山路和弘が語る声優の神髄「どんな仕事であっても“無防備”でいること」
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すべて見る都市が水没した近未来で“記憶潜入(レミニセンス)”エージェントとして暗躍する男の戦いを描いた『レミニセンス』。クリストファー・ノーラン監督の実弟にして最強ブレインであり、『ダークナイト』『インターステラー』の脚本も手がけるもうひとりの天才、ジョナサン・ノーランが製作した本作は、他人の記憶を360度の空間映像に再現し、事件を捜査するという時間×映像トリックが、観る者を新感覚の没入体験に誘うSFサスペンス超大作だ。
劇場公開時には字幕版しか観ることができなかった本作だが、デジタル配信、ブルーレイ、DVDには日本語吹替版が収録される。『ONE PIECE FILM GOLD』ギルド・テゾーロや『進撃の巨人』ケニー・アッカーマン、そして、本作の主演でもあるヒュー・ジャックマンをはじめ、名だたるハリウッド俳優の吹替を務めている山路和弘が、主人公ニックの日本語版吹替を担当している。
あくまで“記憶”であって、“記録”じゃない
──『レミニセンス』の魅力はSFサスペンスに留まらないヒューマンドラマの側面だと感じました。
山路 そうですよね。ビジュアル面では、水に支配された世界が何とも言えないジリジリとして感覚で。個人的には『ウォーターワールド』を思い出しましたけど。そういった近未来の空気が満載な上に、とてもピュアな人間のドラマが描かれている。
ここでは言えませんけど、結末もね、とても純粋じゃないですか。観ている途中で、こういう展開になるんだとは予想もできなかった。そういう面白さがあったと思います。映画だからこそ、こういう結末もアリなんだという“映画の良さ”を感じますね。
──“記憶”が題材になっているのも、ユニークな点ですよね。
山路 あくまで“記憶”であって、“記録”じゃない。だから、主人公のニックが目にする記憶が、本当にそのものどおりの現実なのか、実は相当美化されているものなのか……。そこがすごく引き込まれる点であり、演じるこちらとしては難しさもありました。「これは現実なのか?それともイメージなのか?」というバランスのさじ加減がね。
──それは演じ方が変わるということですか?
山路 うーん、言葉では説明が難しいですけど、現実の世界であれば、声質も少し硬いものになりますし、美化された記憶やイメージの世界であれば、柔らかくなる。そのあたりは自分の判断ですけど、人それぞれ世界の見え方や感性も違うから、(アフレコの)現場では行き違いもありました。
ディレクターさんに「ここはもう少し……」って言われても、「そう? なんで?」ってこともあって(笑)、時間がかかりましたね。記憶を扱った作品ならではの苦労ではあったと思いますけど。
いつもとはひと味違うヒュー・ジャックマン
──今回のヒュー・ジャックマンは、これまた普段とは違う役どころで。なんと言うか……。
山路 おっさん感が強いですよね! まあ、おっさんは失礼かもしれないけど、本当に普段のヒュー・ジャックマンとはひと味違って、どこにでもいる普通の男という印象ですね。彼自身も世間が抱くイメージから離れたいという思いがあったのかもしれないですけど。こういう普通の男をサラッと演じられるのは、さすがだなと思います。ヒュー・ジャックマンの吹替は20年以上やっていますが、役者としてどんどん深みを増していますよね。
──20年以上! 確かにヒュー・ジャックマンの日本語版吹替と言えば、山路さんですが、演じる際に意識することはありますか? 役柄によって異なるとは思いますが。
山路 うーん、これは誰を演じるときでもそうですが、「ヒュー・ジャックマンだからこうしよう」って意識はないですね。常に相手(演じる俳優)と顔を突き合わせ、同じ表情をしながら、会話をする感覚とでも言うんですかね。家でリハーサルはしますし、自然と心構えはできてくるものなんですよ。
──ヒュー・ジャックマンが、そして山路さんご自身が演じた主人公のニックとはどんな人物だと思いますか?
山路 本質的にすごく素朴でピュアな人間だなって。先ほども言いましたが、結末もすごくピュアでしょ? それはニックの内面がすごく反映されているんじゃないかなと。余計なことはしないし、そこが役柄や物語にも活きていると思うんですよね。ですから、演じる上で何か意識したかと聞かれれば、そういうところかな。ニックというキャラクターの素朴でピュアな人間性ですね。
俳優も声優も“永遠の欲求不満”
──主人公のニックが行う“記憶潜入”には、「同じ記憶に何度も入ると、対象者は記憶に飲み込まれ、現実に戻れなくなる」など、いくつかのルールがありました。山路さんご自身は、俳優・声優としてお仕事を続ける上で、心がけているルールというものはありますか?
山路 イメージに囚われないってことじゃないですかね。どんな仕事であっても、先入観を持たずに、その場その場で無防備でいることこそが、我々の仕事の神髄だと思うんです。もちろん、武装しないと生き残れない世界ではあるんですけど、役をいただき、台詞をいただき、初めて形作られる商売なのでね。それがなければ、僕自身は何でもない、ふにゃふにゃな人間ですし(笑)、強い信念があるタイプでもないですから。
──30代を迎えてから俳優業と同時に、声優の道も歩み始めた山路さんですが、声優を始めた当初はどんな未来を想像していましたか?
山路 声優を始めた頃は、こんなに長くやらせてもらえるとは全然想像していなかったですよ。ときには台本をいただき、(主演として)最初に自分の名前があるなんてことも。「本当にいいの?」って、いまだに思いますよ。
今では若い声優さんと一緒になると「勉強させていただきます!」なんて言ってもらうこともあるけど、「やめてくれ」って(笑)。勉強するのは、こっちだよって。まあ、俳優も声優も満足することってないですから。永遠の欲求不満ですよ。
人生で数回しかない“しっくり来る”瞬間
──そんな山路さんが、お仕事を続ける中で喜びを感じるのはどんな瞬間ですか?
山路 それは難しい質問だな~(笑)。声優の仕事で言うなら、本当にごくまれに、自分の芝居がピタッと重なる瞬間があるんですよ。
──「ピタッと重なる」というのは、キャラクターへの理解や共感とは違う何か、ということですか?
山路 うーん、それもあるんですけど、もっと感覚的に“しっくり来る”瞬間があるんですよ。キャラクターの感情や行動に自分も思わず納得しちゃうとか。
それに加えて声優の“技”について言えば、例えばおじいちゃん、おばあちゃんが「この(海外の)俳優さん、日本語うまいね」って思ってくれたら、それはうれしいですよ。そんな満足感を得られるのは、本当にちょっとした瞬間ですけどね。
──それはご本人にしか分からない?
山路 そうですね。他人から見れば「何うれしそうにしてるの?」って感じでしょうけど、ごくまれにニコニコしながら家路につけることもあるんです。振り返ってみると、人生で数回しかないんじゃないですかね。
──ありがとうございます。最後に「もしも誰かの記憶に潜入できるなら、誰の記憶を選びますか?」という質問をさせてください。
山路 マーロン・ブランドかな。すばらしい役者さんだし、大好きで尊敬しているんですけど、どうしたら、あんな風に傲慢な顔していられるんだろうとも思うんですよ(笑)。自信なのか、ある種の覚悟なのか。さっきも言いましたけど、自分はふにゃふにゃな人間なんでね(笑)。彼みたいな人間の記憶は体験してみたいですね。
取材・文:内田涼
『レミニセンス』
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2022年1月7日(金)ブルーレイ&DVD発売・レンタル開始
<4K ULTRA HD&ブルーレイセット>(2枚組)6,980円
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発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
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