として響くようになった気がしますね。その先にどんな感情が見えてくるのか、ぜひ劇場でお確かめいただきたいです。

吉田羊

──現時点で、どんな衣裳をお考えでしょうか?

 オールフィメールでよく見かけるのは、男性のフォーマルを着せてしまうパターンですよね。今回でいうなら、古代ローマの軍人が装着していたような「鎧」で男装するような。でも僕、レトリックの多いシェイクスピア作品では「言葉」を鎧にした方がいいんじゃないかと思うんですよ。

吉田 たしかに。おもしろいですね!

 いまイメージしているのは、コンテンポラリーダンスの踊り手が身につけるような抽象的でシンプルな衣裳です。男装する女性キャストがリアルを追求すると、胸を潰したり男性の体に近づけようとするでしょう? でも今回はそれやる必要はないと思っていて。女性が本来持っている体のままでいて欲しい。

吉田 それ、大賛成です! 私はもともと中性的な衣裳がいいな、と思っていました。というのも人間の意識って視覚から入る情報でほとんど決まってしまうから、男装した時点でお客さんは我々を「男性」と認識しますよね。でも演じている中身は「女性」だから……違和感になってしまう気がするんです。

 その考えをお聞きして、やっぱり舞台経験の豊富な羊さんにオファーしてよかったと思いました。僕とワクワクするポイントが似ているな、って。オールフィメールでシェイクスピアをやることの魅力や楽しみ方を、構想段階からわかっていらっしゃる気がする。

吉田 あんまりハードル上げないでくださいね(苦笑)

個性派が揃ったキャスティングを堪能して

──吉田さんは、ブルータスの人物像をどのように捉えていらっしゃいますか?

吉田 ブルータスって、私利私欲が一切ない「ミスター正義感」ですよね。でも彼の本当の魅力は、人間的な「弱さ」にあるんじゃないでしょうか。友人キャシアスらにそそのかされて最後の炎を燃え立たせるわけですけど、シーザー殺害の一大決心をするまでに、彼は逡巡を繰り返して自らを鼓舞しまくります。はたから見ると優柔不断で煮え切らない人物ですが、そのカッコ悪さこそ人間くさい。お客さんが「決心しろ、ブルータス!」と応援したくなる魅力なのかな、と思いますね。優しさゆえに自分の首を絞めて、物語が加速していく側面もありますし。

──そのブルータスを、現時点でどのように演じていこうと考えていらっしゃいますか?

吉田 お客さんがこの作品に没入できるかどうか、ブルータスの人間的な魅力が要素のひとつになるだろうな、と思っています。政治闘争劇というと小難しいイメージがありますけど、シーザー殺害や事後の悲劇にいたる感情のアプローチにフォーカスしながら演じていきたいですね。

──ブルータスを取り巻く登場人物にも多様なキャラクターが勢揃いしています。森さんはどのようにキャスティングしていかれたのでしょうか?

 個性ある俳優さんばかりお選びしました。いつもキャスティングは相当こだわるんですが、今回は特に手応えがあります。まずは、シーザー腹心の部下であるアントニー役に松井玲奈さん。アントニーってブルータスたちよりやや若くて、彼らからすると理解できない側面がある新世代の人物だと思うんですよ。このジェネレーションギャップをフレッシュに演じてくれそうな松井さんにお声がけしました。

吉田 まさに! 初めましての松井さんとは陰影の濃いコントラスト……ブルータスとアントニーのコントラストを一緒につくれたらいいですね。

『ジュリアス・シーザー』メインビジュアル:上段左から、吉田羊(主人公・ブルータス役) 松井玲奈(アントニー役)、下段左から、松本紀保(キャシアス役) シルビア・グラブ(ジュリアス・シーザー役)

 ブルータスの友人キャシアスには、松本紀保さん。以前ご一緒したことがあるんですが、彼女の無尽蔵のエネルギーには目を見張りました。個人的には、ブルータスとキャシアスの間に起こる終盤の諍いがおもしろいと思っているんですよね。様々な状況が複雑に絡み合った末に、ついにお互いの感情が爆発して。

吉田 いきなり夫婦ゲンカみたいなやり取りが始まりますよね。松本さんのキャシアスとは、かたい友情を育みたいと思っていたんですけど(笑)

 当人たちは真剣に、絶叫しながら議論してるんでしょうけどね……若干コミカルにも見える(笑)。そしてタイトルロールには、シルビア・グラブさん。以前『メアリ・スチュアート』でご一緒した時に、エリザベス女王を演じてもらいました。もはや世界の覇者シリーズみたくなっていて、次はチンギス・ハーンしかないんじゃないかと思ってるんですけど(笑)

