藤原竜也×松山ケンイチ×神木隆之介、実力派俳優が思うエンターテインメントの未来「目の前のことをどう面白くしていくかを考える」
映画
インタビュー
左から松山ケンイチ、藤原竜也、神木隆之介 撮影 / 奥田耕平
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思わずそんなことを考えてしまったのは、この映画を観たからだ。
スリリングな展開にゴクリと息を呑む、極限の新感覚サスペンス映画『ノイズ』。
絶海の孤島“猪狩島”に突然現れた一滴の“ノイズ”=サイコキラーを誤って殺してしまうことから、命懸けの死体隠しの幕が上がる。漫画家・筒井哲也による同名の大ヒットコミックを原作に、平和に暮らす島民の日常生活が、一気にダークサイドへと変貌する様を描く。
過疎化に苦しむ島で新たな名産品“黒イチジク”を生産し、島を再生させる希望の象徴的存在となる泉圭太役に藤原竜也、幼馴染で親友の猟師・田辺純役に松山ケンイチというふたりがW主演を務める。さらに、圭太と純を慕う新米警察官の守屋真一郎役に、神木隆之介。
日本を代表する実力派俳優が、今作で一堂に会した。“殺人の共犯者”となる3人を演じる、藤原竜也、松山ケンイチ、神木隆之介に話を聞いた。
藤原竜也は大黒柱だから揺るがない
藤原と松山は映画『DEATH NOTE デスノート』(2006年)以来15年ぶりの本格共演、藤原と神木は『るろうに剣心』の「京都大火編」と「伝説の最期編」(ともに2014年)以来7年ぶり、松山と神木はNHK大河ドラマ『平清盛』(2012年)以来9年ぶりの共演となるが、お互いにどんな印象を持ったのだろうか。
「3人でいるのはすごく楽しかったです。このおふたりもそうですし、他の共演者の人たちにしても、素晴らしいメンバーを集めてもらえたなと。この人たちの中で芝居できることが本当に面白かったですし、現場で集中していても、みんなと話していると楽しくなって、時に芝居のことも忘れてしまうほど(笑)。愛知県の常滑市で一ヵ月間撮影をしたのですが、ずっとこのメンバーでいましたから、精神的にもラクでしたし、楽しくやらせてもらったのでありがたかったですね」(藤原)
そう笑顔で振り返る藤原。インタビューの際も、旧知の仲である3人が醸し出す、和やかな雰囲気があたたかい。3人の中で、一番年上でもある藤原は、誰もがその背中を追いかける圧倒的な演技力と存在感を放っている。
「竜也さんと一緒にやれるのは、僕にとっては、安心材料でしかないです。やっぱり大黒柱ですし、僕の中でズドンと作品の真ん中に立っている人なので、まわりで僕らが変なことをしていても、揺るぎようがないというか。そういう安心感をいつも竜也さんには感じているので、今回も安心して演技ができましたね。最初に台本でキャストの名前を見たときに、好きな俳優さんばかりで、演技以外でも話をする機会が持てたらいいなと思ってみなさんといろいろな話ができたことも勉強になりました」(松山)
W主演ながら、藤原を大黒柱として慕う松山も、類稀なる才能の持ち主。“遊びをせんとや生まれけむ”というテーマも胸に残る大河ドラマ『平清盛』での松山の凄みは今もなお印象深い。
ただ、3人の中で一番年下となる神木は、ふたりに対してまた違った心象があったようだ。
「僕は『DEATH NOTE デスノート』が大好きなので『目の前に夜神月とLがいる!』という気持ちでした(笑)! 『平清盛』では、松山さんと同じシーンでの撮影はなかったのですが、ポスター撮影ではご一緒できて、食事にも連れていってもらいましたね。キャストの方々とお店に行って、当時はちょっとお話をさせてもらったくらいでした。だから、今回はほとんどはじめましてに近い感じです」(神木)
劇中でも、ふたりの弟のような存在となる神木。子役時代から培った実力に定評があるものの、謙虚に現場を思い返す。
「今作の現場でも松山さんはすぐに受け入れてくださいましたし、たっちゃんさん(藤原の愛称)は『るろうに剣心』で僕が常に横にいてお使えする役だったこともあって、すごく安心して現場に入ることができました。ただ、おふたりにご迷惑をおかけしないように、必死にしがみついていかなきゃいけないと思いながら撮影していましたね」
みんなを守ることは法でさばくことだけではない
「島を守りたい」という気持ちで繋がる島民たちだが、個々の思惑が重なることで、予期せぬ結末を招いていく。藤原が演じる圭太は、島のヒーローとして島民の期待を背負い続ける。
「『この島を背負っていかなきゃいけない』という気持ちから、死体を埋めて隠す決断をしてしまう。間違った正義なんですよ」(藤原)
松山演じる純は、圭太の死体隠しに協力。寡黙でどこか影があるために、時折見せるクールな表情の奥にあるものが気にかかる。そんな純を演じるにあたって、松山がこだわったことがあるという。
「純なりの思惑があって動いているところがあって。個人的には、純が、ある人物をスコップでぶん殴るシーンにこだわりました」(松山)
「クランクインのときからこだわっていたことなんですよ」(藤原)
「『殴るふりだと面白くないよね』って、そういう話をずっとしていたんです。スコップの素材を変えてやってみたりして。」(松山)
もうひとりの共犯者となったのが、神木演じる真一郎。入れかわりに島を出た寺島進演じるベテラン駐在員・岡崎正が去り際に、島のために「かさぶたになれ」と言った言葉が、のちのちまで影響する。
