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JUONが語る、闇の中に見出した希望と音楽 「こんな経験は人生で一度しかない」

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 1stアルバム『CHANGE THE GAME』でEDMを大胆に取り入れ、新機軸を打ち出したJUONがおよそ2年半ぶりのニューアルバム『HOPE IN BLACK』を10月31日にリリースした。

参考:JUONが描く、ギターサウンドの未来形「EDMフェスとロックフェス両方に出られる存在になりたい」

 「“BLACK=闇”の中の希望」というタイトルを冠した本作は、最愛の母を失ったJUONがその哀しみ、苦しみの中から一筋の希望を見出し、一歩ずつ前へと進んでいくようなポジティブなパワーに満ちている。前作のEDM路線を継承しつつも、ギターリフのかっこよさを追求した楽曲が並んでおり、ロックの持つ初期衝動が全編にわたって散りばめられた意欲作だ。

 自身の個人的な体験をモチーフとしつつ、誰しもが共感しうる歌詞へと昇華させたJUON。そこに至るまでの心境は、どのようなものだったのだろうか。公私共にパートナーである吉田美和(DREAMS COME TRUE)とのやり取りについても明かすなど、アルバム制作における貴重なエピソード満載のインタビューとなった。(黒田隆憲)

自分をコントロールする術は学べた
ーー1stアルバム『CHANGE THE GAME』からおよそ2年半ぶりの新作リリースとなりました。まずは前作の手応え、ツアーの反応についてなど聞かせてもらえますか?

JUON:ソロでデビューする前は、3人編成のバンドFUZZY CONTROLをやっていて、そこでは生音を中心としたアンサンブルだったんですけど、ソロではそれとは違ったことにチャレンジしたいという思いがあって。「ロックとダンスミュージックの融合」というか、自分の歌とギターにエレクトロな要素をどう融合させていくかが『CHANGE THE GAME』のテーマだったんですね。反応は色々ありました。「すごく変わったけどいいね!」って言ってくださる人もいる一方で、FUZZY CONTROLの印象が強くて「どう受け止めたらいいのか分からない」という人もいて。

ーーええ。

JUON:でもそういう人たちも、ライブを見てもらうことで理解してもらえたところはありましたね。純粋に「楽しい!」って言う声が増えたし、「やっぱりいいね、(ソロも)全然間違ってないじゃん!」とも言ってもらえて。

 それと、バンド編成からソロになって、今まで自分はやらなくて良かったことも引き受けなきゃならなくなったのが、最初はちょっとプレッシャーというか「大丈夫かな……」と思ったんですけど、人間、逃げ場のない状況に立たされると、何とかなるもんだなと思いました。ライブは毎回「未知の連続」で、そのつど臨機応変に対処しなければならないことも多かったんですけど、それによって一歩一歩前に進めた気がしましたね。

ーーNIVEAのTVCMソングのシンガーに抜擢されたことも、JUONさんの環境を一変させたのでは?

JUON:そうですね。バンド編成のツアーだけでなく、例えばアコギ1本持ってショッピングモールやレコード店のインストアライブなんかもやったんですけど、そのときにこの曲を演奏すると、みんなやっぱり振り向いてくれるんですよ。お茶の間で流れているだけあって、浸透している曲なんだなあって思いました(笑)。

ーーJUONさんのことを知らない人たちの前で演奏するような、「アウェーの状況」でどうやって自分のペースをつかむか? ということも、この1~2年で結構学びました?

JUON:僕はホームもアウェーもどっちも好きなタイプなんですよ。アウェーだと逆にちょっと興奮するところもあったりするし(笑)、どんな状況でも楽しめるように、自分をコントロールする術は学べたと思います。

ーーなるほど。登坂広臣さん(三代目 J Soul Brothers)のソロに参加したり、NEWSに楽曲提供したりしたのも貴重な体験だったのでは?

