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思春期の“複雑さ”を描く。監督&プロデューサーが語るピクサー最新作『私ときどきレッサーパンダ』

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『私ときどきレッサーパンダ』

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『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』で知られるディズニー&ピクサーの最新作『私ときどきレッサーパンダ』が、11日(金)からディズニープラスで配信になる。

監督のドミー・シーは本作で初めて長編映画を手がけたが、プロデューサーを務めたリンジー・コリンズは彼女はピクサーの中でも稀有な才能の持ち主だと語る。本作は一体、どんな映画なのか? ピクサー作品の遺伝子はどう受け継がれているのか? シー監督とコリンズに話を聞いた。

ピクサーはこれまでに24本の長編映画をリリースしており、近年は短編作品で力をつけた若い才能が監督を務めるケースが増えてきている。ドミー・シー監督も2018年に手作りの小籠包に命が宿る短編『Bao』で注目を集めた新鋭だ。

「今回の映画の初期の段階からドミーのユニークさ、ストーリーテリングの力には感心させられました」とプロデューサーを務めたコリンズは振り返る。

「彼女は稀有な才能がありながら大胆な側面もあって、頭の回転も早いので、どれだけ修正が発生してもユーモアのセンスを忘れることなく作品づくりができる人なんです。ピクサーで短編映画を監督した人はたくさんいますが、ドミーのように映画づくりに対する明確なビジョン、それを支える自信をしっかりと持っている人は実は少ないんですよ」

コリンズの言葉を恥ずかしそうにモジモジしながら聞いていたシー監督は、『インサイド・ヘッド』や『トイ・ストーリー4』などの作品でストーリーボードを手がけ、初の監督作となる本作では13歳の女の子メイを主人公に選んだ。

1990年代のカナダ・トロントで暮らすメイは、伝統を重んじる家庭に生まれ育ち、母親の期待に応えようと全力で“いい子”を演じているが、実は親が嫌いなアイドルや流行りのポップソングが大好き。友達とカラオケに行きたいと思っているし、恋をしたりもしてみたい。しかし、親の前では“いい子”でいなければならないメイはある日、悩んだまま眠りにつき、目覚めると自分が巨大なレッサーパンダになっていることを発見する。

あまりの出来事にパニックになるメイ、メイにはまだ知らせていない“ある秘密”を抱えた両親、そしてメイの姿に驚きつつも変わらない親友たち……思春期の複雑な感情が渦巻く中、メイは元の人間の姿に戻ろうと奔走するが、友達と一緒に行くと約束した人気ボーイズ・グループのコンサートの日が近づいてくる。

本作は“レッサーパンダになった主人公が元の姿に戻ること”が物語のゴールになっているが、それと同じ位相で“コンサートに行く”ことが主人公の目標になっている点がユニークだ。世界の終わりでも、命の危機でもない。でも、この設定に監督はこだわった。

「主人公はものすごいリスクのあることをゴールにしているわけではないんです。でも、13歳の女の子にとってライブに行くのは生死がかかっているようなものですよね(笑)。行けなかったらそれこそ世界の終わり。あの年頃だとすべてがとても大きく感じる、あの感じをより掘り下げたかった。観客にもこのコンサートに行けるかが生死に関わるぐらい大きいものだと感じて欲しかったんです」

誰もが若い頃にはコンサートや友達との約束、放課後の予定に“命をかける”ぐらいの意気込みを感じたことがあるのではないだろうか? ピクサー作品はスケールの大きな物語を描く一方で、誰もが感じたことのある“個人の中の小さくも重要な感情”をしっかりと描いてきたが、本作も思春期を迎えた主人公の心の動きを余すところなく描いていく。

それはピクサーのCOO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)を務めるピート・ドクターが『モンスターズ・インク』や『インサイド・ヘッド』で描いてきたことだ。「ピートとドミーのスタイルは似ていると思います」とコリンズは分析する。

「だから、本作でドミーがピクサーがこれまで挑戦してこなかった様式化されたアニメーションを描くことにピートはワクワクしていたと思いますよ。彼は経験値の高いフィルムメイカーとして本作に関わってくれました。映画のルックを変化させる時に忘れがちな点や、観客のことを忘れないで語り続けることの必要性を教えてくれましたし、彼は誰よりも物語を語る能力に優れていますから、私たちが『これは良いシーンができた!』と盛り上がっていても、『物語全体のことを考えるとそのシーンはカットしてもいい』って提案してくれるんです。もちろん『僕は提案はするけど、最後の決めるのはドミーだよ』とも言ってくれます」

思い返せば、ピート・ドクターが手がけた『インサイド・ヘッド』も思春期の女の子の“頭の中”を描いた作品だった。

「私自身、ピートの大ファンなんです」と笑顔を見せるシー監督は「あの映画で描かれた思春期の女の子の“ゴチャゴチャした複雑な部分”をさらにつっこんで描きたかった」と語る。「今回の映画では思春期で、成長していく中で感じる居心地の悪さ、恥ずかしさ、いたままれない感じを描こうと思ったんです」

時間をかけてたどりついた“結末”。きっかけになったのは……

ドミー・シー監督(写真上)とリンジー・コリンズ

多くの10代はその過程で複雑な感情を経験する。やりたいことは無限に膨らむ一方、自意識をコントロールするのは難しく、友情が何より大事だったりするが、大事にしすぎるがゆえに苦しく思うこともある。親の期待や監視を感じてはいるが、そのすべてに応える気はない。しかし、すべてに反発する勇気もないし、親の期待する“良い子”ではないことは自分が一番よく知っている。

そんな複雑さが本作では“姿がレッサーパンダになる”ことで表現される。自分の中に潜む混乱、モンスター的な側面、簡単には解決できない感情。だからこそシー監督はこの映画の結末で主人公のメイが、レッサーパンダから元に戻って“めでだしめでたし”で終わるのが良いことなのか、試行錯誤を繰り返したという。

「この映画の結末が見えたのは、制作の中盤でした。主人公がレッサーパンダになってしまうことを通じて、私たちが観客に何を伝えるべきなのか、しっかりと見えるまでに時間がかかったからです。私たちは一度、思春期を経験してしまうと、もう前の自分に戻ることはできません。だから物語の結末でレッサーパンダになったことを完全に“なかった”ことにはできないと思いました。でも、完全に野生動物として生きていくのも違うと思いました。

結末にたどり着くきっかけになったのは、脚本家があるシーンを書いてきたことです。それは主人公が父親と話す場面で、そこでは自分の中にある複雑でゴチャゴチャした部分も自分の一部なのだから、切り捨ててしまうのではなく、そんな複雑なものと共に生きなければならないと語られていました。私たちは自分の中にあるすべての側面、未熟な部分も、怒ったりしてしまうところもすべて受けれなければならないんですよね。それはとても美しいシーンでしたし、私たちはこれこそが主人公が学ばなければならないことだとわかったわけです」

誰だって心の中に複雑でモンスターのような部分を抱えている。そんな側面と私たちはどうやって付き合っていけばいいのだろう? シー監督と仲間たちが本作で描いた“結末”は多くの人の心をしっかりと捉えるはずだ。

『私ときどきレッサーパンダ』
3月11日(金)よりディズニープラスにて見放題で独占配信開始
(C) 2022 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

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