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過酷な体験と向き合い描き続けた創作の軌跡を振り返る『生誕110年 香月泰男展』練馬区立美術館で開幕

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自身のシベリア抑留体験を描いた連作「シベリア・シリーズ」により現在までも語り継がれる画家、香月泰男。彼の生誕110年を記念し、その画業をたどる展覧会『生誕110年 香月泰男展』が、2月6日(日)に練馬区立美術館で開幕した。途中、展示替えを行い3月27日(日)までの開催となる。

同展は山口県出身の画家の香月泰男(1911〜74)の画業を振り返る展覧会。香月は太平洋戦争やシベリア抑留の体験を主題にした、黒や黄土色を多用した重厚感あふれる作品「シベリア・シリーズ」で知られている。また、その一方で日常生活のなかで見つけたモチーフを描いたり、鮮やかな色調の作品も数多く残している。

香月泰男《二人座像》1936年 下関市立美術館蔵

展覧会は4章構成。香月が20年以上に渡って描き続けた「シベリア・シリーズ」と、他の作品をあわせて制作順に展示することで、香月の歩んできた道のりを様々な視点で辿ることを試みている。

「第1章 1931~49 逆光のなかのファンタジー」では、香月が東京美術学校(現東京藝術大学)に入学した1931年から、復員した2年後の1949年までの作品を紹介する。

東京美術学校西洋画科に入学した香月は、ゴッホやピカソ、梅原龍三郎などの影響を受けつつ、独自の画風を模索し続けた。卒業制作の《二人座像》はピカソの影響が見て取れる。卒業後は美術教師として全国各地に赴任し、教鞭をとりつつ公募展に出品。その作品に注目が集まるようになっていった。

香月泰男《水鏡》1942年 東京国立近代美術館蔵

続く「第2章 1950~58新たな造形を求めて」では、1950年代の香月の作品を追う。日常生活のなかにある、庭の草花や台所の食材など、ささやかなものを対象として描いていく。また、1956年に初めてヨーロッパを訪問。パリを中心に各地を訪れ、西洋美術の古典に触れていく。

(左)香月泰男《ハムとトマト》1953年 香月泰男美術館 (右)香月泰男《散歩》1952年 愛知県美術館
(左)香月泰男《モンマルトル》1957年 香月泰男美術館  (右)香月泰男《バルセロナ》1957年 香月泰男美術館

このヨーロッパ周遊後、香月の画風に変化が生じる。日本画の画材として使われている方解石(ほうかいせき)の粉末、方解末(ほうかいまつ)を混ぜた黄土色の下地に、木炭末をこすりつける独自の技法を創案。《告別》はその頃の作品で、梅原龍三郎の長男、成四(なるし)の葬儀を描いたもの。水仙を意味するナルシスから名付けられたため、棺に水仙が添えられている。

香月泰男《告別》1958年 東京国立近代美術館

「第3章 1959~68シベリア・シリーズの画家」では、香月泰男の代表作となるシベリア・シリーズを取り上げる。モノトーンを基調とした重厚な作品は、当初、香月が当地の抑留経験を思い出すたびに描かれ、体系的なものではなかったが、1967年に画集として発売されたことをきっかけに「シベリア・シリーズ」としてまとめられ、世間に知られることとなった。本章では、シベリアシリーズに並行して描かれた日常風景をモチーフにした作品も紹介する。

香月泰男《北へ西へ》シベリア・シリーズ 1959年 山口県立美術館
香月泰男《1945》シベリア・シリーズ 1959年 山口県立美術館
第三章 展示風景より
第三章 展示風景より

そして、展覧会は「第4章 1969-74 新たな展開の予感」と続く。画集を出版した後も香月はシベリア・シリーズを描き続けていたが、その題材は自身の体験談から、次第に風景画的なものへと変化していった。また、1970年代に入ると、香月は鮮やかな色彩も使用するようになり、彼の注目度はより一層高まっていく。しかしながら、1974年、香月は心筋梗塞のため62歳で突然の死去。早すぎる死を多くの人が惜しんだ。

(左)香月泰男《四重奏》1973年 島川美術館蔵 (中)香月泰男《モロッコ羊飼》1973年 香月泰男美術館蔵  (右)香月泰男《ラスパルマス 闘牛(スペイン)》1973年 香月泰男美術館蔵
(左)香月泰男《月の出》1974年 山口県立美術館蔵 (中)香月泰男《日の出》1974年 山口県立美術館蔵 (右)香月泰男《ナホトカ〈渚〉》1974年 山口県立美術館蔵

《月の出》、《日の出》、《ナホトカ〈渚〉》の3点は急逝した香月のアトリエに残されていた作品だという。

過酷な体験に生涯向き合い続け、描き続けた香月泰男。彼の生誕110年を迎えたいま、あらためてその軌跡を振り返ってみてほしい。

取材・文:浦島茂世

【開催情報】
『生誕110年 香月泰男展』
2022年2月6日(日)~ 3月27日(日)、練馬区立美術館にて開催
※会期中展示替えあり
前期:2月6日(日)~3月6日(日)、後期:3月8日(火)~3月27日(日)

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