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音楽ナタリー編集部が振り返る、2021年のライブ

音楽

ニュース

ナタリー

2021年の音楽ライブのイメージイラスト。

コロナ禍2年目となった2021年。第4波・第5波の急速なウイルス感染拡大の影響により、大型フェスを含む多くのライブが相次いで中止や延期となりました。しかし一方で、この先どうなるのかと思われた有観客ライブも、各種ガイドラインに基づく徹底した対策のもと徐々に再開。11月には大規模イベントでの人数制限も撤廃されました。世界的に猛威を振るうオミクロン株により、年が明けてから国内の感染者数がまた急増しており、まだまだ予断を許さない状況ではありますが、ライブエンタテインメントは本格的な復活を目指して一歩ずつ歩み始めています。

この記事ではそんな2021年に開催されたさまざまなライブの中から、音楽ナタリーの編集部員たちが個人的に印象に残ったライブを時系列に沿って振り返ります。

目次

赤い公園「赤い公園 THE LAST LIVE『THE PARK』」2021年5月28日 中野サンプラザホール

文 / 田中和宏

私が初めて赤い公園を観たのは2011年、新代田FEVERです。この10年、世の中ではいろいろなことがありました。2020年、類まれな才能を持つ津野米咲さんが29歳という若さでこの世を去ってしまったことはとてもショックでした。

赤い公園の解散ライブは現地での取材が叶わず、配信で観ました。バンドの解散は実に残念だったけれど、解散を決めたメンバーの言葉にはどこか潔さがあって、当日のステージで見せる表情は朗らか。実際にはいろんな思いが巡ったんだろうと思いますが、ステージにいる全員の愛が音に宿っているような、そんな演奏でした。ボーカルの石野理子さんは、先代Voの佐藤千明さんとは違った形で新旧の楽曲を表現していたし、とても凛々しかったです。

解散ライブには、観ている側としてもいろいろな思いが巡ることはありました。それでもライブ中はパフォーマンスに釘付け。こんなに素晴らしいライブをするバンドがこの日に解散するなんて信じられない気持ちだったけど、メドレーを含む全29曲に赤い公園の歴史と津野さんの人生が詰まっているような感じがしました。本当に素敵な時間をありがとう。いつかまた。

Maison book girl「Solitude HOTEL」2021年5月30日 舞浜アンフィシアター

文 / 高橋拓也

終演後に、すでにグループが“削除 ”されている(活動終了している)ことが告げられた本公演。6年半近く活動を追ってきただけに、突然の別れに相当落ち込んでしまったのですが、“ブクガだからこそできること”、そして“活動を終えるためにやらなければならなかったこと”が的確に示されたワンマンでした。

「Solitude HOTEL」は2015年3月にスタートしたブクガの主催企画で、初回「B1F」ののち「1F」からワンマンシリーズ化し、回を重ねるごとにタイトルの階数が増えていきました。2017年12月に行われた「Solitude HOTEL 4F」では未来 / 過去 / 現在を行き来するというコンセプチュアルな演出を展開。「4F」以降はポエトリーリーディングや映像のみならず、ライブという枠にとらわれないギミックが盛り込まれていきます。「10F」にあたる最後の「Solitude HOTEL」ではさらにスケールアップした、現実世界にも影響を及ぼすような演出が用意されました。2021年4月開催の「Solitude HOTEL 9F」終了後、グループのオフィシャルサイトでは謎のカウントダウンがスタート。時間が経つにつれ一部ページが開けなくなる、表示が崩れてしまう、といった変化が起きました。この時点で活動終了は発表されていませんでしたが、多くのファンが不吉なものを感じていたようです。

ライブ本編、前半7曲ではメンバーが暗がりの中でパフォーマンスを繰り広げているように見えましたが、実は事前収録した映像をスクリーンに投影する、という仕掛けが施されていました。さらに「夢」披露時には、ハンドクラップのみに差し替えられたバックトラックを使用。ほかにも終わりや崩壊を想起させる演出が随所に見られます。そして暗闇の中披露されたラストナンバー「last scene」の途中でメンバーはいなくなり、突如楽曲がストップして終演。会場出口では青い紙が配布され、そこに書かれたURLにアクセスすることで、来場者はグループの活動終了を知ることになりました。

