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SEKAI NO OWARIとのコラボも話題 韓国ヒップホップグループ EPIK HIGHの功績を振り返る

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 韓国のオルタナティブヒップホップグループ・EPIK HIGH(エピック・ハイ)が、日本のバンド・SEKAI NO OWARI(海外活動名:End of the World)とのコラボレーションシングル「Sleeping Beauty」を6月29日に配信リリースした。両グループのファンにとってはもちろんのこと、日韓双方の音楽シーンにとっても衝撃のニュースだ。これまでも日韓ミュージシャンによるコラボレーションは幾度となく行われてきたが、今回はメインストリームで安定した人気を誇るビッグネーム同士であること、そしてトラックそのものが持つ訴求力などを勘案するに、その歴史に刻まれるマスターピースとなりそうだ。

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 この二つのグループは、実は以前から親しい関係であることを公言してきた。SEKAI NO OWARIが韓国で単独公演を敢行した際、コンサートを観覧したEPIK HIGHが終演後に共に撮影したオフショットをSNSに掲載して話題になったこともある。2016年には韓国のラジオ番組に出演したSEKAI NO OWARIが、将来的にEPIK HIGHとコラボレーションする意向であることも明かしていた。今回はそれがついに実現したということだ。

 全編英語詞で構成された「Sleeping Beauty」は、リリースに先駆けてレコーディング風景や本人たちのコメントを収めた動画が公開されていた。そのため早いうちからファンの間では話題で持ちきりとなっていたのだが、実際にリリースされるや否や日韓のみならず世界中のリスナーたちから熱い反響を得ている。メロウなサウンド、柔らかく奏でられるボーカル、情緒的でノスタルジックな世界観など、どちらのグループの持ち味も生かされている100点満点のトラックだ。

 そこでこの機会に、EPIK HIGHのキャリアについて改めて振り返ってみたい。EPIK HIGHは、ラッパーのTABLO(タブロ)とMITHRA(ミスラ)、そしてDJ TUKUTZ(DJトゥーカッツ)の3人で編成されるトリオだ。「詩に酔いしれた状態」「叙事詩的な偉大さ」などを意味するグループ名が示す通り、歌詞の叙情性や文学性を重要視する彼らのスタイルは、それ故に平均的なヒップホップからは若干の距離があると言えるだろう。アルバムごとのテーマ設定やアートワークの作り込みも徹底しており、彼らの作品に触れるとまるで一編の小説を読んでいるかのような気分になる。

 そんなEPIK HIGHの文学性は、一体どこからやってくるのか。答えは明白だ。グループの中核をなすTABLOは、アメリカの名門スタンフォード大学の英文学部を最高点で卒業した秀才だ。在学中に書き記した短編小説集『あなたのかけら』は作家のトバイアス・ウルフが絶賛したことで話題になった。EPIK HIGHの作品にはそんなTABLOの哲学が込められているのだ。その作詞能力は韓国ナンバーワンとも評されており、そのことに関してはアンチでさえも認めている。

 グループが結成されたのは2001年。その2年後にアルバム『Map of the Human Soul』でデビューして以降、ほぼ年に1枚のペースでアルバムをリリースしながら、本格的な芸能活動も通してタレントとしての人気も獲得。2005年にはシングル『Fly』が16万枚のヒットを記録し、『ショー音楽中心』(MBCテレビ)などの音楽番組ではなんと東方神起を下して堂々の1位に。2007年にはシングル『Fan』も13万枚売れるなど相次ぐヒットに恵まれた。特にスターに憧れるファンの感情を描いた「Fan」は、その愛が巨大化すればするほど却って疎外感に苦しめられる狂信的な思いが綴られており、EPIK HIGHのファンにとっては自分たちに理解を示してくれる彼らへの愛を感じると同時に、自らの行動を律するきっかけにもなる曲として長く愛されている。

 その後も「LOVE LOVE LOVE」「One」「傘」など韓国ヒップホップシーンの歴史に残るヒット曲を次々に生み出し、2008年には自主レーベル<Map The Soul>を設立。新鋭アーティストの育成、アルバム制作、芸能活動などと並行して、当時としては先鋭的だったウェブを通したファンとの交流など、エネルギッシュに活動しながら順調にスター街道を上り詰めていった。

 しかし2010年、彼らの歩みを止める事件が勃発。その輝かしい経歴と成功に嫉妬した人たちが「TABLOに真実を要求する(通称:タジンヨ)」という会を結成し、TABLOの学歴詐称疑惑をインターネットで拡散させたのだ。タジンヨの嫌がらせはそれだけにとどまらず、検察に学歴調査の要求を提訴したり、TABLOの自宅にまで行って脅迫行為を行うなど過激化していった。もちろんタジンヨの主張する内容はすべてデマであり、最終的に主犯格の数名には「虚偽事実流布による名誉棄損罪」として実刑判決が下された。しかしこの事件がTABLOに与えたダメージはあまりにも大きく、音楽活動の停止を余儀なくされたのだった。

