ポルカ、the peggies、ハルカトミユキ……女性ボーカルバンドのアニソン起用、増加の背景を探る
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秋アニメを見ていて、ふと気づいた。今期作品の主題歌には、ロック畑出身のガールズボーカルバンドが多い。<ランティス>や<Flying Dog>といったアニソンシーンと密接な関わりのあるレーベルアーティストならまだしも、今期アニメで主題歌を担当しているポルカドットスティングレイ、the peggies、ハルカトミユキなどは、いずれも邦ロックシーンで活躍しているようなメンツだ。
そして、古臭い価値観かもしれないが、筆者は未だに「アニソンバンドの女性ボーカルといえばピンボーカル!」というイメージを払拭できずにいる。そのため、前述した3バンドがすべてギターボーカルでアニメの主題歌を担当しているのが、なんだか新鮮だった。タイアップアーティストが多様化している現在において、アニソンバンドのテンプレイメージを、そろそろアップデートしないといけないのだろう。
マーケティング志向の強い、ポルカドットスティングレイ
TVアニメ『ラディアン』(NHK Eテレ)のエンディングテーマ「ラディアン」を担当しているのは、紅一点ボーカルバンドのポルカドットスティングレイ。ちなみに、本作のオープニングテーマは04 Limited Sazabysと、邦ロックファンにはたまらないラインナップとなっている。
テクニカルなギターロックサウンドにボーカル・雫の流暢な英語が重なり、和洋折衷的な独特の雰囲気をまとうポルカ。この絶妙なクセのバランスからは、アニソンとの相性の良さが感じられる。さらに、雫はメジャーデビュー前、ゲーム会社に勤める社会人だったということもあり、楽曲制作ではマーケティングをかなり意識しているという。こうした策士的なギターロックバンドというのも、かなり現代的な存在だろう。ロックファンに刺さるメロディとサウンドを持ちながら、タイアップイメージにしっかり寄り添うことのできる器用さも、特筆すべき点だ。事実、このところポルカはタイアップの機会が多く、11月公開映画『スマホを落としただけなのに』でも主題歌を担当。今後も、活躍の場を多岐に広げていくことだろう。
“いまどき”ではなく“普遍性”を追い求める、the peggies
『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』(TOKYO MXほか)オープニングテーマ「君のせい」を担当する3ピースガールズバンド・the peggiesは、2017年に『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS-』で初のアニソンタイアップを経験。ボーカル・北澤ゆうほのアニメ声のようなボーカルや、そのかわいらしいビジュアルから、ある意味アイドル的な一面も持つ彼女たち。もちろんその実力は確かで、楽曲によってはかなり骨太さもあるのだが、「わたし達って、周りからそんなにバンドバンドしたバンドっていうふうに思われていない気がする」(参考:the peggies インタビュー “一歩ずつ進んできたバンド”の最新作は、何故これほど飛躍しているのか)と、本人たちも自覚的だ。
しかし、“いまどきのバンド”感が希薄だからこそ、タイアップの機会に恵まれているとも言える。ペギーズは、流行に乗るというよりは普遍性を追求し、あまり“ロックシーン”に捉われずに活動を続けてきたため、アニメタイアップに関しても、しっくりくる部分が大きい。
詩的な世界観が作品とリンクした、ハルカトミユキ
ポルカ、the ppeggiesと比較するとだいぶ異なる立ち位置にいるのが、『色づく世界の明日から』(MBS・TBS・BS-TBSほか)で初のアニメタイアップを果たした2人組ガールズバンド・ハルカトミユキだ。過去には映画タイアップ経験もあるものの、正直、彼女たちにはあまりアニソンのイメージがなかった。というのも、歌人としても活動しているボーカル・ハルカの紡ぎ出す世界観があまりに文学的なこともあり、彼女たちだけでどこか完結しているような印象を抱いていたからだ。
おそらく、筆者が今でもロックバンドのアニソンタイアップの知らせを聞く度に「おっ!」と少し驚いてしまうのは、多くのアーティストが、すでに完結した世界観を持っているためだろう。だからこそ、それ以外の要素が大きく入りこむような、タイアップのイメージを抱きにくいのだ。
とはいえ、篠原俊哉監督が手がけた『凪のあすから』と同様に、『色あす』もとても儚く詩的な作品だ。そのため、ハルカトミユキが持つイメージとの親和性も高い。さらに、作品のキービジュアルが少女2人という点でも、2人組のハルカトミユキと重なる部分が大きかった。
女性アーティストの多様化と、アニメ作品の多様化
このように、「女性ボーカルのロックバンド」と言っても、三者三様のスタンスを持っていることがわかる。そして、ロックシーンで活躍する女性ボーカルバンドのアニメタイアップが増加している背景には、女性アーティストの多様化、そしてそれを受け入れる土壌であるアニメ作品の多様化も起因しているのだろう。
きっと、今後さらに「こんなアーティストがアニソンをやるなんて!」と驚くようなタイアップも出てくるはずだ。そして、今後は音楽シーンやジャンルの垣根自体が、徐々に消失してボーダレス化していくのかもしれない。
■まにょ
ライター(元ミュージシャン)。1989年、東京生まれ。早大文学部美術史コース卒。インストガールズバンド「虚弱。」でドラムを担当し、2012年には1stアルバムで全国デビュー。現在はカルチャー系ライターとして、各所で執筆中。好物はガンアクションアニメ。Twitter