「義経千本桜 渡海屋 大物浦」出演の片岡仁左衛門、“一世一代”と銘打つのは「皆様への公約」
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片岡仁左衛門(c)松竹
東京・歌舞伎座で2月に行われる「二月大歌舞伎」、3月に行われる「三月大歌舞伎」に出演する片岡仁左衛門の取材会が、去る1月25日に東京都内で行われた。
仁左衛門は、「二月大歌舞伎」第2部「義経千本桜 渡海屋 大物浦」で、渡海屋銀平実は新中納言知盛を演じる。本公演が“片岡仁左衛門一世一代にて相勤め申し候”と銘打たれていることについて、「『次でいいか』と思っているお客様も、今回で最後だと思ったら観に来てくださるのでは(笑)」と冗談を飛ばしつつ、「芝居に“完成”というものはありません。なのでまだまだ勉強し、演じていきたい気持ちはあるのですが、知盛の衣裳は20kg近くもあるため、体力を非常に消耗します。今後、お客様に対して恥ずかしくないよう知盛を勤められるかどうか自信がないんです。なので今回を最後としました」と言葉に力を込める。「……まあ、(“一世一代”と)うたっておかないと、『やっぱりもう1回やってみよう』となりかねないので(笑)。自分にブレーキをかけるためにも、皆様への公約でございます」と茶目っ気たっぷりに続けた。
また「紀尾井町のおじさま(二世尾上松緑)、二代目河内屋(實川)延若のおじさまの映像を繰り返し観て、両方の型を取り入れ、“私の型”を作り上げました」と役作りの経緯を話し、「関西と関東で型や演出が異なっていて、私はその両方を取り入れています。例えば、大阪のほうだと知盛が碇を担いで現れますが、江戸のほうは傘を差してさっそうと現れる。出だしがカッコいいほうがお客様を惹きつけられるのではと思い、その場面は江戸風にしています」と明かす。さらに「それぞれ皆さんのお家の型がありますから、私の型は今公演の終了後、消えてしまうかもしれません。ですから、観ておいてください(笑)」とほほ笑む。
本作を「台本だけ読むと、非常に暗いお芝居」と表現した仁左衛門は、「それをいかに歌舞伎独特の演出で、人物の生き様を暗くなりすぎないように伝えていくかがポイント。知盛は、安徳帝への忠義と、源氏への恨み、この2つを持っている。源氏に対し『恨み晴らさでおくべきか』と意気込んでいたのが、帝の『自分を助けてくれる義経を仇に思うな』の一言で収まってしまう。そのときはまだ、戦う気力が失せただけで、義経を許していたわけではないのですが、義経から『帝のことは私がちゃんと守るから安心してくれ』と言われて、初めて源氏方への怨念も去る。ここで、知盛は『あなうれしや、ここちよやな』と言うのですが、知盛はそういった状況下で、“心地良い”という気持ちに持っていける人物なんですね」と語る。
「三月大歌舞伎」では、第2部「天衣紛上野初花 河内山」で河内山宗俊を勤める。仁左衛門は「『河内山』も好きな狂言。河内山を演じるときは、どんなに悪人であっても、将軍にじきじき会える立場の直参である、ということを念頭に置いています。また『悪に強きは善にも強し』と言いますが、河内山はまさにそれ。お金で動く人ではあるますが、いざとなったらお金を度外視して、立ち向かう人でなければいけない」と河内山の人物像に触れた。
また今回の上演版では、「玄関先の場」と、その前日譚となる「質見世の場」が上演される。「質見世の場」では、質店の上州屋の見世先を訪れた河内山が、松江出雲守邸に幽閉されてしまった上州屋の娘・浪路の奪還を請け負う物語が描かれ、「玄関先の場」では、上野寛永寺の使僧になりすました河内山が松江出雲守と対峙し、浪路を取り戻すまでが描かれる。仁左衛門は「私が『河内山』を上演するときは、『玄関先の場』だけではなく、かならず『質見世の場』をつけるようにしています。というのも、初めてご覧になったお客様が『玄関先の場』だけ観ると、何のことかよくおわかりにならない。もちろん、セリフでは説明しているのですが、やはり画で観ていただいたほうが、お客様にご理解いただきやすいかと」と話した。
