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『ミネオラ・ツインズ』演出・藤田俊太郎インタビュー「演劇的マジックに期待して」

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藤田俊太郎  (C)KEI OGATA

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1950年代から80年代へ、激動の時代を生きた女性たちの生きざまを、見かけはそっくり、性格は正反対の双子の姉妹を通して描く“ダークコメディ”が日本初上陸。戯曲を立ち上げる際、作者のピュリッツァー賞作家ポーラ・ヴォーゲルが指定した仕掛けがさらに痛快だ。大原櫻子、八嶋智人、小泉今日子の、人気と実力を兼ね備えた豪華メンバーを前に、演出家・藤田俊太郎の采配はいかに!? 2022年の初頭を飾る話題作への思いを聞いた。

この作品は女性の言葉で出来ている

――この『ミネオラ・ツインズ』という作品について、まず最初に、藤田さんがどのような点に心惹かれて演出に乗り出したのかを教えていただけますか?

一番は、この戯曲が“女性の言葉で出来ている”点ですね。ミネオラという町を舞台に、1950年代、1969年、1989年が描かれた物語で、それぞれの時代を生きた双子のマーナとマイラ、非常に対照的な人格を持ったふたりの女性の言葉がきらびやかに散りばめられています。アメリカでよく使われる言い方ですけど、その会話は、ある時は沈黙した言葉であり、ある時は沈黙を破る言葉であると思います。慣習の中で発言権を持てない言葉と、突破して語られる強い発言、その両方の側面が描かれています。そうした女性の言葉、価値観に強く惹かれて、演出したいと思いました。

――ミネオラのツインズ、双子の彼女たちは真逆の性格なんですね。

『ミネオラ・ツインズ〜六場、四つの夢、(最低)六つのウィッグからなるコメディ〜』メインビジュアル

マーナは保守で、マイラはリベラル。社会情勢や古い慣習、もしくは「こうあるべき」といった既成の概念の中で青春時代を送り、その後も生きていこうとしたマーナと、そうした時代に、自分の価値観や生き方はそこにはないと感じ、違う考えを見つけようとしたマイラがいる。この作品の妙は、このふたりの人生を、ひとりの俳優が瞬時に入れ替わって演じることです。この作品には「六場、四つの夢、(最低)六つのウィッグからなるコメディ」という副題がついていまして、ひとりの俳優がウィッグつまりカツラと衣装を付け替えて、マーナとマイラ、ふたりの人物を表現することが、本作の非常に大事な要素になっています。俳優の演じ分けが、時代の変化だったり、アメリカの二大政党のメタファーになっている、そういった構造です。

3つの時代を表す演出、キーワードは「具象と抽象のあいだ」

――作者のポーラ・ヴォーゲルは、そのようにひとりの俳優が二役を演じ分けることについて、「つねにホルモンの影響による興奮状態で演じて欲しい」とも指示しているとか。

興奮状態のまま演じてください、というのはいろんな意味を含んでいて面白いですね。これにはふたつの側面があると思うんです。ひとつは、物語のスタートが50年代なので、華やかに、繁栄していく時代の興奮を表現するという意味。もうひとつは、そもそも演じるということには、それだけの生命力が必要という意味なんじゃないでしょうか。

――なるほど。藤田さんは、朗読劇の『ラヴ・レターズ』(A.R.ガーニー作)を演出されていますが、本作と時代が重なるので、すでにその背景についてはお詳しいのでは。

幸運にも、そうなんですよね。『ラヴ・レターズ』は1930年代から80年代までの男女の話ですので、まさにマーナとマイラが生まれて、年齢を重ねていく時代と重なっています。あの時代の激動のアメリカを“二十世紀を映し出す鏡”と捉えると、アメリカを通して、日本人である私たちの生活も見えてくるし、世界の中で個人がどう生きてきたのか、どう生きるしかなかったのかということも見えてくるんじゃないかなと思います。

――『ラヴ・レターズ』は朗読劇なのでシンプルな舞台ですが、今回この『ミネオラ・ツインズ』の3つの時代の変遷を、舞台にどう表わそうと考えていらっしゃいますか?

