藤ヶ谷太輔が稀代のプレイボーイに 情熱と哀愁漂うミュージカル『ドン・ジュアン』東京公演開幕
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ミュージカル『ドン・ジュアン』より
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すべて見る藤ヶ谷太輔が稀代のプレイボーイに扮するミュージカル『ドン・ジュアン』の東京公演が10月21日にTBS赤坂ACTシアターで開幕した。作品は2004年にカナダで初演され、世界各国で上演されているフレンチミュージカルの人気作で、藤ヶ谷は2019年に本作でミュージカル初出演。大評判を得た公演の、2年ぶりの再演である。今回は、ヒロイン・マリア役に、元宝塚歌劇団雪組トップ娘役で今回が退団後初ミュージカル出演となる真彩希帆が扮するなど新キャストも加わった布陣で上演。大阪公演を経た充実のカンパニーが熱いステージを繰り広げる。
物語はスペイン、セビリアが舞台。あらゆる女性を魅了し、放蕩の限りを尽くす男、ドン・ジュアンが今宵も女性を毒牙にかけている。しかしその女が騎士団長の愛娘だったことから、娘を汚された騎士団長が激怒。決闘の末、ドン・ジュアンは騎士団長を殺してしまう。その時以来、ドン・ジュアンは騎士団長の亡霊に悩まされていくことになる……。
情熱と哀愁が覆う舞台だ。誰もが愛を求め、すれ違う。登場人物たちの愛への渇望を表現するかのような情熱的なスパニッシュサウンドに、床を打ち鳴らす靴音も胸を打つフラメンコの踊り。女性ダンサーが身にまとう赤いドレスも鮮烈な印象を残す。幻想感と、土を感じさせるリアルさが交互に襲い、独特の中毒性があるミュージカルだ。 その情熱の物語の中で、藤ヶ谷太輔のドン・ジュアンは強烈な閃光を放つ。“あらゆる女を魅了する”という設定に違和感のない色男であるのはもちろんのこと、欲望のまま遊んでいるようでいて、どこか心に空いた穴を埋めようともがいているような切なさがある。何よりも佇まいと存在感がいい。
主役でありながら冒頭15分近く歌も台詞もなく、ダンスとその存在感だけで観客の視線を掴み続けるのは並大抵のことではない。野生動物のような荒々しさは、繊細な真実の姿を傷つけないための防衛本能か。……そんなことを考えているうちに、ドン・ジュアンの魅力にすでにとりつかれている。
ドン・ジュアンを取り巻くキャラクターも粒ぞろいだ。ドン・ジュアンの友人ドン・カルロ役の上口耕平は、ダンスに歌に大活躍しつつ、欲望や本能に走る登場人物たちに引っ張られがちな物語に、理性的な視点を加える。コスチュームの似合うスタイルの良さも魅力的だ。
マリアの婚約者ラファエル役の平間壮一は前半と後半でガラリと違う表情を見せ、クライマックスの決闘シーンでは圧巻の立ち回り。騎士団長役は吉野圭吾。ドン・ジュアンの運命を操るかのような存在感を、鮮やかなフラメンコのステップとともに出せるのはこの人くらいだろう。
ドン・ジュアンの厳格な父を演じる鶴見辰吾もさすがの存在感で、物語に重みを出している。自らこそをドン・ジュアンの妻だと信じるエルヴィラ役の天翔愛は初々しいからこその狂気が見てとれたし、日本を代表するバレエダンサーである上野水香も妖しい芳香と素晴らしい踊りで魅了した。ドン・ジュアンのかつての女イザベラ役の春野寿美礼のベルベットヴォイスは、このミュージカルの情熱の音楽をひときわ輝かせる。
そして、真彩希帆扮するマリアには、陽の光を感じさせる健康的な清らかさがある。刹那的に生きるドン・ジュアンとは対照的に、真彩のマリアは、地に足をつけ日常を生きている。
マリアはドン・ジュアンに“真実の愛”を気付かせる女性だが、その“真実の愛”とは日常そのものなのではないかと思わせる存在感だ。常に毛を逆立てているようなドン・ジュアンにとってマリアは、彼女の前では深呼吸ができるような相手であることが、お互いの表情から 伝わってくる。宝塚屈指の歌姫と呼ばれた、美しい歌声も健在だ。
初日直前の取材会で、藤ヶ谷は「みんなで命を削っているエネルギーを感じてもらえれば」と語り、演出の生田大和は「2年間の時を経て、奥行きと深みを増した公演」と自信を見せた。生き急ぐかのように疾走するドン・ジュアンの生涯と、その中で見つけた真実の愛。短いからこそ強烈な光を放つ藤ヶ谷ドン・ジュアンの人生を、その目に焼き付けてほしい。
公演は11月6日(土)まで、同劇場にて上演中。
取材・撮影・文:平野祥恵
ミュージカル『ドン・ジュアン』
会場:東京・TBS赤坂ACTシアター
[作詞・作曲]フェリックス・グレイ
[潤色・演出]生田大和(宝塚歌劇団)
[出演]藤ヶ谷太輔/真彩希帆/平間壮一/上口耕平/天翔愛/吉野圭吾/上野水香(東京バレエ団)/春野寿美礼/鶴見辰吾/他
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