岡田将生、32歳の本心「まだまだ足りない。欲深くありたいです」
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岡田将生 撮影:MISUMI
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岡田将生は、よく笑う人だった。
撮影の合間、カメラマンが着ていたシャツに、「同じの、持ってます」と屈託なく話しかける。普段テレビで見るときと印象は何も変わらない。壁がなくて、飾り気がなくて、周りの心をなごやかにしてくれる人。
でも、本人は自身のことを「欲深い」と言う。「欲」なんて言葉とは無縁そうな岡田将生の「欲望」とは――。
いろんな人に自分というものを知ってもらいたい欲がある
今年の岡田将生は、一段と精力的に活動し続けている。『さんかく窓の外側は夜』『Arc アーク』『ドライブ・マイ・カー』『CUBE 一度入ったら、最後』と映画が立て続けに公開。ドラマも“しんしん”役が好評だった『大豆田とわ子と三人の元夫』のほか、『書けないッ!?〜脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活〜』、そして『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』にもゲスト出演。さらに、夏に『物語なき、この世界。』で主演舞台を務めたと思いきや、12月にも主演舞台『ガラスの動物園』が控える。
野心的とも言える出演作品の数々。岡田将生の役者としてのアンテナはいつも何に反応しているのだろうか。
「あんまりひとつのところにとどまらず、いろんなことに挑戦したいというのが前提にあって。その上で心が動くのは、やっぱり人。監督であったり、共演者の方であったり、この人と一緒にものづくりをしてみたいという欲が、やりたいことを選ぶときの基準になっています」
『さんかく窓の外側は夜』では森ガキ侑大、『Arc アーク』では石川慶、『ドライブ・マイ・カー』では濱口竜介、『CUBE 一度入ったら、最後』では清水康彦と、ここ最近は30〜40代前半の比較的若い監督と組むことが多かった。
「世代が近い分、感じているポイントが少し似ている部分もあったりして。そうやって現場で監督と意思疎通がとれていくことで、キャラクターも含めて、作品の質が少し上がっていくような感覚はありました。
でもそうすると、今度はまたベテランの監督とやりたいなという気持ちも湧いてきて。いろんな現場を踏むことによって、いろんな人に自分というものを知ってもらいたいっていう欲望があるんです。
そのためにももっといろんな役がやりたい。観てくれた人がクズだなと思う役でも、僕は役者としてやっているだけだから気にならない。それよりもいろんな役をやって、いろんな現場を踏んで、人間力を上げていきたいです」
もっと自分から動いていいんだ。韓国チームが教えてくれた映画への向き合い方
そんな欲をぶつけたのが、11月19日公開の映画『聖地X』だ。41歳の入江悠監督とのクリエイションもまた岡田将生の役者としての欲を大いに刺激した。
「1ヶ月間、韓国でロケだったこともあり、入江監督と一緒にご飯を食べたりお酒を飲んだりする時間が少なからずあって。そこでよく映画に関する話になったんですけど、監督のおっしゃる映画づくりの想いに、僕自身、同調することがいくつもありました。
それは現場のつくり方もそうなんですけど、たとえばこういう宣伝活動もそうで。多くの人に観てもらうためだったら、時間に限りがある中でも全力で全部やりたいということを監督はおっしゃっていて。それは僕もよくわかるし。
今、監督の『シュシュシュの娘』という映画が上映されていますが、コロナ禍で映画業界が沈む中、少しでもミニシアターを盛り上げようと、このタイミングで自主映画をやられるところにも映画に対する愛を感じました。僕自身、同じ想いがあるので、今後監督とはそういう話もできたらいいなと思っています」
『聖地X』は、全編韓国オールロケ、さらに日韓融合チームによって制作された。今、アジア映画の先頭を行く韓国のものづくりにふれられたことも、岡田将生にとっては得がたい経験だった。