そうですね、具象と抽象のあいだを行きたいなと思っていて。50年代、69年、89年と3つの時代の幅が広いので、具象になり過ぎると時代を制約してしまって、次の時代に移って行けなくなる。じゃあ、具象と抽象のあいだを行くとは何かというと、それは演劇でしか表現出来ないことだと思うんですよ。1時間半もしくは2時間という上演時間の中で、これだけの時代が移り変わり、人格も変えていくとなると、その表現はもう演劇が、演劇たる理由のひとつになると思うので。カツラや衣装が変わるというのは具象ですよね。それ以外の要素を出来るだけ省いて、作家のポーラ・ヴォーゲルさんが託した女性の言葉……、最初に言ったことですね、この女性の言葉で、この芝居をつないでいきたいなと思っています。

「舞台上でウィッグを替える瞬間も見どころです」

――今回、ツインズの演じ分けに挑むのは大原櫻子さんです。大原さんとは初めての舞台作りになりますか?

初めてです。でも今回はありがたいことに稽古開始の半年前、ワークショップの時間を作っていただいたので、大原さんだけでなく、八嶋智人さん、小泉今日子さん、全キャストと早い段階で舞台創りが始まっています。読み合わせをしたり、動いたりして、作品に対する共通認識を作ることが出来ました。大原さんは、人間の中における二面性を、良い意味で極端に演じることが出来るし、入れ替えることが出来る方ですね。この知的な演技の切り替えは、彼女独自の天性だと僕は思います。先ほどの“ホルモンの影響による興奮状態”に瞬時に行ける俳優ですね。

左から 大原櫻子、八嶋智人 小泉今日子。大原が双子のマーナとマイラを一人二役で演じるほか、八嶋、小泉もそれぞれ二役を担う

――八嶋さんはマーナの息子ケニーとマイラの息子ベン、小泉さんはマーナの婚約者ジムとマイラの恋人サラを演じます。このおふたりも二役の演じ分けに挑みますが、とくに小泉さんは男性(ジム)をどう表現されるか、注目です。

八嶋さんと小泉さん、このふたりも世代も性別も越えて対極の役を演じます。おふた方とも、これまでの俳優人生でさまざまな役に挑戦なさっているので、対極の役を演じることを楽しんでいただけるのではないかと思っています。おふたりなら複雑で多層的な人間を舞台上に立ち表せることができる。小泉さんのジム役はこれぞ50年代の若いアメリカの青年の精悍さ、サラ役は同性を愛する女性の包容力を持っているなとワークショップを通して思いました。ジェンダーや役を見事にそして、軽々と超える俳優の皆さんの芝居はとても面白く、沢山の発見がありました。ワークショップの最後には「演劇はいつも新しく、最前線の表現である」という言葉が、皆さんから出て来たんですよ。充実した時間でした。

――副題にはコメディとあるけれど、もっと深層的な味わいが潜んでいるように感じます。

悲劇でもあり、喜劇でもあると考えていいのではないでしょうか。“悲喜劇”が一番適していると思うんですが、つまり物事はいろんな見方が出来る、それがこの作品に貫かれているテーマですね。製作の皆様が“ダークコメディ”という、とてもいいネーミングをつけてくださいました(笑)。笑えて悲しい、人生の物語ですね。

――スパイラルホールでの上演も、とても独創的な香りがします。あの空間をどのように使われるのでしょうか。

スパイラルホールは、これまで非常に野心的な作品を上演し、新しい価値観を作ろうと、革命的な思想を持って運営されて来た場所だと思うんですよ。だからこの『ミネオラ・ツインズ』を上演するのに適している場所じゃないかなと。革命的な場所で革命的な作品を上演したいと思っています。ホールの真ん中にステージを作ります。お客様が舞台を囲む形ですね。大原さんは、最初から最後まで出っ放しです。ウィッグの付け替えもぜひ楽しんでいただきたいですね。舞台上でウィッグを替える瞬間に幾つかの設え、演出の仕掛けを用意しています。演劇的マジックに期待していただけたら。

この『ミネオラ・ツインズ』は、合わせ鏡のように、私たちの言葉や人生が込められた作品です。観終わった後に、この先の未来につながるエネルギーを感じ取っていただけるのではないでしょうか。囲み舞台の劇場で、この芝居を皆さんと共有出来ることを楽しみにしています。



取材・文 上野紀子

『ミネオラ・ツインズ~六場、四つの夢、(最低)六つのウィッグからなるコメディ~』
作:ポーラ・ヴォーゲル
演出:藤田俊太郎
翻訳:徐賀世子
出演:大原櫻子 八嶋智人 小泉今日子 ほか
2022年1月7日(金)~2021年1月31日(月) 会場:東京・スパイラルホール

11月5日(金)10:00より先行発売!
チケット情報はこちら
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2186522

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