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柄本時生×成河×長塚圭史「この不思議な劇を、とんでもないカタチに仕上げなきゃいけない」『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』

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左から、成河、柄本時生、長塚圭史

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KAAT カナガワ・ツアー・プロジェクト 第一弾 『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』が2月8日(火)にKAAT 神奈川芸術劇場 <中スタジオ>にて開幕し、神奈川県内6都市(川崎、相模原、大和、厚木、小田原、横須賀)を巡演する。

KAATの芸術監督・長塚圭史が書き下ろし演出する本作は、『西遊記』をベースに、神奈川県内に迷い込んだ三蔵法師一行が、神奈川七都市を巡る冒険譚。柄本時生、菅原永二、佐々木春香、長塚圭史、成河が出演し、音楽・演奏を角銅真実、長塚との共同演出を大澤遊が手掛ける。

<ひらかれた劇場>を目指し、より多くの神奈川県民、これまで劇場に足を運んだことのない人々と出会うため、KAATで創作した作品を携え、神奈川県内6都市を巡演するという本作。果たしてどのような作品になるのか。柄本、成河、長塚に話を聞いた。

まさに“冒険”。正解の書かれていない戯曲

――お稽古が始まって4日目だそうですが、いかがですか?

成河 楽しいです。いろんな演劇をやってきましたし、いろんな戯曲があると思いますが、改めて、すごく変わった戯曲だなと感じています(笑)。

長塚 ははは!

成河 それがすごく面白くて。本当に“冒険”というか、正解の書かれていない戯曲なんですよ。今は、正解をどこにつくるのか、いい意味で知覚的にみんなで探り合っている感じです。でも素敵な戯曲だと思う。すごく面白い。

長塚 こういう戯曲、普通は書かないからね(笑)。『西遊記』のような原作をベースにして台本を書くことも僕は珍しいですし。地域を取り上げながらつくることもないですし。これ……どういうジャンルなんだろうね?

成河・柄本 (笑)

長塚 “軽演劇”っていうのが近いのかもしれない。まあ、かなりユニークなつくりになっています。

『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』チラシ

――台本を読ませていただいて、わたしはシンプルに楽しい気持ちになりました。

長塚 それはすごく大事なことです。今回は、演劇を観たことがない方々が「自分たちが住んでいる地域がこんなふうに見えてくるんだ」とか「あの場所であんなことがあったんだ」ということを演劇を通じて知ったり、「いろんな場所にこんな簡単に行けるんだ!」というような演劇的マジックを楽しんでいただくために、演劇に長けた人たちが集まって、アイデアを出し合って、面白いものを見つけていけたらいいなと思っています。

「終わらないでほしい」と思うところまでいけたら

――実際に出演者の皆さんが演じ始めてどう感じていますか?

長塚 そこはこれからかな。みんな台詞の持つ意味はすでに掴んでいるから。その先の、どう空間をつくり、どう飛躍し、どう面白がって、どう感動を呼ぶのかをこれからやっていきます。僕は感動を呼びたいんですよ。この奇妙な作品で、感動してもらいたいんです。

成河 でもなんか昨日、そんな気配がしましたよ。お祭りが終わる時の寂し気で賑やかな感動というか。

長塚 ストーリーは(『西遊記』なので)みんなわかっているわけじゃないですか。それが「わ、終わらないでほしい」と思うようなところにいけるといいなと思う。もうね、こんなやさしい気持ちで劇をつくることはないですよ。

――そうなんですか!

長塚 そう。やさしいというか、おだやかな気持ちかな。今は「(ストーリーに)この地域を入れてないのはまずいかな」とかそういうプレッシャーはあるんだけど(笑)。「またやってほしい」とか「うちの地域も入れてよ」と思っていただければ成功だなと思っています。

――柄本さんは台本を読まれて、どんなふうに思われましたか?

