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悲しみを抱えた夫婦がたどり着く先は― 『ラビット・ホール』小島聖×田代万里生対談

ぴあ

小島聖×田代万里生  撮影:川野結李歌

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幼い息子を事故で亡くした夫婦。苦しみと悲しみを抱きつつも、彼らを取り巻く人々との交流によって少しずつ変化していく夫婦の日常を繊細に描いた佳品がKAAT神奈川芸術劇場に登場する。デヴィッド・リンゼイ=アベアーによるこの戯曲は、2007年にピューリッツァー賞戯曲部門を受賞。ニコール・キッドマンが自らプロデュースし、主演した同名映画(2010年公開)も大きな話題を呼んだ。今回は、『チック』(2017年上演)の翻訳・演出で第25回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞し注目される小山ゆうなが演出を担い、連続テレビ小説『まれ』など話題のテレビドラマの脚本を手掛ける篠﨑絵里子が上演台本を担当。精鋭クリエイター陣にも期待が集まる本作で、夫婦を演じるのは、瑞々しさと芯の強さを合わせ持ち、幅広いフィールドで存在感を示す小島聖(ベッカ役)と、ミュージカルや演劇の舞台において、豊かな表現力で役柄の幅を広げている田代万里生(ハウイー役)だ。切なくも優しい家族の物語がいかに立ち上がるか、稽古真っ只中のふたりに話を聞いた。

日々新たな感情と向き合う刺激的な稽古場

――稽古での手応え、あらためて感じる作品の印象や発見など、まずは今の率直な思いを教えてください。

小島 最初にこの舞台のお話をいただいて、戯曲を読み、映画も観ました。その時は、どこか他人事のような感覚でいたと思います。今、稽古を重ねて一つひとつの言葉の意味を深く考え出したら、もうどうしたらいいのか分からないほど、いろんな感情が押し寄せて来て……。子どもを失ってしまった、その悲しみは抱えているけれど、だからと言ってこの夫婦は日々暗い生活をしているわけではない。日常を暮らしながら、ふとした時に感情が揺さぶられる。そういった気持ちの強弱を表すことがとても難しいな〜と思いながら今、稽古をしています。

田代 僕は、日常を描いた作品というものをこれまであまり経験したことがなかったんですね。ミュージカルだったらしっかりウォーミングアップをして、体も声も整えて臨みますが、この作品ではあまり気合を入れ過ぎると「声が大き過ぎる」と言われたり(笑)。共演の皆さんは、日常から稽古に入る、その境目がないくらいに自然にお芝居をされていたので、僕にとっては本当に新しい世界が広がったなという感覚です。作品に関しては、僕も最初は、何かを演じなきゃいけないと思っていたんですが、実際にお子さんがいらっしゃる聖さんをそばで見ていると、だんだん他人事ではなくなって来て。ふたりの息子のダニーは舞台には出て来ませんが、先日、声を収録するためにダニー役の男の子が稽古場に来てくれたんですね。その子と戯れているうちに、新たな感情が生まれて来たり。今後もっと稽古が進んでいったら、また知らない自分に出会えるんじゃないかな…、そんなふうに感じています。

――幼い子どもを亡くす、そんな過酷な出来事を演技として疑似体験していく過程は、非常に難しく痛みを伴うだろうと想像します。妻のベッカと夫のハウイー、それぞれの人物をどうとらえ、どう表現出来たらと考えていらっしゃいますか?

小島 あくまで物語なのですが、どうしても子どもがいると…、演出の小山ゆうなさんも同じくらいのお子さんがいますので、分かり合える部分は多いです。でもあまりにも感情移入してしまうと成立しなくなるし、私としても、ベッカとしても、手放していかなければいけない部分がいっぱいあって。日常会話のなにげない一言がベッカにとってはすごく引っかかって、それをきっかけに口論になってしまったり。でも笑い合うこともあるし……、本当に気持ちが揺さぶられっぱなしです。

田代 ハウイーは、良かれと思って言ったことが全部裏目に出てしまったり、ベッカを守るためにしたことが、逆にベッカの癇に障ってしまったりするんですよね。小山さんがおっしゃるには、ハウイーもベッカも相手を責めているのではない、現状に対して自分がどうしていいかわからないから、相手にあたってしまうと。口論をしていても、そこには愛がある。そこが大事だということを、小山さんの演出を受けて思いました。

小島 小山さんはすごく懐の深い、お母さんみたいな方です(笑)。言葉の選び方が的確で、体にスッと馴染む言葉で伝えてくれるので、稽古は非常に楽しいです。

田代 あるシーンの立ち稽古が終わると、普通は演出家が「あそこはこうしようか」という話をすることが多いですが、小山さんからは逆にどう思ったかをまず聞かれます。役者がどうしたいのか、どう思っているのかを大切にされているんだなと思いましたね。

