天海祐希×鈴木亮平がダブル主演。 異色の西部劇エンタテインメントで、現代に希望を見せる!ーCOCOON PRODUCTION 2022『広島ジャンゴ2022』
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インタビュー
天海祐希×鈴木亮平 撮影:源賀津己
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作・演出の蓬莱竜太が、西部劇に現代の問題を映し出す『広島ジャンゴ2022』。お尋ね者のガンマンを演じる天海祐希、その愛馬に扮する鈴木亮平は、そこでどう奮闘していくのか。役者として、そしてひとりの人間として、描かれるテーマについて語ってくれた。
工場のパートタイマー×シフト担当が西部劇の凄腕ガンマン×愛馬に
──『広島ジャンゴ2022』は、広島の牡蠣工場から西部劇へと展開していくユニークな作品です。それぞれの役柄から教えていただけますでしょうか。
鈴木 では、まずは僕からわかりやすく説明しますと(笑)。僕は広島の牡蠣工場で、従業員のシフトを組んでいる木村という役を演じます。そして、天海さんが演じられるのが、そこに新しく入ってきたシングルマザーのパートタイマーの山本さんで、彼女が残業もしない、みんなとの飲み会にも参加しないということで、中間管理職として会社と山本さんの板挟みになっているんです。ところが、ある日目覚めたら、西部劇の世界に入っていて、山本さんはジャンゴという流れ者の凄腕ガンマンになっており、僕はジャンゴの馬のディカプリオになっているという流れになっています。
天海 ありがとうございます。鈴木さんが説明してくださった通りで、ひとりの人間を山本とジャンゴで表現できるのが、すごく面白いなと思っているんですけど。どちらも、背負っているものや自分の気持ちをしゃべらない寡黙な感じで、どちらも、その理由が後々わかっていき、そのすべてを鈴木さんの演じる木村さんとディカプリオが目撃していくので。彼がそこでどう振る舞い、何に気づいていくのかというところは、おそらくお客様の目線と同じではないかなという気がしています。
鈴木 そうですね。木村は独身の男性で、女性であり、シングルペアレントである山本さんが背負っているものに、最初はまったく想像が及んでいないんです。そんな鈍感で無知な青年が、西部劇の世界に行って翻弄されて、戸惑いながらもいろいろなことを目撃していき、木村がストーリーを回していくことにもなるので、きちんとリアリティを持って、緩急をつけつつ、お客様に楽しんでいただけるように伝えられたらなと思っているところです。あと、今回は歌があるのが心配で、さっきも天海さんに相談していたんですけど(笑)。気持ちが伝わればいいということと、木村が歌っているのであって僕が歌うわけじゃないから大丈夫だということを言っていただきました。
天海 そうです、そうです。物語の中にちゃんと入っていればいいと思うんです。それに、鈴木さんは何でもできるので大丈夫。私自身も、いつも傍らに鈴木さんの木村ディカプリオがいてくれると思うと、安心してできるなと思っていて。今回の役は、皆さんに想像していただくいつもの私とはちょっと違って、山本もジャンゴも、外から見ると強いけれども、内側にはものすごく葛藤があって、強くならざるを得なかった理由もあるので。誠実に生きなければいけないなと思っているんです。
お互い、イメージとは違うキャラクターが見られるのが楽しみ
――天海さんはいつものイメージとは違う役とのことですが、鈴木さんは天海さんの、そして天海さんは鈴木さんの役についてどんなところが楽しみですか。
鈴木 今回の天海さんは、あまり拝見したことがない感じになる気がしていて。山本もジャンゴも実は繊細で脆く壊れやすくて、そういう面を見せるシーンが魅力的になるだろうなと思うので。お客様も楽しみにしていただきたいなと、生意気ですが思っています。
天海 そういう意味では、鈴木さんも今回の役は、多くの方が持っているイメージとは違いますよね。容姿を含めてスケール感があるので、自分から行動を起こす、引っ張っていくといった能動的な役が多かったと思うんですけど、今回は、翻弄されるという受動的な役ですから。鈴木さんの中にも必ずある繊細さで、木村がどう成長していくのかを、すごく丁寧に探求し、お芝居で表現してくださるのではないかなと楽しみにしています。
鈴木 蓬莱さんは、前回ご一緒した『渦が森団地の眠れない子たち』でもあまり色のない役をくださったんですが、今回も強くも弱くもないひとりの人間を演じられるのがすごくうれしくて。燃えますね。
天海 蓬莱さんは、一色ではない人間のいろいろな面を丁寧に描いてくださるので、私たちも、また別の面を引き出していただけるのではないかと思っています。
──蓬莱さんの作品には、鈴木さんが2度目、天海さんは初めての参加になりますが、どんな印象をお持ちですか。
鈴木 僕は『渦が森団地──』でご一緒する前から蓬莱さんの作品のファンで、何を観に行っても面白くて、心に刺さるものがある。それを帰ってから反芻するところまで含めて楽しめるのが、いつもいいなと思っています。
