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「M-1グランプリ2021」に8つのユニットで出場した男・ヤマト、その理由を聞いてみた

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ナタリー

ヤマト

「M-1グランプリ2021」に8つのユニットで出場したピン芸人がいる。その男の名はヤマト。今年3月までコンビ・ガッツマン(ゴールデンエイジから2019年9月に改名)として活動しており、2020年の「M-1」では準々決勝まで進出した実力者だ。

そんな彼は、ピン芸人となって初めて挑む今年の「M-1」1回戦に相方を変えながら8度登場。日程が進むにつれ、一部のお笑いファンや大会スタッフは「またヤマトがいる」とザワつき始めた。彼がさらに注目されたきっかけは、8つのうち5つのユニットで1回戦を突破したこと。1回戦の合格率は約20%のため、1人で5回も合格するのは並大抵のことではない。

ヤマトはなぜこんなにも多くのユニットを組んで「M-1」に臨んだのか。どうやって8組分のネタ作成や練習を同時並行でこなしていたのか。「夢は決勝で8ステ。最終決戦も入れて11ステ」という冗談なのか本気なのかわからない目標を公言している本人に話を聞いた。

取材・文 / 塚越嵩大

10年続けたコンビの解散

「『M-1』に8つのユニットで出場することで目立とうとしていると思われるんじゃないかという懸念はありました。でも、それ以上に『面白いネタが8組分できちゃったんだからしょうがないじゃん!』という思いが強かったです」

ヤマトは今回のインタビューで、8つのユニットでの「M-1」出場は決して賑やかしではないことを強調した。8組分の“面白いネタ”ができるのは、いろいろな要因が重なった必然だったのかもしれない。

2010年にワタナベコメディスクールに13期生として入学したヤマトは、たっぷり藤原とのコンビ・ゴールデンエイジを結成。「ワタナベお笑いNo.1決定戦」や「お笑いハーベスト大賞」といった大会の決勝に進出する活躍を見せたが、「M-1」決勝進出の壁は高く、2020年の春頃には2人の間に解散しそうな雰囲気が漂っていた。

「『もう無理かもしれない』と諦めかけている相方に対して、『いやいや大丈夫だって!』と言いながら騙しだましやっているうちにコロナ禍に入っちゃって、ライブもネタ合わせの回数も激減していったんです。そんな中で挑んだ2020年の『M-1グランプリ』では皮肉にも初めて準々決勝まで勝ち進めたんですよ。『足並みそろってないときのほうがいい結果出るんかい!』とは思いつつ、やっぱり準決勝の壁は高くて……。この状態でさらに上には進むのは無理かもしれないと思って、年末には相方の辞めたいという言葉を受け入れることにしました」

2人は今年1月に解散を決意し、さまざまな事情もあって解散発表は3月末になった。

「その3カ月間は、コンビ間での活動は停止しているけど、次に向けた活動も表立ってできない期間でむず痒かったです。やりたいネタのアイデアはどんどん思い浮かぶのに……。でも、すぐに新しい相方を見つけるのも勇み足すぎるかなと思っていました。何よりもガッツマンは10年間やってきたコンビなので、そんなにすぐに新しいコンビを組む気にはなれませんでした。そこで、とりあえずお試しで、周りにいる芸人に声をかけてユニットを組んでみることにしたんです」

ヤマトはまず、ボケとツッコミが2人ずついる4人漫才のアイデアを形にすることにした。芸人仲間の大崎、堀之内大輔、すがちゃん最高No.1に声をかけてユニットライブ「4WD」を4月に開催し、そこで初めて4人漫才を披露。これがユニットを増産していく第一歩となった。

「10年間やってきたコンビを解散したんだから、今までやってなかったことをやりたいなと思っていたときに『人数を無駄遣いしてる漫才が面白いかも』というアイデアが浮かんで、そこからすぐに4人用のネタを仕上げていきました。実際のライブでは正直あまりウケなかったんですけど(笑)。やっている自分たちは面白いと思ったし、何より楽しかったので、この方向を突き詰めていこうかなと思い始めたんです」

それからヤマトは思いついたさまざまなアイデアを実行すべく、芸人たちに声をかけていく。

「正式なコンビでもユニットでも、なんとなく1組に集中したほうが面白いものができるんじゃないかという風潮がありますけど、それって本当なのかなと思って。常識に囚われるのではなくて、むしろ変なほうに振り切ってみようと考えて、ユニットも大袈裟にいっぱい組んでみることにしました」

1日に5人とネタ合わせ

ヤマトは同じワタナベエンターテインメントに所属するマービンJr.、みんなのたかみち、ワタリ119、いおり、こたけ正義感ら、そして芸人ではない実の弟に声をかけてユニットを結成。ユニットネタを披露する単独ライブ「ヤマト最終形態」を5月30日に開催することにした。1日に複数人とネタ合わせをする日々が始まり、とある日には5人とネタ合わせをしたという信じ難いスケジュールをTwitterで報告している。