振り返ると最後の「Solitude HOTEL」はサイトのカウントダウンで始まり、“HPにアクセスする”という観客のアクションをもって終了する公演だったように思います。一連の演出は「終わりは覆せない」「ただ見守ることしかできない」という恐ろしさを突き付けられるようでした。

ちなみにこの公演は「last scene」という曲をSEにしてスタートし、同じく「last scene」が途切れる形で終了します。冒頭と結末がつながるような構成は、このライブの中でブクガは永遠にループし続けている……というふうに読み取ることもできそうです。HPに書かれている「あなたは完全にそれを見つけました」の“それ”は、「Solitude HOTEL」の中でループし続けるブクガを指しているのかもしれません。

超特急「BULLETTRAIN ARENA TOUR 2021 SPRING『Hoopla!』」2021年6月4日 ぴあアリーナMM

文 / 三橋あずみ

私がこれまでに取材してきたライブの中で“客席を観ている時間”がきっと一番長かったのが、超特急「BULLETTRAIN ARENA TOUR 2021 SPRING『Hoopla!』」でした。

コロナ禍において有観客のライブイベントが軒並み中止・延期となった2020年を経て、感染状況を注視しながらもアーティストとファンとの“再会”の機会が増えてきた2021年。6月に神奈川・ぴあアリーナMMで行われた「Hoopla!」もまた、超特急にとって約1年4カ月ぶりの有観客公演でした。超特急の5人と8号車(超特急ファンの呼称)のひさびさの対面を見届けるにあたって1つ気になっていたのは、感染拡大防止のための措置として観客の発声が禁止されたこと。超特急のライブにおいて“もう1人のメンバー”である8号車のコールは欠くことのできないピースであり、客席の1人ひとりが声の限りにメンバーへ送るエールが舞台上のパフォーマンスの爆発力を何倍にも大きくする瞬間を、これまでに何度も目の当たりにしてきたからです。

コールのない超特急のライブ……いったいどうなってしまうんだろう。私のそんな懸念は1曲目にして粉々に吹き飛ばされます。ポップアップで勢いよくステージに現れた超特急がオープニングナンバーに選んだのは、2020年12月にリリースされた「What's up!?」。有観客公演ではもちろん初披露ながら、8号車はぴったりと息の合ったペンライトの動作で楽曲を彩りました。あまりにも一体感のある動きに「どこかで予習した!?」と驚きつつ、それぞれが両手のペンライトの光に込めた思いが集まり広がった壮観は、無条件に心を躍らせるものでした。

どんな状況下にあっても積極的にライブを楽しむ心を忘れない8号車の真価が発揮されたのは、前半のハイライトとなったメドレーコーナー。タイトル通り“手を叩く”ダンスが特徴的な「Clap Our Hands!」、メンバーが涼しげな表情でパラパラを踊る「PUMP ME UP」など、印象的な振り付けの曲が目まぐるしく展開されるこのメドレーに8号車は即座に対応し、ステージ上の5人と寸分違わぬ手振りで盛り上がります。楽しいムードが充満する客席にどうしても目が行ってしまうため、レポート原稿でこのセクションに触れる際は「8号車」を主語に置き、文章を組み上げることに決めました。

そんな客席の熱を受け取った超特急のパフォーマンスが活気に満ち、いつにも増して輝いていたのは言うまでもなく、MCでタクヤさんが口にした「(有観客ライブができない)1年半、自分たちの時間は止まったままだった」という言葉や、ユーキさんの「やっぱり俺らの居場所はライブをしている今、ここなんだって痛感しました」という言葉にも、メンバーとファンの間に結ばれた強固な関係性が表れていたように思います。

無観客配信というライブの形に心も体も慣れつつあったときに、客席も含めたライブ空間をまるごと楽しむことの醍醐味、“現場”でしか得ることのできない高揚感を再認識させてくれたこの日のライブは、2021年の取材活動の中で印象に強く残るものとなりました。誰もが不安を感じることなく、“現場”を思い切り楽しめる日が早く戻ってくることを願って。

