主演舞台はセリフなし! 小野塚勇人、コロナ禍があったからこそ踏み出せた新たな挑戦
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すべて見るお笑いコンビ「NON STYLE」の石田明が脚本・演出を務め、しかも言葉を一切使わず身体の動きだけで表現する舞台作品『結 -MUSUBI-』が2月4日に開幕する。オーディションを経て主演の座を勝ち取ったのは劇団EXILEの小野塚勇人。これまでストレートプレイ、ドラマ、映画などで活躍してきたが、昨年『INTERVIEW〜お願い、誰か僕を助けて〜』でミュージカルに初めて出演し、そして今回はセリフなしのノンバーバル作品への参加と、30代を前に新たなチャレンジが続く。コロナ禍を経たことで小野塚の心に宿った“変化”への渇望、そして舞台への強い思いとは――。
――セリフが一切ないノンバーバルで展開するという本作ですが、最初に話を聞いたときの印象は?
小野塚 “ノンバーバル”という言葉自体、僕は知らなくて、これまではセリフ、言葉の力が役者にとってはものすごく重要な存在だという考え方でやってきましたけど、それを使わない表現で舞台をどこまで面白くできるのか?と考えたときに「楽しそうだな」ってワクワクしたのを覚えています。
――伝説の横綱が創設した相撲部屋を舞台に、親方の4人の息子たちと末の妹たちがなにやら騒動を巻き起こすという本作ですが、公式サイトやニュースであらすじを読んでも、これがセリフなしでどうやって描かれていくのか、想像がつかないですが……。
小野塚 そうなんですよね。脚本を読んでも、セリフがないので全部、ト書きなんです(笑)。当然と言えば、当然なんですけど……。これをひとつひとつ覚えていくというよりは、実際に動きながら作っていくという感じになるのかなと思っています。
――演出の石田さんとは現時点(※取材が行われたのは12月下旬)で、役柄や物語について、何かお話はされたんでしょうか?
小野塚 今の時点でそこまで深い話はしてなくて、(年明けからの)稽古についても「気軽に遊びに来てね」みたいな感じなんですよね(笑)。石田さんがそういうふうに言ってくださるので、僕もライトな感じで柔軟性をもって臨みたいなと思っています。オーディションで選んでいただいて、そこで僕を見ていただいていて、脚本にも恐らくそれが反映されていると思うので、“自分らしく”ということを前提に楽しんでやれたらと思っています。
――オーディションなどを通じての石田さんの印象は? TVの画面を通してのイメージと違いはありましたか?
小野塚 TVで見ていて、毒舌で厳しいことも言う人かな、というイメージだったんですが、そうした部分も含めて、人のことをよく見ているんだなというのは、お会いして感じましたね。オーディションでも、ちょっとしたやりとりの中で自分のことを見透かされたように感じたことがありました。
――ちなみにオーディションはどのような形式で行われたんですか?
小野塚 石田さんから「今、こういう状況です」という説明があって、それに対して瞬時にリアクションをするというものでした。セリフありの方は、僕が本屋さんの客で、石田さんが店長で、しかも石田さんの店長はすぐに見たことをSNSで投稿しちゃう人という設定なんです。僕は、買いたいエロ本があるんだけど、それが店長の前にあって、そういう状況で芸能人である僕がどうやってエロ本を買うか? というやりとりでした。途中で、石田さんが電話で席を外したり、でもすぐ戻ってきたりというのもあって、その場でいろいろ駆け引きをするというものでした。
“制約”を逆手にとって物語として笑いにして発信するというのは芸人さんだからこそ
――あらためて今回のセリフなしの“ノンバーバル”での演技について、どのようにイメージしていますか? 特に石田さんから参考にしてほしい作品などの指示はあったんでしょうか?
小野塚 ノンバーバルというと、チャップリンとかディズニーの昔のアニメのイメージが強いかもしれないんですが、今回、やろうと思っているのは、大げさな動きで見せるのではなく、むしろ日本人的なリアクションですね。笑いの表現や文化は日本と海外ではまた違うものだと思うので、まず日本のお客さんに刺さるようなリアクションを見せられたらと思っています。
石田さんの方から特に「これを見て」という指示はないんですが、今はYouTubeでもいろんな動画を見られる時代なので、そういうものを覗いたり、あとはジャッキー・チェンの映画の動きなんかを見たりしていますね。あの動きをそのまま取り入れるわけじゃないけど、自分らしい自然な動きをベースにしつつ、キャッチ―でコミカルなものも見せられたらと思っています。
――石田さんは本作の執筆にあたって、近年“してはいけない”ことが増えすぎているということを語っています。それを逆手にとって、楽しむためのこの作品を書いたとのことですが、共感・共鳴する部分はありますか?
小野塚 ありますね。僕も会社に所属する人間ですし、個人で思ったことを自由に発信したら、それは僕ひとりの問題では済まない部分もあります。僕自身は、普段からあまりSNSなどで発信するタイプではないんですが、いろいろ思っていることはたくさんありますが、そういった部分には気をつけるようにしています。
物事に対して正論をぶつけたりするのではなく、逆手にとって物語として笑いにして発信するという、その発想は本当に素晴らしいと思います。やはりエンタテインメントの世界でずっと活躍されてきた芸人さんだからこその考え方なんだなと思うし、自分もそうありたいなと思います。
――クリエイティブに関して、“制約”があるからこそ、工夫をして新たな発想が生まれる部分もあるのでは?
