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壊れかけのロボットと無気力な青年との心の交流描く 劇団四季ミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』再び東京に

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『ロボット・イン・ザ・ガーデン』東京再演 最終舞台稽古より

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劇団四季のオリジナルミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』が12月22日(水)より東京・自由劇場で開幕する。昨年10月に誕生したばかりの新作で、雑誌『ミュージカル』の「2020年ミュージカル・ベストテン」で作品部門第一位に選ばれた作品が早くも東京に再登場だ。原作はデボラ・インストールが2015年に出版した同名小説だが、来年8月には同小説を原作にした映画『TANG タング』の公開も予定されていることもあり、いっそう注目度が高まっている。

物語は、アンドロイドが家事や仕事を行う近未来のイギリス。両親を事故で亡くしたことで無気力に日々を生きている青年ベンは、ある日、庭に旧式のロボットが迷い込んでいるのを見つける。幼児のように暴れまわり家をひっかきまわすそのロボット・タングを、妻エイミーは捨ててくるように言うが、ベンはなぜかその壊れかけの旧式ロボットに心惹かれてしまう。このままだと近いうちに停止してしまいそうなタングを直すために、ベンは旅に出る――。

旅の中でタングは知識を吸収し雄弁になっていくと同時に、拗ねたり反論したりと、どんどん人間臭くなっていく。一方で、そのタングを通しベンも社会と触れ合い、再生していく。近未来を舞台にしつつ、描かれるのはアナログな心の交流。ロボットを通し、他者との繋がりや、自分の心と向き合うことの大切さをそっと提示し、日常の幸せに気付かせてくれるミュージカル。そして何と言ってもタングの愛らしさが素晴らしい。造形も可愛らしいが、パペティアと呼ばれる操者が2名がかりで操作と台詞・歌を担い、表情も動きも雄弁な“生きたロボット”タングが生まれている。

『ライオンキング』や『リトルマーメイド』など、これまでもパペットを使う作品を数々上演してきている劇団四季だからこそできた演劇的表現だろう。まさに観客は、“無機物に命が吹き込まれる”さまを目の当たりできる。演劇的楽しさに満ちた表現で、地に足のついた普遍的感情が丁寧に紡がれ、観ると、温かなものが胸に広がるミュージカルだ。
本作の脚本は長田育恵、演出は小山ゆうなが手掛けた。演劇界で広く活躍する気鋭のクリエイターたちは、どんな思いで本作と向き合い、また四季での仕事を進めてきたのか。12月21日、最終舞台稽古終了後に長田、小山、劇団四季の吉田智誉樹 代表取締役社長の3人の合同インタビューが行われた。以下、その模様をレポートする。

丁寧に描くことで、日常に潜む“祝福”のようなものを舞台にあげる

――昨年初演されたミュージカルの待望の再演です。非常に評価の高かった初演でしたが、どんなところが評価されたと思いますか。

長田 この作品は、普通の人たちの日常を丁寧に描くことで、そこに潜む“祝福”のようなものを舞台にあげるという、ささやかだけれど普遍的なメッセージが込められている作品だと思います。そのささやかさこそが、今の時代の等身大の人間の感情を描き出していて、登場人物に共感させる力がとても強い。今の時代にフィットする新しいミュージカルだったからこそ評価に繋がったのではないでしょうか。曲も多く、装置も素晴らしく、ロボットも可愛い……と色々と見どころはありますが、大事にしているのはささやかな人間の感情。今回の再演もその方針は変わっていないと思います。

小山 まず、タングをパペットで表現しようという劇団四季さんのアイディアが素晴らしい。そして長田さんのおっしゃった“ささやかな日常”という部分、これは長田さんの脚本が、日常的なのにポエティックな美しい日本語で書かれていることも非常に大きいです。詩的な演劇言語で書かれている長田さんの本を、言葉を大切にされる劇団四季の俳優さんが扱っていくという、全体のバランスがとても良かったと思います。

小山ゆうな

さらに四季のお客さまは、作品を育てていってくださる感じがとてもあって、その力もありどんどん作品が豊かになっていったなと感じています。今日の最終舞台稽古のキャストはほぼ初演時に出ていたメンバーなのですが、これだけロングランをやっているとちょっと飽きてきたりということもありえるのですが、誰ひとりそういうことがなく、どんどん役が深まっている。それは本人たちの努力と、お客さまの力が大きいと思っています。

吉田 今回のクリエイターの布陣の力によって、この作品がここまで愛されたのだと思います。特にこのおふたりは素晴らしい仕事をしてくださいました。感謝しかありません。

吉田智誉樹(劇団四季 代表取締役社長)

――劇団四季とのお仕事で感じた、劇団四季の良さは。

長田 劇団四季で仕事ができて、本当に喜びしかないです。私は大学の時に間違ってミュージカル研究会に入ってしまったことが、自分の舞台との出会いなんです。その時に一番の憧れだったのが劇団四季でした。仕事で関われる日が来るなんてことは……もちろん人生の中でいつかそんな日が来たら嬉しいと思っていましたが遠すぎて考えられず、まずは現代演劇の方で舞台の言葉を磨いたりとか、色々なことをやってきました。そうしたら四季に声をかけていただきまして……。憧れだった四季に一歩踏み入れたら、やっぱり中の人たちひとりひとりが、素晴らしい方たちでした。