吉田 あはは(爆笑)

 ブルータスってシーザーを憎む一方で、もしかしたらそれ以上に愛しているんですよね。最後の最後までシーザーの呪縛から逃れられなくて夢や幻の中にシーザーの姿を見るほど。そう考えると、作品タイトルが『ジュリアス・シーザー』なのも頷けるんです。その関係性も女性キャストならではというか、他人が立ち入る隙がないような精神的な結びつきを描けるんじゃないかと期待しています。

吉田 共演経験のあるシルビアさんが宿敵シーザーで安心感を覚えています。クレバーで優しく愛のかたまりみたいな彼女が、権力を前に揺れ動く臆病で純粋なシーザーをどう演じるのかすごく楽しみですね。シルビアさんに対する私の信頼がブルータスとシーザーの関係性にリンクして、友情の先にある「正義の暗殺」という構図を見せられたら。

抑圧されている女性に勇気を与えられる演目でありたい

──シェイクスピア作品でオールメールやオールフィメールの上演形式はこれまでもありましたが、森さんは今回なぜ『ジュリアス・シーザー』に着目されたのでしょうか?

 僕はね、『ジュリアス・シーザー』の主役って実は「民衆」のような気がしているんです。姿こそ舞台上に現しませんが、この物語は「シーザーに王冠を被せろ」という民衆の熱狂からスタートします。ここから登場人物たちは人生を狂わされていく。ブルータスがいちばん恐れているのもシーザーの圧政というより、彼の存在に惹きつけられていく得体の知れない民衆の熱狂なんですよね。

──そこから殺害を決行して、演説で民衆を味方につけようとするもアントニーにちゃぶ台返しされてしまいますよね。

 そう、暴動にまで発展してね。ブルータスをはじめとする政治家たちが、民衆の間をただ右往左往しているだけに思えてなりません。で、現代に生きる我々も毎日そんな光景を見てばかりいるわけです。移り気で、無責任で、熱狂のための生贄を常に探し求めている民衆。誰かに支配されるのを嫌いながら、同時に誰かに支配されたいとも望んでいる実に厄介な存在です。そんな民衆の姿を炙り出したいと感じたのが、この『ジュリアス・シーザー』を上演したいと思った動機のひとつですね。

吉田 そうだったんですね。私も人間の普遍的な業や情を見せたいと思っているので、森さんがこの作品をどのようにステージングしていくのか楽しみにしています。

──2021年にも通じる普遍的な時代性を感じていらっしゃるんですね。女性キャストのみで「いま」上演する意義はどのように考えていらっしゃいますか?

 オールフィメールでの上演についてどう感じるか、周りの女性に聞いてみました。そうしたら、皆さん揃って目を輝かせながら「おもしろそう!」と言ってくださって。喜んでもらえそうでよかったと思う反面、これほど女性をウキウキさせる背景にあるものって何だろう、とも感じて。

──森さんの中で、思い当たることがおありになるのでしょうか?

 ひょっとしたら、女性が政治から遠ざけられていることの反映なんじゃないかな……と感じました。最新のジェンダーギャップ指数も、政治参画の面では最下位に近いところにランクしていますよね。依然、深刻な男女不平等が続いていると言わざるを得ません。例えば2020年までに国会議員の女性候補者を30%に引き上げると言っていたのにまったく果たされず、蓋を開けてみたら閣僚20人中2人しか女性がいませんでした。

──日本の乏しい現状が、この政治劇を女性キャストのみで発表された瞬間のワクワクにつながっていると?

 日ごろ抑圧されていると感じる女性が、オールフィメールのような倒錯性に惹かれることは無視できない気がしました。願わくばこの上演形式がさほど珍しいことでなく「当たり前」になるような時代になればいいな、と。日本の現状に鬱屈としている女性たちに少しでも勇気を与えられる演目でありたいと思っています。



取材・文:岡山朋代 撮影:川野結李歌



パルコ・プロデュース2021『ジュリアス・シーザー』
東京公演:2021年10月10日(日)〜10月31日(日)   PARCO劇場
大阪公演:2021年11月3日(水・祝) 森ノ宮ピロティホール
山形公演:2021年11月7日(日) やまぎん県民ホール 大ホール
福島公演:2021年11月14日(日) いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール
宮城公演:2021年11月17日(水) 仙台銀行ホール イズミティ21大ホール
富山公演:2021年11月20日(土)・21日(日) 富山県民会館 ホール
愛知公演:2021年11月27日(土)・28日(日) 東海市芸術劇場 大ホール

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2176783

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