まふまふ主催「ひきこもりたちでもフェスがしたい!~世界征服II@東京ドーム~ONLINE」2021年8月1日 東京ドーム

文 / 倉嶌孝彦

「NHK紅白歌合戦」にも出演し、2021年に大躍進を遂げたインターネット出身のアーティストがまふまふだ。彼は東京ドームという大会場を舞台に5月に単独公演「ひきこもりでもLIVEがしたい!~すーぱーまふまふわーるど2021@東京ドーム~ONLINE」を、8月に主催ライブ「ひきこもりたちでもフェスがしたい!~世界征服II@東京ドーム~ONLINE」を開催した。

これら2公演は本来2020年3月に有観客で実施予定だったが、まふまふは新型コロナウイルスの感染拡大の影響で開催自粛を決断。無観客でのライブ配信にもかかわらず、まふまふは東京ドームを会場に単独公演を完遂した。さらに8月の主催ライブも東京ドームを会場に無観客でのライブ配信を行うと発表し、ファンを驚かせる。

ファンの間で「ひきフェス」と呼ばれる「ひきこもりたちでもフェスがしたい!」は、まふまふが2017年から開催しているもので、これまでさいたまスーパーアリーナ、幕張メッセ、メットライフドームといった国内有数の大規模会場で行われてきた。このライブには、まふまふと親交の厚いそらる、うらたぬき、志麻、となりの坂田。、センラ、天月-あまつき-、少年T、あらき、un:c、めいちゃん、luzといった“仲間たち”が出演。インターネット出身のアーティストとして最大規模の会場でのライブに挑んだ。ライブ当日、東京ドームの客席1つひとつにペンライトがセットされ、ステージから見渡す景色はまるで満員のドームそのもの。さらにこの公演はVeepsやWeiboを通じて海外在住者向けにも配信されており、ドームの客席以上の観衆がこの公演を見守ることになった。

ライブタイトルに「世界征服」とあるように、まふまふはかなり早い段階から「世界」という言葉を口にし、ワールドワイドであることを目標に掲げてきた。東京ドームという国内最大規模の会場を制覇し、「NHK紅白歌合戦」にも出場するなど破竹の勢いでその知名度を上げているまふまふが世界に手をかける日はそう遠くないだろう。

Perfume「Perfume LIVE 2021 [polygon wave]」2021年8月14、15日 神奈川・ぴあアリーナMM

文 / 橋本尚平

2020年2月26日、東京ドームで予定されていたPerfumeのドームツアーの千秋楽が開場の1時間半前に中止になったことは、期せずして、コロナ禍に突入して世界が一変したことを日本中の人々に知らしめる象徴的な出来事の1つになりました。以降、やり場のない気持ちを抱え続けていたPerfumeとそのチームが、あの日止まった時計をまた動かすために何をすればいいのかを考え、その問いに対して真摯にアンサーしたのがこの1年半ぶりの有観客ライブだったのだと思います。

アリーナをすべてステージとして使い、巨大なLEDを床と背面にL字型に設置し、それをスタンド席の観客が上から見下ろすことで実現した錯視的な映像演出。「どんなに大きな会場でもステージ上には3人しか立たない」という、長年守り続けてきた自分たちの中のルールを変えてまで挑んだELEVENPLAYとのコラボレーション。そして、過去のPerfumeのライブでは観たことがないような内省的でシリアスなメッセージ……これまでも先端技術を演出に取り入れたりと新しいことにチャレンジしてきたPerfumeですが、とはいえまさかここまで挑戦的な内容になるとは、この日に会場に訪れたファンのほとんどは事前に想像がつかなかったのではないでしょうか。

しかしそれ以上に、何より3人の凄味を感じさせたのがこのライブでした。ド派手な演出が次々に繰り出される広大なステージに立ちつつも、それらに引けを取らない圧倒的な存在感を放ったのは、観客の前でライブができる喜びを隠せない彼女たちによる、数え切れないほどの経験を積み重ねる中でひたすら磨き上げられたダンスパフォーマンス。20年以上ものキャリアの中で、メンバーが変わることもなく、また周囲のチームなどもほとんど入れ替わっていないにもかかわらず、今も進歩を止めることなく最高のステージを更新し続けているPerfumeは、数多いるアーティストの中でも稀有な存在になっているように感じます。観客はこの公演で、「変わることのすごさ」と「変わらないことのすごさ」を同時に知ることになりました。

