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井上芳雄×鈴木浩介「事件の先にあるものを探す」『奇蹟 miracle one-way ticket』バディ対談

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井上芳雄×鈴木浩介  撮影:源賀津己

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北村想が書き下ろし、寺十吾が演出を手掛ける『奇蹟 miracle one-way ticket』。“迷いの森”を舞台に、記憶を失くした名探偵とその相棒が繰り広げる、謎が謎を呼ぶミステリー!? 独創をひた走る北村ワールドに“バディ”となって挑むのは、ミュージカルからストレートプレイまであらゆる表現分野で華やかに躍進する井上芳雄、そしてこちらも映像と舞台に濃い印象を残し、快走を続ける鈴木浩介のご両人だ。実はとても深〜い縁を持つふたりが、二人三脚で飛び込もうとしている『奇蹟』、その摩訶不思議な世界とは……!?

『桜の園』のリベンジ初共演

――井上さんと鈴木さんは初顔合わせの舞台となりますが、本来なら2020年4月に上演されるはずだった舞台『桜の園』(コロナ禍による緊急事態宣言発令により全公演が中止)が初共演だったんですね。

井上 はい、『桜の園』は残念ながら上演出来ませんでしたが、こうしてまた新たな作品でシス・カンパニーの公演に呼んでいただけて、とても嬉しいです。浩介さんも一緒だし……、高校の先輩なんですよ、浩介さん。なので一も二もなくやりたいです!と返事をした後に、ちゃんと作品について考えたと言いますか(笑)。これまで僕がシスでやらせていただいた作品ってトム・ストッパードとかチェーホフとか、いわゆる玄人好みの一見難解なストレートプレイだったので、今回の北村想さんのエンタテインメント寄りでもある作風は、意外な感じがしましたね。

『奇蹟 miracle one-way ticket』ビジュアル

鈴木 僕は、初めに「芳雄君と一緒」というくらいしか情報がなくて(笑)、どんなお話なんだろう、いつわかるんだろう……と思っていて、しばらくしてから台本をいただきました。

井上 それが作品との初対面?

鈴木 そう。まだ台本を読む前に別のお仕事の現場で、今回共演する瀧内公美さんにお会いして「浩介さん、結構いっぱい台詞しゃべってますよ」という情報が先に入りました(笑)。

井上 わずかな情報(笑)。僕は残念ながら北村想さん作、寺十吾さん演出の『日本文学シアター』シリーズの舞台を拝見していなくて、お二方とも今回がまったく初めてなんですよ。浩介さんは、北村想さんの作品に出演されたことありますよね?

鈴木 1回あります。(注:2016年上演『遊侠 沓掛時次郎』)もうね、台本のト書きが長いんですよ(笑)。

井上 確かに。今まで読んだことのないト書きでした。

鈴木 ト書きが話しかけて来るんです。だから家で読みながら「それって説明ですか?」とか「ああ、そうなのね」とかいちいちト書きに答えてます。(一同笑)

井上 ツッコミ待ちみたいなト書きですよね。見たことないタイプの戯曲でした(笑)。それこそストッパードや井上ひさしさんだと、勝手に台詞をいじったり出来ないじゃないですか。でも今回は「この部分はいらないかもしれません」なんてト書きに書いてあるから、こんな台本ある!?って(笑)。

鈴木 「ここはカット候補です」とかね。カット候補なら書かなくてもいいんじゃないの!?ってツッコんでます。遊び心が満載の、お茶目な台本ですよね。

書かれた事のないミステリー

――おふたりがバディとなる探偵モノということですが、それぞれがどんな人物で、どんな風に物語が展開していくんでしょうか。

井上 僕の役は法水連太郎(のりみずれんたろう)という探偵で、記憶を失っているところから物語が始まるんです。でも完全に記憶をなくしているわけでもなく……。なので、浩介さんが演じる友人の医師、楯鉾寸心(たてほこすんしん)とも不思議な関係性のところからスタートするので、まだどうなるか想像がつかなくて。

鈴木 探偵が記憶を失っているんだから、話が進むわけがないっ。……ってことを狙っている戯曲なんです。「おそらく、かくなるキャラクター設定の探偵は、ミステリー史上初めてではなかろうか」という僕の台詞があるんですけど、つまりこの話は、北村想さんがミステリー戯曲をあらいざらい勉強されたうえで、この話はたぶん一度も書かれていない!ってことを書いていらっしゃる。だから、お客さんが初めて目にするタイプのミステリーになっているんじゃないかな。

井上 素晴らしい〜。探偵本人が記憶を失くしたその状況を解き明かす必要があるから、二重のミステリーですよね。

――劇中、井上さんが歌うらしい!という情報も耳にしています。

井上 3曲くらい、歌いますね。

鈴木 それもト書きに「サービスに歌をどうぞ」なんて書かれていてね。

井上 そんな気を遣っていただかなくてもいいのに〜。(一同笑)ミュージカルではないけれど、お芝居の中に歌が入っているのは素敵なことだなと思いますね。あと、今までの経験上、ストレートプレイの中で歌うと、「さすがだわ〜」みたいにすごく褒められるんですよ。今回も僕はその反応に期待しています(笑)。

――寺十さんの演出には、どんな期待をされていますか。

鈴木 期待なんて、そんなおこがましいですよ。とにかく要求されることに応えていけるかどうか、ですから。寺十さん、ご自身が何でも出来る役者さんでもあるから厳しいんですよ。全部、寺十さんがやればいいのに〜と思うくらい。(一同笑)

井上 ハハハ、元も子もない〜。

鈴木 それくらい上手い役者さんで、非常に高い理想を持っていらっしゃるから、それを体現するのは相当の力が必要だと思いました。僕、前回、大変でしたから。

井上 ええ〜、浩介さんが!?