「アルバイトもしているので、ネタ合わせの予定は空いた日に一気に入れないといけないんです。1日に5人が集中する日もあって、大変そうに思われるかもしれないですけど、芸人は集まるとおしゃべりが始まっちゃうので、めちゃめちゃ練習をする感じではない。なのでヘロヘロになったりはしなかったです。むしろいいと思ったのが、ネタ制作に行き詰まったとき『次のコンビ!』って脳を切り替えられること。コンビが固定されていないことによって根詰める時間が減るんです。一番大変だったのはスケジュール調整かもしれません」

そして迎えた単独ライブ当日。2日前にヤマトの喉にポリープができるというトラブルもあったが、薬の力でなんとか声も出るように。客席や芸人仲間の反応もよく、次なる目標ができた。

「MCをしてくださった先輩・八田荘の鈴木さんにも『これはすごい。全部面白かった』と言ってもらえて、手応えはバッチリでした。これで終わりにするのはもったいなさすぎるという思いが芽生えてきて、ユニットで『M-1』にエントリーしようと決めたんです」

いざ「M-1」へ!

大崎とのコンビ「ストロングマン」が事務所ライブで優勝したり、いおりとの「Hi TEENS」、大崎、堀之内との「エネルギッシュ」、こたけ正義感との「ブルーマウンテン」がバトルライブで3組同時に入賞したり、ヤマトのユニットはそれぞれが着実に仕上がっていった。そんな中で迎えた「M-1」1回戦、ヤマトは「たくさんのユニットで出ること自体がボケとは思われたくない」と考えていたという。そこには「自分たちはネタがちゃんと面白い」というプライドがあった。

「実際の大会では、同じ人が何回も出ていると気付かれないように、ネクタイの色を変えたりしてカモフラージュしていました。8組全部、僕の衣装がちょっとずつ違うんです。でもすぐにバレました。大会に密着してるカメラマンさんに『何回出るんだよ!』って(笑)。8月だけで1回戦に5回出てますからね。改めて見ると相当キモい。でも本気なので、8回の出番はすべて緊張しました」

ヤマトは「むさし野」「ストロングマン」「Hi TEENS」「ブルーマウンテン」「東ニホンズ」の5組で1回戦を突破。特にいおりとのコンビ・Hi TEENSはその日の第3位に選ばれるほどの高評価だった。

「Hi TEENSの3位は本当にビックリしました。単独ライブのときに八田荘・鈴木さんがポツリと『いおりかもな。面白い』と言っていて、観客からもHi TEENSが面白かったという声が多かったんですけど、僕の中ではピンときていなかったんです。ほかのユニットは大声で会場を巻き込みながらガンガン笑いをとりにいくタイプなんですけど、Hi TEENSだけはボケの一発一発がちゃんとウケるかハラハラしながらやるので少し異質。受かるとしてもベスト3に食い込むとは夢にも思わなかったです。でも動画を見返すと、一番変な漫才だし、コンビのコントラストもおかしいし、その新しさを評価してもらえたのかなと思いました」

一方で「チャーリー・マッカーシー」「ヤマト&堀之内」「4WD」は1回戦敗退。チャーリー・マッカーシーはヤマトが実の弟と組んだコンビだ。

「僕と弟は子供の頃から仲が良くて、自分の好きな笑いやノリを一番共有できる相手。大喜利という言葉を知る前からお題に沿ってボケあっていたんです。それもあってか『M-1』では、兄弟感のない、ボケとツッコミの質で勝負するネタをやってしまって普通に落とされました。“素人の弟”という武器をまったく生かしていない。コンビ名も『ヤマト兄弟』とかにすればよかったのに『チャーリー・マッカーシー』。これは昔、VHSに撮って2人で観ていたアニメのキャラクター名で『それをコンビ名にしたら面白いじゃん!』って盛り上がったんですけど、その背景を知らない人にとっては意味不明ですよね。今となっては、俺らはどこで尖っていたんだろうと思います(笑)」

迎えた2回戦、5組で参加するヤマトは会場の浅草・雷5656会館に1週間で5回通った。

「このときには、さすがに予選に慣れてきました。先陣を切ったストロングマンがめちゃめちゃウケて合格したので、そこで緊張もなくなって、会場がまるでホームの劇場のように感じてくるんです。でもその余裕がよくないところまでいっちゃったみたいで、残りの4組は全部落ちました。5組目の『むさし野』なんか、ちゃんとスベりましたからね」

3回戦では、唯一生き残ったストロングマンも敗退した。こうしてヤマトの「M-1グランプリ2021」への挑戦は終了。彼が予選で披露した漫才は最終的に14本となった(1組で参加した場合、1回戦から決勝の最終決戦に進んだとしても披露するのは7本)。