外から見ていたら、才能に恵まれた素晴らしい方々の集団だから何でもできるんだと思っていたのですが、キャストだけでなくスタッフに至るまでひとりひとりが絶え間ない努力を続けている、努力の天才みたいな人が集っていました。才能ある方々がさらに努力を続け、なおかつもっと高みを目指そうという推進力があり、さらに舞台にかける情熱がすごい。だからいいものが生まれている。才能ある選ばれし人たちだからすごいのではなく、全員が、主役の人さえも、自分がもっとできることを探し続けている。しかもお互いをリスペクトしあっているという、劇団の強みを初めて知りました。……すみません、熱く語ってしまいました(笑)。

小山 本当ですよね。劇団四季は、日本の演劇界では珍しく“作品ありき”です。これだけ商業的に成功しているミュージカル作品を作っていらっしゃるのに、主役の俳優がすごく目立つということではなく、みんながアンサンブル(一緒)で作品を作っている。全員が常に「作品をどうやって良くするか」を考えているので、なんだか流れている空気が清らかなんです。みんながそこに向かって努力する、しかもその努力が私の考える努力ではなくて(笑)、「そんなに!?」というくらい、時間もエネルギーも注いで作品に向かっている。すごい集団だなと本当に思います。

単なる“可愛いキャラクター”ではないタングの魅力

――長田さんと小山さんは、お互いの仕事をどう見て、そしてどうやりとりをして作り上げていきましたか。

小山 私は古典をやることが多いので、たいていにおいて作家が(すでに)いない。なので今回、同時代の、しかも世代も近くコミュニケーションの取りやすい方でしたので、質問もLINEでどんどんしていました。……コロナ禍でなかなか会えませんでしたので(笑)。長田さんの言葉は実はすごく美しく詩的なのですが、でも日常の言葉になっている。初演の時には気付かなかった素敵さに、今回改めて気付いたこともたくさんあります。言葉が深い。

長田 ありがとうございます。私は劇作家だけを専門としているので、私が仕事するときには必ず演出家との出会いがあり、この世代にしては国内外限らず、多くの演出家と組ませていただいていると思います。その中でもゆうなさんは、その俳優自身が持っている魅力を等身大に役に引き出してくるというところが素敵。だからアンサンブルに至るまで、登場人物が全員生きて、実在感ある人間に出来上がる。舞台上で、その世界を構築する嘘のない人間が表れてくるところがとても好きです。本当に信頼できる演出家です。

長田育恵

――長田さん、タングという存在をどう受け止めて書きましたか。

長田 日本にはもともと鉄腕アトムとかドラえもんといったロボット文化があります。タングはいわゆる“キャラクター”ですが、(アトムやドラえもんのように)最初から感情が補填された可愛いキャラクターとして存在するのではなく、人間が何かを入れたら、それによって方向性が変わる可能性もある未知なる未来を秘めた箱だ、というオープニングから始まります。ベンが旅の過程で何を受け取り、何を感じたかをタングも感じ取り学習していく。

最後に赤ちゃんが生まれた時にタングは「旅をしようね」と言ってあげるのですが、それは、タングにとってベンとの旅がとても楽しく、ベンが旅の出会いの中でどれほど喜んでいたかがわかっているので、タングがあげられる最上級のものが「旅をする」だった。何もないブラックボックスが、どんどん人の営みの美しい部分を取り入れ、最後に家族の一員として生きることを選ぶ。その成長の過程、タングの方向性が決まっていないということが大切なので、ストーリー都合で“可愛い”を担保にタングを動かさないことを本当に注意して書きました。

――タングが見事ですね。あのデザインや動作はどのように生まれたのですか。

小山 タングのパペットデザインとディレクションをしてくれたトビー・オリエさんと、かなり打ち合わせを重ねました。最初はどこを動かすか、もちろん口を動かしたり、どこかを光らせたりすることも出来たのですが、トビーさんの計算で、目の角度が変わることと瞼の開閉を主にするというチョイスになりました。あとはパペティアの力ですね。本当に細やかにやってくれています。目の角度がどのくらいになっているかは操っている俳優からは見えない。手の感覚でしかありません。非常に難しい技術だと思います。ずっとずっと稽古をしていました。

吉田 初演の稽古初日は、(タングが)ただジタバタしているだけでした(笑)。その状況が脳裏にあります。

小山 初日は、歩かせることすらできませんでしたからね。パペティアは胴体・足を動かしている担当と、頭(顔)の担当とふたりいます。支えになっている胴体・脚の役割が大きくて。喋らないので(タングの声は、頭担当の俳優がほぼ担当)、ちょっと目立たないのですが。そしてふたりの息が合わないといけないので、パペティアふたりは常に議論したりケンカをしたりしながら、切磋琢磨していました。

――吉田さん、ファミリーミュージカルを除き、一般向けのミュージカルとしては16年ぶりの新作。『ロボット・イン・ザ・ガーデン』は劇団四季にとってどんな位置づけになりましたか。

吉田 おっしゃるとおり、いわゆるファミリーミュージカルではなく、お客さまに販売する形の一般ミュージカルとしては『南十字星』以来。2018年から着手しましたが、素材の選び方から、何もかも手探りでした。産みの苦しみを味わった分、非常に愛おしいものになりました。

左から、吉田智誉樹(劇団四季 代表取締役社長)、小山ゆうな、長田育恵

取材・文・撮影(舞台写真):平野祥恵 撮影(インタビュー写真):阿部章仁

劇団四季『ロボット・イン・ザ・ガーデン』東京公演
2021年12月22日(水)~2022年1月23日(日)分までチケット発売中
会場:自由劇場
2022年2月23日(水・祝)より京都劇場にて上演

<ライブ配信>
2022年1月22日(土) 13:00~
2022年1月22日(土) 17:30~
2022年1月23日(日) 13:00~
ライブ配信の詳細はこちら:https://shiki.stores.play.jp/

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