小野塚 そうですね。制約とか縛り、ルールでがんじがらめにされると、それを破りたくなるのが人間の心理だし、「ふざけんな!」って腐っちゃうところもあるかもしれないけど、それを活かして「こうしたらメッチャ面白いじゃん!」という発想ができるのか? それはすごく大事なことだなと思います。
結局は自分で実力をつけて、視野を広げていくしかない
――2020年は新型コロナの影響で、年明けの劇団EXILEでの『勇者のために鐘は鳴る』の公演以降は、全てがストップしてしまうという大変な1年でした。2021年は少しずついろんなことが動き出しましたが、あらためてこの2年ほどの未曾有の事態が、ご自身にどのような影響を与えたか教えてください。
小野塚 2020年は本当に大変な1年で、社会全体がピリついていましたよね。ドラマの撮影などの仕事の場でも「絶対に(コロナに)かかっちゃいけない!」という雰囲気でしたし、芸能界も含めて社会がすごく暗かったなと思います。舞台でも、これまでであれば稽古の後にみんなで飲みに行って、そこでのコミュニケーションによって、質が上がっていく部分も確実にあったと思いますけど、そういうこともできない状況で……。
2021年になって、波はありつつも少しずついろんなことが動き出して、とはいえやはり、緊張感はありましたし、自分も作品や役柄のことだけを考えるのではなく、いろんなことに頭を使っていたなという印象ですね。
その中で、僕はミュージカル(『INTERVIEW〜お願い、誰か僕を助けて〜』)を初めてやらせていただいたんですが、これはもしコロナがなかったら、挑戦していなかったんじゃないかと思います。
これまで、個人ではわりと映像を中心にやってきましたけど、コロナで約2カ月、社会全体が止まったときにいろんなことを考えさせられたんですよね。これまでミュージカルに対して苦手意識を抱いていたんですけど、もしかしたらそれは自分の頭の中で勝手に苦手と思っているだけなんじゃないかって。やるやらない以前に、ちゃんと観たことすらなかったなと気づいて、今は27歳ですが、この先、年齢を重ねていく中で考え方が頑固になっていくってよくないなと思ったんです。この先、やれることを増やしていかなきゃマズいなという思いもありました。
ちょうどそのタイミングでお話をいただいて、わりとストレートプレイに近いミュージカルだったこともあって、これなら自分の強みも出せるんじゃないかと思い、挑戦させてもらいました。そこでミュージカルの大変さはもちろん、面白さや素晴らしさを感じて、あらためて「実際にやってみなきゃ、何も分からないな」って気がつくことができました。
その経験があったからこそ、今回のノンバーバルでのお芝居についても、お話をいただいてすぐに「やりたいです!」と言えたんだなと思います。
――この1年でミュージカルに初挑戦したかと思えば、今回は歌はおろかセリフすらないノンバーバル作品と、振れ幅が大きくなっていますね。
小野塚 これまで「自分にやれることをやっていこう」という意識で、着実に一歩ずつ階段を上がってきたつもりだったんですけど、この階段って何段あるのか分からないんですよね。もっと言うと、頂上が存在するのかも分からない。そのとき、ふっと周りを見たら、階段以外の別の道が見えた――そこでまずは自分で体験して、考えてみようというマインドになったんですよね。
――心のどこかで「現状を打ち破らなきゃ」みたいな思いや葛藤、焦りなどを感じていたんでしょうか?
小野塚 それはいまだにあります。僕は19歳でデビューして、それから20代の10年について、1年ずつ「これを実現する」という目標を書いているんですけど、叶わないことの方が遥かに多いし、そうするとやっぱり焦ります。
自分だけの力じゃどうにもならなくて「どうしよう?」と焦って、だからって、周りに「お願いします」って頭を下げて何とかなるかと言えば、そうじゃなくて、結局は自分で実力をつけて、視野を広げていくしかないんです。
たまたま出た作品が話題になって一気に売れて……なんて宝くじに当たるようなものだなと思ってて、それはもちろん運だけじゃなく、いろんなことが噛み合ってそういう結果になるんだろうけど、そんな事態が転がり込んでくるのを待っている時間もないし、そこに自分の人生を賭けるなんて危険だなと思います。じゃあどうするか? やっぱり実力をつけるしかない。
これまで映像とストレートプレイで「ちょっとずつ向上していこう」と思っていたけど、当たり前だけど表現ってそれだけじゃない。ひとつに固執する必要はなくて「役者として成長する」という軸がきちんとあれば、いろんなことに挑戦していけばいいのかなって思います。
――人と人が顔を合わせることさえ困難になってしまった社会で、あらためて舞台についてどのような魅力を感じていますか?
小野塚 お客さんとステージの空気が一体化するのが舞台の魅力だと思っています。人前に立つことに緊張もするんですけど(笑)、どんどん入り込んでいって、やっぱり“生もの”だからこそ感情が揺さぶられるんだなというのを感じています。ステージに立って、お客さんの前にいるときこそ、自分が「生きている」と実感があって、楽しいと思える瞬間なんです。それを昨年の舞台であらためて感じました。「やっぱり、これなんだな」って。
取材・文:黒豆直樹 撮影:源賀津己
『結 -MUSUBI-』
【公演日程】
東京公演(全6回)
2月4日(金) 14:00/18:00
2月5日(土) 12:00/16:00
2月6日(日) 12:00/16:00
大阪公演(全4回)
2月11日(金・祝) 16:00
2月12日(土) 12:00/16:00
2月13日(日) 12:00
【会場】
東京公演:渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
大阪公演:COOL JAPAN PARK OSAKA TT ホール
【公演情報】
公式HP:https://musubi.yoshimoto.co.jp
公式Twitter:https://twitter.com/musubi_newstyle
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