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劇団た組『ぽに』開幕直前インタビュー 藤原季節「シンプルに『あーおもしろい!』と言える作品です」

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藤原季節  (C) JUNJI HATA

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劇団た組の新作『ぽに』が10月28日(木)にKAAT神奈川芸術劇場 大スタジオで開幕する。

松本穂香が主演を務める本作のテーマは「仕事とお金の責任の範囲」。稽古序盤に行った松本と作・演出の加藤拓也の対談では、本作がこれまでの劇団た組作品とは違うつくり方になるという話もあったが、稽古が進み、どのような作品になりつつあるのか。開幕を2週間後に控えた稽古場より、加藤作品の舞台に参加するのは4度目となる藤原季節に話を聞いた。

“遊び上手”な先輩たちから学ぶ物語に飛び込む大胆さ

――藤原さんは「『ぽに』おもしろいです」とツイートもされていましたが、お稽古はいかがですか?

おもしろいです。こんなにシンプルにハッキリと「おもしろいです」と言えてしまうことってあまりないなというくらい。例えば、グッとくるメッセージがあったり、いろんな感情を伝えられすぎちゃうと、シンプルに「おもしろい」ってことにはならないじゃないですか。でもこの作品は、伝えたいことはあくまで『ぽに』という世界の中で描かれていて、物語として提示されているから、ただ「わ、おもしろい!」と言えてしまいます。

――それは、これまでの加藤さんがつくる作品とは違うのですか?

違うと思います。今までは「我が身に迫る」というような作品が多かったと思うのですが、今作は無条件のおもしろさみたいなのを感じます。でもそれがなんかよくて。自由度が高いので、出演している役者さんもそれぞれ楽しみながら演じているなと感じますし、今作みたいに「おもしろいから観に来てください!」と言えてしまうことは、僕としてはめずらしいです。

――今作は「鬼ごっこ」がひとつの要素になっていますが、その辺りはどのようになっていますか?

「鬼ごっこ」は作品の内容にまつわるもので、“責任”というものを人に押し付けていく感じが鬼ごっこに似ている。「タッチ」で責任の所在が変わっていって、最後に押し付けられた人はそれを家まで持って帰らないといけなくて(鬼ごっこは終わりがない遊びなので)、っていう。でも舞台の見た目とかつくりということで言えば、いろんな「ごっこ遊び」が詰まっている感じです。ワクワクしますよ。

――ごっこ遊びとはどんな感じでしょうか。

今まではもうちょっと「(実際に我々が生きる)日常の中でのリアリズム」というものを大事にしてきたのですが、今作では、「この作品におけるリアリズム」を大事にしている。あくまでこの『ぽに』という物語におけるリアリティを大事にしているような感じです。だからいろんなことがどんどんはみ出していっているというか。稽古していても「あ、そういう発想で進んでいくんだ」みたいなことが多いんです。出演者には、平原テツさんだったり金子(岳憲)さんだったり、そういう“遊び”がすごく上手な先輩方がいるので。きっと観ていてビックリ箱みたいな感じがあるんじゃないかと思います。

――“遊び”ってどういうものなんでしょう。

普通の椅子が違うものに変わっていたりとか。なんかそういういうことが次々起きるんですよ。

――ああ、なるほど。ごっこ遊びではそういうことがありますよね。公園に落ちてる葉っぱがお肉ってことになったり。

それをやるには『ぽに』という物語の世界にガバッと飛び込む大胆さが必要だと思うんです。頭の中にたくさん台詞があって、段取りがこうなって、みたいなことにとらわれていたら、ただの椅子が違う物に見えるってことは起きないと思う。『ぽに』に集まった出演者の方々は、そういう、物語に飛び込む勇気とか、あとは目の前にできた世界を“信じる力”もすごいんだろうなと思います。そして物語をはみ出さないバランス感覚もある。これまでいろんな“見たことのない世界”を見てきた方々なので、そういう強さがあるんだろうなと思います。

「誠也」はクズだけど、なぜか共感できてしまう

――藤原さんにとってはその“遊び”をやるのはどうですか?

面白大変って感じです。最初の一週間くらいはもう「どうしよう…」って元気を失うくらいでしたけど(笑)。でもそこから先輩たちのお芝居を見て、「こういうふうに楽しむんだ」とわかって、どんどん変化していっている感じがします。

――勝手なイメージですが、藤原さんも遊びが好きなタイプなのかと思っていました。

いえ、僕は意外と本に書かれていることに忠実で、どちらかというと予定調和になりがちなんです。「座る」って書いてあるから座る、みたいな。そういうふうになっちゃうのを、加藤さんが防ぐ、みたいな。

(隣から)加藤「防いでるわけじゃない(笑)」

(笑)。加藤さんは、僕がその場で新しいことを感じて動けるように演出してくれるって感じですね。

――藤原さんは加藤作品に何度も参加されていますが、どういうところに魅力を感じていますか?

