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鈴木清順のまぼろしの問題作がついに配信開始!
『カポネ大いに泣く』特集

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『ツィゴイネルワイゼン』『ピストルオペラ』など、日本映画史にその名を深く刻んだ偉大な名匠、鈴木清順。清順といえば、野心的・挑戦的な尖った作品が多いことでも知られる存在だが、そんな彼のフィルモグラフィの中でもとりわけ異色と言える作品が『カポネ大いに泣く』だ。“清順濃度”特濃な1作ながらこれまで解禁されていなかったデジタル配信がついにスタート! 同じく尖りすぎて特濃な『悲愁物語』と一緒にぜひ楽しんでほしい。

世界中から賞賛される稀有な“美学”
あらためて鈴木清順ってどんな監督?

2005年『オペレッタ狸御殿』でカンヌ国際映画祭に参加した際の鈴木清順。両脇は同作に出演したチャン・ツィイーとオダギリジョー。
Photo:AFLO

まず最初に、鈴木清順監督のことをおさらいしておこう。1948、松竹大船撮影所の助監督として映画界でのキャリアをスタートさせた鈴木清順は、54年に日活に移籍し、56年の『港の乾杯 勝利をわが手に』で監督デビュー(当時は「鈴木清太郎」名義)。“清順”に名前を変えた63年の『野獣の青春』で才能を開花させ、『東京流れ者』(66)、『けんかえれじい』(66)などの日活アクションで人気を高めていった。

ところが、67年の『殺しの烙印』があまりにもアヴァンギャルドな内容だったために日活を解雇され、訴訟問題にまで発展。長いブランクを強いられたが、77年の復帰作『悲愁物語』では以前よりさらに持ち前のアナーキーさを爆発! 生と死の世界をめくるめく映像で視覚化した80年の『ツィゴイネルワイゼン』でヴェネチア国際映画祭の審査員特別賞に輝き、続く『陽炎座』(81)、『夢二』(91)と合わせた“浪漫3部作”で“清順美学”と称される独自の映像表現を確立。晩年に撮った『ピストルオペラ』(01)、『オペレッタ狸御殿』(05)とともに、内外のフィルムメイカーたちに多大な影響を与え続けている。

鈴木清順監督のフィルモグラフィにおける
『カポネ大いに泣く』はどんな作品?

日活時代はスタイリッシュなアクション映画でその名を轟かせ、晩年は前衛的なアート映画で観る者を圧倒! 常に野心的&挑発的な尖った作品を発表し続けていた鈴木清順監督だが、84年に発表した『カポネ大いに泣く』はその独創的なフィルモグラフィの中でもとりわけ異色の1本だ。

禁酒法時代のサンフランシスコが舞台の本作を、全編日本で、しかも書割のようなカラフルなセットとド派手な衣装で撮ってしまうその型破りなスタンスにまずはビックリ! 落ちぶれた旅芸人の役者と芸者があのアル・カポネと対決するというストーリーもぶっ飛んでいるし、黒人のジャズの演奏に合わせて浪花節を熱唱させ、河内音頭をスタンディングによる三味線の演奏で聞かせるのだからたまらない(音楽担当は、本作の主演・萩原健一や共演の沢田研二とも交流があった井上堯之)。

とにかく自由で、遊び心に溢れていて、既存の映画のスタイルに捉われない鈴木清順監督ワールドが全開! それでいて、“清順美学”を前面に押し出した晩年の作品と違い、メインキャストの3人がちゃんと輝くエンタテインメントになっているところが素晴らしい。これぞ、まさに奇跡の快作。未見の人はもちろん、公開時に観ている人も、ヒットの公式とコンプライアンスに縛られた映画が多い今だから分かる、この空前の面白さを体感してほしい。

日本を追われたふたりがアメリカでアル・カポネと対決!?
『カポネ大いに泣く』はどんなストーリー?

梶山季之の同名小説の映画化。昭和初期。芸者の小染(田中裕子)は浪曲師を夢見る旅回りの役者・順之助(萩原健一)と出会い、深い仲になる。追われる身となったふたりは禁酒法時代のアメリカ・サンフランシスコでひと旗上げようとするが、騙されて無一文に。

小染は女郎に、順之助は路上芸人になり下がるが、やがて日本人街のボス“ガン鉄”こと大西鉄五郎(沢田研二)と出会い、3人でサンフランシスコ進出を狙うシカゴのギャング、アル・カポネ(チャック・ウィルソン)と密造酒をめぐって壮大なバトルを繰り広げることになる──。

ここまでのあらすじを読んだだけでも、日本映画とは思えないグローバルで破天荒な映画であることが分かるはず!

萩原健一、沢田研二、田中裕子ほか
人気演技派キャストが豪華共演!

どこかヤンチャな萩原健一がメリーゴーランドの前で浪花節を歌う主人公の順之助を体現し、田中裕子が右足でアメリカ国旗を踏みつけながら三味線を弾き鳴らすヒロインの小染を快演! ふたりと公私に渡って深い繋がりがある沢田研二が、日系マフィアの“ガン鉄”こと大沢鉄五郎をニヒルに決めているのも見逃せない。

さらに、アル・カポネ役のチャック・ウィルソンをはじめ、柄本明や樹木希林、加藤治子、牧伸二、梅宮辰夫、峰岸徹、平田満、たこ八郎、ベンガル、阿藤海といった、今では考えられない豪華なキャストが魅惑の共演。誰がどこで、メインキャストの3人とどんなコラボを見せているのか? そのあたりを注意しながら観るのも面白いかもしれない。

鈴木清順が放つ“世紀のド珍品”!?
『悲愁物語』も絶賛配信中!

『カポネ大いに泣く』にハマった人は、『巨人の星』『あしたのジョー』などの原作者・梶原一騎が原案を、『カポネ…』と同じ大和屋竺が脚本を担当したこの鈴木清順作品も配信中なので併せて観てほしい。

77年に撮影された本作は『殺しの烙印』事件による長いブランクをくぐり抜けた清順監督の復帰作だが、『カポネ…』とはまた違う風変わりな魅力に溢れている。

企業のPRタレントに起用された若き女子プロゴルファー(白木葉子)が、原田芳雄が演じた彼女の恋人でもあるゴルフ雑誌の編集長の手で腕を上げ、一躍スタープレイヤーに。そこまでは梶原一騎ならではのスポコンものだが、そこから一転。嫉妬に狂った近所の主婦の悪意の暴走に苛まれる展開になり、主婦を演じた江波杏子のおぞましい芝居に震撼することになる。

その一方で、漫画のような誇張した表現や裸になるシーンが必要以上に多いし、観る者を置いてきぼりにする力技のラストにも驚愕! 初公開時は2週間で打ち切りになったというのも頷ける超珍品だが、今観るとそのシュールでカルトなテイストが気持ちいい。

『カポネ大いに泣く』が眩いばかりの清順ムービーなら、こちらは清順の究極のダークサイド。一緒に観ると、鈴木清順ワールドの魅力をより深く知ることができるだろう。

Text:イソガイマサト