柄本 いや~……よくわからない(笑)。

一同 (笑)

柄本 言ったことのない台詞たちなので。もちろん脈略はあるんですけど、それ以上になにか「いいじゃん!」というような感じがある(笑)。だから、意味があるんですけど、意味がないんですよ。だけどなにかは進むんです。普段、お仕事でやらせていただく脚本って「あ、わかる」と思ってそのまま進めちゃうんですけど、今回は「わからん!」と思ってやれています。それは本当に嬉しいことです。わかんないなと思いながらやるって、こんなに楽しいんだなって。苦しいと同時に楽しいっていうのを勉強させていただいています。

長塚 すごくよくわかります。馬(佐々木春香が演じる馬[玉龍])の台詞なんてもうね、その土地の食べ物を説明したりしてね(笑)。演じる側は「これはどこにいけばいいんだ?」という部分が多分にあると思う。

でも僕は何に感動するのかわからなくてもいいんだけど、光が溢れてくると面白いよなと思っています。音楽の角銅真実さんが詩情をとらえてくれる方なので。一緒に演奏したりしながらつくっていったらどうなるのかなって、そこへの期待もすごく高いです。

より多くの、演劇を観たことのない人たちと出会うために

――そもそもどうしてこの作品をやりたいと思われたのですか?

長塚 企画としては「神奈川県内をまわりたい」という思いから生まれました。KAATは神奈川県の劇場だから、より多くの神奈川県民、まだ演劇を観たことのない人たちと出会いたい、というところが始まりです。KAATのある横浜から見ると、神奈川県は西に大きく広がっている。ならば西を目指す『西遊記』はピッタリではないかと思いました。

――そこから『西遊記』に。

長塚 それとなるべく、みんなで旅回りの一座みたいに、行く先々でワッと劇を立ち上げて、気軽に観てもらって、「あの奇妙な時間はなんだったんだろうね」「また観たいね」と思ってもらえるようなものをつくりたかった。「楽しかったからまた来年も来ないかな」みたいなものにできたらいいなと思いました。それを実現するためには優れた役者さんに参加してもらいたい、と思って声を掛けていったら、みんな受けてくれた(笑)。オーディションにも大勢来てくれました。

成河 僕はこのお話を聞いた時、この作品を、公共劇場で、長塚さんが芸術監督として最初の作・演出としてやる、ということにものすごく意味があると思いました。これは本気の人たちが本気でやる甲斐があるものだと思うし、僕は今すごく燃えてます。

長塚 出演者のことを知らないような人たちが、「この人たち、なんなんだ」と面白がってくれるものをつくりたいんですよね。今後、各地でこういう試みをしてくれたらいいなとも思います。そのためにはまず僕たちが、この不思議な劇を、とんでもないかたちに仕上げなきゃいけないんだけれど。ゴールを目指して明るく刺激的な稽古場になっています。

柄本 僕は、『冒険者たち』というタイトルで神奈川をまわる、と聞いた時、本当にいい意味でですけど、「変態なんだな」と思いました。

一同 (笑)

柄本 もし僕がなにかそういう企画を考えてくれと言われたら、もっと外の世界を見てしまうと思うんですよ。それをまさか、ここ(地域)を見ようとするという。

成河 たしかに。

柄本 そこを見ることができる精神性がすごいなと思います。

成河 めっちゃわかる。似たようなことを僕も考えていて。例えば演劇に限らず、多少なりとも長くやっていくと、どうやったって、業界であったり業界が好きな人たちの塊(かたまり)からは離れられなくなっていくし、そこは常に視界に入ってしまう。だからみんな逃げようとするんですよ。「業界のためにやっているんじゃない」「業界ファンのためにやってるんじゃない」って口では言って逃げようとするんだけど、逃げたってどこにも行き場はないんですよね。

じゃあ逃げるんじゃなくて、別の具体的に何を提示すればいいのかという時に、それには必然性が必要で。それが圭史さんは、芸術監督になった神奈川だった。この圭史さんが持っている必然性が、僕たちに浸透して来たらいいなと思っています。まだ(稽古が始まったばかりの)僕たちには、神奈川である必然性がないんですよ。でも圭史さんはこの必然性とめちゃくちゃ向き合っていらっしゃるから。その熱は感じます。

――チケット代もすごく安いですよね。

長塚 気軽に観に来ていただくために、公共劇場のやれることのひとつだと思うんです。簡単なことではないですが、いろいろとがんばって調整してもらいました。

すごそうなことをやってる、よりも「楽しそうだな!」と思ってほしい

――共演者の皆さんの雰囲気はいかがですか?

