シドが表現する愛の物語「一度足を止めて違うことをやってみたからできたアルバム」
音楽
インタビュー
シド (撮影:須田卓馬)
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すべて見るロックバンド・シドが約2年半ぶりにオリジナルアルバム『海辺』をリリースする。「令和歌謡」という新たなジャンルを確立して挑んだ本作は「懐かしさ」と「新しさ」、そしてシドらしさが重なり合った珠玉の10曲。始めに歌詞ありきで、「愛の物語」をコンセプトに作られたアルバムだけに、歌詞をじっくり見つめながら曲を聴けば、その世界観を存分に堪能できる1枚だ。
今年活動19年目、来年20周年を迎えるシドの4人に、新たなシドの音楽について、そしてあらためて気づいたシドらしさについて訊いた。
一度封印していた「哀愁歌謡」を令和の時代に新しく作ることにしました
――アルバム『海辺』聴かせていただきました。約2年半ぶりのアルバムリリースとなりましが、今回、制作の過程で話し合われたコンセプトについて伺えますでしょうか。
マオ はい、まず『海辺』というタイトルに込めた思いは10曲の愛の物語が最終的に『海辺』に流れ着いて、そして包まれて、1枚のアルバムとして皆さんの元に届いていくというものでした。そこで、曲のコンセプトを話したときに、最初に「令和歌謡」という言葉が出まして。僕たちは今、活動19年目なんですけど、19年前に始めたとき「昭和歌謡」だったり、哀愁系の歌謡曲を意識した楽曲をよく演奏していました。そこから色んな変化をして、来年20周年を迎えるにあたって、今自分たちがやりたいことと、ファンのみんなが欲しがっているもの、この両方がしっかり重なっている部分ってどこだろう?と考えたときに、やっぱり歌謡曲というものをもう1回意識してみようか、という話になりました。
そこで、いつもだったら曲を作ってから、歌詞を乗せるというのがシドのやり方なんですけど、その前に今回は、こういうテーマで歌詞を書きたいから、こういう曲をやってみない?というのを僕のほうから提案して、話し合いの場を設けました。初めて、歌詞のテーマが先に決まってから作り始めたアルバムだったので、受け取ってくださる方にも曲はもちろん、言葉の世界観にも入ってもらいやすいアルバムになったかなという気がしています。
――なるほど、曲の世界観もマオさんのほうで最初に提案されたんですね。
マオ わかりやすく言うと、この歌詞はこういうテーマで書きたいからこういうジャンルの、これくらいのテンポ感で、こんなイメージの曲を書けないか、という相談をメンバーにしました。今回はかなり、曲の部分に自分もしっかり入り込みたくて、こういう曲にしたい、こんな曲を歌いたい、という思いが強かったです。 言葉を軸にして曲を作り始めるというのはやったことがないし、殴り書きみたいなメモをみんなに渡して、こういう曲をイメージしていると伝えたんですけど、みんな長いこと作曲をやってきているので、本当にイメージしていた通りの曲を持ってきてくれて、ビックリしました。
――さすがのチームワークといった感じですね。マオさんから伝えられた内容を元に、皆さんどんな感じで曲作りをされていったのでしょうか。ゆうやさんは今回、4曲作られていますね。
ゆうや マオくんがコンセプトをあらかじめ作ってくれていたので、とても僕は作りやすかったです。タイアップで曲を作るときと似てましたね。タイアップの時って、こんな楽曲がほしい、こんなイメージでというのがあったりするんですけど、それと似ていて、結構わかりやすく世界観を絞れていたので。ただ、1個のコンセプトで1曲、というのもあったけど、これとこれを合わせて1曲にしたいみたいな、いっぱいコンセプトが出ていたので、作曲担当の3人(ゆうや、Shinji、明希)で若干の分担をしたんですよ。じゃあこれは誰々にしようか、でもこの曲は僕も作ってみたいんだよね、みたいな話をして、1つのコンセプトで2人から1曲ずつ上がってきたり、ということもありました。でも分担をしたことで、全体的にすごく集中して作れましたね。
――マオさんからのコンセプトから、イメージはどんなふうに沸いていったんでしょう?