天海 私も何度か拝見していて、私が観た作品は、ごくごく穏やかな日常が描かれる中、ちょっとしたきっかけで世界が変わり、歯車が狂い始め、人間の深層心理が浮き彫りになっていく様子が描かれていて、なんて鋭いところを衝かれるんだろうと感じました。それでいて、ちょっとした幸せがあり、安らぎがあり、希望がある。今回もまさしくそんな世界が描かれていくのではないかと思っています。
鈴木 物語の発端は、職場の飲み会には行かなくてはならないのか、という本当にありがちな問題なんですよね。でもそこからどんどん、労働環境とか同調圧力とかDVとか、現代の諸問題が浮き上がってきて、どうすればちょっとでも良くなるのかなと木村が一歩踏み出していく。観てくださる方もそれぞれに、自分の生活の中で一歩踏み出してみようと思える何かがあるんじゃないかなと思います。
天海 現代の問題を全部、登場人物それぞれに振り分けているような気もしますよね。だから、自分と似た人が必ずいて、それぞれが時代や環境とどう闘い、折り合いをつけていくのか、興味を持って観ていただけると思いますし。家族や友人との小さな諍いに見えたり、国家間の争いに見えたりもするので。蓬莱さんの脚本に改めて驚愕しますね。
鈴木 天海さんのおっしゃるように、小さいけど大きな話が、演劇でしかできない世界があると思います。それを余すところなくお伝えできればなと思っています。
自分たち自身が心を動かされながら、稽古していけたら
──ちなみに、おふたりはそれぞれ、理不尽な問題にぶつかったとき、どんなふうに乗り越えられていますか。
天海 自分が変わることでその問題がいい方向に変わりそうであれば、まず自分を変えます。問題を起こしている人を変えようとしても難しいので、その人に対する態度を自分が変えることでいいほうに転がるんだったら、そのくらいは柔軟にやればいいかなと。年々固くはなりますけど(笑)。
鈴木 僕はまず、相手の立場になって考えてみます。自分の中で一度理解しようとしたうえで、じゃあ相手が変わるにはどうしたらいいかなと考える。でも、天海さんがおっしゃったように人を変えるのってすごく難しいことだから、見込みがないなと思ったら、もうそこから離れます。勇気を持って。
天海 私は、でも、自分ではなく、誰かが困ってつらい思いをしているのを見ると、けっこう言っちゃうんですよね(笑)。周りの人にも自分の考え方が間違えていないか確認して、冷静に判断してから、「あなた間違ってますよ」って話しに行く。年齢が上がってきたからよけいにできることではあるんですけど、「それは良くないですよね」って言っちゃいます。
鈴木 さすがですね。
──もしかしたら、「こんなときどうするか」というような話をしながら稽古が進むのかもしれないなと思ったりもしますが、稽古にはどんなふうに臨みたいと思われていますか。
天海 舞台の稽古の醍醐味は、みんなで一緒にご飯を食べたりお酒を飲んだりしながらコミュニケーションを取っていくことにあると思うんです。ぐちゃぐちゃしゃべりながら、「ここのシーンはこう思う」「いや違う」なんてちょっとぶつかったりするのも素敵なところで。今はそれがなかなかできない状況になりましたけど、稽古場ででき得る限りのコミュニケーションを取りつつ、お互いのお芝居を見て、自分たち自身が心を動かされながら、稽古していけたらいいなと思いますね。やっぱり稽古場でぶつけ合うしかないですもんね。そうしてたくさん恥をかいて、怪我をして、いろいろ打たれながら自分が強くなっていく。それは舞台の稽古場じゃないとできないことだと思っています。
鈴木 そうですね。そういう意味では、蓬莱さんの稽古場は、恥をかきやすい形を作ってくださるんです。上手くいかなくてもみんなが受け入れてくれて、平和な空気の中で進んでいくので、いろいろ試せる。だから、そこで皆さんがどういうお芝居をされて、それによって自分のお芝居がどう変わっていくかというのが、やっぱり楽しみですね。
選択肢が増えたからこそ際立つ“1回限り”であることの魅力
──コロナ禍の今舞台に立つことには、どんな思いを持っていらっしゃるでしょうか。
天海 この2年、直に人と会えることは当たり前じゃなかったんだと気づき、劇場で知らない人たちと一緒にひとつのものを観て、同じ時間と空間と感動を分け合えることのありがたさをひしひしと感じたと思うんです。だから今回も、皆さんの目の前で演じられることの貴重さと幸せを感じながら、精一杯やるだけだなと思っています。そして、蓬莱さんの脚本に詰まっているものをどう受け止めていただけるか。それが楽しみですね。
鈴木 僕も、最近舞台を観に行って拍手をしながら、「この舞台良かったよね」っていう思いをみんなで共有できる幸せを感じたんですけど、それって本当にその場でしか味わえないものなんですよね。見逃し配信など今そこにいなくても楽しめるものが増えている時代で、その場に行かないと感じられない、1回限りであるという、このライブのエンタテインメントの魅力は、より際立ってくると思っています。
天海 だからこそ、熱量を感じていただける舞台にしたいですね。
鈴木 はい。ただ「面白かった!」でもいいですし、いろいろなことを感じていただけたらうれしいです。
取材・文:大内弓子 撮影:源賀津己
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