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本作のヒロインはなぜ観客を魅了するのか?主演女優の語る映画『ビルド・ア・ガール』

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ビーニー・フェルドスタイン

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『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』のビーニー・フェルドスタインが主演を務める映画『ビルド・ア・ガール』が22日(金)から公開になる。本作はイギリスの郊外で暮らす17歳の主人公が、音楽ライターとして活動を始め、自身の未来を切り開いていくドラマが描かれるが、本作はよくある“冴えない主人公が自分の道を見つけ出す青春ドラマ”ではないとフェルドスタインは語る。本作はどこかユニークなのか? 本作はなぜ、2021年の観客に刺さる映画なのか? フェルドスタインに話を聞いた。

本作の舞台は、レディオヘッドが最初のアルバム『パブロ・ハニー』をリリースし、オアシスがクリエイションと契約してデビューに向けて準備を進めていた1993年の英国。本作の主人公ジョアンナはそんな音楽と関係なく、『アニー』の音楽を愛し、図書館で妄想にふけったりしながら郊外の街で冴えない日々を送っている。しかし彼女はある日、何かを表現したい欲求を満たすべく兄の勧めで大手音楽雑誌のライター募集に応募。押せ押せモードで職を得て、やがて音楽家の悪口記事を書きまくることで人気記者になっていく。

先ほどジョアンナは“冴えない日々を送っている”と紹介したが、彼女を演じたフェルドスタインは「ジョアンナは、自分の人生が冴えないとは思っていないんじゃないかな」と分析する。

「この映画が他の作品といろいろな意味で違うのは、ジョアンナがもっと何かを求めてクールになりたいと思っているわけではなく、クールになることを必要としているところじゃないかな。家族を貧困から救うためにお金が要る。だから、郊外のウォルヴァ―ハンプトンから出て、何者かにならなければいけない。そのために自分の背中を押す必要がある。それは美しいことでもあると思う。

もちろんその後、彼女が夢中になってしまうような生活が待っているわけだけど、最初は原始的な必要性に駆られていたと思う。家族を貧困に追い込んでしまったのは自分だから、そこから抜け出せるようにしなければいけない。兄弟が食べ物に困らないようにしなければいけないし、親が自分に対して怒りを抱かないようにしたいし、(貧困ゆえ撤去されてしまった)TVも取り戻さない。そういう原始的なレベルの“必要”が物語が進むと、クールにならなければいけないという“必要”に取って変わっていく。キャトリン(本作のモデルであり脚本も執筆したキャトリン・モラン)はそのあたりの力学をとても興味深い形で考察していると思う」

彼女が語る通り、主人公ジョアンナは有名になりたいわけでも、意識の高い若者でもない。ただただ“自分の中にある表現欲求を爆発させたい”女の子、貧しい暮らしを何とかしたい若者として登場する。そこで彼女は別に好きなわけでも、詳しいわけでもないロックの世界に足を踏み入れるが、そこで華やかな世界に立ち会ったり、有名人と知り合いになる中で彼女の“必要=目指す場所”は変質していく。この映画は夢を持ってブレない主人公を描く物語ではない。主人公はブレにブレまくる。だからこそ愛らしい。だからこそ身近に感じる。もし、彼女が少しイヤなやつに見える瞬間があったら、少し立ち止まってみてほしい。どんな状況にあってもジョアンナには必ず“さびれた郊外で暮らしていた純粋でどんクサい時の彼女”の片鱗が残っている。

「冒頭のジョアンナにすごく直感的に共感することができた。私の方が少し年上だけど、彼女と同じように『アニー』やABBAを聴いていたし(笑)。全然問題なく彼女の“ダサい”側面にコネクトできた。だって基本的にそれって私だから(笑)。

でも本当に私とジョアンナを結び付けてくれたのは、小さい頃から人生で何をやりたいかわかっていたことだと思う。私は幼い頃から歌やダンスや演技に夢中で、ずっと前から役者になりたいんだって自分でわかっていた。幸運にも他の興味や趣味もあるけど、“役者になりたい”という唯一無二の気持ちはずっとはっきりとしていた。そしてジョアンナもその“何か”がわかった瞬間、自分のもうひとつの側面が解き放たれ、そのことにフォーカスしていく。若い人のそういう資質って今まで映画で祝福されているのを観たことがなかったと思う」

『ビルド・ア・ガール』は他の映画とはちょっと違う

『ビルド・ア・ガール』

私にはやりたいことがある。私には進みたい道がある。そんな想いを胸に突き進む主人公の姿をフェルドスタインはテンション高く演じているが、同時に彼女のちょっとした感情の変化や置かれている立場を繊細な演技で表現していることも見逃せない。特に本作でフェルドスタインはセリフに頼ることなく“視線”のちょっとした動きや変化で、ジョアンナの内面を見事に描き出している。

「シアーシャ・ローナンと『レディ・バード』で共演した時。彼女が“セリフはない方がいい”って言っていたのをよく覚えてる。演劇出身の私からするとそれは本当に興味深い言葉だった。舞台だと場合によっては遠く離れた席に座っている人には表情が見えないから、セリフはコミュニケーションのツールになる。コミュニケーションについて考える時も多分最初に言葉でのコミュニケーションを思い浮かべる人が多いんじゃないかな?

だから、私が映像のメディアで仕事をする時の喜びは、言葉ではないコミュニケーションや、よりフィジカルなコミュニケーションを掘り下げること。カメラで撮った時により感情を喚起させられるような、より直感的な演技を今まさに学んでいる途中だと思っている。キャトリンの言葉は誰もが思う多くのことを代弁してくれているし、この作品の大きな一部分だけど、映画の仕事をしている時は、舞台では使わない別のツールが道具箱にある状態だから、それを使いたいと思っているの」

主人公のジョアンナは、素朴で前向きで、フェルドスタインの言うところの“ダサい側面”を抱えたまま、全速力で前進し、時に目的を見失って迷走し、気づかないうちに自分で掘った落とし穴に自分から落ち、そこから這い上がってまた前進していく。その姿は、理想的なヒロイン像ではない。だからこそ多くの人の心を捉え続けることになるだろう。

「この作品は根性のある映画だと思うし、私も以前から自分のことをそういう風に形容してきたので、そういう姿勢を持つこの作品がずっと愛され続けることになったら嬉しい。『ビルド・ア・ガール』は他とはちょっと違う。90年代を舞台にした音楽系の映画を観たことがあっても、ウォルヴァ―ハンプトン出身の16歳のちょっとぽっちゃりした女子の視点からは観たことがないと思うし(笑)、音楽シーンの中で彼女が越えなければいけないハードルも新しく感じてもらえるじゃないかな。とにかく、めちゃくちゃ笑えるし、ユーモアたっぷりで突飛。それでいて感動もあって、90年代のUK音楽シーンをユニークな形でユニークな視点で捉えた映画だと思う」

『ビルド・ア・ガール』
10月22日(金)公開
(C)Monumental Pictures, Tango Productions, LLC, Channel Four Television Corporation, 2019

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