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南條愛乃の“アパート”は幸せに満ち溢れた空間に 『東京 1/3650』を主軸にしたツアー千葉公演

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リアルサウンド

 南條愛乃が9月22日と23日、千葉・市川市文化会館にて『南條愛乃 Live Tour 2018 – THE MEMORIES APARTMENT -【supported by dアニメストア】』を開催した。

(関連:『南條愛乃 Live Tour 2018 – THE MEMORIES APARTMENT -』関連写真はこちら

 南條は今年、ソロアーティストとして活動5周年を迎え、7月18日には初のベストアルバム『THE MEMORIES APARTMENT ‐ Anime ‐』と『THE MEMORIES APARTMENT ‐ Original ‐』を2枚同時リリース。同作のコンセプトは、これまでの発表楽曲やその主人公が住むアパートに彼女のファンが新たに入居し、楽しい時間をともに過ごすというもの。ソロ活動当初より、「近所や親戚にいそうな声優になりたい」という飾らない思いのもと、ファンの日常に寄り添い、時にはそっと背中を押してきた彼女ならではの作品に仕上がっている。そんな南條の優しさを感じられたライブより、本稿では2日目の模様を振り返りたい。

 ライブは、“入居挨拶”がわりの新曲「THE MEMORIES APARTMENT」で幕開けに。その歌詞は〈いつも同じ空の下/キミがそばにいれば今日もいい天気〉というフレーズから「今日もいい天気だよ」を想起するなど、これまでリリースしてきた“楽曲目線”で綴られている。そんな次々と現れる楽曲たちと戯れるかのように、南條もとびきりの笑顔を輝かせた。

 歌唱後のMCでは、初日公演に触れて「昨日は“ザ・ベスト”な感じのセトリだったけど、今日はちょっと違ったものをお届けできるかと……」と続きが気になる前振りも。その全貌を明かさぬまま、ここではベストアルバムに沿って進行。未来へ前進する意志を歌う「Gerbera」や、新たな自分を探す小旅行に出掛ける「スキップトラベル」などの優しい音色から、キュートにダンスする「idc」やアップテンポな「飛ぶサカナ」まで、幅広くファンを楽しませる。なかでも「idc」では、南條とダンサーがハニかみながらじゃれあい、間奏前には「千葉といえば、落花生!」と、ご当地ならではの即興フレーズが飛び出すなど、少々トゲのある歌詞とは裏腹に、彼女の茶目っ気溢れる一面を目撃することができた。

 ライブも折り返しに差し掛かり、セットリストに隠された驚くべきコンセプトがついに明かされた。今回のツアーでは各会場限定で、過去に開催したライブツアーの“再現コーナー”を披露するという。実際の参加者にはその追体験として、そして彼女の活動を最近追いはじめたファンには、当時の雰囲気を感じてもらおうという、このタイミングにふさわしい振り返り企画だろう。ここでは、各楽曲に込められた想いや当時の制作エピソードが、南條の言葉で改めて語られたことも非常に有意義だったと付け加えておきたい。

 そして、この日だけのコンセプトに選ばれたのは、『東京 1/3650』リリースツアー。『東京 1/3650』は、静岡出身の南條が過ごした上京後の10年間と、それまでの声優活動を振り返った初のフルアルバムだ。ほぼ全ての楽曲で、南條が作詞に臨んだためか、過去のアルバムのなかでも特にファンの日常と重なる描写が多く存在する。また、発表当時の2015年は、南條の音楽活動が本格化した時期だったほか、同作を携えたライブツアーは東京と大阪の2都市のみで開催。そのため、当時のライブに参加できなかったファンが、この日も客席の半分以上を占めており、今回の幸運な巡り合わせにさぞ喜びを噛み締めたことだろう。

 そんな『東京 1/3650』パートは、都会の静寂を思わせるピアノバラード「夜、静かな夢」にはじまった。当時は、南條のステージ登場時のSEとして演奏されたのみで、実際に歌唱されるのは今回が初めて。そんな数少ない未披露曲ゆえに生じた“高揚感”さえ、かつての初ツアーライブに感じた“期待感”にも似ていたような気がする。そこから、疾走感ある「believe in myself」を間髪入れずに演奏。当時のステージと同じ演出を辿ったことで、その雰囲気が鮮明に蘇ってくると同時に、彼女の音楽活動がここまで大きな実を結んだことを再認識する、とても貴重な時間を過ごすことができた。

 18曲目「だから、ありがとう」では、ストレートな言葉でファンへの感謝をとどける。同楽曲は、初日公演で歌われた「カタルモア」と同じく、ピアノ伴奏だけのシンプルな曲調だ。歌にごまかしの効かない分、ライブでは高い歌唱力が要求されるが、抜群の安定感と聴き心地を兼ね備えた南條の歌声は、むしろこのようなナンバーでこそ真価を発揮する。この日も彼女のハイトーンボイスが、楽曲の持ち味を存分に引き出すようだった。

 このパートの締めくくりに選ばれたのは、『東京 1/3650』のラストナンバー「+1day」。同楽曲は、多くの人々が行き交う都会のなか、ふとしたタイミングで互いにエールを送り合おうと歌っており、まさしく南條とファンの関係性を映しだすようだ。直前に披露された、友人との何気ないやり取りを描く「Dear × Dear」や、愛犬の天国への旅立ちを歌った「7月25日」なども踏まえ、南條の想いと歌声から明日への活力を受け取った気がした。

 アンコールでは、5年間の出来事やライブでの印象を綴った「・R・i・n・g・」などを経て、新曲「みんなの“好きな言葉“で書いた歌」を歌唱。同楽曲は、ベストアルバムの制作時に募集したファンの“好きな一言”を、南條が歌詞に盛り込んだものだ。その間奏では、ライブ当日に会場で集めたフレーズも読み上げられ、多くの社会人を泣かせた「給料日」や「定時上がり」などの一言には、会場全体がくすりとさせられる。そんな和やかなひとときを過ごしたところで、この日のステージに幕を下ろした。

 振り返れば、この日は「Precious time」を除く『東京 1/3650』の全収録楽曲が披露されており、ソロ活動当初の雰囲気を存分に楽しむことができた。また、この日のセットリストには、序盤の「Gerbera」や「スキップトラベル」など、同作以後の発表楽曲でありベストアルバムに収録されている楽曲も組み込まれていた。それでもなお、南條のソロ活動におけるコンセプトが明確に感じられたことは、特に記しておくべき事項だろう。彼女の音楽がファンの日常に寄り添えるのは、その愛情に満ちた人柄ゆえなのかもしれない。だからこそ、南條愛乃のアパートからは、いつだって住人の幸せそうな声が響いてくるのだ。(青木皓太)