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【おとな向け映画ガイド】

ディオールが撮影に全面協力。『オートクチュール』を支えるベテランお針子の人生

ぴあ編集部 坂口英明
22/3/20(日)

イラストレーション:高松啓二

今週末(3/25〜26)の映画公開は18本。うち全国100館以上で拡大公開される作品が『ナイトメア・アリー』『映画 おそ松さん』『アンビュランス』『映画 きかんしゃトーマス オールスター☆パレード』『ベルファスト』の5本。中規模公開、ミニシアター系が13本です。今回はそのなかから、華やかなファッションの世界を背景にしたフランス映画『オートクチュール』を紹介します。

『オートクチュール』

ハイファッションブランドを扱った映画がこのところよく公開されます。華やかなファッション業界をスキャンダラスに描いたり、デザイナーの哲学を紹介するという内容が多いのですが、この作品はちょっとタイプがちがっています。

いまのフランスを代表する名女優、ナタリー・バイが演じる主人公 エステルの職業は、クリスチャン・ディオールの“お針子”さん。フランス語だと“クチュリエール”。エステルはディオールでもトップクラスの存在、お針子の責任者です。“お針子”という言葉はなんだか古めかしいですが、この映画の資料にも「パリ・モンテーニュ通りにそびえる世界最高峰メゾンで働く現役お針子の美しい手仕事がスクリーンに登場」と書かれているように、かえって歴史の深味を感じます。

数年前に『ディオールと私』という、コレクションを発表するまでのメゾンを追ったドキュメンタリーの傑作がありましたが、あの作品でもお針子さんがとても魅力的に描かれていました。職長、とよばれるリーダー格の女性の仕事、その卓越した職人技がこの世界を支えています。

次のコレクションが終わったら引退、と決めているエステル。母のあとを継ぎ、仕事ひとすじの堅物。ドレスを作り上げる情熱と対応力は、アトリエの部下たちからも絶大なる信頼を得ています。しかし、私生活は、アパートメントのひとり暮らし。なにひとつ趣味もありません。ひとり娘ともすっかり疎遠。

ある日、エステルは地下鉄でバッグをひったくられてしまいます。盗んだのは郊外の団地に住み、自分勝手な母に振り回される日々を送る移民二世の娘ジャド(リナ・クードリ)。彼女は、バッグのなかに、ドレスのスケッチ画や、ユダヤの星のネックレスをみつけ、ややびびってしまい、持ち主に返そうとディオールを訪れます。ジャドのしなやかで滑らかな指に、お針子の稀に見る天分を直感したエステルは、彼女を見習いとしてアトリエにいれることにしたのですが……。

そこから、エステルの引退直前の人生と、新人ジャドのこれからの人生を対比させるかのように、映画が描かれていきます。

監督・脚本は、「フランスは自分で道を切り拓ける博愛の国」と語るユダヤ系チュニジア人のシルヴィー・オハヨン。使われなくなった省庁のなかに、昔ながらの荘厳なアトリエのセットを組んで撮影。『ディオールと私』でみた実際のアトリエより、すこしゴージャスです。監修にあたったのは、ディオールの1級クチュエールとして活躍中のジュスティーヌ・ヴィヴィアン。保管されていたディオールの幻のドレスや、スケッチ画などの貴重な品も登場します。

ジャドが作業の途中で、はさみを落とし、アトリエ中が大騒ぎになるシーンがあります。不吉なことがおきるにちがいないと、みんながいっせいに洗面所にいって手を洗い清める、いわばげんかつぎです。白衣のようなキリリとした制服、七つ道具を入れて首につるしたミニバッグ、ため息をつきたくなる美しいファブリックへの気の使い方……。

描かれているのは、職人技をもつアルチザンたちの苦悩や、仕事と家族のかねあい、仕事を形作る技術や精神の継承であったり、新しい世界へチャレンジする希望と畏れ。それらはこの業界に限ったものではなく、あなたや私の人生にもつながることばかり。映画の細部にリアリティを追求すると、そんなこともきれいに浮かびあがってきます。高級仕立て服のような、すみずみまで心配りのある映画です。

【ぴあ水先案内から】

高松啓二さん(イラストレーター)
「……貧しく才能も気づいてない少女を優れた指導者が見いだし、育てていくのは昔の少女漫画のようで懐かしい!……」

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