「いろとりどりの親子」監督来日、高校生とアイデンティティについて討論
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「いろとりどりの親子」特別授業の様子。
ドキュメンタリー「いろとりどりの親子」の特別授業が、本日11月6日に東京の東京学芸大学附属国際中等教育学校で行われ、監督のレイチェル・ドレッツィンが出席した。
アンドリュー・ソロモンによるベストセラーノンフィクション書籍「FAR FROM THE TREE: Parents, Children and the Search for Identity」をもとにした本作。身体障害者や発達障害者、LGBTの子供たちとその親の姿を追う。
特別授業は、事前に映画を鑑賞した高校2年生の男女11名がドレッツィンとディスカッションする形で進められた。これまでさまざまな題材の社会派ドキュメンタリーを作ってきたドレッツィンは本作を制作した経緯を「心から作った作品。原作を読んだ瞬間、心に響くものがありすぐ原作者にメールをした。30人ほどの監督からオファーをもらっていると言われたが、どうしても自分が映画化したくアンドリューを1年くらいかけて説得し、信頼関係を築いた」と述懐する。そして「どの家族を選ぶか、どんなふうに描いていくのかを何度も話し合いました。それを決めるのに1年くらいかかった」と明かす。
「どのように原作と差別化したか」と聞かれたドレッツィンは「アンドリューは10年ほどかけて書き上げたけれど、映画は90分という尺で違う媒体。原作を解釈したものになると最初にアンドリューに説明しました」と話す。さらに「原作の精神をしっかり捉えることを心がけました。需要と愛についての作品であるということ、他人は自分の思い込みや先入観と違うこともあるんだということをきちんと描くことです」と説明した。
「障害を持つ人や自分と違う人たちと接したときに、肯定できない場合もあるかもしれない」と言う生徒に対し、ドレッツィンは「とてもいい質問。近くにいて親密さを持ち、一緒にいれば差別感情は消えてなくなる。距離があるから差別感情が生まれると感じているんです」と話す。続けて「私自身、自分が持っていた差別意識に近い感情は、彼ら(取材対象者)と親密な空間にいることで消えてしまった。多様な環境があり、違う人を知る機会があればあるほど差別は少なくなるのだと心から信じています」と思いを述べた。
次に、ドレッツィンは「“日本人である”ということがアイデンティティとして一番大きい人はいる?」と生徒たちに問いかける。ドレッツィンは「低身長症の女性がいたとして、彼女自身のアイデンティティは、低身長症なことかもしれないし、女性であることかもしれない。もしくは、親であることがアイデンティティかもしれない。私たちはその人を見たときに最初に目に映ること、低身長症なことがアイデンティティだと勝手に思い込んでしまいます」と話し、「人のアイデンティティをたった1つのものだと決めつけないこと。ともに過ごせば違う部分よりも共通している部分が多いと感じると思うんです。私もこうして皆さんと話すことで、国籍以上のアイデンティティを感じることができる」と述べた。
生徒たちと対等に語り合ったドレッツィンは最後に「皆さんの英語力にびっくりしました。ディスカッションできたことをうれしく思います」と喜び、「皆さんは世界を作っていくこと、変えていくことができる年代の方々です。まさに今こそ自分と違った人々を受け入れることが一番重要なことじゃないでしょうか。そういう考えを携えながら未来に向けて歩んでいってほしいです」と真摯にメッセージを伝えた。
オルタナティブロックバンドのヨ・ラ・テンゴや、現代音楽家のニコ・ミューリーが音楽を担当した「いろとりどりの親子」は11月17日より東京・新宿武蔵野館ほか全国で順次公開。新宿武蔵野館では毎週火曜日の初回に、場内の照明を明るめに設定し、発声や出入りが自由となるフレンドリー上映を実施する。
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