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ぴあ 総合TOP > 「一」に安蘭、「二」に石丸、「三」に日澤。演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『蜘蛛女のキス』 【ネタバレあり】

「一」に安蘭、「二」に石丸、「三」に日澤。演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『蜘蛛女のキス』 【ネタバレあり】

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中央)安蘭けい 右奥)石丸幹二  撮影:渡部孝弘

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「愛」と「死」の物語。それが『蜘蛛女のキス』。日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)が初めてミュージカルを演出した。

登場する役の蜘蛛女は「死」の象徴で、キスをされた者は死に到る。囚人である政治犯バレンティンが求めるのは自由と「愛」。市民のために闘い、恋人マルタとの再会を果たしたい。映画が大好きな同性愛者モリーナは服役して3年目。自由の身となり母の愛に抱かれたい。

1幕の冒頭、立ち姿の2人が舞台に並んだ。下手に蜘蛛女、上手にモリーナ。その全身に照明のピンスポットが当たる。交差する二筋の光。「死」と「愛」が一点で混じる、象徴的で胸を打つシーンだった。

安蘭けいが蜘蛛女と、モリーナの幻想に出てくる女優オーロラを演じた。オーロラはモリーナの夢、そして美の象徴だという。黒いドレスの蜘蛛女、白の燕尾服で歌うオーロラ。多彩な方法で操る日澤の演出によって安蘭は魅力的。色気というより、キュート。こんな蜘蛛女に唇を重ねられたら男冥利―とさえ惑わされた。

安蘭けい
中央)安蘭けい

差別の中で生きてきたモリーナを石丸幹二は発声を替え、怒り、孤独といった感情を細かく表現する。バレンティンとのベッドシーン、命を懸けた約束を守って頭を撃ち抜かれる最期。ここで忘れてはいけないのは、時代背景が横暴な権力がまかり通っている混乱の世界であること。バレンティンの相葉裕樹(村井良大とダブルキャスト)、モリーナの母の香寿たつき、マルタの小南満佑子、そしてモリーナの4人で歌った「愛しい人」、オーロラとマルタの「愛は奇跡」、そして安蘭による主題歌「蜘蛛女のキス」がなんとも印象的だった。「一」に安蘭、「二」に石丸、「三」に日澤。その演出は娯楽性、エンターテイメント性を色濃くして主人公3人の構図をクッキリと造形させた。

左)石丸幹二 右)安蘭けい

さて、付録ー。

観劇した11月30日。スペシャルアフタートークがあった。進行役の日澤、安蘭、石丸の3人。石丸はモリーナの守り人形の名が「ケメ子」、役作りのイメージは若き日の美輪明宏、安蘭は大階段の上で「エリザベート」のトートのような存在として演じているそうだ。楽しめる30分のミニイベントだった。

プロフィール

大島幸久(おおしま・ゆきひさ)

東京都生まれ。団塊の世代。演劇ジャーナリスト。スポーツ報知で演劇を長く取材。現代演劇、新劇、宝塚歌劇、ミュージカル、歌舞伎、日本舞踊。何でも見ます。著書には『名優の食卓』(演劇出版社)など。鶴屋南北戯曲賞、芸術祭などの選考委員を歴任。「毎日が劇場通い」という。

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