――稽古場でのお互いについての印象、新しい発見についても伺いたいです。

小島 万里生さんのことは、もちろんお名前も、ご活躍なさっていることも知っていましたが、ご本人についてはよく知らず、本当に今、まっさらな気持ちで「こういう方なんだ〜」と思いながら毎日一緒に稽古場にいます(笑)。なんか、シュッ!としているんです。紳士的なたたずまいで、ハウイーにぴったりじゃないかなと思います。

田代 聖さんはとても柔らかい印象があるんですけど、お芝居していて時々、ピリッとした芯の強い女性が見えて来て。それがカッコ良かったり、怖かったり、いろんな色が出て来ています。

小島 フフフフ。

田代 まだまだ僕の知らない一面があるだろうと(笑)。ハウイーとベッカは一定の距離を保ってお互いを支え合っている、そんな夫婦に感じるので、今はちょっと俯瞰しています。

ラビット・ホールは現実世界の裏返し?

――ベッカの母親役の木野花さん、妹役の占部房子さん、ともに確かな実力を持つ魅力的な俳優さんですが、小島さんは劇中家族として向き合うなかで、どんな刺激を受けていらっしゃいますか?

小島 すごく楽しいですよ! 木野さんは以前に一度ご一緒したことがありますし、占部さんは舞台を拝見していて、いつかご一緒したいと思っていた方なので、今回はとても嬉しいです。おふたりとも一緒にいて、家族であることが信じられるので、本気で怒れるし、本気で頼っていいんだなと思えます。ベッカとしても私としても、とても心強いです。

――そして、交通事故を起こしてベッカとハウイーの息子の命を奪ってしまった青年ジェイソンを、新原泰佑さんが演じます。これまでミュージカルでの活躍が多く、おそらく本格的な会話劇は初挑戦かと。田代さんは似た経歴から、稽古場でどのように見ていらっしゃいますか?

田代 ベッカとハウイー、ベッカの母と妹の、家族4人のシーンが多いので、新原君は本当にジェイソンのように、いつものメンバーの中にポンと入って来る感じで、飄々としている部分もあれば、緊張している部分もあるなと感じますね。僕も彼くらいの年齢の時は何もかもが初めてで、緊張していたので、自分を見ているようでもあって……。でも僕なんかよりも堂々としていて、すごいな!と思って見ています。

――タイトルの『ラビット・ホール』ですが、この“ウサギの穴”は一般的には「抜け出せない道に進んでしまう」といった意味を持ち、この夫婦の状況を端的に表しているともとれます。危機的なニュアンスを感じる言葉ですが、ベッカとハウイーは、ラビット・ホールから抜け出すことが出来るのでしょうか?

小島 それは……わかりません(笑)。わからないけれど、否定的にも考えていなくて。その穴はすごく素敵な未来への入り口かも知れないし、逆にすごく暗い世界への入り口かもしれない。どっちか、というよりも、混沌としたままでいいのではないかな、答えは出ないのではないかな……と思います。(田代に)どうでしょう(笑)?

田代 僕は、このタイトルにまったくネガティブなイメージはないですね。以前、『アリス・イン・ワンダーランド』というミュージカルでウサギを演じたので、むしろワクワクして台本を読んだら、全然違う世界だったのでビックリはしましたけど(笑)。現実世界の裏返し……といったふうに、悲しいことは楽しいことになるかもしれないし、楽しいことは悲しいことになるかもしれない。そんなキャッチーで面白いタイトルだなと。今回の舞台セットも、スタッフの方が“現実世界の裏返し”を表現するような面白いものにしようと考えていらしたので、劇場でそれを見るのも楽しみです。

小島 うん、きっと素敵な空間になると思います。

――その空間で繰り広げられる夫婦の日常を、ぜひ覗きに伺いたいと思います。

田代 映画を観るような気持ちで気軽に劇場に来ていただき、ご自身の人生と少しだけ重ねて観ていただけたら。それによって皆さんの心に何か変化を起こすことが出来たら嬉しいなと思います。

小島 お客様には“演劇っていいな”と思っていただけたら。ぜひ観に来てください!

取材・文:上野紀子 撮影:川野結李歌



『ラビット・ホール』
2022年2月23日(水・祝)~2022年3月6日(日) ※当初予定していた2月18日より開幕日が変更になりました。

会場:KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ
神奈川公演後、兵庫公演(兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール)あり