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困難な時代のなかで輝く光――2021年音楽シーン振り返り&2022年期待のニューカマー

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昨年1月8日に発令された、東京の二回目の緊急事態宣言は、3月21日にいったん終わったものの、4月12日からはいわゆる「まん防」が適用され、そして4月25日からは、6月20日までは、三度目の緊急事態宣言。さらに、感染拡大がピークに達した夏は、7月12日から9月30日まで、四度目の緊急事態宣言が敷かれた。という、コロナ禍元年だった2020年をはるかに上回る、深刻な事態になった2021年。

そんな中、ツアーを組むこともままならず、春夏のフェスは、国が決めたオペレーションの範囲で慎重に開催しようとしていたにもかかわらず、各地の住民や自治体の反対で、軒並み中止に追い込まれた(無観客ではあったが、東京オリンピックは強行されたにもかかわらず)。

つまり、2020年に輪をかけて、ライブを主戦場にする新人バンドたちにとって、「ライブハウスから勝ち上がっていく」「フェスやイベントで音楽ファンに存在をアピールする」という、最初の重要なステップを踏むことができない年だった、ということである。

ライブハウスに軸足を置いたスタンスよりも、もっと大きなスケールで活動する新人バンドにしても、たとえば2018年から2019年にかけてのKing GnuやOfficial髭男dismのように、一足飛びに巨大な存在に化けていった例が少なかったのも、悪化したコロナ禍と無関係なわけがないだろう。

ただし、そんな困難な1年にあっても、着実にスケールアップを果たしたバンドは、いくつか存在した。まっさらな新人がいきなりブレイクした、というよりも、じわじわと力を蓄えてきた中堅バンドが、なんらかの機会を経て一気に羽ばたいたのが2021年だった、というケースの方が、多いかもしれない。

たとえば、「勿忘」の大ヒットで紅白歌合戦出場が決まったAwesome City Club。映画『花束みたいな恋をした』にPORINはじめメンバーが出演しており、その関係で、この映画の広告や予告編で流れる「インスパイアソング」としてこの曲を提供したことがきっかけになってヒットした曲だが、ここまでに、メジャーデビューから6年かかっている。

Awesome City Club「勿忘」MV

同じく、millennium parade × Belleとして紅白に出場した中村佳穂も、映画『竜とそばかすの姫』の主人公ベルの声と劇中歌を担当したことが、紅白出場につながったのだろうが、4、5年前から「京都にとんでもない才能の女性がいる」ということが話題になり始め、2019年あたりから東京でのライブのチケットは入手困難になっていた。

紅白で披露された「U」は、彼女のレパートリーの中では、まだいわゆるJ-POPの定形に近い曲なので、未聴の方は「アイミル」でも「LINDY」でもいいので、彼女本来のオリジナルの曲を聴いて、この人の音楽創作の発想の自由さと表現の自在さを知っていただければと思う。

millennium parade「U」

2022年で結成10年、数年前からネクストブレイク候補と目されるようになり、2020年のアルバム『hope』から(コロナ渦のスタートと同時でもあったにもかかわらず)本格的に上昇気流に乗り、翌年の2021年にもっとも躍進を遂げたバンドになった、マカロニえんぴつもそうだ。

「メレンゲ」「はしりがき」「八月の陽炎」「トマソン」「なんでもないよ、」と、5曲の新曲(とEP『はしりがき』1作)をリリースし、そのたびに目に見えてスケールアップしていき、地上波のテレビの音楽番組の常連になり、秋のツアーは全箇所ソールドアウト。ブレイク目前、というより、すでにブレイクしている、と言った方が適切な気もするが、まだまだこんなもんではすまないだろう。2022年、2023年と、もっともっと大きな存在になっていく、と予測する。2021年にリリースした、それらの曲も収めたニューアルバム『ハッピーエンドへの期待は』のリリースが、2022年1月12日に控えている。

マカロニえんぴつ「なんでもないよ、」MV

そんな、ライブ活動がままならない2021年の中でも、著しくスケールアップしたもうひとりとして、藤井 風が挙げられる。2020年1月に「何なんw」でメジャー・デビューした時点で、それ以前からのYouTubeでの活動(ピアノ弾き語り映像をアップする)が効いていて、登録者数は14万人超え(※2021年12月31日時点では118万人)。コロナ禍の5月20日にリリースされたファーストアルバム『HELP EVER HURT NEVER』はビルボード・ジャパンやオリコン等の各チャートで1位を総ナメ。コロナ禍がやや落ち着いた10月の日本武道館公演と、12月から行ったツアーもソールドアウトした。