終演前に突然披露された、いまだタイトルも明かされていない新曲で、3人は自分たちをミラーボールに例えて「僕はただ廻る鏡 キミこそが光」とファンとの関係性を歌いました。Perfumeはこれまで、初めての日本武道館公演に合わせて発表した「Dream Fighter」をはじめ、「STAR TRAIN」「Challenger」など活動の節目のタイミングで“自分たち自身のことを歌う曲”を発表してきましたが、“自分たちを応援してくれるファンのことを歌う曲”はこれが初めてではないかと思います。この新曲はおそらく今後、Perfumeにとってもファンにとっても特別な1曲になることでしょう。

今のところこの曲は、ぴあアリーナMM公演でしか披露されておらずリリースも予定されていませんが、同公演の映像は現在Amazon Prime Videoで配信されているので、これを読んで興味が湧いた方はぜひ観てみてください。

さくら学院「さくら学院 The Final ~夢に向かって~」2021年8月29日 中野サンプラザホール

文 / 清本千尋

さくら学院が2021年8月29日に東京・中野サンプラザホールで開催したラストライブ「さくら学院 The Final ~夢に向かって~」をもって11年4カ月の歴史に幕を閉じました。

さくら学院は、メンバーが中学校を卒業する中等部3年の3月になるとグループからも卒業するという特殊な仕組みのアイドルグループ。2010年4月に開校(始動)し、同年の8月7日(奇しくも私の誕生日!)に「TOKYO IDOL FESTIVAL 2010」のステージでデビューを果たしました。毎年誰かが卒業し、転入生を迎えるため、年度ごとにメンバーが変わるグループですが、その年のうちに行われる単独ライブは両手で数えられる程度。生徒たち(メンバー)は学業の合間を縫って練習を重ね、並々ならぬ思いを胸にその一期一会のステージに上がるのです。

コロナ禍により2019年度の有観客卒業公演が延期の末中止となり、2020年8月に無観客配信という形で、初めて観客のいない卒業公演を開催したさくら学院。しかしその2日後、新年度の始まりの日である2020年9月1日に、2021年8月末をもって活動を終えることを発表しました。10年間の感謝を胸にラストイヤーを駆け抜けたさくら学院は、これまでの卒業生たちの思いも乗せて、中野サンプラザホールへ。過去最多となる8名の卒業生たちは、スーツや着物など正装をして会場に駆けつけた父兄(さくら学院ファンの呼称)の前で最後のパフォーマンスを行いました。

「Hello ! IVY」や「FLY AWAY」といった初年度から歌い継いできた楽曲、活動を重ねる中で生まれた「School days」や「オトメゴコロ。」といった名曲の数々……楽曲が披露されるごとに、8人の生徒たちに過去の卒業生たちの姿が重なって見えたのはきっと私だけではないはず。「My Graduation Toss」冒頭の野中ここなさんには2012年度卒業生の中元すず香さん、「未完成シルエット」で「バイバイ」と叫んだ野崎結愛さんには2013年度卒業生の杉崎寧々さん、「ハートの地球」の大サビでは2014年度卒業生の4人がぽんぽんを持って胸の前で腕をクロスする姿が思い出されました。そして「ハートの地球」を聴いているときに「離れていても心はひとつ」──メンバーの課外活動により、全員での活動が叶わなかった2014年の夏、生徒たちが大事にしていた言葉がふと浮かびました。さくら学院という場所がなくなっても、そこで生まれた絆や思いは消えることはない。そう思えたとき、私はようやくさくら学院の活動終了を受け入れられた気がします。

始まりの曲である「夢に向かって」で「いつでも強く前を向いて高く飛んで行こう」と力強く歌った8人は新たな“夢に向かって”出発しました。最後のライブでは披露されませんでしたが、私はあの曲の歌詞を彼女たちに贈りたいです。

さよならは、はじまりだよね。願いを叶えてまた会う日までSee you again!