「ストロングマンが2回戦でめちゃめちゃウケたときに『もしかして』と思ったんですけど、そんなに甘くなかったなというのが正直な感想ですね……。今回の『M-1』で学んだのは、前のめりで夢中になっているときほどいい結果が出て、慣れすぎると落ちるということ。そして思いっきりやっている芸人がとにかく強いということ。ランジャタイさんみたいに、本人たちがネタに没入していると観客や審査員も揺さぶられる。逆にちょっとでもビビりながらやっていると面白くなくなるんだなということを強く実感しました」

「どうやったら相方が面白く見えるか」ネタの作り方の変化

ヤマトは『M-1』の期間中、独特な形の漫才を精力的に生み出した。予想もしていなかった化学反応から生まれるアイデアも多く、「自撮り漫才」なる斬新なネタも偶発的に誕生した。

「自撮り漫才は動画ネタライブ用に作ったネタです。ネタの案がないまま撮影用のスタジオだけ予約していて、とりあえず現場に行ったんですよ。そこで『時間がないのでカメラ回しちゃいましょう』ってスマホのカメラを起動したときに、画面から相方のマービンJr.さんを外す面白さに気付きました。面白いものを生み出すときって、その場のノリが大切なんだということはこの1年間で強く思いました」

ユニットを多く経験することで、ネタを作る際の根本的な考え方にも変化があったという。

「コンビ時代は何がウケて何がウケないのかを確かめながら成長している10年で、自分が面白く思われることに必死でした。でもユニットの場合は絶対に『どうやったら相方が面白く見えるか』という部分からネタを考え始めるんです。あとは前説で盛り上げるのが得意だったことも、いい方向に作用しました。相方の変なところを『皆さん、こいつ変ですよね!?』って客席に問いかけるタイプのネタが多くできて、そういうのはけっこう盛り上がるんですよ。コンビ時代は僕が前に出ていましたが、今は相方の変な部分をより広範囲に伝える拡声器のような役割だと思っています」

来年の「M-1」も出場せざるを得ないくらいのものができた

ヤマトは8月に単独ライブ「ヤマト最終形態2」を開催しており、現在は12月21日に実施する「ヤマト最終形態3」に向けて準備を進めている。

「これがね……めちゃめちゃ面白いネタができたんですよ! ヤバいと思います。マジで全組面白くてビックリするんじゃないかと。ユニットネタのクオリティなんてたかが知れてると思っている人にも観ていただいて、『ここまでできるの!?』と驚いてほしいです。今回の『M-1』に参加したユニットのほか、新たなユニットでのネタもたっぷりやります。イヌコネクションさんや八田荘・鈴木さんとのネタは、すでに見てくれた人が『面白い』って絶賛してくれていますし、自分でも来年の『M-1』も出場せざるを得ないくらいのものができたと思っています。1回限りのライブで封印するのはもったいない! 決勝で8ステ、最終決戦も入れて11ステという夢に向かってがんばります」

「解散はつらかったですけど、いろんな人とユニットを組めたおかげで、デビュー当時のワクワク感を取り戻せた気がします。この1年間、特に『M-1』の期間は、楽しいと思うことが本当に多かったんです。『ヤマト最終形態2』が終わったあともめちゃめちゃ手応えがあって、エンドルフィンでキマっちゃってる感じ(笑)。ずっとお笑いをやっていたいなと何度も思いました。こんなにいろんなユニットをやっていると、お笑いの変態と言われることもありますけど、根源にあるのはとにかくネタをやるのが超楽しいという気持ち。『ヤマト最終形態3』も、また『M-1』に出るときも、思う存分楽しみたいです。というか人生楽しみます!」

「M-1グランプリ2021」ではヤマトだけではなく、白桃ピーチよぴぴも6組のユニットで出場し、そのうちの4組で2回戦に進出して話題を呼んだ。おいでやすこがの活躍もあり、ユニットが存在感を増していることは間違いない。彼らが今後の「M-1」、そしてお笑い界にどのような風を吹かせるのか注目だ。

ヤマト

1989年1月13日生まれ、埼玉県出身。ワタナベコメディスクール13期生。たっぷり藤原とのコンビ・ガッツマンで、2016年と2017年に「ワタナベお笑いNo.1決定戦」「あなたが選ぶ!お笑いハーベスト大賞」の決勝に進出した。2021年3月にコンビを解散してからはピン芸人に。同年5月に単独ライブ「ヤマト最終形態」、8月に「ヤマト最終形態2」、12月に「ヤマト最終形態3」を開催。

ヤマト最終形態3

日時:2021年12月21日(火)18:30開場 19:00開演
会場:東京・表参道GROUND
料金:2000円
チケット:TIGETで販売中。
<出演者>
ヤマト
ブチギレ氏原 / 笑撃戦隊・柴田 / クマムシ長谷川 / アユチャンネル / いおり / イヌコネクション / 内間 / ただの大崎 / 八田荘・鈴木 / リンダカラー・デン
MC:ロングロング