JUON:前回のインタビューでも話しましたが、僕は両親の影響もあって本当に様々な音楽を聴いてきて。そのおかげで音楽の知識が、NEWSへの楽曲提供などの仕事にも、ものすごく役に立っている気がします。「自分のソロではやらなくても、この人の曲だったらこう言うアプローチはきっとハマるだろうな」みたいな、プロデューサー目線で見られるというか。

ーーなるほど。

JUON:登坂さんのサポートも、ものすごく刺激になりました。やっぱり、「国民の声」を持ち得た人のパワーってすごいなと。声を発しただけで、その場の空気が変わるっていう。唯一無二とはこういうことだなと思いました。あと、登坂さんも「ロックとダンスミュージックの融合」ということをテーマに音楽を作っている人だったので、自分と方向性も似ていたというか。「ここでどんなギターフレーズを弾いたらいいか?」というアイデアが、自然と湧き上がってくるのも楽しかったです。「やりがいのある貴重な体験をさせてもらってるな」と思っていますね。

最終的には自分で一歩踏み出すしかない
ーー最新作『HOPE IN BLACK』についてお伺いしたいのですが、まずアルバムタイトルにはどんな思いが込められているのでしょうか。

JUON:読んで字のごとく、「“BLACK=闇”の中にも希望がある」という意味です。デビューしてから今日までの間に、色々なことがあったんですが、中でも母が亡くなったことはかなり大きな出来事で。これ以上、寂しく辛いことってないんじゃないか? という気持ちになって、眼に映る世界全てが灰色というか、真っ暗というか。その状態は未だに続いているんですよね。

 でも、母はきっと僕のそんな状態を望んでいないと思うし、いつまでも悲しがっているわけにはいかない、希望を見つけなければ……という思いがあって。もちろん、友達や家族の支えもあったけど、最終的には自分で一歩踏み出すしかない。そんな意味をタイトルに込めました。

ーージャケットデザインもインパクトがあります。真っ黒なようで実は違うっていう。

JUON:今回、TLGFの河原光さんという方にお願いしました。下地に赤や青、紫などを塗ってから、最後に黒く塗りつぶしていて。さらに表面にヤスリをかけて、下地の色みが少しだけ覗くようにしてあるんです。暗闇に包まれていても、そこには様々な色彩が隠れているんだということを表現してくださったんですよね。自分の内面に深く潜り込んでいくような今回の作風に、ぴったりのデザインだなと思いました。

ーー以前のインタビューでは、「曲作りは公園にカセットテープデッキを持って行って、そこでギターを弾きながら行った」とおっしゃっていましたが、今回は?

JUON:今回もカセットを使いましたね。60分テープのカセットに、思いついたアイデアをどんどん録り溜めていって、もう一度聞き直して良さそうな部分をiPhoneのボイスメモに入れながら、「これはAメロにしよう」「こっちはBメロに……」というふうに整理していきました。で、それをPro Toolsで組み立てたデモを、プロデューサーのINAさんに送ってブラッシュアップしてもらうという手順です。

ーー今作も、非常に印象的でかっこいいリフが多いですよね。あとすごくブルージーというか、ブルースが基軸にある曲が多いなと思いました。その辺りは意識しましたか?

JUON:例えばLenny Kravitzの「Are You Gonna Go My Way」のような、いわゆるロックの黄金リフ……特にギターのカッコよさみたいなものは、ちゃんと残したいなと思いましたね。頭の中でいつまでもリピートしてしまうような、そんなフレーズをふんだんに入れたかったので、その辺りはINAさんにもたくさん協力してもらいました。

ーープロデューサーのINAさんとの作業はいかがでしたか?