※杉崎寧々の「崎」はたつさきが正式表記。

ZORN「ZORN ONE MAN LIVE『汚名返上』at YOKOHAMA ARENA」2021年9月12日 横浜アリーナ

文 / 三浦良純

コロナ禍が続く2021年、1つのヒップホップイベントが日本の音楽シーンを震撼させます。8月末に愛知で開催され、“密フェス“として強い批判を呼んだ「NAMIMONOGATARI 2021」。連日テレビで報道されたフェス出演者と密集して盛り上がる観客の映像は、当事者のみならず、音楽イベント全体にネガティブなイメージを植え付けることとなり、「NAMIMONOGATARI」開催後、ライブの中止や延期の発表が相次ぎました。

そんな波乱の真っ只中、9月12日に神奈川・横浜アリーナで開催が予定されていたのが東京都葛飾区出身のラッパー・ZORNのワンマンライブ「無題」です。「洗濯物干すのもHip Hop」など数々のパンチラインで知られ、KREVAやCreepy Nutsをはじめとする同業のアーティストからコアなヒップホップヘッズまで、幅広い支持を集めるZORNは、2020年にアルバム「新小岩」をリリースし、ヒットチャートを席巻。その勢いのまま2021年1月に初となる東京・日本武道館でのワンマンライブを成功させており、横浜アリーナでのワンマンライブは彼がさらに飛躍するための舞台として、入念に準備を進めていた公演でした。

「NAMIMONOGATARI」のショックにより同じく横浜アリーナでの開催を予定していたBAD HOPのワンマンライブとフェスも中止になる中、「ZORNのワンマンは本当に開催されるのか」と心配する声も当然聞かれましたが、中止や延期がアナウンスされることはなく、迎えたライブ当日。会場に足を踏み入れたファンは、これまでにないZORNのライブを目撃することになります。まず来場者を驚かせたのは、入口で配布されたオフィシャルグッズのウレタンマスクと感染防止効果の高い不織布マスク、演出で使用するためのサイリウムです。マスク2枚という念の入れ具合も印象的でしたが、ヒップホップのイベントで目にすることは滅多にないサイリウムの配布は意外性が高く、これだけでもZORNがコロナ禍に対応した新しいライブを作り上げようとしていることが明白でした。

しかし、ZORN初の横浜アリーナ単独公演を前にして場内は静かな興奮に満ちており、その興奮に火が付けば「NAMIMONOGATARI」同様の惨事が起こる可能性もあったはずです。開演前、強いトーンで注意事項のアナウンスが流れますが、会場が暗転するとファンのボルテージは一気に上昇。使い慣れないサイリウムをすでに折ってしまっている観客も散見されました。そんな中、ステージに姿を見せたZORNは口元に人差し指を当てて、オーディエンスの発声を制止。怒涛のパフォーマンスで会場を盛り上げながらも「歓声はいらねー! 拍手をよこせ!」と要求し、威圧的な楽曲を畳みかけます。その後、MCで改めて注意事項を伝えたZORNは、開催発表当時、何も思い付かず「無題」としていたというライブタイトルについて「今になってピッタリなものが浮かびました」と語ると、ここで新しいタイトルを発表しました。

「誠に勝手ではありますが、今この瞬間からこのライブのタイトルを『汚名返上』とさせていただきます」

それは言うまでもなく、「NAMIMONOGATARI」騒動に対するZORNからのアンサーでした。フェスに出演したわけではないものの、日本を代表するラッパーの1人として、ヒップホップシーンに着せられた汚名と戦う覚悟を示したのです。ライブは換気時間を設けるため3部制で行われ、第2部ではオーケストラを従えたZORNが緊張感のあるパフォーマンスでオーディエンスを圧倒。サイリウムが会場一面を青く染めた第3部では、唯一の客演として横浜をレペゼンするOZROSAURUSのMACCHOを迎え入れますが、MACCHOも「全員マスク外さず、だーまーれー!」と叫んで「汚名返上」に協力します。そしてライブ終了後は、混雑回避のための規制退場も徹底。ルールをしっかりと守った観客にスタッフから感謝の言葉が伝えられると、会場は温かい拍手で包まれました。

