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サイレント・コメディーに息づく人々の鼓動感じるKERA CROSS『SLAPSTICKS』最終公演地へ、木村達成が見せる新境地

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CROSS第四弾『SLAPSTICKS』より 写真提供/東宝演劇部

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昨年末より上演されているKERA CROSS『SLAPSTICKS』が、2月3日に最終公演地である東京・シアタークリエで開幕した。これに先立ち、報道陣向けに行われたゲネプロの様子をレポートする。なお、本記事はネタバレを含んでいるので鑑賞前の読者は注意して欲しい。

ケラリーノ・サンドロヴィッチの過去作を、さまざまな演出家の手で立ち上げる企画「KERA CROSS」シリーズの第4弾となる本作。今回はナイロン100℃による初演(1993年)、オダギリジョーを主人公に再演(2003年)された『SLAPSTICKS』を、ロロ率いる三浦直之の演出で再構成する。劇中では、サイレント映画からトーキーへ転換期を迎えたハリウッドを舞台に、映画への愛と希望にあふれる青年を中心としたロマンチック・コメディが繰り広げられた。

時は1939年、伝説の喜劇俳優ロスコー・アーバックル(金田哲)の映画をリバイバル上映しようとするビリー・ハーロック(小西遼生)に、配給会社のデニー(元木聖也)は興味を示さない。もはや過去の産物になってしまったサイレント・コメディーを知ってもらおうと、ビリーは1920年代に自身が助監督として入社した“喜劇の神様”マック・セネット(マギー)の撮影所やハリウッドで起こった出来事をデニーに語って聞かせる。以降はビリーの回想をメインに展開される。

当時のサイレント・コメディーには音だけでなく映像効果もないことから、笑いを生み出すために“自転車のタイヤを食べる”など超人級の芸が求められた。こうしたセネットの激しい要求や女優メーベル・ノーマンド(壮一帆)らに翻弄される若き日のビリー(木村達成)を癒したのは、サイレント映画のピアニストである初恋相手のアリス・ターナー(桜井玲香)。そんな中、アーバックルの主催パーティーで運命を大きく変えたのは、芽の出ないキャリアに風穴を開けようとする女優ヴァージニア・ラップ(黒沢ともよ)だった。

パーティーの夜に起こった事件は実在しており、本作における大きなモチーフのひとつでもある。無責任な推測が事実のように語られ、当事者が執拗に叩かれるさまは、SNS炎上をはじめとする現代の病巣と重なる。保釈された容疑者は申し開きの機会を奪われ、故人は文字通り言葉を失った。その結実と思えるラストの演出は必見である。一方、口をつぐむほかなかったふたりに対してラジオで証言したアリスのように口を開いた人物もいる。時代を超えて当時のエピソードを掘り起こそうと奔走するビリーも雄弁なひとりだ。

タイトルの『SLAPSTICKS』は、実在したセネット(1880〜1960)がつくり上げたスラップスティック・コメディーを指して“ドタバタ喜劇”(の複数形)と訳せる。劇中には映画館のスクリーンを模した額縁のようなセットが上下し、当時のコメディアンによる体を張った命懸けの笑いが次々と映し出された。現代ではコンプライアンス違反になるであろうその笑いに到達するためには、きっと道徳心や倫理観といった“一線”を越えて狂わなければならなかったのだろう。

優しさのあまり一線を越えられず、笑いに対して貪欲になりきれなかった若いビリーの苦悩を、木村は表情豊かに造形し新境地を見せた。助監督として周囲に翻弄されるさま、手も握れずにいるアリスとの恋路など微笑ましい魅力を振りまいた一幕があるからこそ、二幕における憂いが際立ってくる。映画に対して割り切れない思いを抱えながらビリーが中年になった様子を、小西は木村からのバトンを受け取るような説得力で表現。それぞれの役人物の解釈が一体となるようなシンクロぶりにうなった。

時代を席巻した『SLAPSTICKS』の終焉と、そこに息づく人々の鼓動をたしかに感じ取ることのできる約180分(休憩含む二幕)だった。千秋楽は2月17日(木)。ぴあでは座席指定できるチケットも販売中だ。

取材・文:岡山朋代 写真提供/東宝演劇部

■公演概要
KERA CROSS 第4弾『SLAPSTICKS』
2022年2月3日(木)~17日(木)
会場:東京・シアタークリエ

作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出:三浦直之
出演:木村達成、桜井玲香、小西遼生 / 壮一帆、金田哲(はんにゃ)、元木聖也、黒沢ともよ、マギー / 亀島一徳、篠崎大悟、島田桃子、望月綾乃、森本華

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