『ヴェノム』大ヒットスタート! 「日本で当たるアメコミ映画」と「日本でコケるアメコミ映画」
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先週末の映画動員ランキングは、『ヴェノム』が土日2日間で動員28万9000人、興収4億3900万円をあげて初登場1位に。初日からの3日間の累計では動員39万7000人、興収5億9600万円。9月14日に公開された『プーと大人になった僕』を最後に「ヒット作」と呼べる作品自体が出ていなかった外国映画だが、約2か月ぶりに派手なスタートをきった作品が登場したことになる。
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『ヴェノム』は世界中で大ヒットを飛ばしていて、アメリカでは10月に公開された作品としては歴代1位、秋シーズン全体に公開された作品としても歴代2位(歴代1位は昨年9月に公開された『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』)という記録を打ち立ている。逆に言えば、アメリカで10月というハロウィン・シーズンでのヒットを当て込んだホラー映画以外にとっては閑散期に公開されたということは、アメコミ映画作品としてはそこまで大きな期待をされていなかったということでもある。
今回の『ヴェノム』が実現するまでの紆余曲折を思えば、それも無理はない。もともと本作は2007年のサム・ライミ版『スパイダーマン3』の続編的スピンオフ作品として企画されていたが、サム・ライミが同シリーズから降板したことによって企画自体が宙に浮いてしまうことに。ちなみに2007年の『スパイダーマン3』は、ヴェノムのスクリーンデビュー作だった(今回の作品との繋がりはない)。その後、2012年に第1作が公開されたマーク・ウェブ版『アメイジング・スパイダーマン』シリーズにおいても、「アメイジング・スパイダーマン」ユニバースの一貫としてシニスター・シックスの企画などと並んでヴェノムのスピンオフ企画が再浮上。しかし、2013年の『アメイジング・スパイダーマン2』の興行的失敗によって再びユニバースそのものが宙に浮いてしまう。ご存知のように、現在『スパイダーマン』シリーズはディズニー傘下のマーベル・スタジオとパートナーシップを提携中で、マーベル・シネマティック・ユニバースに組み込まれている。しかし、本作『ヴェノム』の企画がソニーから発表されると、マーベル・スタジオ社長ケヴィン・ファイギはマーベル・シネマティック・ユニバースと繋げるつもりはないと明言。いわば、スタートの段階から梯子を外されてしまったかたちとなった。
そのような複雑な経緯が作品にどのように反映されているかは、実際の作品をご覧になって確かめていただきたいが、今回それでもヒットしたということは、つまり、海外においても日本においても、マーベル・シネマティック・ユニバースから独立した作品となったことがマイナスには作用しなかったということになる。海外においては、批評家のあまり芳しくない前評判を吹き飛ばすほど、それだけヴェノムが人気キャラクターで、映画化がずっと待たれていたことが理由として挙げられるだろうが、海外でヒットしたアメコミ映画が必ずしもヒットするとは限らないここ日本での状況に関しては、さらに考察を深めてみる価値があるかもしれない。
例えば、同じマーベルコミック原作のスピンオフ的作品でも、世界中で大ヒットを記録し、批評家からも絶賛を浴びていた『LOGAN/ローガン』(2017年)は、日本の興行では大苦戦を強いられた。これは、X-MENシリーズへの国内外の人気の温度差に加えて、作品のテイストがシリアス&ハードであることが日本でも事前に周知されてしまったからではないだろうか。一方で、マーベルコミック原作の『デッドプール』シリーズ(2016年~)、DCコミック原作の『スーサイド・スクワッド』(2016年)と、日本でも海外の水準から大きく隔たることのないヒットを記録した近年の作品は、共通してコメディ的なライトなテイストを持っていた。今回の『ヴェノム』も、本来はかなり邪悪でグロテスクなキャラクターであるヴェノムが、作品の中で意外なほど親しみやすく描かれていること、それが事前に伝わっていたことが功を奏したのではないだろうか。
もう一つ、これは今回各国でヒットしている理由の一つでもあると推測できることだが、「続編疲れ」「ユニバース疲れ」「3時間近くある大長編疲れ」を起こしている観客の間で、本作のように2時間に満たない(実は長大なエンドロールとそれ以降のシークエンスを除くと、本作の本編は96分ほどだ)、既存作品とのリンクも直接的には持たない、独立した一本の作品として気軽に観られる作品がむしろ歓迎されるようになってきているのかもしれない。特に日本では、「ユニバース疲れ」を起こす以前に、ユニバースにどっぷりはまってる観客自体が海外と比べると少ないこともあり、今回マーベル・シネマティック・ユニバースに「梯子を外された」ことがマイナスどころかプラスに作用した可能性さえある。
個人的には、特にマーベル作品に関してはユニバース作品ならではの作品世界の奥深さの虜となっている一人であり、どちらかというとシリアス&ハード路線のアメコミ映画の方に大興奮する体質(それとは別に今回の『ヴェノム』は大好きです)なので、少々複雑な想いもあるのだが……。(宇野維正)