「韓国の皆さんはすごく真面目で、オンとオフの切り替えがすごく上手な印象でした。撮影スケジュールは、週休2日。万全な状態で撮影に臨める状況をつくっているのが素晴らしいなと。
日本だと、僕が10代20代のときは朝までやって、2時間後にまた撮影というスケジュールがよくあったので。体力的にも精神的にも削られていく撮影スタイルがいいように働くときもあれば、まったくプラスに働かない瞬間もあったりして。それで後悔して終わってしまうことも昔はよくありました。そこから考えると韓国の環境はつくり手としては望ましいなと思いました」
また、韓国チームの主体的なものづくりの姿勢にも感化されるものがあったという。
「ラストの方で少しだけアクションシーンがあるんですけど、アクションチームのみなさんがこういうふうに撮りたいんだというアイデアを監督にどんどん提示していて。映画のために自主的に動く姿が素敵だったし、自分ももっとアイデアを出して、いいものにしていこうという気持ちにさせられた。韓国チームからは、改めて映画に対する向き合い方を教えてもらった気がします」
欲望を持つことは、いいことだと思う
現在32歳。キャリアと共に、出演作を絞っていく俳優も多い中、岡田将生は30代を迎えて一層エネルギッシュになっている感すらある。
「わりとずっと働いていたいタイプなんです(笑)。20代の頃はとにかくいろんな現場に行こうという一心で。30代になってからはひとつずつ丁寧にやりたいっていう気持ちもあるんですが、なんかまだもうちょっと足りないなあというのがあって。やっぱりいろんな現場を踏みたいなって思ってしまうんです」
これだけ充実した実績を積みながら、岡田将生の飢餓感はまだ満たされていないのだという。
「恥ずかしいですけど、なんかもうちょっとこう、認めてもらえるように頑張ろうっていうのがあるんですよね」
そう照れ臭そうにはにかむ。主演作品は多数。助演でもしっかり存在感を残し、はた目からは俳優として確かなものを手に入れているように見えるのに、本人は「もうちょっとほしいですね」と欲を隠さない。
「自分と同世代のみなさんが頑張っている姿を見ていると、なんか奮い立たされるというか。もっと頑張らなきゃって思わせてくれる人たちがたくさんいらっしゃるからこそ欲は尽きない。そして、自分も周りからそう思ってもらえる存在でありたいなという気持ちは、年々大きくなっている気がします」
そう言って、真っ先に名前を挙げたのは、盟友・松坂桃李だ。
「やっぱりすごく素敵ですし、素敵な芝居をされているので、自分も良い芝居をしよう、いい作品に関わろうという気持ちになります。プライベートではダラダラいろんな話ができる相手。くだらないことも、来年はこういう年にしたいんだよねという目標も話せる、いい仲間です」
ウィズコロナの時代、改めて、人と人とのつながりを大事にしたいと思った
「欲深い」という言葉は、時にネガティブな印象を与えかねないフレーズだ。だが、岡田将生ははっきりと言う、「僕は欲深い」と。
「たぶん欲深くないと、この仕事なんかできないと思う。欲まみれになっちゃうのは良くないと思いますけど。欲望を持つことはいいことなんじゃないかなと思います」
善人も、悪人も、市井の人も、多種多様な役を演じられる俳優になる。その欲に、際限はない。
では、俳優ではなく、ただのひとりの男として、今いちばん欲をかられるものはなんだろうか。最後にそう尋ねてみると、岡田将生は子どもみたいに顔を輝かせて、こう話し出した。
「やっぱり人と会いたいですね。緊急事態宣言があけて、もちろんこれからも感染対策は必要だけど、ウィズコロナと呼ばれる時代を生きて、改めて人と人とのつながりを大事にしたいと思いました。」
そう笑う岡田将生は、やっぱり壁がなくて、飾り気がなくて、周りの心をなごやかにしてくれる人だった。決して満たされることない欲望を抱き、岡田将生は一意専心に役者の道を生きていく。
撮影/MISUMI、取材・文/横川良明
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