このライブの模様が「NAMIMONOGATARI」のように報道され、来場者以外にも広く知れわたるようなことはありませんでしたし、本当の意味でヒップホップシーンの「汚名返上」が達成されたとは言えないのかもしれません。しかし、ZORNが前例のない逆境に誠意を持って対応し、彼にしかできない偉業を成し遂げたことは間違いないでしょう。ZORNは本公演の終盤に「今度ライブあっから来い! スーパーアリーナやっからよ!」と宣言し、これまでアーティスト活動と並行して続けてきた現場仕事を辞めたことを報告しています。音楽一本で生きていくことを決めた彼が、シーンの頂点へと登り詰めれば、日本のヒップホップのイメージも本当に塗り替えられるかもしれません。

なお、この公演はDVD化されており、生産限定盤には開催までのドキュメンタリーも収録されています。2021年、音楽シーンを襲った大波に正面から立ち向かったラッパーの記録をぜひその目で確認してください。

百田夏菜子「百田夏菜子ソロコンサート Talk With Me ~シンデレラタイム~」2021年10月16、17日 さいたまスーパーアリーナ

文 / 近藤隼人

毎年ソロコンを開催し、すでにソロアルバムも発表している佐々木彩夏さんや高城れにさんと比べると、個人での音楽活動に対して消極的な印象のあるももいろクローバーZのリーダー百田夏菜子さん。だからこそ、初のソロコンがさいたまスーパーアリーナという大会場で、しかも2日間にわたって行われると発表されたときは驚きと同時に「なぜいきなり?」という疑問があり、どんなライブが繰り広げられるのか未知数でした。しかし蓋を開けてみれば、観る者を圧倒する完成度の高いパフォーマンスとともに、疑問に対して十分に納得できる答えが用意されていました。

ライブの演出は映画「幕が上がる」や、東京・明治座公演「ももクロ一座 特別公演」でももクロの魅力を引き出してきた本広克行監督が担当。場内に鳴り響く時計の音が徐々に強くなり、開演時刻を迎えたことを観客に告げると、スモークとレーザーで装飾された円形のセンターステージを舞台に“シンデレラタイム”が始まりました。ダンサーやバンドを交えた重厚かつコンセプチュアルなライブが展開され、いつもと変わらない天真爛漫なMCとのコントラストに観客は夢中に。そしてこのライブでもっとも緊張感が高まった時間が、終盤に披露されたピアノの弾き語りパートでした。自身がヒロインを演じた映画「すくってごらん」の撮影のためにピアノを猛特訓し、劇中で見事な演奏を披露した百田さんは、同作の主題歌「赤い幻夜」や、地元・静岡と東京を行き来する新幹線の中でしたためた言葉を曲にした「ひかり」を披露。「白金の夜明け」では鍵盤を力強く打ちつけて不協和音を生み出し、だんだんとバンドのアンサンブルが加わっていくというカタルシスのある展開により楽曲の世界観を表現していました。

ファンがソロコンを長らく待ち望んでいた中、なぜこのタイミングで開催されたのか。それはピアノの弾き語りを含め、ももクロのライブとは趣の異なる多彩な表現、魅せ方を身に付けた、というのが理由の1つのように感じられます。もともと苦手としていた歌も、今やすっかり感情豊かで芯のあるものに。彼女のようにグループの中心的な存在でありながらほとんど自己顕示欲を見せないアイドルも珍しいですが、2020年大みそかの「第4回 ももいろ歌合戦」でピアノの演奏をサプライズで披露したあと感極まって涙を流していたように、挑戦を続ける姿はアイドルグループとして円熟期を迎えた今もなお健在です。そして「Talk with me」というファンとの距離感を意識したライブタイトル、公演最後にあっけらかんと語った「(ソロ活動について)今後の予定とか、新たに発表できることは何もないんです(笑)」という言葉にも彼女らしさがあふれていました。

ウォルピスカーター「ハイトーン刑務所 ~LIVEでキーを下げただけなのに~」2021年10月24日 Zepp Osaka Bayside

文 / 倉嶌孝彦

ウォルピスカーターは2012年より“歌ってみた”動画の投稿者としてアーティスト活動を繰り広げている男性ボーカリスト。“高音出したい系男子”という異名を持ち、高音域で構成されたボーカロイド曲を原曲キーで歌うことにこだわっている。彼はかねてから「一発勝負のライブでは原曲キーで歌えない」という悩みをインタビューなどで語っており、過去にはそれを理由にライブの出演を断るというほど原曲キーへのこだわりを見せていた。

