ディズニー最新作『ミラベルと魔法だらけの家』が描く“新たなヒロイン像”
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『ミラベルと魔法だらけの家』 (C)2021 Disney. All Rights Reserved.
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すべて見るディズニー・アニメーション・スタジオの最新作『ミラベルと魔法だらけの家』が日本でも公開をスタートし、大ヒットを記録している。ディズニーは様々なタイプの主人公を描き、その内面やドラマは時代と共に変化・進化してきたが、本作の主人公ミラベルはこれまでのディズニー・ヒロインにはない魅力を備えている。
映画の舞台はコロンビアの山奥にある不思議な力に包まれた場所。そこには魔法の力をもつ大家族マドリガル家が暮らしているが、主人公のミラベルにはなぜか魔法の力が備わっていない。ある日、彼女は家に亀裂が入り、この家から魔法の力を消える前兆を見つけてしまう。
これまでの多くのディズニー作品では主人公が何らかの問題や足りない部分を抱えていて、作品を通じて問題を解決し、成長し、足りないもの、欲しかったものを手に入れてきた。多くのディズニー作品の冒頭では主人公が自分が何を求めているか歌い、それらは“I want”ソングと称される。
ミラベルもまた、自分の人生に何らかの不足や負い目を感じている。家族はみな、花々を咲かせる魔法で人々を幸福にしたり、食べ物でどんな傷もいやしてしまう能力を持っていたりするのに、ミラベルには不思議な力がないからだ。彼女はそれでも自分はマドリガル家の一員だと胸をはるが、心の中では“魔法がない分、何か埋め合わせをしなければ”と感じている。彼女はいつも笑ってはいるけれど、本当は変わりたい。
映画ではマドリガル家と彼らの住む家に危機が訪れ、ミラベルは一家から魔法の力が消えないよう奔走する。まるで意思を持ったかのように動く不思議な魔法の家は、観客の想像以上に様々な空間を擁しており、ミラベルは広大な魔法の家のあちこちで大冒険を繰り広げる。
通常の映画であれば、この冒険を通じて彼女が成長し、何らかの能力を手に入れるか、新たな気づきを得る。しかし、本作ではミラベルも家族も大きくは成長しない。彼らはこの物語を通じて、相手に対する見方をほんの少しだけ変えて、家族の新たな側面に気づく。この従来の固定化した見方ではない“ほんの少しの視点の変化”が本作の最大のポイントだ。
監督を務めたバイロン・ハワードは「相手のことを知っていると思い込んだり、知っている気でいたのに実は表面しか見ていなくて相手のことを深く理解していなかった、ということが本作のテーマになっています。相手を敵だと思っている場合でも、実は相手のことをちゃんと理解できていないだけだったということがあります。時間をかけてお互いをよく見て、余計なイメージや思い込みを外して理解することができれば、私たちはお互いが思ったよりも近い存在だとわかると思うし、自分はひとりじゃないんだと思えると思います」と語る。
そこで重要になるのが、魔法はないけれど、いつも家族の中にいて、家族のことを気にかけている主人公ミラベルだ。
「この映画ではミラベルが行動することで、家族それぞれの視点や気持ちが変化していく。彼女の存在がそのきっかけになる。ミラベルは魔法を持っていない。でも、そんな彼女が一番の魔法を持っているんです」(ハワード監督)
ミラベルはこれまでのディズニーヒロインのように大きく成長したり、実は“選ばれし者”だった、ということがない。彼女はこれまでのディズニー作品にいそうでいなかった“誰かと誰かの間に立つ”ことで輝く、人と人の変化の“きっかけ”をつくりだすヒロインだ。
少し夢のない話をすると、私もあなたもおそらくは“選ばれし者”ではない。魔法も使えない。毎日少しずつは努力しているけれど、映画の主人公みたいに派手に成長したり変化することもなさそうだ。でも、あなたがそのグループにいることで、友達同士がさらに仲良くなったり、家族の距離が少し近づいたり、仕事がスムーズに進んでいるかもしれない。それは言葉では説明できない魔法のようなことで、多くの場合、当の本人は自分がしたことに気づいていない。
『ミラベルと魔法だらけの家』の主人公ミラベルは、ジャレド・ブッシュ監督いわく「私たち全員の代表」だ。そんな彼女は映画の中でこれまでのディズニー作品ではあまり描かれなかった“ミラクル”を起こす。そしてそれは“選ばれし者”でも魔法使いでもない我々にも起こすことのできるミラクルだ。
本作の主人公ミラベルはこれまでディズニー作品の主人公と同じぐらい長きに渡って愛され続けることになるだろう。
『ミラベルと魔法だらけの家』
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