Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 岡田将生、倉科カナ、竪山隼太、麻実れいがつくる「やさしい空間」『ガラスの動物園』上演中

岡田将生、倉科カナ、竪山隼太、麻実れいがつくる「やさしい空間」『ガラスの動物園』上演中

ステージ

ニュース

ぴあ

『ガラスの動物園』より 岡田将生(中央手前)、麻実れい(中央後ろ) 写真提供/東宝演劇部

続きを読む

フォトギャラリー(10件)

すべて見る

岡田将生、倉科カナ、竪山隼太、麻実れいの四人芝居『ガラスの動物園』が現在、東京・日比谷シアタークリエにて上演中。12月30日(木)まで上演され、年明け1月6日(木)から福岡、愛知、大阪で巡演される。そのゲネプロレポートをお届けする。

本作は、『欲望という名の電車』『地獄のオルフェウス』などで知られる劇作家テネシー・ウィリアムズの出世作で、1945年にブロードウェイで初演されて以降、世界中で上演され続けてきた名作戯曲のひとつ。作者の投影とも言われるトムの回想で表現される“追憶の芝居”で、1930年代のアメリカ・セントルイスを舞台に、トムが閉塞感を抱えながら家族と過ごした日々や、叶わぬ夢を見続けながらも懸命に生きる家族の姿が浮かび上がる。

日本でもさまざまなカンパニーで上演されてきた作品。今作は上村聡史による新演出となり、家を出ていった父に代わり一家を支えるために倉庫で働くトムを岡田将生、足が不自由なことがコンプレックスとなり極度に内向的な姉ローラを倉科カナ、家族を愛するあまり夢や妄想に支配されてしまう母アマンダを麻実れい、トムの同僚ジムを竪山隼太が演じる。なお、上村と岡田は2019年に上演された『ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~』以来、約2年ぶりのタッグ。

冒頭、「私はこの劇の語り手です」と話すのは現在のトム。タバコを吸い、咳こみ、1930年代のアメリカを自嘲気味に振り返りながら、あの頃の家族の姿を見つめる。食卓を囲むのは母親と姉。母親に呼ばれトムも席につく。お祈りをし、食事が始まると、母親はトムが一口食べる度に「よーく噛むのよ」などと子供のような説教を続け、ローラには「いつ“青年紳士”が来てもいいように」と希望を押し付ける。

“青年紳士”とは、いわゆる“白馬の王子様”といったところ。母親は若い時に「17人の青年紳士が訪ねてきた」という話をうっとりと語り出し、トムとローラは「またか」と目くばせをしながらも聞いてやり、母親はどんどんノッてきて、歌うように語り続ける。その家族の風景はしあわせそうにも見えた。しかし、「それなのに私は父さんを選んでしまった」という一言で、その場は一気に凍りつく。だがこれも何度も繰り返された言葉なのだろう。母親はそのまま何食わぬ顔でローラに夢を託し、トムはそんな姉をそっと気遣う。

母親の子供たちへの期待と依存は重く、トムに対しては、出かける度に「どこへ行くの」と尋ね、読む本にはヒステリックに口を出し、「好きなことがしたいなら、お前の身代わりが見つかるまで認めません」と言い放つ。ローラに対しても、学校に馴染めず行っていないことを知り「あんたにかけた私の夢が消えてしまった」となじり、ローラが自分の足が不自由なことに触れると「それを口にしてはいけない!」と追い詰め、青年紳士の出現を待ち続ける。

トムは爆発しそうになるけれどローラの姿を見るとグッとこらえられるし、ローラはひっそりとガラスの動物園に閉じこもる。観ていて苦しい。なのになぜだろう。その中に時々垣間見える“家族”が愛おしさを誘うのだ。それは、例えば「このシーン」とか「この台詞」というのではなくて、岡田、倉科、そして麻実の些細な仕草から滲み出るものだと感じた。例えばローラとトムのちょっとしたやり取りや、母親に向ける笑顔など、「あ、家族だ」と思わせる。麻実が「トム」と呼ぶだけで身体をこわばらせてしまうのに、その振る舞いに客席からも時々ふふっと笑い声が漏れる。これはトムやローラも感じていることではないだろうかと考えた。麻実が演じることで、母親のいびつな愛情を嫌うことができない。

永遠に同じところを回り続ける家族に転機を迎えさせるのが、竪山演じるジム・オコナー。母親に「ローラに青年紳士を」と懇願されたトムが家に連れてきた同僚で、冒頭の語りではトムはジムのことを「現実世界からの使い」「いつか訪れてくれると待ち望まれた、私たち家族の生きる目標」と話していた。

それまでの家族のシーンで重なっていった澱のようなものに、爽やかな異物が入り込む。実はジムは、ローラが学生時代に憧れていた人物でもある。ローラにとってこの再会は青天の霹靂で、具合が悪くなってしまうが、ジムは少しずつローラの心をほどいていく。ジムと語らうローラは、これまでで一番魅力的で、これまでで一番饒舌で、これまでで一番自由で、とても美しかった。そこから物語は急展開を迎える。

ゲネプロ前の会見で岡田が「僕たち4人でつくる『ガラスの動物園』はとてもやさしい空間になると思います。悲劇的なこともありますが、希望がある作品になるんじゃないかなと思っています」と話していたが、そのやさしさのひとつは、岡田演じるトムの目線だと感じた。物語の中には、ときどき現在のトムがあらわれる。なにかを語る時もあれば、ただそっと見つめている時もある。その見つめる目から滲むものは、渦中にいる時には持てないと思う。現在のトムの存在がこの作品をやさしいものにしているように感じた。

4人が放つ空気のようなものが物語を深め温めていた。それは劇場という狭い空間で、客席にいるから味わえるものだ。ぜひ劇場で体感してほしい。

取材・文:中川實穗 写真提供/東宝演劇部

フォトギャラリー(10件)

すべて見る