「二月大歌舞伎」は2月1日から25日までで、「三月大歌舞伎」は3月3日から28日まで。「三月大歌舞伎」のチケットは2月14日10:00に発売される。
「二月大歌舞伎」
2022年2月1日(火)~25日(金)
東京都 歌舞伎座
第1部
一、「元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿」
作:真山青果
演出:真山美保
出演
徳川綱豊卿:中村梅玉
富森助右衛門:尾上松緑
中臈お喜世:中村莟玉
上臈浦尾:中村歌女之丞
小谷甚内:片岡松之助
新井勘解由:中村東蔵
御祐筆江島:中村魁春
二、「石橋」
出演
獅子の精:中村錦之助
獅子の精:中村鷹之資
獅子の精:尾上左近
第2部
一、「春調娘七種」
出演
曽我十郎:中村梅枝
静御前:片岡千之助
曽我五郎:中村萬太郎
二、「義経千本桜 渡海屋 大物浦 片岡仁左衛門一世一代にて相勤め申し候」
出演
渡海屋銀平実は新中納言知盛:片岡仁左衛門
源義経:中村時蔵
女房お柳実は典侍の局:片岡孝太郎
入江丹蔵:中村隼人
銀平娘お安実は安徳帝:小川大晴
相模五郎:中村又五郎
武蔵坊弁慶:市川左團次
第3部
一、「鬼次拍子舞」
出演
山樵実は長田太郎:中村芝翫
白拍子実は松の前:中村雀右衛門
二、「鼠小紋春着雛形 鼠小僧次郎吉」
作:河竹黙阿弥
出演
稲葉幸蔵:尾上菊之助
刀屋新助:坂東巳之助
芸者お元:坂東新悟
杉田娘おみつ:中村米吉
蜆売り三吉:尾上丑之助
石垣伴作:中村吉之丞
左膳弟子左内:市村橘太郎
養母お熊:嵐橘三郎
与之助:坂東亀蔵
早瀬弥十郎:坂東彦三郎
本庄曾平次:河原崎権十郎
大黒屋抱え松山:中村雀右衛門
辻番与惣兵衛:中村歌六
「三月大歌舞伎」
2022年3月3日(木)~28日(月)
東京都 歌舞伎座
第1部
「三代猿之助四十八撰の内 新・三国志 関羽篇 市川猿之助宙乗り相勤め申し候」
作:羅貫中「三国演義」より
脚本・演出:横内謙介
演出:市川猿之助
スーパーバイザー:市川猿翁
出演
関羽:市川猿之助
劉備:市川笑也
香溪:尾上右近
孫権:中村福之助
関平:市川團子
諸葛孔明:市川弘太郎改め市川青虎
華佗:市川寿猿
司馬懿:市川笑三郎
陸遜:市川猿弥
黄忠:石橋正次
曹操:浅野和之
呉国太:市川門之助
張飛:市川中車
第2部
一、「天衣紛上野初花 河内山 質見世より玄関先まで」
作:河竹黙阿弥
出演
河内山宗俊:片岡仁左衛門
松江出雲守:中村鴈治郎
宮崎数馬:市川高麗蔵
腰元浪路:片岡千之助
北村大膳:中村吉之丞
番頭伝右衛門:片岡松之助
和泉屋清兵衛:河原崎権十郎
後家おまき:坂東秀調
高木小左衛門:中村歌六
二、「芝浜革財布」
出演
魚屋政五郎:尾上菊五郎
政五郎女房おたつ:中村時蔵
左官梅吉:河原崎権十郎
錺屋金太:坂東彦三郎
酒屋小僧:寺嶋眞秀
桶屋吉五郎:嵐橘太郎
大家長兵衛:市川團蔵
金貸おかね:中村東蔵
大工勘太郎:市川左團次
第3部
一、「信州川中島合戦 輝虎配膳」
作:近松門左衛門
出演
長尾輝虎:中村芝翫
お勝:中村雀右衛門
直江山城守:松本幸四郎
唐衣:片岡孝太郎
越路:中村魁春
二、「増補双級巴 石川五右衛門 松本幸四郎宙乗りにてつづら抜け相勤め申し候」
補綴:戸部銀作
出演
石川五右衛門:松本幸四郎
三好長慶:中村松江
三好国長:中村歌昇
左忠太:大谷廣太郎
右平次:中村鷹之資
次左衛門:中村錦吾
呉羽中納言:大谷桂三
此下久吉:中村錦之助