 そんなTABLOの復活劇を支えたのが、現在もEPIK HIGHが所属しているYGエンターテインメントだ。TABLOの妻であり、同事務所に所属していた女優のカン・ヘジョンが一役買ったのである。当時はMITHRAとDJ TUKUTZが兵役に就いていたこともあり、まずはTABLOのソロ活動から再開することに。かくして2011年終盤に発表された初のソロアルバム『열꽃(熱花)』は、活動停止期間中に蓄積された感情のすべてが詰め込まれたような、人々の魂に訴えかける芸術作品となったのである。中でも先行リリースされたシングル「Airbag」の歌詞は、短編小説のように優れた情景描写で多くのリスナーの心をとらえた。さらに同じ事務所に所属するBIGBANGのメンバー・TAEYANG(日本活動名:SOL)をフィーチャーした収録曲「TOMORROW」は、哀愁感が漂うピアノの音色とメロディ、そして歌詞がもたらす虚無感を視覚化したミュージックビデオが耳目を集めた。

 その後、兵役を終えたMITHRAとDJ TUKUTZもYGエンターテインメントに合流し、定期的なアルバムリリースとライブ活動に加えてバラエティ番組での人気も復活。日本でも順調にファンが増えていき、全国ツアーも成功させている。思えばデビュー前から詐欺に遭ったり、自主レーベルの職員が横領をして姿を消したり、タジンヨによって名誉を傷つけられたり、と散々な目に遭ってきた彼らがそれ以降に見せている活躍ぶりは、はた目から見ているこちらまで気持ち良くなってくるほどだ。

 例えば2014年には「BORN HATER」が大ヒット。8thアルバム『SHOE BOX』に収録されているこの曲は、同じ事務所に所属するWINNERのMINO、iKONのB.IとBOBBY、そして外部からはBeenzinoとVerbal Jintという大物ラッパーたちが参加しており、著名人をけなす行為を繰り返すヘイターたちに対してそれぞれの思いをラップしている。TABLOは当然タジンヨについても言及。ちなみにこのミュージックビデオはスマホユーザー向けに縦向きで撮影されたのだが、今でこそ珍しくないこの手法は当時としては斬新なものであった。

 2015年には、TABLOがアメリカのラッパー・Joey Bada$$(ジョーイ・バッドアス)とコラボレーショントラック「Hood」を発表。その頃はちょうど韓国とアメリカのヒップホップミュージシャンによるコラボが盛んになっていた時期だったのだが、若手の間で最も熱い注目を浴びていたJoey Bada$$との共演は、EPIK HIGHのファンのみならず韓国すべてのヒップホップファンにとってセンセーショナルな出来事であった。

 さらに同時期、新たな音楽的領域を開拓したい、という思いからYGの傘下に<HIGHGRND(ハイグラウンド)>というレーベルを設立した。その中で最も成功したのは、韓国でも随一の個性と実力を持つバンドとして知られ、今や世界を股にかけたロックスターにまで成長したHYUKOH(ヒョゴ)だろう。2017年にリリースされたEPIK HIGHの9thアルバム『WE’VE DONE SOMETHING WONDERFUL』には、HYUKOHのボーカルを務めるオ・ヒョクをフィーチャーした「HOME IS FAR AWAY」が収録されている。<HIGHGRND>は残念ながら事実上の消滅状態となったが、HYUKOHを輩出したという実績は大きな勲章となるだろう。

 こうして彼らの経歴を振り返ってみると、不幸な出来事が続いたこともあってどことなく暗いイメージを抱く人もいるかもしれない。歌詞の叙情性もさることながら、サウンド面でも押しなべて空虚さやうら悲しさが漂う。しかしバラエティ番組で人気を獲得している事実が物語っているように、実はユーモラスな一面も惜しげなく見せるのも彼らの魅力のひとつだ。コンサートの告知用に人気アイドルや有名映画を完璧に再現したパロディポスターを作るなど、遊び心もいっぱいである。

 そんなEPIK HIGHが、今回“セカオワ現象”とも呼ばれる加速度的なスピードで日本の音楽シーンの頂点に上り詰めたSEKAI NO OWARIとコラボレーションしたことで、これまで彼らのことを知らなかった日本の音楽ファンにも存在を知らしめる大きなチャンスが到来した。7月4日には9thアルバム『WE’VE DONE SOMETHING WONDERFUL』の日本盤をリリースし、7月6日からは約2年ぶりの全国ツアー 『EPIK HIGH JAPAN TOUR 2018』もスタート。彼らの日本での躍進にさらなる期待がかかる。(鳥居咲子)