長塚 (柄本に)どう? オーディションで選ばれた佐々木春香さんは劇団東京乾電池ですからね。意識して選んだわけじゃないんだけど。(※「劇団東京乾電池」は柄本時生の父・柄本明が座長を務める劇団)

柄本 そうなんですよ。だから個人的にはすごく、(自分にとって)恥ずかしい子が一人いるなっていう(笑)。なんかちょっと恥ずかしいんですよ、乾電池の方は。

長塚 身内感がね。

柄本 ちょっと照れちゃう(笑)。でも、僕自身は乾電池の人間じゃないんですけど、親父から聞かされてることもあるからなのか、春香が言う台詞はなんとなく理解します。

成河 ああ~。

柄本 春香から聞こえてくる声に「ああ、わかるわかる」っていう自分がいて、今現在はそこが面白いです。こういうことが起きるんだなって。あと(菅原)永二さんは、たまたま飲みに行くお店が一緒で、昔からよくお話はさせていただいていたのですが、人柄がすごく好きで。だから永二さんが台詞を言う度に、僕はすごく楽しいです。成河さんはまず、この量(現状、11役を演じる予定)ですからね……すごいですよ。ひとりずつちゃんと違います。稽古後に春香と話していて、第一声がふたりとも「成河さん、すごいな!」でした。「俺らあんなに考えられるかな」って。

成河 いやいやいや。でも多分このメンバーって、例えばシェイクスピアやりましょうとか長塚さんの過去の作品をやりましょうとかなったら、割と「このメンバーじゃないかも」ってなるくらい、それぞれの得手不得手がバラバラですよね。多分みんな基本的には違う方向を向いてるし、違うものをやっている。今、これだけ違う人たちが楽しんで、真ん中に自分の得意なものを投げて、「それ投げるの!?」「それは俺できねえ」「やっぱ面白いな」「あいつすげーな」とかお互い思い合っているのは、こういう場所の特性だなと思います。劇団とは違うものだし、この場所ではこれが一番いい状態だと思う。圭史さんが舵を取られている以上、その方向にいくだろうなという気がしています。

――「この作品が最終的にこうなったらいいな」と考えていることはありますか?

柄本・成河・長塚 ………。

柄本 なんか今、3人とも上を見ましたけど、すごくよくわかります。

一同 (笑)

成河 楽しそうなことやっている、とは思ってほしいですね。「なんか楽しそうにやっているから人はそこに行く」っていうのがあるから。なんかすごそうなことをやってる、もいいかもしれないけど、(今作は)楽しそうだな!って思ってほしい。

長塚 もう楽しそうだよね。

柄本 僕、本当にこの脚本の台詞たちを喋れるのは子供たちだと思うんですよ。多分、学芸会とか小学生が言えば言うほどどんどん聞こえてくる台詞たちなんですよね。それを社会人の僕たちが言うわけで、そこでなにができるのかっていうのを問われているような感覚があります。だからなんでしょうね、いつか出会えるんじゃないかなって。その“いつか”を楽しみにしたいと思っている感じです。

成河 ああ、面白いな~!

取材・文:中川實穗 撮影:源賀津己



『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』
2022年2月8日(火)~2022年3月19日(土)
KAAT 神奈川芸術劇場<中スタジオ>を皮切りに、神奈川県内6都市(川崎、相模原、大和、厚木、小田原、横須賀)を巡る

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