ゆうや 結構、マオくんがそのコンセプトや言葉の意味とかほしい雰囲気みたいなことまで具体的に書いてくれていたので、それに乗っかって自然とイメージは沸きましたね。でも本当にマオくんが思っている100%のイメージそのものにはならないじゃないですか?でもそれでいいのかな逆に、って思って。コンセプトはあるけど、あえてガチガチにすり合わせ過ぎないで、良い化学反応が起きたらいいなと、素直にイメージしていきました。
――なるほど。Shinjiさん、明希さんはいかがですか?
Shinji そうですね、ずらずらっと、こういう曲こういう曲って書いてあるメモを見ながら、なんかこれ作りたいなみたいなのを、結構メンバーにLINEしたような気がしますね。これちょっと私作りたいです、みたいな。みんなで同時に曲作りを始めたので、偏ってもあれだし、僕はこれを作ります、みたいな話をしました。
明希 ここ最近は曲作りでも、例えば『ほうき星』もそうだったんですが、分担まではいかないですけど、それぞれ得意な部分を担当して作っていくというやり方をしていたので、僕もそのやり方に心地よさを感じていました。その発展形が今回なのかなと思うんですけど、テーマがまずあって、そこにインスピレーションが沸いた人からその曲を作っていくという形だったので、みんなが言っているように、同じテーマで2人以上の作曲者が出た時にもそれはそれで作ってみて、どれがいいか、というのを後から選んでいくという。作り方としては合理的なんですけど、マオくんが考えていた世界観を表現するという使命感もありました。
その使命感のある状態がある意味、プレッシャーにもなって、良かったですね。シドって今までは作曲をみんなでやって、選ばれるという、勝ち取っていく椅子取りゲーム的なやり方をしていたんですけど、今回はそうではなくて、任されるという使命感を持って取り組めたのが、新たなギアが入って、やりやすかったです。
それぞれの曲が上がってきて並べてみた段階で、アルバムの世界観を表現するために、この曲の方向性はもっとこうしよう、とかそういう話し合いもしました。曲順もその段階では決まってませんでしたけど、『海辺』に関しては、この曲が最後でどうかな、というのを僕から提案したり、という感じで、徐々に形にしていきました。
――マオさんのコンセプトを元に、全員で肉付けされていったんですね。シドは結成当時、「哀愁歌謡」というジャンルで注目されて、今「令和歌謡」というジャンルを生み出されましたが、今回また新しいシドを表現されるにあたって意識されたことは何でしょうか。
マオ そうですね、遡ると、ファーストアルバムの『憐哀-レンアイ-』を作ってから、そのイメージが強いまま『星の都』『play』とアルバムを作りました。そのあともカップリングで『憐哀-レンアイ-』っぽい感じのものをやってみない?といった感じで、「哀愁歌謡」というジャンルの曲をちょくちょくやってきたんです。それでやっぱりその曲が人気になって、ライブでも定番の曲になって…ということを繰り返してきました。そうしていくうちに、いい意味でなんですけど、『憐哀-レンアイ-』の延長線上にある曲たちはそろい切っちゃったなという感じが自分たち的にしていて。そこですごく大げさに言うとそういうジャンルを一度封印して。全然やっていなかったんです。
そうして一度やらずにいたことによって、今回作れた曲たちというのもあるだろうし、ずっとシドをやり続けていたからこそ書けた言葉たちもあったと思います。アルバムを作ることによって、新しいことをやるために、過去にやっていたものをもう1回新しくするという、ものすごくハードルの高いことをやろうとしたんです。一度足を止めて、違うことをやってみたことでできたことなのかなと今回すごく思いました。それは作曲や作詞においてだけではなくて、他の仕事や何にでも当てはまることなんじゃないかな。
この世界観を歌えるマオくんってすごく貴重な存在だと思う
――「哀愁歌謡」というジャンルからいったん離れてみて、新たに生み出された「令和歌謡」はどんな音楽になったと思われますか?