観たことのないものが毎回観られるってことです。それと、僕も出演した舞台『誰にも知られず死ぬ朝』(’20年)の中で、「わからないものはわからないままのほうがいいでしょう」という台詞があるのですが、そういう“許容の広さ”というか寛容さが加藤さんの作品にはある。だから観る度に、自分のキャパがちょっと広がるような感じがするんですよ。 今は“わかりやすさ”が求められる時代だと思うのですが、果たしてそんな、何もかもがわかる必要があるのかとか、わからないことがあってもいいんじゃないかと思うんですね。そういう意味で、加藤さんの作品って毎回「自分にはまったくわからない」と感じることとか、「え!?」ってことが起きるので。そういう時に深く感動するんですよね。

――演じる側にいてもそういうことを感じますか?

感じます。今回の稽古場も毎日感じますし。それを1か月くらい毎日体験できるのは、物凄く楽しいなと思います。

――藤原さんが演じる誠也は、松本穂香さんが演じる円佳の好きな人、という人物ですが、どんな役ですか?

た組『ぽに』メインビジュアル 宣伝美術:Minhan CHANG 宣伝写真:山﨑泰治

今まで演じた中では一番のクズ野郎な気はしています。ちょっと救いようがないな、みたいなところがある。でも本人もそのことに気付いていると思う。実際にこういう人って結構いると思うので、そこを演じられたらと思います。

――結構いますか。

加藤さんが描くクズって、どこか誰にでもこういう要素ってあるよね?という人なんです。だから僕の中にも誠也の要素はあると思うし、共演者の秋元龍太朗も、すごく生真面目なタイプにも関わらず「誠也の気持ちはわかる」って言ってくれるんですよ。やってることはクズなのに、なぜかわかってしまうっていう。

――藤原さんは役としてそこに感情移入していくような感じなのでしょうか?

今回はもうちょっと客観的に捉えているかもしれないですね。残り10日間くらいの稽古でまた変わっていくとは思うのですが。

――いつもは客観的なのですか?

いや、いつもはもう少し主観的に捉えていると思います。というのも今回って、“個人と個人の対話”というよりも“個人と世間との対話”を描くようなつくりなので、円佳にとって誠也は世間のひとりである、という描かれ方をしている。だから誠也がどういう感情になるかっていうのももちろん大事なんですけど、それより円佳がどういう感情になるか、誠也が円佳に何を与えるか、みたいなことをけっこう冷静に考えながらやっているかもしれません。

自分の生活圏からはみ出したものを受け止めてみて

――円佳を演じる松本穂香さんは共演経験もありますが、今作ではどんな印象ですか?

最初はこの世界に翻弄されていたと思うのですが、この数日でかなり集中してきているのを感じます。めっちゃカッコいいですよ。

――カッコいいですか。

はい。演じる集中力とか、グッと役に入り込む感じとか、正直すごいなと思っています。ずっと台本を読んでいて、全然休憩しないし。あれだけの緊張感を持って作品に臨めるってすごいです。だから僕も松本さんの集中力に追いつかなきゃと思っています。いや、追いつかなきゃというより受け止めなきゃ、みたいな感じか。迫力が増してきてるので。多分、残りの10日間くらいで松本さんは猛スピードで仕上げてくると思うので、ここからが勝負だなという感じがします。……けっこうハードル上げちゃってますけど。

――(笑)。たしかにうかがっていて楽しみが増します。

そうなんですよ。そういうのもあって、思わず「おもしろいです」って言ってしまうんです(笑)。開幕したら皆さんの感想が気になりますね。

――ちなみに藤原さんの現段階の感想は?

シンプルに「あーおもしろい!」って。今まで演劇を観た中で、あまりない感覚です。僕は普段は真面目にならざるを得ないというか、チケットを買って、何かを学び取ってやるっていう気持ちで観て、難しい言葉を使って難しいことを考えてみたりするんですけど、この『ぽに』は「あーおもしろい」とか「やばい」とかそんな簡単な言葉で思わず形容してしまう。決して作品の内容が簡単ってわけじゃないんですけどね。でも観た後には、そういう言葉が出てくるような感覚があります。今回若い人にも観てほしいなと思っていて。

――それはなぜですか?

僕自身も学生時代によく当日券に並んで観ていて、その時の体験がずっと自分の中に残っているので。この作品で、こういうものをつくる人がいるんだっていう感覚とか、自分の生活圏からはみ出したものを受け止めてみてほしいです。追加席もありますし、当日券が出る日もあるみたいなので、SNSでチェックして観に来てほしいです。



取材・文:中川實穗

劇団た組『ぽに』
2021年10月28日(木)~2021年11月7日(日)
会場:KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ

劇団た組公式Twitter:@wawonkikaku

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