というところまでが2020年で、カバーアルバム『HELP EVER HURT COVER』と、「旅路」「きらり」「燃えよ」の3曲を発表した2021年には、9月4日(土) の13時から1時間、日産スタジアムから、ひとりきりでのライブを、無観客で、YouTubeで無料生配信する、という、前代未聞のことをやってのけた。当初は応募抽選による無料招待制で有観客で行う予定だったが、コロナ感染者数の増加を鑑みて無観客に変更になった。このライブでも披露された「きらり」で、藤井 風は、12月31日の『紅白歌合戦』に初出場を果たした。

藤井 風「きらり」MV

それから、新人ではまったくないし、初めてブレイクの季節を迎えているわけでもないが、こと2021年において、特筆しておきたいアーティストが、もうひとりいる。宮本浩次だ。2017年にエレファントカシマシの30周年を記念したベストアルバム&全都道府県ツアーを大成功に終わらせて、『紅白歌合戦』にも初出場し、2019年から本格的にソロでの活動をスタートして以降の、この人のブレイクっぷりは、明らかに規格外である。

初めてのソロアルバム『宮本、独歩。』をリリースした2020年は、スタート寸前だったツアーがコロナ禍で中止等の憂き目に遭ったりしたが、同年11月にリリースした女性シンガー曲のカバー集『ROMANCE』が、大ヒットを果たす。

それもあって、2021年は、前年以上にテレビの地上波の歌番組で見ないことがない存在になり、ニューアルバム『縦横無尽』を引っさげて10月からスタートした全都道府県ツアーは、チケット発売と同時にソールドアウトが続いている。『紅白』にも、もはや当然のように出場、東京湾の上からの中継で「夜明けのうた」を聴かせた。この長いキャリアの末、50歳を過ぎてから始めたソロ始動で、過去のどのブレイク時期よりも今の方が注目されていて、広く愛されていて、敬われている、要は大スターになっている。なんてこと、日本のポップミュージックの歴史において、これまでにあっただろうか。ないと思う。

宮本浩次「夜明けのうた」

「これから」を期待しているニューカマーたち

さて、ここからは、そんなコロナ禍にあっても、着々と力を蓄えてきた、2022年にジャンプアップが期待される、というか僕が期待しているニューカマーを、いくつか取り上げたい。

自分が力いっぱいバンド畑の人間なもんで、そっちに偏ったセレクトであることと、ちょっと前にデビューした、たとえばズーカラデルやハンブレッダーズ等も大好きなんだけど、そのあたりは「既に状況がついてきているバンド」「だからもう間違いないバンド」だとみなしているので、もっと「これから」のバンドを中心に紹介していきます。ということを、事前に、ご了承ください。

まず、浪漫革命。最近いちばん耳にする機会で言うと、石原さとみがほろほろチキンカレーを食べているすき家のCM、あのバックでかかっている曲を歌っているバンドです。

京都のバンドで、これまでにフルアルバム2作をリリースしており、結成から4年のインディー活動で、早くも全国区での人気を獲得しつつある。そう、「早くも」と言っていいと思う。4年のキャリアのうち、ほぼ2年はコロナ禍になってからなので。僕が初めてライブを観たのは、2021年4月3日(土) の日比谷野外大音楽堂でのイベント『若者のすべて #01』で、その時は「いい曲書くバンドだなあ」というくらいの印象だったのだが、次に観た12月4日(土) 渋谷WWW Xのワンマンでは、曲はもちろんキャラクターや佇まいも含めて魅力に溢れている、つまり、とてもいいバンドであることが、よくわかった。ちょっと前のシティポップ / AORブームの文脈で捉えることもできる音楽性だが、そこには収まらない、ボロボロとはみ出まくる魅力が、そこかしこにある。 というようなことも含めて、その12月4日のライブレポを、ぴあに書きました。なお、この日のアンコール後に「MVができました!」と会場で公開されたのが、こちらです。

浪漫革命「ひとり」MV

次は、大阪在住のバンド(また関西だ)、帝国喫茶。関西を拠点に、取材をしたりラジオのレギュラーをやったりしている知人のライター、鈴木淳史が激推ししているので知った、結成間もない4人組(初めてライブをやったのも2021年らしい)。

最近、東京にも来始めていて、12月20日(月) に下北沢THREEでライブを観た。演奏は、いかにも「バンド始めたばっかり」な、ラフなところが魅力になる瞬間も、弱点になる瞬間もあるパフォーマンスだったが、メロディと言葉の強さ、そしてボーカル&ギターの杉浦祐輝の「あきらかになんか持ってる奴」とか言いたくなる魅力は、かなりのもの。MCで「日本武道館でやるのが夢」みたいなことを言っていたが、遠からず実現するだろうな、と素直に思った。2021年11月17日に、初のEP『開店』をリリースしたばかり。これはその収録曲。