マオ うーん、僕たちの音楽を聴いてくれている人たちで言うと、ファン層の世代的に昭和の歌謡曲を「懐かしい」って思う人と、「新しい」と感じる人、知らない人といると思うんです。なので、受け取り手次第みたいなアルバムを作れたのかなって気がしています。僕たちの中で「令和歌謡」はこうだっていうものはもちろんありますけど、そうではなくて、このアルバムに関しては受け取って「懐かしい」と思う人もいれば、「新しい」と思う人もいると思います。受け取った全員が「新しい」と思うアルバムや全員が「懐かしい」と思うアルバムというのも狙えば作れると思うんですけど、その絶妙なところを今回は突けたような気がしているので、今回のアルバムはすごく気に入っています。
――作曲者の皆さんはいかがですか?
ゆうや そうですね、新しさというところで言うと、「令和歌謡」という言葉自体、他で使っていない言葉だと思うし、それを僕らが掲げてアルバムを出すことがまず新しいことなのかなと思います。曲に関しては、サウンドが歌謡テイストでちょっとバサバサした感じの音が多かったと思うんですけど、今回は今の時代のサウンドに乗せているので、耳触りもいいし、スッと入ってくるもの、というのを気にしながらやっていました。
――すごく曲調も聴きやすいですし、歌詞ありきで作られただけあって、歌詞の世界観がすんなりと入ってきました。シドが持っている情緒的な部分がじわっと入り込んでくるような。ゆうやさんの曲で言うと、『13月』とか、懐かしさがありつつも今っぽいなって。
ゆうや そうですね、『13月』は時代を感じるような雰囲気もありつつも、サウンドは最近っぽくしていますね。
――反対に『大好きだから…』はシドらしさ全開で。歌詞も危うい感じ。
ゆうや 僕はあんまり作らないできたテイストなんですよね。このアルバムを作ったときに、自分が担当した中では一番最後に作った曲だったと思います。この曲は途中経過の段階でみんなで色々と話し合ったときに「このダルい時代に、一発切り裂きたい」みたいなワードが出て。
――ダルい時代!
ゆうや そう、この何ともできないダルい時代に一発なんか残してやろう、みたいな。歌詞もだいぶ攻撃的なので、アレンジも合わせて攻撃的にして、すごくマッチしたなって思っています。
――『液体』についてはいかがですか?スローで聴かせる系の曲ですよね。
ゆうや そうそう、雰囲気的にこのテイストというのはなんとなくは今までもあったんですけど、どっぷりとここまで浸かった感じなのはなかったんじゃないかな。マオくんが最初にあげてくれた中に「ブルージーでジャジー」「例えばバーで一人で孤独に飲んでいる」「そのバーでバンドが急に演奏を始めて」とかそんなワードが並んでいたんです。僕の中でそれ見てすぐにパッと頭の中にイメージが沸いて、それを膨らませていきました。
――そして『白い声』ですが、切ないバラードで、これもシドの世界観!という感じでした。
ゆうや これは本当に歌謡曲寄りというところをつついていきたいなと思って。サビでマオくんのロングトーンが続く曲ってなかったなって思って。ゆったりした音程がバーッと続くような、シンプルな楽曲の中にマオくんの声が響いている感じがあったらすごく素敵だなって。この世界観を歌えるヴォーカルって少ないと思うんです。だからすごくマオくんって貴重な存在だし、その声を活かすにはこういう楽曲が僕は生きるんじゃないかなって。実際に歌を乗せてみたら本当にハマって、聴いていて気持ちいい曲に仕上がったと思っています。物語がある曲になりましたね。
「最近の音楽」に並ぼうとするより自分たちらしさを大切にしたい
――Shinjiさんの曲についても聞かせてください。『街路樹』はライブでもすでに披露されていますね。
