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明治座『本日も休診』柄本明×花總まりインタビュー「試行錯誤しながら夫婦像を見つけましょう」

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インタビュー

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柄本明×花總まり  撮影:川野結李歌

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地域医療に生涯を捧げた医師にして作家の見川鯛山(1916〜2005)によるエッセイ『田舎医者』シリーズを原作にした、明治座『本日も休診』の立ち稽古が始まった。昭和40年代の栃木県・那須高原にある診療所を舞台に、「本日休診」の札を出しては趣味の釣りに精を出す鯛山とその妻テル子を中心に、彼らを取り巻く個性豊かな村人らの交流がユーモラスに描かれる。製作発表記者会見後に行われたインタビューで、主人公・鯛山役を務める柄本明とテル子役の花總まりに現在進行形の想いを尋ねた。

登場人物のキャラクター性が立った、おもしろくもあたたかい舞台作品に

──先ほどの製作発表で、柄本さんが「この原作を舞台化できれば」と明治座に提案されたとおっしゃっていました。

柄本 那須に知り合いのお宅があって、そちらへ何度か足を運ぶうちに見川先生が書いたエッセイの存在を知りました。読んでみたら、すごくおもしろくてね。先生ご自身はお医者さんですが獅子文六さんのお弟子さんでもあって、そのあたりから執筆を始められたそうです。最初はお医者さんが読む雑誌にエッセイを載せていたみたいですね。それが「おもしろい」となって書籍化されたんじゃなかったかな。知る人ぞ知る方で、絶版になっている単行本もあったりして。

──その原作をもとに、舞台版の脚本は水谷龍二さんが書かれました。柄本さんは何かオーダーされたんでしょうか?

柄本 いや、特にしなかったですね。見川先生のエッセイって、ご自分で「便所文学だ」とおっしゃるほど一編が短いんですよ。トイレで用を足すついでに、1エピソードずつ手軽に読み進められる。その短編エッセイを二幕ものの長い舞台作品にすることに、水谷さんは苦労なさったと思いますね。それにエッセイには村人たちのエピソードは書かれていても、鯛山先生やテル子さんはそれほど登場しないんですよ。原作に書かれていないキャラクターの描写も大変だったんじゃないでしょうか。

花總 私も原作を拝読しようと思ったんですが、「読まなくていい」と言われまして(苦笑)。原作にあんまり出てこないから「頼りにしなくても大丈夫ですよ」といちばん最初におうかがいしたんです。これまで歴史上に実在した人物を演じる時は資料にあたってきたんですが、今回は台本に書かれているセリフをもとに役をつくっていく方が軸になる気がしています。

──完成した台本をお読みになって、おふたりはどのように感じましたか?

柄本 演出のラサール石井さんも手を入れてくださって、いいホンができたんじゃないかと思います。それぞれのキャラクターがきちんと立っていてね。

花總 本当にそうですね。村の人たちも含めた「群像劇」として楽しい舞台になる予感がしています。チラシを見ても、ゆったりと温かみのある作品だということが伝わってくるんですよね。それって鯛山先生のお人柄もあったんだろうな、って。彼を取り囲む那須の方々のおもしろくもあたたかい、昭和40年代を一生懸命に生きてきた人たちの物語をお届けしたいですね。

信頼関係が基盤にある「同窓会」メンバーの“阿吽の呼吸”がうらやましい

──鯛山先生は、故人の森繁久彌さんも演じられていたとか。柄本さんも挑戦してみたかったんでしょうか?

柄本 NHKラジオの『日曜名作座』とTBSで流れていた朗読を何度か聴いてました。自分から声高に「見川鯛山を演じたい」と言ったわけではないんですが、企画した手前、そういう流れが来たんじゃないでしょうか。いいお話ですからね、この役をやらせていただけることは光栄です。

──実在した鯛山先生はどういった人物だったと柄本さんは受け止めていらっしゃいますか?

柄本 エッセイでは自らを「山医者」と呼んで、患者が来ないヤブ医者と自虐するんです。登場する村人もアクの強い方ばかりでね(苦笑)。でも人間を俯瞰する視線は「性善説」に基づいている。自他ともに「どうしようもない奴」「女ったらしでスケベで、ろくでなしだ」とこき下ろす一方で、根底に流れている空気は非常にあたたかいといいますか。

──憎めない方だったんでしょうか?

