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「死の直前まで大騒ぎでいたい」田中泯がダンスと人生に思いめぐらせる

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ナタリー

左から田中泯、犬童一心。

「名付けようのない踊り」の記者会見が東京・日本外国特派員協会で1月24日に行われ、舞踊家・俳優の田中泯、監督の犬童一心が登壇した。

ポルトガル、フランス、日本の3カ国33カ所で踊る田中の姿を、約2年にわたって犬童が撮影してきた本作。田中がポルトガルで踊る際、犬童を誘ったことが制作のきっかけになったという。田中は「僕自身は映像に踊りを映すことに疑問を持っていました。僕の踊りは、その場での1回限りのものなので、そのまま映像化しても、その時々の空気は伝わらない。犬童監督の編集によって、踊りを再構築してくださいと伝えました」と振り返る。

一方の犬童は「どういう映画にしようか決めないで、ひたすら泯さんの踊りを追いかけました。そのあとにシナリオを書いて、踊りを組み直しました。大切にしたのは、自分が泯さんの踊りを観に行ったときの感覚です」と説明。田中の幼少期のパートは、山村浩二によるアニメーションで表現しており、その意図を「山村さんは日々1人で1枚1枚アニメーションを描いている。泯さんも1人で農業をしながら、自分の踊りと向き合っている。日々時間を掛けながら積み上げたものが、作品につながっていく姿が似ていると感じました」と明かした。

外国人の参加者からは「田中の空間の使い方が日本的だ」という感想も。田中は「明治以降、急速に欧米の文化と混ざっていき、もはや“日本特有”と呼べるような文化の思考はないと思っています。世界にはさまざまな文化があり、言葉とともに発展してきましたが、言葉が生まれる前の“沈黙”という文化は間違いなく世界共通。つまり、日本人が踊るから日本的なのではなく、ひょっとしたら世界中の誰の中にでもある空間性に、気が付いていないだけかもしれない」と持論を述べた。また田中が踊り終えたあとに発した「海に沈んでいくような感覚」について尋ねられると、「“無”というものを信じておらず、そういう境地になりたいとは思っていません。死ぬ直前まで大騒ぎなやつでいたいし、破裂するぐらいに自分の中を満たして、世界と触れ合って生き続けたい。私というものが、どんなに満たされ膨れ上がっても、この体からは出ていけない。このままいくと粒子化して沈没してしまいそうだ……という思いを表現したのだと思う」と振り返った。

最後に田中は、踊りを習い始めた頃に思いをめぐらせる。「『踊りは言葉で言えないことをやっているんだ』と言われたが、踊りの技術ってなんだろうと思うようになった。世界では、技術をつなげることが踊りだと思われているが、本当の踊りの“始まり”ってそうだったのかな?と思う。始まりを失った踊りは、木で例えれば、ほとんど枝の状態。あるいは葉っぱの状態。僕は世界中で協力して、踊りにもう一度“根っこ”を付けたい」と述懐し、「この映画をもとに、どんな人ともいくらでも踊りのディスカッションができる。そんなふうに死ぬまで時間を使いたい」と思いの丈をぶつけた。

(c)2021「名付けようのない踊り」製作委員会