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平間壮一、小関裕太が体現する切ない愛 市川洋二郎演出『The View Upstairs-君が見た、あの日-』稽古場レポート

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『The View Upstairs-君が見た、あの日-』平間壮一・小関裕太 撮影:飯山福子 撮影:飯山福子

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2月1日(火)より東京・日本青年館ホール、2月24日(木)より大阪・森ノ宮ピロティーホールにてミュージカル『The View Upstairs-君が見た、あの日-』が上演される。本作品は、ニューオーリンズに実在した「アップステアーズ・ラウンジ」という同性愛者クラブで1973年に実際に起きた米国史上に残る同性愛者に対する事件のひとつ、“アップステアーズ・ラウンジ放火事件”を題材に、ブロードウェイ新進気鋭の若手作家、マックス・ヴァーノンが作・作詞・作曲を手がけたミュージカルで、​​日本初上演。公演に向けてキャストスタッフが一丸となって全力投球している稽古場の様子を取材した。

1月某日。今日は宣伝用楽曲映像撮影(「此処がきっとパラダイス」、「未来は最高!」、「こんな風な」)と通し稽古が行われる。感染対策には特に気を使い、消毒や換気、検温、アクリル板設置など万全な体制の稽古場。筆者も前日のPCR検査陰性をクリアして稽古場取材に臨んだ。しかし、対策は完璧でも稽古場にはものものしさはなく、和やかな雰囲気。稽古開始に備えてストレッチをする俳優たちは、マスク越しながらもリラックスした笑顔であろうことが伺える。

その和やかさは演出・翻訳・訳詞・振付の市川洋二郎によるところが大きいのかもしれない。イギリス・アメリカで演出家として活躍する市川はキャストと共にテーブルワークでのディスカッションやフィジカルなワークショップを重ね、作品についての理解を深めてきた。LGBTQコミュニティとしての結束が必要な作品で、キャストたちも稽古を通じて積極的に意見を交換しながら一体感を高めたのだ。



市川洋二郎


稽古場は本番同様の動きができるように、舞台美術もしっかり揃えられている。今回の日本版が本作初の非英語圏での上演となる。作・作詞・作曲のMax Vernon が市川と密に話し合って、アメリカの文化やLGBTQコミュニティにあまり馴染みがない日本の観客にも理解しやすいように内容をアップデートして、2022年版の『The View Upstairs』になるという。

楽曲映像撮影に続き、いよいよ通し稽古が始まった。冒頭はアップステアーズ・ラウンジの専属ピアニスト、バディ(畠中洋)の登場から。ステージ中央に配置されたピアノに愛おしそうに触れたのち弾き語りを始めると、1973年のニューオーリンズ、アップステアーズ・ラウンジに集う人々が姿を現す(「此処がきっとパラダイス」)。1973年当時はまだ同性愛が罪であった時代、はみ出し者たちはゲイバーなどの同性愛クラブに集まっていた。中でもアップステアーズ・ラウンジはあらゆる人種を受け入れる多様性のある場所。封印された過去から呼び覚まされた人々がビビッドに存在感を示す姿が実に印象的で、これから始まるミュージカルへの期待を高める。

現代を生きる若きファッションデザイナーのウェス(平間壮一)はニューオーリンズで廃墟と化した建物を購入するが、クスリでハイになった彼は「アップステアーズ・ラウンジ」にタイムスリップしてしまう。スマートフォンもインターネットもない70年代に生きる人たちと現代人のウェスとのちぐはぐなやり取りは笑いを誘う場面も。世間からはみ出した彼らのコミュニティにある絆の深さが、自意識過剰で不安を抱えるウェスの心を解かしていく……。70年代の彼らに向かってウェスが歌う「未来は最高!」は、ポジティブさとアイロニーが入り混じる。平間は繊細に役柄にアプローチして、平間ならではのカラーをキャラクターに加えていく。ウェスと恋に落ちるパトリック(小関裕太)。小関は複雑な過去を持つパトリックのピュアな輝きを表現。ときに反発し、ときに支え合いながら心を重ねる二人が歌う切なくも美しいデュエット「こんな風な」はあたたかい響きを備える。



平間壮一


小関裕太


この作品の大きな見どころは、アップステアーズ・ラウンジに集う一人一人のキャラクターが際立ち、イキイキとした存在感を放っているということだ。ラテン系ドラァグクイーンのフレディ(阪本奨悟)によるショーはキラキラした輝きに溢れている。阪本がチャーミングに歌い踊る姿は必見!また、経験豊富でコミュニティのメンター的存在であるウィリー(岡幸二郎)が見せる、一分の隙もない身のこなしとエレガントな佇まいは圧巻だ。ウィリーによる一人語りのシーンには稽古場中の視線が集中した。女性と結婚し子供もいる“クローゼット”のゲイであるバディ(畠中洋)が抱く複雑な心境やフレディの母でシングルマザーのイネズ(JKim)のあたたかく包み込む愛情など、それぞれのドラマや関係性が濃密に立ち上がる。異彩を放つのは、コミュニティの中で孤立するデール(東山義久)。デールが歌う「孤独の闇」は魂の叫びのよう。クールでスタイリッシュなパフォーマンスに定評がある東山が孤独なデール役で新境地を拓きそうだ。



岡幸二郎


東山義久

登場人物たちは台詞や歌がない場面でもステージ上(=アップステアーズ・ラウンジの店内)にほとんど出ずっぱりなのも、注目点の一つ。他のキャラクターの歌や台詞にリアクションを取ったり、あるいはあえて無視したりするなど、アップステアーズ・ラウンジの「客」として実にリアリティがある。彼らの佇まいには、キャストたちの間に長い稽古期間を経て培ってきた本物の絆も反映しているのだろう。

日本初演の『The View Upstairs』。お客様はノリの良いパフォーマンスに手拍子で応えるのも、ウェスとパトリックの繊細なラブストーリーに心を揺らすのもいいだろう。人と物理的に距離を取らなければいけない今の時期だが、はみ出し者たちが「我が家」と呼ぶアップステアーズ・ラウンジでの精神的に密な繋がりが羨ましく感じられるかもしれない。場面が進むにつれ、アップステアーズ・ラウンジに集う彼らに共感し、いつの間にか自分もこのコミュニティの一員になったような気持ちを覚えるのではないだろうか。やがてアップステアーズ・ラウンジの秘密が明かされる「その時」が来るが……、結末はぜひ劇場で確かめてほしい。



平間壮一・小関裕太

取材・文 :大原 薫 撮影:飯山福子

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