そんなウォルピスは「ライブでキーを下げるか否か」という、本来であれば明かす必要のない自身の葛藤をあえて全面に打ち出すことでライブのエンタテインメント性を強調する手法を身に付ける。2020年1月に開催されたワンマンライブ「大株主総会」の冒頭では、ドキュメンタリータッチの映像でウォルピスの葛藤を描き、ライブの1曲目「STILL GREEN」をマイナス3度のキーで歌い始めるだけで、会場内の喝采をさらっていた(参照:「マイナス3だー!」ウォルピスカーター、大株主総会でキー下げる)。

今年の夏に大阪で開催された「ハイトーン刑務所 ~LIVEでキーを下げただけなのに~」は、ウォルピスの“原キーネタ”の完成形とも言えるライブとなった。この公演の先に行われた東京公演では「ライブでキーを下げたことで逮捕された」というストーリーが描かれており、大阪公演の「ハイトーン刑務所」では“囚人服に身を包んだウォルピスが刑務所に収監された”という設定のもとでライブが進行する。何かにつけて「声が低い!」と看守に怒鳴られるという徹底的にハイトーンにこだわる刑務所を舞台に、ウォルピスは自身のオリジナル曲とライブのストーリーを融合させたミュージカル調のライブを展開。最終的には「刑務所を脱走する」という一大スペクタクルをライブの中でやり遂げてみせた。ちなみにライブでキーを下げると言ってもそれは半音から1音程度であり、本人の持ち味である高音域のハイトーンボイスはライブの随所で堪能できることは補足しておきたい。

ヤバイTシャツ屋さん「ヤバイTシャツ屋さん 大阪城ホールワンマンライブ『まだ早い。』」2021年11月14日 大阪城ホール

文 / 清本千尋

風変わりなバンド名や、 “Tシャツ屋さん”なのにタンクトップのキャラクターが描かれたジャケット、道重さゆみさんのグッズTシャツを当たり前のようにステージやアー写で着ているベーシスト……常にツッコミ待ちのあのバンドが大阪城ホールで単独公演を開催する。あのバンドとはもちろんヤバイTシャツ屋さんのこと。2013年に大阪芸術大学の軽音楽サークルで結成され、2016年にまさかのメジャーデビューを果たした、全員が地元の観光大使を務めるあのスリーピースバンドです。

「いつまでもネクストブレイクでいたい」とギター&ボーカルのこやまたくやさんは言いますが、大阪城ホールで単独公演を行うバンドは完全に“売れて”います。その証拠に2020年9月にリリースした4thアルバム「You need the Tank-top」は、同年10月12日付のオリコンの週間アルバムランキングで1位を獲得しました。この1位には「期間中に予約を受けたアルバムにはメンバーが直筆サインを入れる」という3人の血のにじむような努力があるのですが、それだけ彼らのサインが欲しいと思う顧客(ヤバイTシャツ屋さんファンの呼称)が多くいることを証明しました。

しかもアルバムがリリースされたのは、コロナ禍の真っ只中。ライブバンドとして人気を博し、自身のツアーで全国を細かく回りつつ、フェスやイベントにも引っ張りだこの彼らにとって“ライブができない”という状況は、とてもつらいものだったと思います。そんな中でも「今自分たちにできることを」と、汗水たらして週間チャートで首位獲得という偉業を成し遂げ、2部制のライブではあるものの半年で全70公演という過酷なツアーを完走したヤバTが地元のアリーナで単独ライブをやる。このご時世、東京から大阪に遠征してまでの参加はギリギリまで悩みましたが、足を運ばなくてはいけないという使命感に駆られました。

私は彼らに「Zeppで5DAYSができるなら武道館もできるのに」と言ったことがあります。しかしこやまさんから返ってきた答えは「ライブハウスが好きなんで」という言葉でした。ライブハウスにこだわり続けた彼らにとって今回の大阪城ホール公演は、声を出せない、もみくちゃになれないコロナ禍だからこそ開催されたものだと考えています。それでも10枚のシングルと4枚のアルバムをリリースした彼らは、十分すぎるほどの持ち曲がありますし、ライブに関しては百戦錬磨のプロフェッショナル。初のアリーナ公演への期待は膨らむばかりでした。