Shinji はい。これはマオくんからもらったワードの中に「シティポップ」というワードがあって、そこから膨らませていったんですけど、その中にシドらしさはしっかり出したいなと思って作りました。シドらしさというのは、自分たちが自然体で曲を作ると、もうシドらしくなるんですよ。最近はそれを感じます。例えばすごいぶっ飛んだことに挑戦しようとしたとしても、シドらしさを意識して作ったらだんだん離れて行ってしまうと思うんですけど、何も考えずに作ると自然とそうなるんじゃないかなって。
自然とと言ってもすごく悩みながら作りましたけどね。サビのメロディってすごく大切だけど、そこに辿り着くまでのBメロとか、そっちのほうが意外と大事なんじゃないかなとか。流れというものをすごく意識して、途中まで作って、鼻歌で最初から歌ってみて確認して、とか、何度も最初に戻ってここは直して、というのを繰り返して作りました。
――一度客観的に聴いてみて、作り直していく、という作業。
Shinji そうですね。作っているときって自分の場合、盲目的になりがちなんですよ。わーっと作って、寝て、次の日起きて聴いてみたら「えー…」みたいなことも結構あるので。それで作り直すというのはよくやっていますね。
――「令和歌謡」というジャンルの部分で意識されたことは何でしょうか。
Shinji 新しさというところでは、19年シドをやってきて、みんな熟練している部分もあるし、きっと『憐哀-レンアイ-』のころの自分たちだったら表現できなかったこととか、演奏の部分でもあの頃の自分たちなら弾けない演奏が今はかなり増えていると思うんです。そういうところで、新しい挑戦はできたんじゃないかなって思います。
日々、音楽に向き合って、いろんな新しい曲を聴いたりもしているけど、ネットサーフィンしてると、昔の歌謡曲にたどり着いちゃうので、やっぱり好きなんだなーと思ったり。最近の音楽を聴いていてすごいなって思う人もたくさんいます。でもそこに並ぼうとするよりかは、僕ららしさみたいなもので勝負したいなって、最近はすごく強く思っていて。そこは意識して作りました。
――『揺れる夏服』もすごくシドらしいというか、Shinjiさんらしい曲だと思いました。
Shinji これは自分の担当の中では最後のほうに作ったんですけど、他の曲が割と聴かせる系の曲が多いなと思ったので、ちょっとノリがいい、体を動かせるような曲がほしいなと思って。あとはもともとマオくんが提案してくれていた、「ちょっとキラキラした感じ」を意識して作りました。
――ありがとうございます。『揺れる夏服』は本当にキラキラした世界観で、歌詞も共感しやすいですね。マオさん、作詞についてはいかがですか?
マオ そうですね、誰しも経験がある「甘酸っぱい恋」みたいなものを書きたくて。「すごく純粋で綺麗な汗」が見えてくるような歌詞を目指して書きました。ただ、さっきも言いましたけど、受け取り側がどんな風にも受け取れるように、「10代」とか「制服」とかそういう単語は入れずに、何歳でも受け取れるようにというのは意識しています。もちろん10代の初恋、という捉え方でもいいんですけど、裏テーマとしては、いくつになってもこういう気持ちに人はなれるんじゃないかなっていう、願いも込めています。
聴いてくれる人に「シドってこれだよね」と思ってもらえることを意識しました
――明希さんの曲についてですが、まず「令和歌謡」を表現するにあたって意識されたことを教えてください。
明希 そうですね、まず「歌謡曲」を感じる瞬間ってどういうところにあるのかなって、一度立ち返って考えてみました。あの時代の「歌謡曲」と言われていたときのものをなぞらえることも大事なのかなって。メロディの懐かしさを雰囲気だったり、コード進行だったりの特徴をとらえて、なぞらえてみることも必要なのかなと。
今回の「令和歌謡」というキャッチコピーを聞いたときに面白い言葉だなあと思って。じゃあ「令和」を音楽で表現するって何だろうって考えたときに、今のサウンド感だったり、今の音の選び方とか、そういうものをミックスしていけば「令和歌謡」というものになりうるのかなと。