柄本 少しエッチなお話もあったりして、大らかな方だったんじゃないかな。とにかく「人間はどうしようもない存在だけど、なんとかなる。大丈夫」って台本です。昔なじみの村人たちとも、互いに悪口を言いながら信頼し合っているんですよね。

──劇中の鯛山先生を取り巻く村人たちとの関係は、製作発表で柄本さんが「同窓会のような作品になりそう」とおっしゃっていた通り、古くからの戦友である笹野高史さん、佐藤B作さん、ベンガルさんとの仲とも通じるところがありそうだと思いました。花總さんは稽古場で、皆さんをどのように見つめていらっしゃいますか?

花總 お互いに対する信頼関係が基盤にあるからこそ、できるお稽古なんだろうな……とうらやましく思いながら皆さんを観察させてもらっています。皆さんご自分で役を深めていくのはもちろん、アイディアを稽古場でどんどん出されるんですよ。まさしく“阿吽の呼吸”で自由にやっていて。暗黙のうちに働きかけて、おもしろいことを「やらせ合っている」ような。

柄本 とか言いながら、本当は仲悪いんですよ?

花總 ふふふ(笑)。自由気ままにセッションする中で、最終的には絶対「いいものになる」って確信していらっしゃるのがわかるんです。何十年という歴史の中でお互いの長所も短所もすべて知り、信頼関係を培ったからこそ阿吽の呼吸でいろいろ実験できる。

柄本 互いに「いつどこでハシゴを外してやろうか」ともくろんでいますよ(笑)

花總 そのタイミングすらも、どこかでわかっているんですよね(笑)。稽古である程度の形はつくっておいて、本番は「自由にやろうな」みたいな空気を、言わずともお互い察していらっしゃるような。だから幕が上がったら毎日変わっていくんだろうな、って。アドリブが飛び交う、楽しい作品になる予感がいまからすでにしています。

我々は夫婦探しの旅に出たんじゃないでしょうか

──花總さんは大地真央さんとの掛け合いが楽しかったコメディ『おかしな二人』に続いて、2度目のストレートプレイですね。前回で何を掴み、この現場に臨んでいらっしゃいますか?

花總 前回と『本日も休診』は世界観の異なる作品ですし、ご一緒させていただく皆さんも大地さんとは違った魅力を放っている先輩ばかりです。「2度目だから」と驕ることなく、新しい勉強をしながら自分の“引き出し”を増やす感覚で取り組みたいと思っています。体でいろんなことを吸収していきたいですね。

──ミュージカルを主戦場にされてきた花總さんにとって、ストレートプレイは歌とダンスという“武器”が封じられている……という感覚になることはありませんか?

花總 ないですね。ストレートプレイは、思い描いたイメージをそのまま形にできる楽しさがあります。“私”という素材を活かしやすいといいますか、日常の姿に近い状態で感じたままに演じられる。歌やダンスのあるミュージカルは、どちらかというと声の出し方といった“技術”を強く意識しているような気がします。

──テル子の人物像をどのように受け止めていらっしゃいますか?

花總 鯛山先生が大好きで、駆け落ちして那須にやって来た女性ですよね。正義感が強くて少しおっちょこちょい、というベースにどんな風に肉付けしていこうかな、と考えているところです。でも、私のお芝居がベテランの皆さんにどう映るか……とにかく一生懸命やるしかないんですけど、それが不安で。「やりづらいと思われていたらどうしよう!」って。

柄本 探しながらつくっていきましょうよ。私たちは夫婦役ですから、稽古場で時間を重ねる中でどういうふたりになるか。稽古場から本番まで含めて、我々は夫婦探しの旅に出るんじゃないでしょうか。一日ずつを積み重ねたら、どうなっていくのか。まだ稽古も序盤ですが、がんばっていきたいですね。

花總 ありがとうございます、本当にそうですよね。私も柄本さんとの夫婦像を見つけていきたいです。

柄本 時間を重ねて試行錯誤すれば、必ず何か生まれますから。そういったことを大事にしながら、夫婦像を楽しくつくっていけたらいいですね。

花總 はい!どうぞよろしくお願いいたします。

取材・文:岡山朋代 撮影:川野結李歌

『本日も休診』
2021年11月12日(金)~2021年11月28日(日)
会場:東京・明治座
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2180262

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