帝国喫茶「夜に叶えて(demo ver.)」MV

次のthe McFaddinも、また関西のバンドだ。京都在住の20代の男の5人組で、生バンドとバックトラックを使ったサウンドプロダクトが新鮮だったり(※バンドの音に同期を足しました、みたいな感じじゃなくて、もっと両者の音が渾然一体となっている)、でありつつも「歌ものであること」に正面から対峙する楽曲であったりと、魅力的なポイントがいろいろあるバンドである。その5人の中に、正式メンバーとしてVJがいたりするところまで含めて、今ならではのバンド、なのかもしれない。1月29日に渋谷WWWで初めてライブを観る予定なので、楽しみにしている。

the McFaddin「Fragile」MV

で、問題は次です。Chilli Beans.(チリビーンズ)という女性3人組のバンド、なんだけど、この人たちに関して、私、なんにも知りません。音楽雑誌『ロッキング・オン・ジャパン』に載っていたので、知って、曲を探してみて、「うわ何これ、どの曲もすげえいいじゃん!」とびっくりした、という、音楽ライターで食ってる人間とは、とても思えない按配です。

音楽塾ヴォイスで知り合って2019年に結成したバンドであること、同じ時にVaundyも学んでいた縁で、彼も制作に協力していたりすること、映像とかも自分たちで作っていること、3人とも詞曲を手掛けているらしいこと、くらいしかわかりません。音楽塾ヴォイスって、YUIや絢香を輩出した福岡の学校よね、東京校もできていたのか、えっ、2009年からあるのか。というくらい、知りませんでした。大変失礼しました。

今のところ、サブスクでは、去年8月25日リリースのデジタルEP『dancing alone』の4曲と、11月24日リリースのデジタルシングル「アンドロン」の1曲、計5曲が聴けるほか、YouTubeの「音楽塾ヴォイスプラス」の公式チャンネルでも、何曲か聴けます。1曲の例外もなく、ポップソングとして、度外れたクオリティ。なんなんだこの人たち。ブレイクしないわけがない、こんなにいい曲だらけなんだから。とりあえず、ライブ、観たい。

Chilli Beans.「アンドロン」MV

最後に。新人でもなんでもないが、2022年に大化けするであろう、大化けすることを期待する、大化けしてほしい、と、個人的に強く願っているアーティストを、紹介しておきたい。それぞれ別に接点はないだろうけど、僕がかってに何か共通するものを感じている、2組である。

まず、2021年でメジャーデビュー5周年を迎えたヒグチアイ。ピアノ弾き語りが中心、時々バンドセットでのライブも行う。2021年はレーベルを現在のポニーキャニオンに移籍し、テレビ東京の深夜ドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』エンディングテーマとして書き下ろした「縁」がスマッシュヒット。以降、「悲しい歌がある理由」「距離」「やめるなら今」をデジタルリリースし、2022年3月2日に、それらの曲も収めたニューアルバムがリリースされる。

もう1組は、ボーカルのEMILYとギターのKAWAGUCHIからなるフォークデュオ、HONEBONE。2014年に活動スタート、初リリースは2015年のアルバム『SKELETON』なのでキャリアは6年。4作のオリジナルアルバムと、ベストアルバムを1作リリースしている。

どういう共通項があるのか。試しに、いくつか曲名を挙げてみます。まず、ヒグチアイは、さっき挙げた「悲しい歌がある理由」「距離」「やめるなら今」、「前線」「わたしはわたしのためのわたしでありたい」「走馬灯」「不幸ちゃん」「誰かの幸せは僕の不幸せ」「ハダノアレ」などなど。そしてHONEBONEは、「ひとでなし」「生きるの疲れた」「満月こわい」「地獄に落ちようか」「冷たい人間」「悪魔」「がんじがらめ」などなどである。 どうでしょう。感じるでしょう、何か、共通するものを。特にインパクトの強い曲名ばかり、わざと抜粋した、というのもあるが。

とにかく、己の中の、もっとも直視したくない部分、もっとも目を背けたい部分に、執拗にフォーカスを合わせ、そこで見つけたものを言葉にし、メロディに載せる。そういうふうに歌というものを作っているアーティストだと思うのだ、どちらも。なので、流し聴きができない。楽曲に、ライブパフォーマンスに、真剣に、正面から対峙せねばならない。で、そうすると、もうボロボロに斬られる、楽曲に。自分を切り刻んで作った歌を歌うことで、聴き手を同時に切り刻む、そういうクリエイターだと、僕はこの両者を捉えている。というわけで、2022年、さらなる飛躍を期待している。いつの時代でも、いや、今の時代だからなおさら、こういう音楽は必要だと思うので。

ヒグチアイ「やめるなら今」MV

HONEBONE「リスタート」MV

文:兵庫慎司

音楽などのライター。DI:GA ONLINE『とにかく観たやつ全部書く』(月二回更新)、月刊KAMINOGE『プロレスとまったく関係なくはない話』の他、ぴあ、SPICE等のウェブサイトや、週刊SPA!、週刊プレイボーイ等で仕事中。