例えばアルバム1曲目の『軽蔑』は歌謡曲みたいなメロディだけど、その後ろの楽曲のリズムだったり構成というのは割と違和感があるようなアレンジにしています。懐かしさと新しさをミックスするみたいな。曲のひとつひとつにポイントを持って、4曲を作りました。
昭和の歌謡曲をなぞりすぎても意味がないので、ほのかに味を残しつつ、新たな組み合わせで僕たちらしさを混ぜて作って。聴いてくれるファンの方々に、ああ、シドってこれだよねって言ってもらえることを意識して作りました。
――『騙し愛』に関しても、歌謡曲っぽさの中に今っぽさがやっぱりありますね。
明希 そうですね。メロディは曲でというより、アレンジで懐かしさを出すために、あえてコードに呼ばれるまま作っていって。それが聴く人にとって違和感になればいいなあと思って。あんまり作りこまれた感じの曲に仕上がると、僕はどっかで聴いていて冷めてしまうので、それが嫌だったので、ひとつ、重きを置く場所を決めようと。アレンジのほうに重きを置いて作りました。
――『海辺』は波の音が入っていたり、壮大な感じで、ヒーリング的なものさえ感じました。
明希 マオくんの最初のコンセプトに「街の雑踏」「海辺のさざ波」「本をめくるページの音」とかその場所にいるからこそ聞こえる音、というのがあって。エフェクトというか、SEっぽいものも作ってみたんですけど、最終的には波の音だけにしようってマオくんと2人で話して、仕上げました。
――すごくエンディングにふさわしい曲ですよね。
明希 そうですね、そこは自分でもイメージを持っていたので、みんなで聴いたときにもいいね!となったポイントだと思います。
――『海辺』はアルバムのタイトルにもなっているので、マオさんからも歌詞について伺いたいです。
マオ 今までもアルバムの最後の曲って、たくさん作ってきましたけど、毎回、シドは最後を飾る曲というのを大切にしていて。きっとずっと大切になる曲になるから。ツアーでも単発のライブでも節目節目にやってきたライブでも、アルバムの最後になった曲たちをセットリストの重要な部分で演奏するというのをずっとやってきたので。
アルバムを作るときの最後の曲に対しての思いって、やっぱりちょっと違うんですよね。今回の最後の曲を書くときは、今までと違う、もっと大きな、愛のテーマで歌詞を書きたいと思っていたので、『海辺』にはそれを込めました。
「愛」の表現はトレンディードラマから影響を受けています
――こうして曲について、伺ってみると、今回のアルバムにおいての歌詞の重要性をあらためて感じました。今回、マオさんの全曲解説が入った100pのブックレットがつく「Poetic盤」もリリースされますが、面白い試みですね。
マオ そうですね、そのブックレットで思いっきり遊べそうだったので、歌詞を書くときにも、この歌詞を詩集という形にするなら、こういうデザインにしたいなとか、そういうことも頭をよぎりながら歌詞を書いていました。作詞の作業は今までで一番楽しかったですね。
――今回のアルバムは「愛の物語」というのがひとつのテーマになっていますけど、マオさんが表現されたかった愛についても伺えますか?
マオ せっかく長くバンドを続けてきて、長いこと作詞を担当してきたので、その強みみたいなものは活かしたいなと思って。それは何だろうと思ったときに「愛の物語」というひとつの縛りはあるんだけど、その中でどれくらい幅広いものを見せられるかということだと思ったんです。そこはかなり意識しました。愛だからといって、男女の愛だけではないし、ハッピーエンドだけではもちろんない。うまくいかない愛もあるし、それが悲しい場合もあれば、怒りの方向に向かう愛もあって。色んな愛の形があると思うので、それを自分の言葉でいかに表現できるかというところに挑戦しました。
――むしろ、切なさとか上手くいかなさみたいなもののほうが、要素としては多いのかなと感じたんですけど、マオさんの中で、「愛」というものを表現されるとき、そういう要素が強いんでしょうか?