どんな始まりになるのかと思えば、まさかの本人たちは不在で大勢のダンサーたちがミュージカルを繰り広げている……最初からヤバT流のボケが炸裂したステージについマスクの下で口元を緩めていると、彼らと入れ違いに3人が登場しアリーナいっぱいに爆音を鳴らしました。それ以降もこの規模だからこそできる特効満載のステージで顧客を楽しませたヤバT。終盤、こやまさんは「5年でいろんなことが変わったけど、ヤバイTシャツ屋さんも変わったかな?」「解散するバンドもいる中で、こうして続けられるヤバイTシャツ屋さんはホンマに運がいい」と語り、自分たちの生き様を歌った「サークルバンドに光を」を歌います。顧客たちは力強く拳を突き上げ、会場はこの上ない一体感に包まれました。

「僕らはバンドをずっと続けたいと思っているので、応援してもらえるようにがんばってチャレンジを続けていきます」と真摯に語るこやまさん、そしてそんな彼の横顔や背中を見守るベース&ボーカルのしばたありぼぼさんとドラム&コーラスのもりもりもとさん。「NHK紅白歌合戦」出場を長年夢見ている彼らがバンドを続けていつかその舞台に立てるように、そしてその先の景色を一緒に見るために私は3人のことを応援し続けたい。そう強く思った一夜でした。

カネコアヤノ「カネコアヤノ 日本武道館 ワンマンショー 2021」2021年11月29日 日本武道館

文 / 石井佑来

「彼女の今後のアーティスト活動を見据える上で、2021年の秋頃に初めての日本武道館でのワンマン公演を行う事が最良な頃合いだと考え、会場の調整、そしてスケジュールの確保をさせて頂きました」。コロナ禍でライブ開催が危ぶまれる中更新されたカネコアヤノのオフィシャルサイトには、そうつづられていた。2018年にアルバム「祝祭」で大きな注目を浴びて以降、順調にライブ会場のキャパシティを拡大し続けてきた彼女がこのタイミングでついに武道館の舞台に立つ。それは確かにとても自然な流れだし、多くのファンが待ち望んでいたことでもあったはず。実際、武道館公演開催が発表された直後のSNSは、ファンの喜びと期待の声であふれかえっていた。

しかし、そんな期待を遥かに上回るほど、カネコアヤノには武道館のあの広い会場が完璧に似合っていた。真っ暗な会場の中浮かび上がるのは、暖色の照明に優しく彩られたステージだけ。いつも通り、派手な舞台装置や演出は一切なし。カネコアヤノはいつだって、シンプルな歌の力だけで、目の前にいるすべての人と1対1の関係を結んでしまう。そしてそれは、会場が武道館になっても何も変わりはしなかった。彼女は、あのだだっ広い会場の隅から隅まですべての人と、切実さすら感じさせる親密なコミュニケーションを取り続けていた。

中でも特筆すべきは、ラストに披露された「アーケード」。イントロのギターがかき鳴らされた瞬間、それまで真っ暗だった客席の照明が一斉に点灯し、会場全体が真っ白な光に包まれた。と同時に、誰が合図をするでもなく、会場中の観客が一斉に立ち上がり、文字通り波を打ったように動き出す。その瞬間、カネコアヤノと観客の関係が“1対1”から“1対全員”へと、鮮やかに反転したように感じられた。手拍子をする人、こぶしを掲げる人、ただひたすらに体を揺らす人……会場にいる無数の人たち全員が、目の前で鳴らされる音楽によって自然発生的に湧き出た思い思いの動きをしていて、その光景が今までのどんなライブで見た景色よりも美しかった。

のちのインタビューで語られた話によると、カネコ本人やバンドメンバーはこの演出について一切把握しておらず、知っていたのは照明スタッフとPAのみだったという。最高のライブはいつだって、素晴らしいミュージシャン、素晴らしいオーディエンス、そして素晴らしいスタッフからなる美しいトライアングルによって形作られる。そんな認識を改めて強く、より強く実感するライブだった。

 

 

※記事初出時、本文の一部に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。