鈴木 大変だよ! ただあの時は出演者の体調不良で急遽、寺十さんが出ることになり、ご自身が一番大変なことになっちゃって。「こんなことならあんな難しいこと、言わなきゃよかった」って思われたんじゃないかなあ。

井上  ハハハ! すごいなあ〜。

鈴木 でもね、北村想さんの作品を寺十さんが演出することで、ウワ〜って胸がいっぱいになるような、なんとも不思議な化学反応が生まれるので、それは本当に楽しみですよね。

井上 僕は初めてだから、演出家の方がどういう世界を作ろうとしているのか、まずそれを知ることもエネルギーを必要とするし、初めての経験でしか得られないこともあるので、ただただ演出家の期待に応えたいと思いますね。作品を立ち上げる力のひとつになれるよう、頑張るしかないです。

井上芳雄はヒロインを輝かせる人

――2年前の『桜の園』の稽古場での経験から、お互いの役者としての印象を教えてください。

鈴木  『桜の園』はKERA(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)さんの演出で、やっぱり厳しい現場だったので、皆が一喜一憂していたんですよ。でも芳雄君はその一喜一憂をあまり見せなかった気がします。また舞台上で、相手がどう見えるかをすごく考えている、相手を良く見せる方法を知っている役者さんだなと。初舞台になるはずだった杉咲花ちゃんとも、百戦錬磨の大竹しのぶさんとも向き合う、すごく難しい役でね。それを一喜一憂せず、丁寧に積み重ねていく姿を目の当たりにして、井上芳雄ってすごいな!と。

井上 いやいや、やっぱり「うまくいかない〜」と思うことはありましたけどね。『桜の園』はメンバーがすごすぎたじゃないですか。それこそ百戦錬磨の先輩方が、「全然ダメだっ」とか「楽しくなってきました!」とか、演劇始めたばかりの青年みたいなピュアさでやっていて。

鈴木 ハハハ! そうだったね〜。

井上 自分は逆にわからないことが多かったので、ただただ、やれることをやっていただけなんです。浩介さんだって何でも出来るイメージだけど、そんな浩介さんも時々修羅場になっていて(笑)。でもそこが素敵だなと。

鈴木 さっき言ったように、芳雄君は自分の見せ方も上手だし、相手をどう見せるかを客観的に考えて、舞台上の立ち位置を決められる人。ヒロインを輝かせられる人だから、今回は僕、すべてを委ねます! バディというより、井上小百合さんや瀧内公美さんよりも俺がヒロインだぞ!と。冗談です。(一同笑)

井上 フフフ、僕のほうも浩介さんに甘える気満々なんですけど。役の関係性もありますけど、きっとたくさんのものを与えてくださると思うので。同じ福岡出身ってだけでも親近感が湧くのに、同じ高校ですからね。

鈴木 そうだよ、すごくない!? 同じ高校を出たふたりがバディの舞台をやるなんて、それがもう奇蹟ですよ!

井上 おっ、来た!(一同笑)何とかふたりで、最後までたどり着きたいなと。今回のお芝居は、台本を最後まで読んでも「こういう話」と説明できないところがあって(笑)。たくさんの濃い要素が詰まっているんですよね。

鈴木 ケムに巻かれたようなシーンがたくさんあるしね。でも、「あ、北村想さんはこの言葉をお客さんに伝えたかったんだな」と感じる、法水連太郎の台詞があるんですよ。俺はあの台詞が一番好きだよ。

井上 ああ、この芝居をやる意味が込められている、そんな類の台詞ですよね。

――舞台を観ながらその台詞をぜひ見つけたいですね。謎多き探偵物語の、おふたりのバディぶりを楽しみにしています。

井上 今このコロナ禍で演劇をするというのもタフなことですし、新しいものを生み出すエネルギーは今まで以上に必要だなと感じています。今回の“奇蹟”という言葉にも、「今、生まれている」という意味が込められているんじゃないかと。事件を解決することよりも、そこに至るまでの過程、いろんなことがわかっていく喜びというものも推理モノや探偵モノの魅力だと思うんですね。事件の、さらにその先にあるものは何なのか。それをお客様と一緒にワクワクしながら探していく、そんな作品になるのではと思っています。

鈴木 お客様に観ていただかなければ、作品は完成し得ないんですよね。僕と芳雄君は完成しなかった作品を経験していて、もう二度とあんな思いはしたくない。いまだに僕は『桜の園』のハードルに引っかかって止まっている状態なので、この『奇蹟』を2年越しのチャンスだと思って、お客様と一緒にクリアしていきたい。ぜひ劇場で、『奇蹟』が完成するのを手伝っていただきたいと思います。



取材・文 上野紀子 撮影:源賀津己
井上芳雄 ヘアメイク:川端富生・スタイリング:吉田ナオキ / 鈴木浩介 ヘアメイク:奥山信次(barrel)・スタイリング:久修一郎(インピゲル)



シス・カンパニー公演 『奇蹟 miracle one-way ticket』
作:北村想
演出:寺十吾
出演:井上芳雄 鈴木浩介 井上小百合 岩男海史 瀧内公美 大谷亮介

【東京公演】
2022年3月12日(土)~2022年4月10日(日)
会場:世田谷パブリックシアター

【大阪公演】
2022年4月13日(水)~4月17日(日)
会場:森ノ宮ピロティホール

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