マオ そうですね。自分は誰かの歌詞とか、何かの本なんかに思いっきり影響を受けて歌詞を書き始めたタイプではないので。どちらかといえば、テレビっ子だったので、昔のドラマから影響を受けたことが今、活かされているなって感じていて。
例えば『白い声』はまさに昔のトレンディードラマで、僕が一番好きなタイプの女の子なんです。
「かじかむ中、あなたは来る、来ない」みたいな(笑)。そのシーンってだいたい全10話のドラマの中の8話くらいで、8話はそこで終わって、次回予告でも先の展開がわかることはたいして教えてくれない、みたいな。あー次も見なきゃダメじゃん!みたいなのがすごく好きだったので、その世界観は思いっきり書きたいなと思っていました。
――わかります。『東京ラブストーリー』とか、まさにそう。
マオ まさにそうですよね。だから、そういう女優さんたちの顔が、チラつきながら書いていましたね。
シドの考える、孤独の乗り越え方
――最後にちょっと変化球の質問をさせていただきたいんですけど、今回のアルバム、大きな「愛」というものがテーマなだけにすごく優しさも感じるし、孤独を癒してくれるな、と感じました。今、世界情勢的にも孤独や孤立を感じてしまいがちな世の中で、しんどい思いをしている方も多いと思います。皆さんが思う、孤独との向き合い方をぜひ教えていただきたいのですが、いかがでしょう。
明希 僕は酒です。
――お酒が癒してくれる。
明希 そうですね。孤独とかって、あんまり考え過ぎても解決しないから。どうせなら一人の時間を楽しむ方向に持って行きたいなって。孤独だなーってネガティブな方向に行っても何もないので、それなら一人の時間で楽しめることってやり方次第でいくらでもあるから。
――最近好きなお酒は何ですか?
明希 最近は一周まわって、ウーロンハイなんです。ワインとかも飲みますけど、キンミヤのウーロン割りとかも楽しんでいます。作るのも楽だし、いいですよ。
ゆうや 僕は配信ですね。あれは一人でやるじゃないですか。すごい楽しいんです。色んな土地の人が見てくれるでしょ?それを自宅とか1つの場所から、全世界にお届けできて、ああでもない、こうでもない、って話を聞いてくれる感じ、すごく好きで。趣味になってますね。ああ寂しいなー、ちょっと暇だなーというときに、配信やろうかなって浮かびます。
――寂しいなってときに思い出してもらえるなんて、観る側も嬉しいですね!
Shinji カッコつけてるわけじゃないんですけど、割と僕、孤独が得意なんですよ。孤独をたぶん、誰よりも楽しめるというか。孤独に苦しんだことはないですね。
苦しいことの乗り越え方で言うと、曲を作っていて、できなくて苦しいっていうことはしょっちゅうあります。それで何十時間もやっても寝れないとか、そういうときはしんどなって思うんですけど、でも自分よりももっと忙しくて、一年中あんまり寝れない人とかもいるわけで。そういう人のことを思って、自分たいしたことねえな、って思って乗り切ったりしています。
――もっと大変な人のことを想像することで乗り切る。
Shinji そうです。苦しいときって、自分だけが苦しいと思いがちじゃないですか。でももっと大変な人もいるから。
孤独のつらさに関しては、孤独を好きになればいいんだと思います。孤独=寂しい、とか、僕、わからなくて。かといって大勢でワイワイするのが嫌いというわけではないんですけど。孤独な時間はそれはそれで大切な時間だなって思います。
マオ コロナ禍になって、みんながそれぞれ、一人の時間って増えたと思うんですけど、そうなると一人が得意な人や一人で何でもできる人がどんどん強くなる時代が来たんだと思うんですよね。一人じゃ何かをできない、誰かといないといられない人も、このコロナ禍になって、すぐに気持ちを切り替えて、自分だけでもやれるって、発信し始めた人は強いし、逆に「早く元に戻ってほしい」とずっと思っている人はどんどん置いていかれる、そんな感じに時代が急に変わったんだと思います。
ある意味、もともと、孤独、平気なんだよね、というShinjiみたいなタイプの人が、すごくチャンスな時代が来たのかなっていうふうに思っていて。だからShinjiくん、今、チャンスなんじゃないですかね(笑)
Shinji いただきます(笑)
マオ 僕はどちらかというと、孤独も大丈夫だけど、ただ寂しいのは嫌だなって日もあるんですけど、やっぱり一人で発信したり、一人で考えて、何かを作っていかなきゃいけない時代になってきているので、変わらなきゃなって気持ちでいます。そういう気持ちはみんな持ったほうがいいんじゃないかなって気はしてますね。
――ありがとうございました!
New Album『海辺』3月23日(水) リリース
シド『海辺』特設サイト:
https://sid-umibe.com/
撮影 / 須田卓馬、取材・文 / 藤坂美樹
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