「かさぶたになれなんて抽象的なことを言われたら、どうとでもとれるじゃないですか(苦笑)。岡崎さんももともと島の人で、真一郎もみんなも幼馴染で、岡崎さんの姿を見て育ってきてしまったから、そんな考えが染み付いていたんでしょうね。警察官になって島に帰ってきて、みんなを守ることは法でさばくことだけではない、という考えが潜在意識にあったために、波風を立てないことが一番平和だと考えたのではないかと。だから、殺人を『なかったことにしましょう』と言ってしまって、すべてが始まってしまう。結果的には、それが“ノイズ”になってしまうので、一番かわいそうな男の子だと思いました」(神木)
ビニールハウスのシーンで印象的だったこと
藤原、松山、神木と個性の異なる一流の役者が、劇中においても三者三様の役柄で、スクリーンから圧倒する。ヒリヒリするような出来事がスピーディーに繰り広げられるが、3人にとって印象的だったことのひとつは、サイコキラー・小御坂睦雄役の「渡辺大知」なのだそう。
「廣木隆一監督は、1カットで回していく撮り方が多かったんです。ビニールハウスで大知くんを目撃したこの3人が疑いの目を向けるシーンで、格闘があった末に、大知くんが命を落とすところをけっこうな長回しで撮っていて。もしも大知くんの呼吸や表情が少しでも動いてしまうと、もう1カット撮り直しということになるわけで、何回もそれを重ねていくと、大知くんも焦りが出てくる。かわいそうな話だけど、監督も『もう1回やらせてくれ』となることも」(藤原)
「実際、ハウスの中は暑くて、汗だくでした」(松山)
「そのあたり大知くん、息を止めていないといけないですから」(神木)
「きついよね。今となっては、思い出のシーンです」(藤原)
「純は威嚇のために銃を持っていました。(小御坂が)怖くなって逃げればいいと思っていたんですけどね。大知くんのアドリブなのかわからないのですが、変質的なネチネチした感じが本当にすごくて……」(松山)
「……アドリブでしょうね(笑)。本人はネチネチしていなかったので(笑)」(神木)
一同 笑
「もちろん、大知くん自身はすごい好青年でした(笑)」(松山)
島をお散歩していたら見つけた生卵屋さん
“ノイズ”としてサイコキラーが訪れたことから“平和”な島に波紋が広がっていく。撮影中、3人にとって“ノイズ”と“平和”だと思えたことをたずねてみた。
「ノイズといえばなんだろうね?」(藤原)
「撮影現場で言うと、飛行機ですよね」(松山)
「『本番、よーい!』となってからの『ちょっと待ってください、飛行機が飛んでいます』ということがあって」(神木)
「飛行機待ちがあったね」(松山)
「まあでも、面白いですよね。だって、膨大な時間があるのに、ピンポイントで撮影を始めようとすると来るんです」(神木)
「それは確かにノイズかもしれないね。いろいろなセッションのために、僕らも本番に向けて、気持ちを整えている部分があるんです。そこで、どんなことであれ、中断してもう一回その気持ちを組み直すというのは『あれ?』となるときもありますね。もちろん、こちら側がお邪魔をしているので仕方がないことなんですけど…(笑)でもその一方で、平和だったことといえば、個人的には、お弁当の時間。松ケンは撮影中でいなかったかな」(藤原)
「どんなことですか」(松山)
「神ちゃん(神木さんの愛称)が島をお散歩していたら、生卵屋さんを見つけたんですよ」(藤原)
「ありましたね」(神木)
「神ちゃんが『美味しい生卵屋さんを見つけましたー!』と言って、10個ぐらい生卵を買ってきてくれて、ご馳走してもらったんですよ。控え室でお借りしている旅館の方にご飯を出していただいて、その常滑で有名な卵屋さんの生卵を卵かけご飯にして食べて。すごく平和で良いなあって、思いましたね」(藤原)
家族で雪を見に行きたい
コロナ禍でエンターテインメントの現場にも影響が出たが、徐々にその状況にも明るい兆しが見えてきた。映画『ノイズ』は2022年1月28日の公開だが、新しい年にやりたいことはあるのだろうか。
「コロナ禍になって、みんなやりたいことができなくなりましたが、消去法をしていくと、物事の選択肢が見えてきた部分もあったはず。エンターテインメントの定義は広くて、何をしてもみなさんが楽しんでくれればいいと思っているので、今だから思いついたことや出来たことなども生まれて、さまざまなことがフラットになったんじゃないかなって。年齢関係なく挑戦をしやすくなったから、今後もどんなふうに変化するのか、楽しみでもありますし、僕もエンターテインメントの中の何かのひとつになれればと思いますね」(神木)
どのような未来が広がっていくのか、期待が募る。いつどんなときも、しっかりとした自分軸を持っていれば、まわりがどう変化しても、ブレることはない。
「世の中の状況は関係なく、いろいろと目の前に、ポッとやりたいことが出てくるんです。そのときに俳優の仕事だけではなく、公私ともに気づいた物事、目の前に出てきたことを『どう面白くしていくか?』だけを考えようかなと思っているんですよ。だから、この先何をやりたいかはあまり考えず、基本的には今やっていることを面白くしていく気持ちでいます」(松山)
肩の力を抜いて、自分の人生を歩くのは、なんとも清々しい。今作の公開は冬だが、プライベートにおいてやりたいことはあるのだろうか。
「僕は大人になって、仕事以外、プライベートで雪山やスキーに行った記憶がないんですよね。だから、まだ子どもが小さいということもあるので、家族で雪が積もっている山に行って、雪を見に行きたいですね」(藤原)
そう語る藤原は、実に穏やかな表情をしていた。そんな藤原、松山、神木をはじめとした実力派俳優が揃う今作。新年の幕開けに、極上のサスペンスエンターテインメントを味わわせてもらおう。
撮影 / 奥田耕平、取材・文 / かわむら あみり
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