JUON:INAさんとの付き合いはもう長いのですが、今回はレコーディング中に著書である『君のいない世界:hideと過ごした2486日間の軌跡』を頂いたんです。hideさんの全ての楽曲を手がけたINAさんが、その制作に関するエピソードを詳細に記した本で。「これは今、読まなければ!」と思って1日で読破したんですけど、そうしたら疑似体験というか、自分自身がhideさんになってINAさんと作業しているような、不思議な感覚になったのがとても印象に残っていますね。

「フレー」は今この瞬間だからこそ書けた
ーーアルバムの中では、やはり「フレー」の歌詞がとても心に響きました。亡くなったお母さんのことがテーマでありながら、誰もが共感しうる普遍的な内容に仕上がっていますよね。

JUON:こんなことを言ったらおこがましいんですけど、自分と同じような辛さや悲しみを抱えている人たちにとっても、この曲が応援歌になったらいいなと。寂しい気持ちを少しでも紛らわせることの出来る曲になったらいいなと思って作りました。作詞・作曲共に、美和ちゃん(吉田美和/DREAMS COME TRUE)に相談相手にもなってもらい、制作しました。

ーー具体的にはどんなアドバイスをもらいましたか?

JUON:ちょっと感情が入り込み過ぎてしまったときとか、「JUONが歌いたいことって、本当はこういうことなんじゃない?」みたいな感じで、的確に指摘してくれるんです。僕自身よりも僕のことを分かってくれているというか(笑)。「この言い回しだと分かりづらいから、この1行はもう一度書き直してみて」「この部分はすごくいいから、後半でもう一回繰り返してみたら?」みたいな感じで、ずっとやり取りしてくれました。

ーーある意味、もう一人のプロデューサーみたいな感じですね。

JUON:そうなんですよ。普段からお互いの音楽について、色々と言い合ったりしているのですが、こと「フレー」に関しては彼女がいなかったら完成していなかったと思います。心からリスペクトしている存在ですね。

JUON -「フレー」(LIVE ver.) 東京EX THEATER ROPPONGI
ーー先ほど、「真っ暗な状態はまだ続いている」とおっしゃっていましたが、「フレー」を書き上げたことで少しは気持ちが安らいだりしていないですか?

JUON:書き上げたばかりの時は安らいだつもりでいたんですけど、実は安らいでなかったのかもしれませんね。おそらく、完全に安らぐことはこの先もないのかもしれない。ただ、いっときの安らぎがあるのとないのでは全然違うというか、それが音楽の力なんじゃないかと思いますね。それに、表現者としての立場で言えば、こんな経験は人生で一度しかなくて、この曲は今この瞬間だからこそ書けたわけで。そういう意味では、天国にいる母からの「ギフト」なんじゃないかっていう気さえするんです。母の死と引き換えに曲が生まれるなんて、音楽やアートというのは善悪を超えた、本当に凄まじい力を持っているんだなと思っています。

ーー今のお話を聞いていて思ったのは、3.11以降に多くの人たちが抱えるようになった喪失感のことです。それをどうやって埋めるか、どうやって乗り越えていくかが大きな課題だったと思うんですけど、あれから7年が過ぎて「乗り越えられないものを、無理に乗り越えなくてもいいんじゃないか」「喪失感を抱えたまま生きていたっていいんじゃないか」という風に、個人的には思うところがあって、それが今のお話ともちょっと繋がったような気がします。

JUON:ああ、確かにそうかもしれませんね。

ーー音楽というのは、その埋められない喪失感をいっときだけでも忘れさせてくれたり、少しだけ癒してくれたりするからこそ、かけがえのないものなんだなって思いました。

JUON:僕もそう思います。

ーー今回、歌の表現力も格段に上がったと思うのですが、ご自身ではいかがでしょう?

JUON:それも、「フレー」以降で確実に変わりましたね。日本語の歌詞に自分の感情をどう乗せて、どうやって歌ったらいいのか? ということを今まで以上に考えるようになったので。そこで得たものはかなり大きかったなと思っています。

ーー自分自身と深く向き合った2ndアルバム『HOPE IN BLACK』を作り終えて、今後はどんな方向へ向かっていきたいですか?

JUON:11月9日からアルバムを引っさげたワンマンツアーがあるんですけど、これが今の自分の集大成的な内容になると思うんです。『HOPE IN BLACK』の楽曲たちを中心にした素晴らしい最高のセットリストを組んで、自分にしかできない空気感ですごくハッピーになれる空間を作りたい。それを無事にやり終えたら、きっと次の展開が見えてくると思うので、その時を自分でも楽しみにしています。(黒田隆憲)